↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/57

#43「先生の本当の願いごと」

「"心刀・正宗"ッ!!」


 正宗は右手の先にマナを凝縮させ、日本刀をそこに顕現させた。そして、全速力で走る彼とシルバーがぶつかり合った。


「あれほど考える時間をやったのに、みすみす死を選ぶとはな」


「誰が死ぬって!? テメェをぶっ潰すんだよ、他に何も無え!」


 鍔迫り合いの中、正宗は銀に言い放つ。


「ぐっ……!?」


 だが、刀はそれについてこなかった。シルバーの剣にあっさりと弾かれ、正宗の手元から滑り抜けて離れていく。


「ちっ……!」


 体一つとなった正宗に、容赦なくシルバーの刃が襲いかかった。命を奪うのに微塵の躊躇もない、縦横無尽に高速で振り回される剥き身の凶刃を、正宗は動体視力と勘だけでなんとかかわし続け。


「はあああああッ!!」


 一瞬の隙を付いて、居合斬りの構えをとった。


「"心刀・正宗"ェ!!」


 今度は正宗の横一閃の斬撃によって、シルバーの剣が押し除けられた。だがシルバーに隙は無い。反撃のチャンスを与えまいと、すぐさま後ろに飛び退き、正宗と距離を取った。


「あの頃と変わんねえな。危なくなったらすぐ逃げやがって」


「リスクを避けるのは当然だ。お前こそ、愚直すぎる攻め方は改善されていないな」


「チッ、兄弟子ぶってんじゃねえ!」


 刀をまっすぐに構えながら、正宗は怒りをこめて言い放つ。


「そんなに俺のやることが気に食わないか? 先生の教えを果たしているだけだ。"いつだって、何度だって、人は変われる"。お前も何度も言われた言葉だろう?」


「どこがッ……!」


「どこが? 見て分かるだろう。俺は弱い自分から変わった。そして、変えようとしている。魔法などという、悲しみしか産まない悪しき力に満ちた世界を」


「馬鹿野郎ッ!! 先生が言いたかったことは、そんなんじゃねえだろッ!!」


「……ふっ」


 あくまで自らの主張を貫く正宗に、シルバーは溜め息を返した。


「もう良い。さっさと終わらせよう」


 シルバーはそう言うと、自らの剣を地面に突き立てた。


「"変銀自在(メタル・モルフォーゼ)"」


「!」


 固有魔法の詠唱。身構える正宗の目の前で、鋼鉄の剣がまるで液体金属のように、みるみる形を変えていく。


「お前が刀を振るうなら、俺はこれでいこう」


 そして、柄の長い槍の形に凝固した。


「……!」


 急接近する殺意。踵を蹴り、そのまま勢いよく突き立てる槍の切先。正宗はそれを、寸前で横に跳んで回避した。


「はあああッ!!」


「遅い」


「ぐっ……!?」


 反撃の刃を振るおうとも、届かない。そして弾かれる。武術の素人である正宗にも、すぐに理解できる、剣と槍の相性差。シルバーの変幻自在の金属操作魔法は、正面から愚直に攻める彼とは相性が悪かった。


 さらに二つ、正宗には不利な点があった。


 一つ。咄嗟に編み出した魔法が故、正宗は刀を振るう訓練などしたことがない。対してシルバーは槍も剣も訓練を重ね、熟練していた。迷いのない鋭い武器捌きが、それを物語っていたのだ。


 そしてもう一つ。シルバーの固有魔法は、0からの金属の生成ではなく、実在する金属の操作。故に、正宗の"消虚"や"心刀・正宗"をぶつけ、固有魔法を無効化したところで、すでに形作られた金属武器そのものを破壊するには至らない。


「ぐあっ!?」


 そんな状況では、いかに正宗に喧嘩の才能と経験があろうとも、攻撃を防ぎ切るには限度があった。再び刀を弾き飛ばされ、正宗も勢いよく地面を転がっていく。同時に、微かに刃がかすった脇腹から、血が滴り始めた。


(クソッ……みんなも苦戦してるってのに……!)


 正宗は苦悶の表情とともに、周囲を見回した。






「"紅の迷い子"!」


 一方で、他の3人も激闘を繰り広げていた。焚火は改造ライターに火を付け、大きな火の玉を手のひらの上に乗せる。


「〜〜〜〜〜ッ!!!」


「はあああああっ!!」


 それを、威圧的な鳴き声と共に迫ってくる巨大な蛇目掛け、思い切り投げつけた。火は蛇の顔面で瞬く間に拡散し、その目を焼き、内臓を焼いた。意識を失い、力なく地面を滑っていく蛇の体を、焚火が横に跳んでかわすと、やがてその蛇の死体は黒い粒子となって消え去った。


 だが、それで終わりではなかった。


「はぁ、はぁ……まだ、マナが尽きないの……?」


 21体目。終わりではない、それどころか、終わりが来る気配すらなかった。


「頑張るね〜。じゃ、あたしもいっぱい頑張ろ〜っ♪」


 ディーヴァはそんな軽い口調で、軽い仕草で、本のページを開く。その度に、巨大な蛇がまた、何度も何度も復活する。そんな戦いを幾度となく繰り返してなお、彼女のマナは尽きそうもなかった。


「"ビースト"ッ!」


 遠くでは、ハルも戦い続けている。だが幾度となく蛇の巨体を引き裂いてきた彼の動きも、だんだん鈍り始めていた。今もまた、もう少しで蛇の巨体に轢かれるところであった。


「天使さんは…………」


 焚火は周囲を見回し、天使の姿を探した。そして。


「あっ……!」


 遠くで座り込んでいる彼女と、そこへ迫る巨大な蛇を見つけると、反射的にライターの引き金に指がかかっていた。


「"紅の迷い子"ッ!!」


 焦りと怒りが混じった、彼女らしからぬ強い激情を乗せるように、火の玉は一層力強く、勢いよく放たれた。そして、火の玉は横から殴りつけるようにして、天使に迫っていた蛇の両目を焼きつくした。


「天使さん!!」


「紫織っ……ありがとう、助かったわ」


 基礎魔法"シュトナ"のみで応戦する天使も、苦しい戦いを強いられていた。しかし彼女は怯える様子一つ見せず、凛として立ち上がる。


「"癒天使"」


 そして近寄ってきた焚火の、左頬に指を当て、青い光を放った。その背後には白い天使が、守護霊のように佇んでいた。


「あれ……いつの間に切ってたんだろう」


 そう呟く焚火の頰にできた切り傷は、すぐさま癒えていった。


「気をつけなさいな。私の次に綺麗な顔なんだから」


「はい、ありがとうございます」


 それが冗談にせよ本心にせよ、焚火には嬉しかった。


「まだやれるわね? 紫織も、渡会も!」


「もちろん!」


「はい!」






 どうして──屋上から彼らを見下ろすだけのキリカは、悲痛な思いに胸を締め付けられていた。


「全然諦めないねー、あの子ら。一応、逃げたら追わない設定にしてあげてんのに」


 不思議がって、ディーヴァはそう言った。正宗は格上のシルバーを相手に突破口を見出せず、焚火達も無数に湧き出る蛇たちの包囲網から抜け出せずにいる。何度も傷を追い、転び、殺されかけている。それでも、彼らは背を向けようとはしなかった。


「ま、バカなんだろ? だから、救えねえこのガキを救うために命を落とす。あー、かわいそっ♪」


 しゃがみ込んで地上を見下ろすヴォイドは、そんな正宗達を嘲笑った。


「……っ」


 命を落とす──それだけは、して欲しくなかった。


「正宗くん、みんな! もう良いのです!」


 だから、キリカは彼らに叫んだ。


「このままじゃ、みんな死んでしまいます! 先生として、そんなの許しません! 今すぐ逃げて!」


 涙ぐんだ声で、キリカは叫んだ。人でなしの自分を、それでも師と仰いでくれた人達。大切な仲間達。だから、自分の命よりも大切だった。


「彼らの言う通りなのです! 先生は、この世界の闇と罪そのもので……生きてはならなかったのです!! 先生が、この場で消えることが……それが、正しいことなのです!! だからっ──」


 少女には、自らの存在を否定してでも、守りたい者達がいた。


「……そんな正しさなら、俺はいらねェッ!!!」


 そして少年には、彼女自身の言葉を否定してでも、救いたい少女がいた。


「正宗、くん……?」


「良い加減気付けってんだ!! お前が生きてて良いとか、いけないとか関係ねえ……俺が!! 俺達が、お前に生きて欲しいんだっつってんだよ!!」


 それは、身勝手な個人的感情なのかもしれない。世界全体の正義からは、"彼女"にあの頃教わった正義からは、程遠いのかもしれない。


「…………あ、あぁ……」


 だけどその言葉は、何よりも少女を救うもので。


 誰かを救いたいというその思いは、"彼女"が持っていたそれと、きっと同じだった。


「罪なんかじゃねえ!! お前が俺を守って、焚火にきっかけを与えて、天使を助けて、ハルを止めた!! 闇なんかじゃねえ、お前が俺達に光をくれたんだ!! お前が自分をどう思おうが、お前は俺達を救ったんだよ!!」


 ボロボロの体で、それでも正宗は、声を張り上げて叫んだ。


「黙れッ!!」


「!? 正宗くんッ!!」


 それを許すまいと、シルバーは槍を正宗の胸に鋭く突き立てた。キリカの叫びも虚しく、回避しきれなかった正宗の左胸に、真っ直ぐに槍が突き刺さる。彼はそのまま、後方へと弾き飛ばされた。


「……へっ」


「何……?」


 だが、死には至らなかった。


「わり、林。ぶっ壊しちまった」


 正宗の制服の胸ポケットで、女物の白い手鏡が、粉々に砕けていた。そして、それが赤く染まることはなかった。


「林、さんの……?」


「林だけじゃねえ。Fクラスのみんなが、俺達に想いを託してくれた。みんな、お前のこと愛してんだよ!」


「……!!」


 だから──正宗はまっすぐに、涙をこぼすキリカの顔を指差した。


「今から教えてやる!! お前という存在が、俺たちの世界に、どれだけの光をくれたのかを!!」


 キリカは、涙した。


 橘希織花にもらった"心"。それをもらったその日のうちに、彼女は死んだ。心は、ぐちゃぐちゃになった。キリカは、ぐちゃぐちゃになった。自らを呪いさえした。


 それからずっと、罪を背負って生きてきた。吐き気がするほど重たい罪を。


「分かったら教えろ!! 俺達に、何をするべきか教えやがれ!! お前は先生だろうがッ!!」


 毎日、楽しいのは確かだった。だけど自分には、そんな権利は無いのではないかと。自分は、生きてはならないのではないかと──思い出を重ねながら、その裏では、ずっとずっと、そう思ってきた。


 だけど。そんなことは関係なく、その日、桜キリカは初めて言った。


 涙をぽろぽろ溢しながら。どくどくと燃え上がる拍動、感情と共に。"生きて良いじゃなく、生きて欲しい"──人生で1番嬉しかった言葉と共に。離したくない繋がりと共に。


(希織花さん……私、先生になって良かったです)


 自分が人間だという証を、その胸に感じながら。


「…………正宗ぇ!! みんなぁ!! 助けて……先生は……私は、生きたい!!」


 キリカは初めて、自分の本心からの願いを叫んだ。


 生きて良いのか分からないけど、生きてはいけないのかもしれないけど、それでも生きたい、と。


 人は変われる──今まで橘の受け売りのように、言葉だけ言っていたそれを、キリカは初めて、本気で信じ、願った。


「しゃあねえ……先生の言うことは聞かねえとな!」


 世界が、希望に満ちたものに見えた。






「あーつまんねェ……ん?」


 激情をぶつけ合う2人の会話を、茶番としか思えずにいたヴォイドのもとに、着信が届いた。


「あ? ンだよチタン。テメェ、森に他のFクラス連中がいねえか哨戒しろっつったろうが」


『いえ、それが……たった今、奴らの仲間を発見したんです』


「フーン、じゃ殺しといてくれや」


『それが、ですね……僕の銃器では、どうやっても届かなくて』


「あァ? んだよ、まるでソイツらが空飛んでるみたいじゃ──ああ?」


 みたい、ではない。飛んでいる。ヴォイドは、紫の空の遥か彼方を見上げ、目を見開いた。


「おいおい……ディーヴァお前、お客さんが来やがったぞ」


「え……まさか!?」


 ディーヴァも知らぬ来訪者。


 サファイアのような美しい鱗を纏う、巨大なドラゴン。


「あれは……もしかして!?」


 焚火が声を上げた。


「はーっはっはっは!!」


 青空を羽ばたくドラゴンの背中から聞こえてくる、やけに大きなその声を、正宗は聞いたことがあった。


「ば……万丈、勇真ぁ!?」


「そう!! 山倉高校Aクラスの真の勇者、万丈勇真!! それは僕のことだッ!!」


 最強の救世主は、高らかに名乗りを上げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。