プロローグ
―大都会は非常に階層的だ。
空を突く様に佇む摩天楼の数々、蟻の巣の様に張り巡らされた都市の血管達。
物理的なことは言う迄も無い。
身分的に階層がありすぎる。
上質なスーツやドレスに身を包んで靖国通りを高級車で行き交う人々もいれば、精々雨しか凌げないガード下で飢えと寒さに凍える人々もいる。
人の心は金では買えないと言うけれど、そんなのどこの幸せ者の戯言か。
この街では人と人の間には金しか繋がりなんてない。
愛なんて、価格がついたものしか存在しない。
通っていれば高校生活真っ只中であろう玲奈は、毎晩そんな世の中を見て厭になっていた。
尤も、彼女自身も歌舞伎町の片隅でホームレス生活を行う、所謂「トー横界隈」と称される一人である。
周りからなんと言われようがよかった。彼女にとっては此処が家庭のようなものだったから。否、家庭というものが存在していない彼女にとっては家庭そのものなのかもしれない。
母子家庭で育った玲奈は父親という概念をだいぶ遅くまで知ることなく育ってきた。幸せな期間もあったのかもしれないが、其れを上回る虐待やネグレクトが彼女を狂わせていった。何時の間にか母の顔よりも知らない男の顔を見る機会が増えていって、居場所がないと感じたのは何時頃だったか。
元々心身が健康とは言えない母は次第に疲弊していき、数年前に亡くなった。
診断は病死だったが、玲奈は母は殺されたと感じていた。確信はないが、女の勘というものだろうか。その後一人になった彼女を訪ねる者を、誰も信用しようとしなかった。
後を追うほど彼女は強くはなかった。
彼女を救ってくれたのは家出先だったトー横の仲間たちだった。
彼らとの交流が、彼女の辛さを中和させてくれた。
―今までよく生きてたなと思うことがある。
実際のところ、いつ死んでもいいと思ってたから生きられたのかもしれない。
この世界が変わればいいのに、と思う。一方で、そんな未来志向なことを考える自分が嫌になる。
でも確かに、今が嫌で、この世界が嫌いだ。
なにより何もできない自分が一番大っきらいだ。