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序章:ヒヨコスライム、絶望の森

1. 異世界転生と無力な体


山田一樹(25歳)は、ブラック企業での過酷な労働に疲弊し、ついに過労死してしまった。目を覚ますと、そこは白い空間。穏やかそうな老人が彼を迎えた。


「山田一樹さん、ようこそ。ここは人生を再出発させる場所です。」

老人は丁寧な口調で説明する。異世界に転生し、新しい人生を始められるという話に、一樹は驚きとともに期待を抱いた。


「俺が異世界に…!じゃあ、チート能力とか…勇者みたいになれるんですか!?」

「まあ、それは運次第でしょう。行ってらっしゃい。」


その瞬間、老人の目が一瞬泳いだのを一樹は見逃さなかったが、光に包まれ、意識を失う。


目を覚ますと、一樹は緑豊かな森の中にいた。だが、自分の体を見て愕然とする。


「何だこれ…!?俺の体がヒヨコスライムって…なんでこんな弱そうな姿に…?」


丸くて小さな黄色い体。手も足もなく、動くには跳ねたり転がったりするしかない。試しに跳ねてみても、予想以上に疲れる。


「せめて剣が使えるとか、手足くらいあってもいいだろ…!」


一樹は絶望を覚えた。


2. 森での過酷な生活


(1)食料探しの苦労

森で生き延びるにはまず食べ物が必要だった。周囲を見回すと苔や小さなキノコが生えている。だが、それを食べるには跳ねて近づき、体を擦り付けて押しつぶすしかない。


「こんなもので満腹になるわけないだろ…」


腐ったキノコを食べたせいで体が痺れ、半日動けなくなったこともあった。


「何で俺、こんな目に…いや、文句言っても始まらない…」


少しずつ安全な食べ物を覚え、地面を這い回る虫を捕らえて栄養にする方法を見つけるが、これも失敗を繰り返しながらだった。


(2)危険な捕食者たち

森には小さなスライムを狙う捕食者が多かった。最初の脅威は巨大なムカデだった。


葉の下で休んでいた一樹を見つけたムカデが、カサカサと音を立てて接近してきた。必死で跳ねて逃げようとするが、体が軽すぎて速く動けない。ムカデの足がすぐ目の前に迫ったとき、偶然地面のくぼみに落ちて姿を隠すことに成功する。


「危なかった…もう少しで食われるところだった…」


その日から、一樹は森の地形を観察し、隠れられる場所を探しながら移動する習慣を身につけた。


(3)自然の脅威

雨の日には、葉の下に隠れようとするが、雨水が溜まってしまい、体が水を吸い込んで重くなる。重くなった体を引きずりながら移動し、ようやく安全な場所に辿り着いたものの、そのまま意識を失った。


「雨すら敵になるのかよ…俺、本当にこの世界で生きていけるのか…」


3. 少年との出会い


そんなある日、一樹は遠くから子どもの叫び声を耳にした。


「助けて!」


声の方向を見ると、10歳くらいの少年が森を駆け抜けていた。その背後には鋭い牙を持つ灰色の狼が迫っていた。


「えっ、マズい…でも俺に何ができる…?」


少年が木の根に足を取られて転倒した瞬間、狼がゆっくりと間合いを詰める。その様子に、一樹は震えた。


「無理だ…俺じゃ何もできない…!」


それでも、少年が泣きながら助けを求める声が耳に残る。一樹は心を奮い立たせ、無策ながらも少年の方へ跳ねていった。


4. 無力な戦い


一樹は狼の注意を引こうと、転がっていた石を押して転がした。だが、石は狼の足元に当たるだけで何の効果もない。


「これじゃダメだ…!」


次に、体を使って狼の顔に向かって跳ね上がる。視界を奪うつもりだったが、狼に一瞥されただけで前足で弾かれる。


「クソ、やっぱり俺じゃ何もできない…!」


それでも、一樹は枯れ葉を巻き上げて音を立てたり、泥を跳ね飛ばしたりと必死に狼の気を引こうとする。その間に少年が地面を這うようにして少しずつ木陰へ移動する。


「もう少し…あと少し…!」


しかし、体力を消耗し尽くした一樹は動けなくなり、狼が再び少年に牙を向けた。その瞬間、少年が勇気を振り絞って地面から大きな石を掴み、狼に向かって投げた。


「やめろ!」


石が狼の顔に命中し、狼は一瞬動きを止める。その隙に少年は全力で森の外へと駆け出していった。狼は唸り声を上げながら、一樹を無視して森の奥へと去っていった。


5. 少年の感謝


翌朝、一樹は苔の中で震えていた。

「俺は結局、何もできなかった…」


だが、助けた少年が一樹を探して森に戻ってきた。

「君が助けてくれたんだよね?ありがとう!」


少年は笑顔で一樹を抱き上げ、そのまま村に戻った。村では少年の話が広まり、「森の小さな守護者」の噂が村人の間で囁かれるようになった。


「俺でも、少しは役に立てたのかもしれない…」


一樹は初めて、自分がこの世界で生きる意味を感じた。そして、さらなる困難に立ち向かう覚悟を決めるのだった。


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