『龍のひとりごと』
命だけは助けてやるという手筈なのになぜことごとく抵抗するのか。かの魔龍にはその気持ちが全くわからなかった。
元は広い駐車場だったが、それが今では瓦礫で埋め尽くされている。何があったかというと、グレイドは自分に歯向かってきた哀れな挑戦者…アルマ、ルビー、ノア、リヴァに洗礼を浴びせたのだ。
命だけは許してやろうと思ったが…まあ、今では瓦礫に埋もれていて間違いなくぺしゃんこだろう。
このまま彼らを逃げ帰らせて自分たちが感じた絶望を他の愚か者どもに伝えさせるのもまた一興であったが…まあ仕方ない。
グレイドはその真紅の歪な翼を広げ、その場から飛び去る。あとでハチドリヘイや異世界から無理矢理連れてきた雑兵たちに後始末をさせておこう。
万が一彼らが生きていても流石に瀕死であろう。流石に瀕死の状態なら彼らでも処理できるはずだ。それよりもまずグレイドには考えておくべきこと、そして…しなければならないことがある。
「グォ…」
まずは行方不明になったザルドアの捜索をしなければならない。ハクジャやガルゼドールを失ったのだ、これ以上仲間を失うことは非常に避けたい。ひとまず、一度龍の巣本部へと戻り…すぐにエリア三へと出発せねばならない。
さて、それだけでなく考えることもたくさんだ。
一つは、裏切り者のツボハットの処理。そろそろヤツも動き出すころだろう。不審な行為も多く見られていたし、報告にない悪趣味なロボットも作っていた。グレイドの力も勝手に取り込んであの悪趣味なロボットを作っていたようだが、全てお見通しである。どうぞどうぞ、勝手に作っていればいい。処理できる算段は既につけてある。
二つ目は、失った戦力の補強。モノ・セラノイドなどの量産機兵はいくらでも代えが効くし、正直戦力と見做しておらずただの偵察要員だから構わない。しかし、『三つ首』ハクジャに『粘液』ガルゼドールを失ったのは非常に大きい。可愛い部下だったが…まあ、仕方ない。また、正直自分一人が居ればクリフサイドの全滅なんて容易いようにも思えるが慢心は禁物である。
少々時間はかかるだろうが、異世界からそれなりに強い者をスカウトしてくるべきだろうか。
さてこの無敵の布陣、万が一崩せるのなら間違いなく『聖龍』だけだろうが…既に対策済みである。『聖龍』と『覇龍』はこの闇の世界にアクセスできないようにしてある。確実にギャンビッターへの脅威になると思って裏で動いていたのだ。
フォルトナはともかく、自分が忠誠を誓っている主君含めて幹部は基本的に頼りない。
一人目はアダンキーコングで、一応働いてはいるようだが主君もあまり素性を把握していないようである。裏切り者の二人目よりかは遥かにマシだが、あまり心を許せる相手ではないのは確かだろう。
二人目はツボハット、ただの裏切り者。こいつは後で殺しておき主君にこいつの首を捧げることにする。ただまあ、あの悪趣味なロボットはデータさえ汲み取ればそこそこ有効活用できるかもしれない。そこだけは感謝である。
三人目はギャンビッター。この少し頼りない主君には命を助けてもらった恩がある。彼が自分を駒扱いしていることは知っているが、別に構わない。
彼が自分に期待している想像以上の功績を作り、彼に認めてもらう。その手筈は既に整っている。なんの問題もない。
四人目はフォルトナ。彼女は主君を除き唯一信頼できる幹部である。視察に行ったときに知ったのだが、どうやらクリフサイド本部に襲撃計画を予定しているらしい。本当は自分が襲撃をかけたいところなのだが、万が一を考えるとこのエリア5からは基本的に動かないべきだ。なので、自分ができないことをできる彼女の存在は非常にありがたいのだ。
さて、ガンダーラ軍やクリフサイド以外についても考えなければならないことがある。それは…第三勢力の話だ。何やら、死者の魂を集めている奇怪な者たちが様々なエリアで発見されているようだ。どうやらこの死の街にも来ていたようだが…ガルゼドールが溶かしてしまったみたいだ。彼らの調査もしなくてはならない。
魔龍はよりギャンビッターに貢献するにはどうしたらいいかを考えながらその場から飛び去ってしまった。
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「あれ…ここは天国…っすか?」
「現実を見ろなの。私なの」
「あ、リヴァさ…うぉ!?」
先程まで気絶していたアルマが見たもの、それは血まみれになりつつも身を挺して自分たち三人を瓦礫から守る蒼の首長竜…そう、竜化したリヴァだった。割と修羅場慣れしているアルマだが、ここまでボロボロかつ重体のリヴァを今までに見たことはなかった。
「流石にこれは死んだかと思ったわ〜」
「全く…魔龍グレイドってのはあそこまで規格外なのか。ハクジャとは比べ物にならないな…」
アルマに続いてルビーとノアも気絶から目を覚ます。そして、魔龍グレイドの強さがあまりにも規格外であることに全員が戦慄する。最初の切り裂きはなんとか抑えられた…わけではなく、その時点でルビーとノアはダウンしたのだ。そして追撃の二発目の吐息までは流石のアルマも耐えられなかった。では何故、三発目のとどめとなる攻撃をリヴァが耐えられたかというと…
「グラルスがさらに改良した『NEO-MADS』を咄嗟に服用しておいてよかったなの。あれを使ってなければ皆殺しにされてたなの…」
『MADS』とはグラルスが開発した一時的に強き者を弱く、弱き者を強くする劇薬。それをさらにグラルスが改良したものが『NEO-MADS』なのだった。
「まあ、これを服用しても瀕死にさせられるんだから恐ろしい話なの」
リヴァはそうため息をつく。リヴァは素の強さの時点でハクジャなどの小ボスレベルはある。それがさらに圧倒的に強化されてるというのに、それでも抑えられないといえば、魔龍の重みがわかるだろうか。
「すごい傷だ…早く手当をしなければ」
基本は戦闘要員であるノアだが、こう見えて回復もいける身なのである。そして、そのノアから見ても今のリヴァはひどい状態であった。すぐに回復しなければとノアがリヴァに向けて手をかざすが…
「あ、回復ありがとうなの。まあでもハクジャとやらほどではないけど再生能力も備わってるから大丈夫…あーもう、この瓦礫じゃまなの」
しかし…
「…その傷だともう戦線復帰は厳しそうね」
「流石にこれ以上動くのはとりあえず現段階だと勘弁。——しばらく、休ませてほしいなの」
ルビーが諦めも交えながらそう言い、そしてリヴァもそれに肯定する。いくら再生機能が備わってるとはいえ、グレイドなどと戦うには厳しいというのはもはや誰がどう見ても明らかなのだった。
「しかし…せっかく合流したのに、ここでリヴァさんが戦線離脱というのはかなり痛いっすね」
「あぁ…しかも、あの強大さを見たあととなると今は少しでも戦力が欲しいところなんだが…」
しかし、あまり贅沢も言ってられない。
リヴァが身を挺して守ってくれていなかったら、ここで全滅なのだったから。
「でも…あのヘビさんといい、スライムといい一見無敵に見えて何かしら弱点はあった。きっとあのカイブツも、攻略法はどこかにあるはずよ」
ルビーは自身の勘も交えながらそう分析する。どんな強者にも、弁慶の泣き所というものは存在する。そこを突けばもしかしたら…あの無敵に思える魔龍も突破できるかもしれない。そして…
「最後に、これだけ言っておくなの。どうやら
今はシャドウロイド軍団は遠征中、ザルドアは行方不明…クラゴアは魔龍のお使いで別エリアに視察中。あの龍の首を取るなら、今しかないなの」
そう伝え終わると、リヴァはゆっくりと立ち上がる。自分がやらなくてはならない使命は、全て果たした。
「ふぁ〜…私はちょっと安全なところでゆっくり休むなの。——あとは、頼んだなの」
そしてリヴァは竜の姿から少女の姿へと戻っていく。彼女は、全ての使命を果たした。
「任せてくださいっす。僕たちでこのエリア5を制圧するっすよ!」
「やれるだけやってみるか…!」
「あのカイブツも人間と同じくらい美味しいと考えればいける気がしてきたわね〜…!」
「その例えをやめろ」
「その例えはとりあえず今はやめてくださいっす」
魔龍グレイドにとっての第一の誤算は、あれだけ圧倒的な力を見せつけても絶望する者は誰一人いなかったということである。




