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白雪姫はめんどくさい  作者: ちは
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白雪姫のファン

「ふぅ、美味しかったぁ。ごちそうさまでした」


 最後の一口を咀嚼し終えた若菜が満足した表情を浮かべる。やはり甘いものは人を幸せにする、つまりたくさん食べれば食べるほどハッピーになるのだ!


「さて!全員食べ終えたと・こ・ろ・で。凛花ちゃん!!」


「は、はい。なんでしょうか?」


 急に振り向いた若菜に凛花は少し驚きながら小首をかしげる。


「この後お時間ありますか?」


「はい。大丈夫ですよ」


「そ、それじゃあね?私と一緒にお洋服見に行かない?」


 だからなんで誘うとき若干キモくなるのあなた。もうちょっとさらっと誘えばいいのに。


「もちろんいいですよ。むしろこっちからお願いしたいです」


「いいの!?やったぁ。へへへ…凛花ちゃあん」


「いやきもいわ」


 とうとう本性現したね。


 お誘いの時から若干きもさが滲み出ていたが、どうやら隠しきれなかったらしい。若菜はだらしない笑顔を浮かべながら凛花へと擦り寄る。これには柔和な笑みを浮かべていた白雪姫様も苦笑い。


「白雪さん、もし変なことされたら正樹に言いつけるぞって言えば治まるから。あ、正樹ってのはこれの飼い主ね」


「だから私犬じゃないですー。後これって言うのやめてくださいー」


「えと……わかりました?」


「わからなくていいから凛花ちゃん!」


 疑問符を浮かべながらも俺のアドバイスを聞き入れる凛花を若菜は必死に止めようとする。これが若菜を止めることの出来る唯一の手札、彼氏飼い主召喚だ!


 さて、これから凛花と若菜はこれから服を見に行くらしいが、俺は上手いこと抜け出そうと考えている。ここまで仲良くなれたのなら、俺がいない方が楽しい時間を過ごせると判断したからだ。洋服選びについていくのはさすがに邪魔だと思うし、シンプルに俺の居心地が悪そうだというのもある。解散するのに丁度良いタイミングだし、切り出すなら今だろう。


「よし、じゃあ俺はこの辺で帰ろ──」


「え?拓人も来るんだよ?」


 おや?デジャヴかな?俺さっきもこの光景を見た気がするんだけど。


「いや、さすがに邪魔でしょ。若菜はまぁいいとして白雪さんにとっては迷惑だろ」


「別に迷惑じゃないですよ?」


「だってさ拓人」


「……いやでも」


「今日は元々お二人で買い物に来ているんですから、迷惑なんてことないですよ」


 いやだからさっき見た!もう見たって!そんな感じのこと数十分前にも言われたよ!


「凛花ちゃんがいいって言ってるんだからいいの!拓人返事は?」


「……お供させていただきます」


「うむ、よろしい」






「ねぇねぇ凛花ちゃん!これ可愛くない?」


「いいですね、すごく似合ってると思います」


「拓人どう?似合う?」


「うん、いいんじゃない?」


 楽しそうに会話をしながら洋服を見て回る二人の美少女の後ろを歩く。そして時折、体に当てられた服を見ながら称賛の言葉を口に出す。


 他所から見たら非常に羨ましい光景に見えるかもしれない。が、そんな羨ましがっている君たちに言いたい。


 頼む、代わってくれ。


 めちゃくちゃ気まずい。そして居心地が悪い。男女両方の洋服を売っている大手企業の洋服屋さんにしか入ったことがない、ファッションにそこまで力を入れていない系男子からしたらこの環境は地獄である。木製の床とインテリアにより、親しみやすさを感じる店内にも関わらず全くもって心が落ち着かない。


 そして何より周りからの視線が痛い!!「え?あの子達超可愛い!!でも後ろにいるあの男は普通……あ、荷物持ちかw」と考えているのが明け透けな視線が俺の体を貫いていく。あぁ…貫かれたところから血がドバドバ流れ出ていく!このままじゃ俺出血死しちゃう!!


 かと言って楽しそうにしている彼女たちの邪魔をするわけにもいかず、今すぐにでもこの場から逃げ出したいという思いを何とか抑え、こうして口から血を垂らしながら耐えているのです。これが正樹のような顔立ちの整っているイケメン君なら良かったんですけどねぇ……。今から代わってくれないかなぁ。


「拓人!見て見て!これめっちゃ可愛くない!?」


 気を紛らせるために遠いところを見つめていると、若菜から声がかかる。先ほどと同じ感じだろうな。まぁ似合ってるって言えば解決するか。


「はいは……い……?」


「どう?凛花ちゃんめっちゃ可愛くない!?」


 若菜が服を当てているのだろうと思っていたがその予想は外れていた。視界に映ったのは洋服を体に当てている凛花と、凛花の後ろから顔を覗かせている、テンションのギアが一段階上昇した若菜だった。


 ……ってなんで俺に見せてきてんの!?普通仲良くない人には見せないでしょ!俺と凛花が実は仲良いの知ってるの!?じゃないと俺に見せてくるわけなくない!?というか凛花は見せるの嫌だって断れよ!


 一瞬だけフリーズした脳が活動を再開し始める。若干恥ずかしそうにする凛花の肩付近から顔を覗かせ、興奮気味に意見を求めてくる若菜。そんな若菜にどこか既視感を覚えたが、その答えはすんなりと見つかる。


 あ、推しを布教するときの奴だこれ。


 そう、オタクなら誰しも経験したことがあるのではないだろうか。推しを布教するときにその良さを知ってほしいがあまりついつい早口になったり、テンションがおかしくなったりすることが。


 今の若菜がしてる行動はまさしくオタク特有のそれである。友達関係からどうやら推し推されの関係に発展していたらしい。だから俺に意見求めて来てるのね君。


「えっと……うん、似合ってるんじゃないかな?」


「雑~。もっとしっかり感想言って!」


 いやなんで若菜さんがそれ言ってるんですかね?


 自分の時以上に感想を求めだした若菜にツッコミの声を上げざるを得ない。くっ、こいつオタクの中でも語彙力が溶けないタイプのオタクか!しかもそれをこっちにまで強要してくるタイプ。オタクの語彙力はすぐ溶けるんだぞ!


 そんな白雪姫推しの若菜から視線を凛花へとスライドさせる。すると不満の意が籠った少し細められた目と視線がぶつかる。なんなら彼女の頬が少しだけ膨らんでいる気がする。

 

 うわぁ吹き替え版の映画見たいだぁ……。

 

 なんということでしょう。若菜のセリフと凛花の表情が寸分違わず合っているのです。いやそんな偶然起こさなくていいから。


 もっと具体的な感想を二人から要求された俺は、凛花の全身をぐるりと見回す。これが若菜だけの要求だったら適当にそれっぽい言葉を並べていたかもしれないが、ご本人様が具体的な感想を望んでいるため真面目に答えなければいけない。でないと後日機嫌を直すというめんどくさい仕事が発生してしまうからだ。


「清楚な雰囲気だけど、それでいてしっかり可愛さが感じられてていいと思います。すごく似合ってると思います」


「だよねー。凛花ちゃん可愛いからなんでも似合うなぁ。あぁ…超かわいい」


 小学生みたいな口調になってしまったが、どうやら白雪姫ファンの人は満足らしい。ファンの方、最後心の声漏れ出てますよ。


 ちらりと凛花の方を見るとこちらも満足した表情を浮かべている。もし喋れるなら「でしょ!似合うでしょ!」と言いそうなドヤ顔をしている。体を回転させて後ろにいる若菜にこの表情を今すぐ見せてやりてぇ…。

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