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岡山県の廃病院

「山田さんは現在舞台やドラマでご活躍ですよね。経歴的にもかなりベテランで。撮影とかじゃあ、よく不思議なことが起こるって言いますけどどうですか?」

 

 山田は活躍していると言われると、口をきゅっとして柔らかく微笑みながら小さく首を振る。


 彼女は生後数カ月の頃からドラマや舞台に出演。数多の作品たちと共に成長してきたと言っても過言ではない。よって業界には精通しているが、オカルト番組に語り手として出演するのは今日が初めてだった。オファーを受けた時の目的は、賛否の否が言い当てたように「番宣」に違いなかった。


 違いなかったのだ。確かに彼女はこれまでの芸能生活でもしかして……と思う出来事にも遭遇した経験があり、今回はその時のこと話すつもりでオファーを受けていた。が、しかし。

 

「そうですねえ、あります、ね。あります、と言っていいのか……私自身は、これ不思議なことだな、ってカテゴライズしてるーみたいな。そんなことは今までいくつか、ありました」

「今日お話していただくのも、もしかして?」

「そう、ですね……現在上映中の「THE SEARCH」なのですが、撮影中に「不思議な出来事」で済ませて良いのか判断に困る事が色々とございまして。そのお話を、させていただければと」

 

 「ほら見たことか」「宣伝かよ」と否の弾幕が流れる。

 この「THE SEARCH」という短編映画は、和食屋を切り盛りする親子を中心に物語が展開され、配信の動画やリモート通話のシーンなど、物語はパソコン画面上で進んでいく。


 父親は行方不明の娘を探すうちに彼女の残した奇怪な行動と、その先の隠された真実にたどり着いてしまう。最後まで見ても不気味な不明瞭さが残り、それが多くの考察を生んだことで、放映数日でかなりの話題を生んでいる。

 

 スタッフが山田の後ろから、椅子に取り付けられた蝋燭の火を灯す。火の周りにぼんやりと(だいだい)が輝き、山田の透けるように白い頬を照らした。


 先程までとは裏腹に、彼女の柔らかい雰囲気が鳴りを潜めると、一瞬で会場の空気が変わる。

 『語り部役の山田』その役に徹した彼女は、その場にいた全員を飲み込もうとしていた。



◇◇◇



 私達が岡山県の撮影現場付近に到着したのは、日が暮れかけ辺りが夕焼けに染まる頃でした。これまでに映画の撮影は順調に進み、既にほとんどのシーンを撮り終えていました。残りは岡山県の廃病院でのシーンがメインです。

 

 作品の舞台は岡山県ですが、多くの場面は東京で撮影しました。


 ですが「廃病院でのシーンは岡山で撮りたい」と、オーデション時にそのように聞かされていました。実際に映画になったシーンの他にも二人の監督にはいくつかの案があったので、役名のある出演者は全員岡山へ向かう手筈になっていたのです。

 

 駅や空港からロケバスに乗り合わせて行く方もいれば、それぞれで向かう方もいたと思いますが、私の場合はマネージャーの坪内(ツボウチ)の車で向かいました。


 坪内の他に、専属メイクをしてくれている松井(マツイ)という子がいて、女性三人で岡山県へ向かったのです。

 昼頃に飛行機に搭乗し、岡山県の空港から車に揺られること数時間。やっとのことで本日宿泊するホテルが近付いてきたのだと、カーナビゲーションシステムが私達に知らせました。


「遠かったですねえー! もう東京でやればいいじゃないですかー。わざわざ本当の廃病院使わなくったって」

「松井ちゃん、そんなこと言わないの。せっかくのお仕事なんだから」

「山田さーん……さすがです。私イヤですよ、廃病院」

 

 目的地のホテルが近付くに連れ現実味が増してきたのか、車内では怖がりの松井が嫌そうな顔をしていました。

 

「大丈夫、撮影中は演者とスタッフだらけの大人数だし。怖いことないよ 」

「そうですけどぉ、病院って小さい頃から苦手なんですよ」

「でも松井ちゃんいてくれると、私安心してお仕事出来るから! 来てくれてありがとうね」

 

 感謝の気持ちを告げると、松井は弱々しく「がんばりますぅ」と泣き真似をしました。

 

「ほら、あそこ。明日の撮影場所」

「え? どこ?」

「右、右。ちょっと山になってるとこ」

 

 しばらく静かに運転していた坪内が何かを見つけたようでした。私と松井は、坪内がくい、と顎先で示した先を見ました。松井が「ヒッ」と音にならない声を出し私にしがみつきます。


 道路の右手には古い家が並び、その少し奥まった小高い場所にそれはありました。草木が被さるように覆っていて、言われなければ建物があると気が付かないかもしれません。薄暗いのも相まってか、怖いと感じたのは松井だけではありませんでした。

 

「雰囲気ありすぎですよ……坪内さぁん、本当に明日行くんですか?」

「行くに決まってるでしょ。それとも松井、他のメイクさん呼んだほうが良かった?」

「そ、それはだめですけどぉ!」

 

 今となっては、怖さと長距離移動の疲れを誤魔化すように騒いでいたような気もします。

 やがて車はゆっくりと減速し、ホテルの駐車場に入りました。到着したのは小さな洋風のホテルです。

 

「はい、到着。|万桜、具合悪くなったりない?」

「大丈夫! 運転ありがとう」

「ねーえー、このホテルさえも怖い! 田舎こわい!」

「松井、車降りたら口閉じてなね」

 

 途中から私達以外の車を見なくなりました。車線は一つしかなく、脇は雑木林のようでした。舗装されていない狭い道です。対向車が来たら坪内が困ったことでしょう。


 そのような場所にあるホテルですから、松井が怖がるのも分からないではないのです。人通りも街灯もないような場所で隠れ家のようにひっそりと建っていました。私としては静かな場所で集中出来るので、まさにおあつらえ向きでした。


 ホテルに入ると中は建物の外観から想像出来ない、と言っては失礼かもしれませんが、明るく清潔感がありました。私は一人部屋に案内していただきました。坪内と松井は相部屋のようです。

 

「私も二人と一緒が良かったなぁ」

「うちの大女優様ですからね、明日に備えてしっかり休んでいただかないと」

「はーい」

 

 ホテルの方が部屋の前まで荷物を運んでくださり、坪内たちともそこで分かれることになりました。


次の更新予定時刻は2024.12.01.01:00です

次話でもお会い出来たら嬉しいです

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