『援軍』
「剣の腕前は中々‥これほどの者は、私がいた世界にもほとんどいなかった」
「そりゃどうも…!」
バーディアから振り下ろされる斧をノアは回避し、代わりに地面がひび割れていく。まともにバーディアの攻撃を受け切れるのはアルマだけであり、彼以外は防御よりも回避に動いた方が消耗は少なく済む。
「風、光と来たら次は氷なんていかがでしょうか」
バーディアは魔法も一流である。どれほどかといえば、ルビーの光の魔法を見よう見まねで再現が可能なレベルだ。とりあえずまずは、機敏に動き回るノアの動きを氷の魔法で制限しようとするが…
「あぁ、あんまり寒いと、甘いシャーベットが食べられないわ。それに、お肌も泣いてしまいそう。別の魔法はありまして?」
「なるほど、それは失礼いたしました。お嬢さん」
大量の光球がバーディアを襲い、氷魔法の詠唱をキャンセルさせる。
前衛はノアが担当し、後衛はルビーが担当。一見無敵の構成に思えるが…しかし、バーディアは一つここで疑問に思う。
「あの盾役はどこへ?まさか逃げたということはありますまい」
バーディアは斧をノアに向け、そう問いかける。先程まで盾役を担っていた彼はどこへ行ったと言うのか。ここまで来て仲間を見捨てたということはなかろう。何の目的だ。
「さぁ、な」
「あぁ、なるほど。——そういうことですか。それはそれは、非常に興味深いところです」
基本無機質で表情を一切変えることのないバーディアであるが、何かを察し一気に声色の調子がよくなる。まるで、誰かが自分を打ち倒すことを望んでいるかのような。
「だからもう少し私たちとのダンスパーティーに付き合ってもらえるかしら?」
「えぇ、構いませんとも。しかしもちろん、踊った後のディナーは豪華なものであって欲しいところです」
そうバーディアは告げると同時に、戦闘を再開させる。斧を構え、ノア目掛けて距離を詰める。そして先程と違って明らかに変わったところがある。それは…
「さっきよりも攻撃が苛烈になってるな…!」
「あら、そこまでディナーが楽しみかしら?」
本来重いはずであるの斧をまるで片手剣かのように扱い、その乱舞はノアやルビーに近づくことすら危険と判断させ距離を取らせる。
「えぇ、ここまで接待してもらえることなんて中々ありませんから。パーティーとなれば、楽しむのが礼儀でしょう」
明らかに機動力が先ほどより上がったバーディアに対して、ノアとルビーはより警戒を強める。この騎士、まだ力を残していたか。
「いや…おそらく、まだ本気を出していない」
まだアルマの"とっておき"を発動させてすらいないというのに本気になるのはどう考えてもありえない。———これよりまだ先があるというのか。
「頼むわよ、アルマ…!」
ハクジャ戦ではノアが切り札だったが、この勝負では完全にアルマが切り札である。自分たちができることは、そのアルマの"とっておき"を発動させるまで持ち堪えること。それだけが、唯一の勝算である。
「先ほど甘いシャーベットを食べたいと申しておりましたね。ならば、より美味しく食べれるような環境を作ってみせましょう」
そうバーディアは伝えると同時に周りの温度は急激に上昇する。風、光、不発とはいえ氷の次は…
熱線が、辺りに降り注ぐ。
「今度は炎か…む!?」
ノアは咄嗟に光の剣で飛び散る炎から自分の身を守るが…光の剣が、少しずつ燃え朽ちていく。
「まあ何度でも作り直せるからいいんだけどね…!」
ノアは使い物にならなくなった剣を捨て、新たに光の剣を生成する。しかし、剣を生成するのも楽ではないので剣をダメにする炎魔法はご遠慮願いたいところなのだが。
「ニンゲン、こっちよ!…厳密に言えば、火の魔法というのは熱操作の魔法。火の無力化は苦手ではあるけど、やれないことはないわ」
例外なく全てを飲み込む炎はルビーをも焼き尽くそうとするが…一瞬にしてその炎は鎮火していく。
「これはこれは…お嬢さん、火の魔法もかなり得意な身なのですね」
バーディアはそう感心し、素直に褒める。苦手とは言っていたが…少なくとも光と火に関しては完全に自分より上澄みである。
だが、そこで無粋な横槍が入る。
「危ないルビー、避けろ!」
「!?」
突如上空から巨大な何かがルビーを押しつぶそうと迫る。ノアのおかげで何とか避けることができたが…少しでも遅れたら、その時点で致命傷だった。
ルビーを押しつぶそうとした犯人とは…
「二対一とは卑怯じゃあねぇか!そんなこと俺は許せねぇなぁ!?」
『八つ裂き』クラゴア、ここに乱入せし。




