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#37「正宗と兄弟子」

 そして今、山倉高校の校庭で。


「てわけでなァ……コイツには死んでもらうぜ」


 フードを取り払い素顔を見せたヴォイドは、動揺するFクラスの面々を見ながら、不敵な笑みを浮かべた。


 そしてその腕に抱えたキリカの顔に、左手を添えて。


「"シュトナ"」


「!? やめろッ!!」


 正宗が叫んだのも束の間、その手から魔法弾が放たれた。


 だが、光は光によって掻き消された。


「先生……!?」


「だが見ての通りだ。このガキが自らに張ってる防御魔法、これを解析し除去する方法を見つけるまでは、オレサマもコイツを殺せねえ。ま、短く見積もっても5時間はかかりそうだな」


「へえ……そりゃ良いニュースだ。そんなの、お前を100回ボコしたって時間が有り余るな」


「きゃ〜、女の子殴るなんてサイテ〜♪ ……や問題ねェか。その場合ボコられんのはテメェだもんな?」


 どす黒い瞳でどこまでも正宗を見下すヴォイドとは裏腹に、正宗は無言で彼女を見つめ、そして歩いた。彼女目掛け、黙って足を踏み出した。


「おっ? やる気かい? あーそっか、人質が人質になってねェんだこれ」


「……」


 キリカを見て困った顔を"作った"ヴォイドをよそに、正宗は目を離さずに歩を進める。


「"紅の迷い子"ッ!!」


「!?」


 背後で自分の仲間が、ヴォイドの死角から、奇襲の機会を伺っていたことに気付いていたから。


(喰らえ……ッ!!)


 胸中で叫ぶと共に、首を傾けてかわした正宗の後ろから、必殺の火矢がヴォイドの顔目掛けて飛来した。


「──"零次元(ヴォイド)"」


 火矢は、彼女の顔面を貫くはずだった。


「!?」


「ざんね〜ん」


 彼女が掲げた右手の先に生まれた、真っ黒な空間に吸い込まれていなければ。


「浅井くんと同じ、"消虚"を……!?」


「そうじゃねえ……魔法の効果を打ち消したってより、炎そのものを消し飛ばしやがった」


 正宗らが動揺を隠せずにいる中、ヴォイドの足元にも真っ黒な空間が円形に展開され始める。否──何かが生成されているというよりも、それは世界を切り裂いて、穴がこじ開けられているかのようであった。


「ヴォイド〜、こっちにもお願い♪」


 そう言ったディーヴァの足元にも、暗い空間が広がり始める。


「逃がさないッ!!」


 一瞬の判断で動いたのはハルだった。逃走、あるいは暗闇の中に身を隠そうとしていると予測して、その前に仕留めんと距離を詰めていく。


「ばいばーい」


 だが、その鋭い鉤爪の標的は、魔法を見てから動き出したのでは到底届かない距離にあった。黒いもやのようなものにディーヴァの全身が包まれた直後、彼の鉤爪が切り裂いたものは、空気と暗雲だけだった。


「手応えが無い……くそっ」


「テメェは逃がさねえッ……!」


 悔しがるハルを一瞥する間もなく、正宗は再び駆け出した。ヴォイドはまだ、正宗の無効化能力を知らないはず。ならば、本体に攻撃が届かなくとも、あの場に残る黒いもやに"消虚"を当てれば、あるいは──と。


 だが。


「!?」


 正宗は急停止し、上空を見上げた。


 鳥や雲の通過だとは到底思えない影が、自身に覆い被さったから。


 確実に、何かがこちらへと飛来してきていたから。


「くっ……!」


 咄嗟に左にジャンプし、隕石のような飛来物を寸前で回避する。地面を転がりながらもすぐに立ち上がり、彼は目の前の砂煙が晴れるのを待った。


「久しいな。本当にここにいたのか、正宗」


「ああ……!?」


 煙の中の人影に話しかけられ、正宗は眉をひそめる。どこかで聞いた覚えのある、大人の男の声。それも最近ではなく、しばらく前に。


「まだ解らないか……これでどうだ?」


「テメェ、何を──」


 尋ねる前に、煙の中の人物は、何かを振るって周囲の目隠しを振り払った。


「──!?」


 瞬間、正宗は心臓が止まるような感覚に襲われた。


 現れ方からして、明らかにヴォイドの助太刀に上がった敵の増援。それも、只者ではないであろう強敵。


「何やってんだよ……(しろがね)ッ!!」


 正宗は叫んだ。無理もない。


 その強敵の正体が、数年行方知れずの友だったのだから。


 軍服のような黒い服と手袋。正宗よりも高い身長。だが銀色にたなびく髪と、同じく銀色の宝玉のような瞳は、あの頃と変わっていなかった。


「元気そうだな。だが、それ以上は進まないでおけ。弟弟子(おとうとでし)を斬りたくはない」


 ただひとつ変わっていたのは、鋼の剣を握りしめてそう言った銀──改めシルバーは、今は正宗に刃を向ける立場にある、ということ。


「だったらアイツに言えよ。キリカ先生を離せって!」


「そうか。あくまであの子供の味方をするつもりか。お前も、そこの学友達も」


 シルバーは、困惑の瞳で彼を見つめるFクラスの生徒らに目を向けた。


「浅井くん! 弟弟子って、どういう──」


「当然だろ。キリカ先生は俺達の担任で、仲間だ。どうぞ誘拐してくださいって言うとでも思ったかよ?」


 焚火の言葉を遮りながら、正宗はシルバーを睨みつけた。


「そうか……」


「?」


 その一言とともに、シルバーは目を伏せた。何故か、正宗を憐れむかのような仕草で。


「……あの子供が、お前の……俺達の先生の仇でも、か?」


 それは、暗号のようだった。Fクラスの彼らには、何一つ意味のわからない"先生の仇"というワード。


「………たち、ばな、せんせい?」


 それでもその言葉は、正宗の目を見開かせ、その声を震わせるには十分なものだった。


「よく聞け。俺達の目的はただ一つ、この世から魔法使いを消し去り、魔法の行使が禁止された世界を作ることだ。お前にも協力して欲しい。すぐにこの学校を辞め、魔法の無い人生を送るんだ。そして俺達の邪魔をするな」


「……何……言ってんだよ」


 諭すような優しい口調。それでも、正宗には理解できなかった。魔法を無くす? 橘先生に、そしてキリカに魔法と共に生きていく方法を教わった、自分が?


「おっ、修羅場ってヤツ? んじゃ邪魔者のオレサマはお暇しますんで〜」


 その言葉と共に、ヴォイドの周囲に黒いもやが一気に広がっていく。彼女を包み込み、その身と周囲の暗雲との境目を無くしていく。


「! ま、待てッ──」


 そこへ、咄嗟に駆け出した正宗の足は。


「──え」


 吹き出す鮮血とともに停止し、その体は前のめりに崩れた。


「それ以上は進むなと言った。次はその程度では済まさん」


 鋼の剣に付いた血を振り払いながら、シルバーは言い放った。そしてその足元にもヴォイドと同様に、黒い空間が展開されていき。


「我々を追うな、手出しをするな。ここで全ての行く末を見届けろ」


 そう言い残して、彼らは正宗達の学舎を去った。






「……悪い、天使。もう歩けそうだ」


「そう……無理に動くんじゃないわよ」


 そうして正宗の、そして怪我をしたFクラスの面々を天使が治療し終えると、疲れきって校庭にしゃがみ込んだ彼らの間に、重たい沈黙が走った。


「……ね、どういうこと? 弟弟子って」


 だが、やがてそれを尋ねたがる者が現れるのは道理だった。今回はたまたま、その最初の1人が槙野だったというだけで。


「ああ。隠す必要もねえな……俺は小学校の終わり頃、ある魔法官と出会ったんだ。橘希織花……俺に魔法を教えてくれた先生だ。そして、俺より前からその人の弟子だったのが、今のアイツ……(かんなぎ)銀だ」


 確か、三つくらい年上だったな──正宗はそう付け足した。


「俺は学校サボってばっかだったけど、アイツは真面目に通ってたからな。俺達は頻繁に顔合わせてたわけじゃねえが……それでも、間違いなく昔のアイツは、正義感が強くて優しい奴だった。ちっとは尊敬してたんだけどな」


「それが、なんであんなテロリストじみたことをしてるのよ。魔法をこの世から無くすなんて……そんなこと、主の御技でもないと到底無理じゃない」


 隣に触る天使が、すぐに正宗に尋ねた。当然の疑問だった。魔法官──警察の弟子が一転、誘拐犯なのだから。


「悪い、それは分からねえ。橘先生が死んで以来、銀とは全く連絡取れてなかった」


「やっぱり、橘さんは亡くなっているんですね……だけど、キリカ先生が橘さんの仇というのは?」


「それも分からねえ」


 けど──焚火に目を向けながら、正宗は言う。


「俺もお前も、一つだけハッキリわかってることがある。だろ」


「……私達の先生は、誰かを殺すような人でも、人から憎まれなければならないような人でもない。そうですよね」


 間違いなく、今やクラスで1番の親友と言える存在だった。ショッピングモールでの出来事、キリカの家での出来事、全てを思い返しながら、2人は微笑んで頷いた。


「だけど、これからどうしようか……先生を探しに行くにしても、何もヒントが無いし」


「ああ……ん?」


 飛来する影。だが、今回は敵襲ではなかった。


 やけに小さく、四角く──2-Fの教室の空いた窓から舞い出てきたそれは、一通の手紙だった。


「これは……"桜キリカ"!?」


 木の葉のように漂うその手紙をキャッチした正宗は、その差出人の字に目を丸くした。


「浅井くん、開けてみませんか?」


「当たり前だ!」


 正宗はすぐさま封を開けた。






拝啓、Fクラスの皆様


 この手紙が皆さんに読まれている時、先生はその場にはいないかもしれません。この魔法の手紙は先生が死んだ時……ってわけではないのですが(ここ、正宗くんは冷や汗をかいたでしょう( ̄▽ ̄))。


 先生に大きな危険が及んでいる時に、緊急連絡として、クラスの誰かの元に届くように設定しているからなのです。


 最近、学校の周囲で妙な動きが見られていました。それも小悪党のいたずらではない、組織的かつ大規模な……言うなれば、テロのような企みの影なのです。そしてそこには、もしかすると、先生の過去が関わっているかもしれないのです。


 ですから、本当は伏せていたかったのですが……これから先生のことをお話しします。


 正宗くん達に前語った過去は、実はほんの少しだけ嘘があったのです。ごめんなさい。


 先生が何をしてしまったのか、本当の過去をここで明かします。

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