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後悔 ※ジーク視点

 俺はこれまでずっと、自分の感じたことや見たもの、それら全てが正しいと、真実だと思って生きてきた。そしてそれは実際合ってることが多かったし、今でも間違ってねえとは思ってる。

 ただ……だからといって鵜呑みにするのも違うんじゃねえかと、最近の俺は思い始めていた。


 勉強会とかいうよく分かんねえ集まりに参加して、ミカイルに少し違和感を感じたのは割と最初の方。 

 やけにあの男……イーグラントを気にするミカイルが不思議でこっそりと見ていた。そうすれば珍しく自己主張が強えもんだから、かなりその時は驚いた記憶がある。

 ミカイルが自分の意見をはっきり言うのは、他人のためになる行動をした時だ。でもあの時はただただ、自分のためにイーグラントへ無理を言っている感じがあった。

 俺は、それがにわかには信じられなくて、見たくねえもんを避けるように部屋を出た。まさかイーグラントがついてくるとは思ってなかったが、あの真っ直ぐな瞳がどうしても嘘をついているようには見えなかったのも事実で。

 俺には何が正解なのか、そんで何が間違ってんのかもよく分からなくなっていた。


 だから俺は自分の判断が正しかったと証明するためにも、勉強会に引き続き参加した。

 そして、分かった。ミカイルは別にイーグラントを嫌ってなんかねえ。むしろ、アイツがどっか行くのも許せねえようで、常に様子を窺ってた。

 多分、本当に付きまとってんのはイーグラントじゃなくて、ミカイルの方だ。なんで俺にあんな話をしたのかも分かんねえくらいべったりな様子に、もやがかった思考がパッと晴れるような気分だった。

 そうすれば、自然とミカイルへの気持ちも薄れていく。なんで俺はあそこまでアイツに盲目になっていたのか。今となっては全く理解ができねえ。

 ただ、自分でも自覚してるが俺は人一倍プライドが高い。現実に気づいたとしても、素直にそれを認めることはできなかった。だから碌な謝罪もできねえまま日々を過ごしていると、あっという間に祝祭は終わっていた。

 

 こんなときに限って、母さんから色んな人と交流しなさい、という言葉が脳裏に過る。

 俺は今までずっとそんなもんはいらねえと思ってたが、ようやく今になって分かる。俺の視野は狭すぎた。俺は、俺が認めた人間のみで構成された世界で生きてきただけに過ぎねえ。

 だから今回のことだってこんなに気づくのが遅くなった。正直ミカイルの意図は今でも全く汲み取れねえが、イーグラントにはちゃんと謝らねえと俺の名が廃れる。

 恐らく素っ気ない言い方にはなるだろう。けど、何も言わずこのまま過ごすのも絶対に違った。



***



「…………いねえのか?」


 祝祭の翌日。

 俺はイーグラントへ会いに部屋を訪れた。

 ただ、ノックしても返事はねえ。昨日確認したときは用事なんてないとか言ってたのによ。


 とりあえず、学園内を探すことにする。

 もしかすると食堂にでもいるかもしれねえ────そんな考えで、俺は寮から出た。


「ミカイル様、どうかしたのかな……」

「様子が変だったよね。あんな姿、初めて見た……」


 通りすぎた女子生徒の会話が耳に入って、思わず俺は振り返る。


「なあ、ミカイルはどこにいたって?」

「へっ……!? あっ……あの、この先を行ったところでフラフラと歩いてて……」

「どーも」


 ミカイルがいるなら、その隣にイーグラントがいる可能性は高い。

 小走りで道を進む。俺が人のために走ることは早々ねえが、ただ今は、早くアイツに会いたかった。


「……ッミカイル!!」


 しばらくして見つけたのは、舗装された道から外れ、雑草が生い茂っている庭。そこにミカイルはいた。

 でも様子がおかしい。真っ赤に腫らした目は虚ろで、髪もグシャグシャ。いつもの凛とした姿からは想像もできない有り様に、俺が違和感を覚えたのはすぐだった。


「……おい、ミカイル?」

「……………………」


 何も言葉を発しない。まるで魂が抜けてしまったかのように、ミカイルは微動たりともしない。


「どうした? 何があった?」

「………………あれえ? ジークだ」


 ミカイルの肩を揺すれば、ミカイルは幼い子供のように、あどけなく笑う。泣き腫らした顔とは対照的なその表情と異様さに、俺はゾワリと鳥肌が立って止まらなかった。


「あはは! ぼくをしかりにきたの? それともとめにきたのかな? でもごめんね、ぼくはもういきたくないんだあ」

「……あ? 行きたくない? ……どこにだ?」

「どこ? ぼくはてんごくにいきたいよ? ……ああ、でもぼくはじごくなのかなあ」

「……は?」


 意味が……分からねえ。こいつは一体、何が言いてえんだ?


「あ……そうだ。さいごだから、おしえてあげるね」


 しかし、驚いてる俺にもお構い無く、屈託のない笑みを向けたミカイルは、はしゃいだように言う。


「ぼく、じつはみんなにうそついてたの。ほんとうはユハンはわるいこじゃなくて、すごくいいこなんだよ。でもね、ひとりじめしたかったから、ぼくはうそをついてた。ユハンのことが、ぼくはだいすきでだいすきでしかたなかったんだあ……」

「…………ああ……やっぱりな。俺が間違ってて、アイツの言うことが合ってた……」

「あと、ジークやみんながぼくをすきだとおもってるのは、ぼくのちからのせいなんだよ。ほんとうは、ぜんぜんすきでもなんでもないんだ。だってあれは、ぜんぶぜーんぶ、まがいものだから」

「…………あ? それは、どういう────」


 俺の言葉は、最後まで形になることはなかった。それは突然、何者かによってミカイルの体が奪われたからだ。


「ミカイル君……!! やった、やったよ! ボクは、アイツを殺してやった!!」


 横から現れたのは、血走った目をしたディーゼル。ソイツは、アハハハハハ!!!と高らかに笑い声を上げながら、ミカイルへと抱きついていた。


 俺はこの世の終わりかと思うほどの光景に、思わず頭が痛んで額を押さえる。


 ────おいおい、どうなってんだ……? こっちはこっちで様子がおかしすぎるだろ……!

 俺は幻覚でも見てんのか? それとも夢か? いいや、もはやこんな現実、夢であってくれ……。

 

「あれえ? ハインツだ……?」

「ミカイル君……! キミの大嫌いな男をボクは消してやったんだよ!!」

「────え?」

「おい、ちょっと待て。何があったのかは知らねえけど、一旦落ち着け……」

「……っ! 邪魔ッ!! ボクとミカイル君の邪魔をするなよッッ!!」


 思い切り腕を振りかぶったディーゼルによって、体をドンと押される。非力そうな見た目なのに意外と力が強え。

 俺は油断していたせいか、簡単によろめいて転びそうになった。


「あっ……ぶねえなあ!」

「……ねえ。さっきの、どういうこと? ぼくの、きらいなおとこって……」

「そんなの決まってるでしょ!? いつもいつもキミのそばに付きまとってるアイツだよ……!」

「…………ユハン?」

「あーそうそう! ソイツ! 多分今頃死んでるんじゃないかなあ? でもでも、ミカイル君を困らせる存在なんてこの世に────」

「なに……それ、」

「うっ……!?」


 唐突に、全ての表情を失くしたミカイルが、ディーゼルの襟元を掴んでいた。それもよほど強く引っ張り上げているのか、ディーゼルの首が絞まって顔が真っ赤になっている。

 そのまま俺が止める隙すらなく、ミカイルは恐ろしい形相でディーゼルに問う。


「どこ……? ユハンはどこ…………!?」

「……ぁ、な……んで、おこ、って……」

「いいから答えろよ!!!」

「ぼっ、ぼくの……へや……」


 物のようにディーゼルが投げ捨てられる。

 でもミカイルは一切そちらを見ることはせず、一目散に寮のある方へと走り去っていった。


「ゲホッ……ま……まって……!!」


 地面に這いつくばって咳き込んでいるディーゼルも、立ち上がるとミカイルの後を追うように駆け足でついていく。


 俺も多分、こんなところで突っ立ってる場合じゃねえ。

 何か、絶対に良くねえことが起きてる。それだけは確かだった。

 


***



 ディーゼルの部屋へ入る。

 だけど、そこに広がっていたのは、目も当てられねえくらい凄惨な光景だった。


「ユハ…ッ…!! 目……目を覚ましてよ……!!」

「ミカイル君どうして……!? どうしてそんな男を……!!」


 倒れ伏したまま目を覚まさねえイーグラントに、それを揺さぶってひたすら泣き叫んでいるミカイル。

 そして、そんなミカイルを止めようと追い縋っているディーゼルの姿。


「は……? どうなってんだよ……」


 現実が受け入れられない。

 何でイーグラントは倒れてる? まさか本当にディーゼルが殺したのか?

 俺は────まだこいつに謝れもしてねえのに?


「……っ! どけッ!!」


 最悪な結末が脳裏をかすめた瞬間。

 覆い被さるミカイルを押し退けて、俺はイーグラントを抱きかかえた。


「やめろ……ッ! ユハッ、ユハを連れてかないで……!!」

「うるせえ! こいつ助けてえんだったら俺に協力しろ!!」


 必死に止めようとするミカイルを無視して部屋を出る。


 まだ……まだきっと間に合う。

 だって俺はこいつに、言いたいことがまだ何一つ言えてねえんだ。

 こんなところで終わらせてたまるかよ。


 とにかく俺は、先生達がいるだろう東館へ向かって走った。絶対に……絶対に、間に合うことを信じて。

 

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