二人で
それからミカイルは、見違えるように僕への態度が変わった。
恐らく長い間溜め込んでいたものがふっきれて、表に出てきただけなのだろうが、それにしてもだ。
「……いつまでこうしてるんだ……」
「僕が満足するまで」
「それこの間も言ってたけど、全然離れなかったよな……。はあ……そろそろ課題をやらないといけないのに」
ベッドの縁で横に座ったミカイルが、頭を僕の肩に乗せて、ひたすら手を握ったり、触ったりしてくる。
別に嫌というわけではないのだが、ここ最近授業が終わるといつもこうで、勉強中でも関係なく触られるから集中できないのが悩みの種だった。
それに、教室でもくっついてこようとするから、クラスメイトの戸惑ったような視線が気まずい。ジークもなんだか微妙そうな顔で見てくるし、ハインツとテイリットさんにいたっては見てはいけないものだとでも思っているのか、ミカイルが近くに来ると、さりげなく席を外す。よけいな気遣いだ。
しかもアルト先輩がやってきた日には、ミカイルの機嫌が一気に急降下するので、その冷気に当てられた近くの生徒が体を震わせているのが申し訳なかった。
でも、だからといってアルト先輩に来ないでほしいと言えるわけもなく、先輩は先輩で何故か僕を奪おうと躍起になっているので、その時ばかりは毎度、嵐がやってきたような騒がしさがあった。
「ユハ……今何考えてる?」
物思いに耽っていた僕を、ミカイルの声が呼び戻す。
「いや……ちょっと最近の出来事を思い返してて」
「へえ…」
「……そういえばさ、ミカイルはどうして僕のことを好きになったんだ? 僕には魅了が効いてないから?」
「……きっかけはそれだけど、今はもうそれだけじゃない。だって、僕の魅了が効いてない人間は他にもいるでしょ? でも僕は、アイツらを好きになることは絶対にない。ユハだったから、僕はこんなにも苦しいほど好きになったんだよ」
「そ……そうか……」
熱烈な告白に言葉が言い淀む。
あれからミカイルには、幾度となく、好きだと伝えられていた。が、そのたびに愛おしむような表情が心臓に悪くて、跳ね上がる鼓動を押さえつけるのに僕はいつも必死だった。
襲われたこともちゃんと謝られたし、何故かミカイルは僕がアルト先輩のことをそういう意味で好きだと思っていたようで、そこはきちんと訂正しておいた。ちなみに、ミカイルに触れられた感覚が今も忘れられなくて、時々その部分がジンと疼いてしまうのは彼には内緒だ。
「……そういえば……ミカイルのその力、聖女様が持ってたものと同じなんだってな。もしかして、生まれ変わりだったりするんじゃないのか?」
「まさか。聖女は国を救ったのに、力を使ってしまったことを悔やむくらいの人だよ。僕はそんなに心優しい人間じゃない。力だって、好き放題使ってるしね」
「ああ……そのせいで僕はクラスの皆から嫌われて悲しかった。けっこう傷ついたんだぞ」
「でもユハだって、僕がいない時にアイツ……アルトと会ってたんでしょ」
握られた手に、急に力が込められる。
「痛い痛いっ!……ああもう、見かけによらず力が強いんだから手加減してくれ……」
「じゃあもうアイツと会話しないで。目も合わせないで」
「それは無理だ!」
「…………はぁ、ここに閉じ込めてやりたい」
ボツリとこぼしたそれは、僕の元まで届くことはなかった。
しかし、何となく不穏な気配を感じて背筋が震える。
ミカイルはそれに気づいているのかいないのかは分からないが、僕の手を自身のものと絡めると、吐き出すように言葉を紡いだ。
「────早く僕を好きになって、ユハ」
なんと返すのが正解なんだろう。
実際、こうして触れてくることに、胸の内がくすぐられるような、そんな得体のしれない感情が芽吹きつつあった。それが恋に繋がるのかは、まだ僕にも分からない。
ただ、その期待に応えたいと思うのも、また事実なのだ。
「……ちょっとずつ、な」
「うん。今はそれだけで十分。……大好きだよ、ユハ」
僕の返事に、ミカイルは心底嬉しそうな声色で呟いた。
少しずつでいい、僕達なりのスピードで進んでいこう────
声に出さずともそれが伝わった気がして、僕は寄り添うようにそっと、ミカイルの方へ自分の頬を擦り寄せた。




