白雪姫は気になる
「……」
今日も今日とて人が来ない。いつもならば隣で本を読んでいる少年に話しかけて、白雪姫としての私では話せないようなことを聞いてもらうのだが、今日は違う。かと言って本を読みたいという気分でもないため私はただ頬杖をついてただぼーっと遠くを眺めていた。
実を言うと話したいという気持ちは強い。彼と話すときは白雪姫として振舞う必要が全くない。そのため私にとっては彼と話す時間はとても心休まる時間なのだ。なのだが……
拓人ってやっぱり嶋村さんと付き合ってるのかな……どうしよう、すごく気になる!!
拓人と嶋村さんの関係性が一体どういうものなのか気になり、非常に話しかけづらい。
拓人と嶋村さんが楽しそうに話しているのを見たあの日から頭の中では常に二人の関係に関する考察が右往左往していた。
友達?それとも付き合っている?いやさすがに付き合ってるはずはない。いやでも完全にそうとは言い切れない。いやでも……。という考えが頭をよぎる毎日。
クラスの人に聞くという選択肢もないわけではないのだが、いきなり「嶋村さんって誰かと付き合ってるの?」と聞くのは白雪姫としてはありえない行動。恋バナが好きだと押し通せるかもしれないが、それで白雪姫が恋愛に興味があると噂されると今度はそれで厄介なことが起こる。この選択肢はNG。
かと言って拓人と嶋村さんが付き合っているのか問題をスルー出来るわけもなく、必然的に拓人に聞くという選択肢だけが残る。ただ「拓人って嶋村さんと付き合ってるの?」と聞けばこの頭の中にあるもやもやを一瞬で霧散させることが出来る。
でも拓人にそんなこと聞けるはずないじゃん!!だって盗み見たことがばれちゃうし、それに変な勘違いをされるかもしれないし……。
盗み見るつもりはないし、それに関しては謝れば済むことなのだが後者は違う。「二人は付き合っているの?」と聞けば少なからず好意を持っているのではないかと思われてしまう。
いやまぁ確かに拓人のことは友達としては好きだよ?それにどんな我儘言っても最終的には受け入れてくれるし、それに……って違う違う。と、とにかく直接聞くのはなんかこう気恥ずかしいし無理!
解決方法は分かっているし、今すぐにでも解決することは可能だが、私は動けずにいた。
だ、大体拓人が誰と仲良くしようが、誰と付き合おうが私には関係ない話だよね。誰と仲良くするかとかはその人の自由だし。
自分には関係ないと言い聞かせ、何とか気を紛らわそうと試みる。だが、体は正直なのか私の視線はいつの間にか隣に座る少年の方を向いていた。
拓人ってああいう感じの子が好きなのかなぁ……。嶋村さんいい子だもんなぁ……。それにいつも明るいし、一緒にいたら楽しい毎日を過ごせそうだなって思うもん。
拓人のことを見ながら、そんなことを考える。自分とは違う、裏表のなさそうな明るい少女。自分がもし男の子だったら確かに付き合いたいなと思ってしまうほどに魅力的な女の子だ。
で、でも拓人この前私に可愛いって言ってたし……。嶋村さんとは友達なだけなのかな?でも友達だとしたらさすがに距離が近すぎだと思う。じゃ、じゃあやっぱり付き合ってるのかな……!?
拓人の顔がこちらへを向くのを見た私は急いで顔を反対方向へと背ける。
も、もしかして見てるのばれちゃった……?い、いやでも声をかけてこないってことはばれてないはず……!
隣に座る少年は、少しの間私のことをじっと見つめていたが、特に何も言わず手元の本へと視線を戻した。
視線を感じなくなった私は、背けていた顔を戻す。そして再びばれないように隣の少年の方へと顔を向ける。
でもこうしてみると私ってあんまり拓人のこと知らないんだなぁ……。まぁ出会って2ヶ月しか経ってないから当然と言えば当然だけど。
よくよく考えれば当然のことだ。その人のことを2ヶ月で詳しく知ることは難しい。なんとなくこういう人なんだというのは理解が出来ていても、それはかなりふわっとしたもので細かい部分についてはほとんど知らない。
それに拓人のことについて全然知らないのは私が原因なのかもしれない。
拓人はいつも私の話を聞いてくれる。私が愚痴を言ってもそれをちゃんと聞いてくれるし、愚痴以外の話をしてもしっかりと聞いてくれる。おそらく拓人は私についてこの学校の誰よりも詳しいと思う。
じゃあ私は?私は拓人のことを一体どのくらい知っているのだろう。2ヶ月という短い時間だけれども私と拓人の関係値の曲線はかなり大きな傾きをしているはず。それなのに私は拓人のことをほとんど知らない。
拓人と嶋村さんが一体どういう関係なのかという考えから、突如ネガティブな考えが渦巻き始める。
私ばっかり話して拓人はつまんなくないかな?拓人は私と居て、白雪凛花といて楽しいのかな……!?
突如現れたネガティブな思考に頭を悩ませていると、拓人の視線がこちらの姿を捉えようとしていることに気づく。
私は先ほど同様に素早く顔を背ける。さっきよりも長い時間隣から視線を感じたが拓人はまた視線を下に戻す。そこからしばらく経った後、拓人は本を机に置きこちらへと体を向ける。
「なぁ凛花?さっきからこっち見てるけどどしたの?もしかして俺なんかしちゃった?」
びくりと肩が揺れる。
「え?な、なんのこと?べ、別に拓人のことなんて見てないし」
「いや、ばれてるからね?普通に気づいてたからね?」
「う、噓でしょ……」
どうやら気付いていたうえで黙っていたらしい。思わず自然と言葉が漏れ出てしまう。
「それで話戻すけど俺なんか悪いことした?」
「別に、拓人は何もしてないけど」
い……言えない。拓人と嶋村さんの関係性が気になってじっと見てたなんて口が裂けても言えない!
「いや変に誤魔化さなくていいって」
「ご、誤魔化してなんかないから!拓人は何にも悪くないから!」
「じゃあなんでさっきからこっち見てたの?」
「っ……それは……」
どうしようどうしよう!な、なんて言ったらいい!?どうやったら何もなかったことにできるんだろうええと……ええと……。
普段の私ならば思いついていたかもしれないが、動揺のせいで思考がまとまらず言い訳が全く思いつかない。
「ほら言ってみ?多分というか9割方俺が原因でしょ?なるべく改善するようにするから教えてくれん?」
「いやだから違くて……」
こういう時に限って拓人がすごく優しい!!拓人は全然悪くないんだよ!本当に拓人は何も悪くないから今だけは引き下がってくれたりしないかな?
「変に気遣わなくていいから。ほら先生怒らないから言ってみ?」
「それ絶対怒るやつでしょ……」
拓人の少し茶化すような言葉に自然と口が動いてしまう。ど、どうしよう。このまま引き下がるのは難しそうだし、拓人は私が話すまで食って掛かってきそうな感じがすごいし。
で、でも拓人も聞いてくれるって言ってるしもしかしたらこれは逆にチャンスなのでは?今なら嶋村さんとどういう関係なのかを質問してもおかしくない空気なのでは?
引けない状況ならむしろ押した方がいいのではないかという考えが私の思考を支配する。もうこうなったら聞いた方が良い!思い切って聞いてみよう!
「そ、その…じゃあ拓人に一つ聞きたいことがあってね?」
「ばっちこい」
「ほ、本当にどうでもいいことかもしれないけどいい?」
「ウェルカムよ」
「そ、そう……?じゃあ聞くね?」
一つ大きな深呼吸をして心の準備をする。よし!言おう!!
「拓人って嶋村さんと付き合ってるの?」
「……はい?」
帰ってきたのは拓人の気の抜けた声とちょっとだけ間抜けな顔だった。




