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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第3章:常夜都市「ミドガル」/蜜月にナイトメア

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28:魔石の注意事項

私たちはアリアとパシフィカと別れて、エミリーの拠点ヴ…なんだったかな。まあいいか。とりあえずリラたちも住んでいる娼館への道のりを歩いていた。


「朝だからか、誰もいないわね」

「この時間帯だと旅の一行も出発しているからね。強いて言うなら、帰る客ぐらいかな。ミリア達は昨日の晩に着いたばかりだったんだっけ」

「まあね…宿屋に着くの、結構大変だったのよ」

「何?こういうのに疎そうなパシフィカが周囲にホイホイ客引きされてた?」

「逆だから。娼婦がパシフィカにホイホイされたのよ」


どういうことだ?と静かに考えたが、思えばパシフィカは中性的な容姿。

長身もあって、何も知らなければ男性と見間違う可能性もあるかもしれない。


「パシフィカは長寿種ということもあって知識はかなり豊富よ。さっきの魔術も同様。私たちが知らないことを知っているから、旅の道中もかなり助けられたわ」

「この辺はまだ戦時時代の名残があるからねぇ…」

「そうそう。特にミドガルは旧オヴィロ領にあるでしょう?旧オヴィロ語ばかりの場所もあってね。パシフィカの助けなしだと大変だったわ」

「あ〜私もアリアが翻訳してくれたけど、一人じゃ大変だったわ」


特にこの辺の娼館の名前、全部旧オヴィロ語が使用されている。

オヴィロ国民である私は新オヴィロ語しか知らない状態だ。戦後のオヴィロ国民のほとんどは私と同じ状態だろう。

歴史と共に忘れられた言語———それが旧オヴィロ語なのだから。


「貴方、賢者でしょう?」

「賢者でも知らないことはあるよ」

「賢き者なんでしょう?それぐらい知っているかと思ったわ」

「んー…ミリアは基本的に使わない言語を覚えようとする?今から覚えるなら、新オヴィロ語しかなくない?」

「そう言われてしまえば、そうだけれど…」

「いいかい?記憶の容量を効率よく使う者こそが賢者なんだよ。無駄な事、ためにならないことを覚えたところで、それはテストに出る?出ないでしょう?」

「そうだけど…まさか、貴方…」

「ドジを踏まない限り、魔法がきちんと使えて、テストに出る箇所を覚えるだけで賢者というのは出来上がるんだよ」


「なんだか、夢がないわね」

「エミリーの話を聞いたら尚更でしょう?」

「そうね。あの子は、試験でドジを踏んで賢者認定試験に落ちたと聞いたから」


ほう。あのエミリーが「魔法使い」でいる理由を話しているとは想定外だ。

あの失敗は彼女の、最大と言っていい汚点なのだから。


「詳細は聞いた?」

「…まあね。杖の魔石、破損していたことに気がついていなかったんでしょう?」

「うん。ミリアも魔法を使う身として「それがどういう意味」を持つのか、わかるよね」

「ええ…/魔法使いとしては最悪なミス。それを賢者認定試験でやらかした彼女のつらさは、想像するのも苦しいわ」


この世界の魔法使いにとって、杖というものはかなり重要な存在になってくる。

ステッキ型だとか、ロッド型とか、はたまた指輪型とか様々な形状として存在しているけれど「魔法使いの杖」という概念には共通してどこかに魔石がはめ込まれている。


「私の杖「にょきにょき丸」にもついてるこれ、実はかなり重要でさ。大気の魔力を集める役割をしていて〜」

「今なんて?」

「だから、にょきにょき丸。この杖、にょきにょき草を媒体にして作ったからさ」

「あ、あの天まで伸びると噂の植物を…ださいネーミングね」

「なにおう!?」

「まあ、魔石が大気の魔力を集める役割をしているのは私も理解しているから。で、なんで魔石が必要なの?」


ちぇっ。このにょきにょき丸ができるまでの長い戦いを語りたいところだったのに。

彼女は聞く気がないらしい。もったいないな…。

まあいいや。それは今度アリアに熱く語るとして、今はミリアの要望通りに魔石が必要な話を語ろうか。


「魔法っていうのは体内の魔力と大気中の魔力を練り合わせているからね。杖の魔石は大気中の魔力を集めると同時に、コントロールをする役目も担っているんだ」

「あ、だから魔石が破損していると…」

「魔法の暴発が起こる可能性が高くなる。エミリーの場合は気がついた私が止めたけれど、これ、死人も出るような危険な現象だから。魔法を扱う者として、魔石の手入れだけは怠らないでほしい」


「肝に銘じるわ。それで、エミリーはその後どうなったの?」

「初歩中の初歩である魔石管理を怠った罪は重い。さっきも言ったように人死にを出すような事故を招きかねないから。そんな彼女は、魔法使いはもちろんだけれども、賢者としてふさわしくない」

「…受験資格を剥奪されたの?」

「それも永久にね。辛うじて魔法使いとして生きることは許されているけれど、賢者になる道はもう閉ざされているんだ」


エミリーの実力はかなり高い。支援魔法や補助魔法の類いは一切使えないのに、それをよしとする程強い攻撃魔法。座学に関しての成績は常にトップで、在学時代も「賢者に一番近い存在」とよく言われていた。

彼女自身もよく語っていたな。


『私、賢者になるのが夢なんです』『小さい頃からの夢なんです』…と。


思い出す度に、彼女が私に魔石損傷を指摘され、泣きそうな顔で試験官に怒られている姿に変わるのは…申し訳がない話だが。


「そういえば、貴方とエミリーは同級生なのよね?」

「そうだけど…?」

「当時はどんな感じだったの?エミリーとは仲がよかった?」

「んー…よくないんじゃないかな。エミリーが成績の事で突っかかってきて、私はそれを適当に受け流すって感じだったし」

「なるほど?」

「目的地に着くまでまだ距離もあるし、聞きたいことがあれば話すよ」

「いいの!?」

「まあ、あまり面白い話でもないけれどね」

「それでもいいわよ。私、学校には行ったことがないから。些細な事でも知りたいわ」


そうか。この世界では学校が当たり前という訳ではない。

現にうちのお父さんだって莫大のお金を支払って、私を学校に入れたわけだし…ミリアは学校というか、教会のシスターに色々と教えて貰っていたのかも。

けれどそれは学びを得られる部分は一緒だとしても、同年代が集まっている学校とはほど遠いものだ。

憧れるのも無理はないか。


「じゃあ、何を聞きたい?」

「ん〜色々あるのよ。学校生活のこととか」

「お母さんか」

「でも、一番は貴方とエミリーが会話をするようになったきっかけかしら。どうも想像できなくて」

「んー…これはね、元を辿ればうちの師匠達が原因なんだ」

「お師匠さん?」

「そうそう。私の師匠はあからさまに「やべー奴」なわけで、エミリーの師匠っていうのは世にも珍しい龍族の魔法使いなんだよね」

「両方、師匠が特殊な存在よね…大海の外からやってきた魔法使いと、他種族の前に出てくるのが珍しいと言われる龍族の魔法使い」


物語上では、一年生の時、自分の成績を超えたノワに対してエミリーがいちゃもんをつけ始めたのが始まりだったようだ。

けれど、私は記憶力に問題がある影響で座学で彼女の成績は超えられず。

実技は二年生になってからだったから、そこで軌道修正するしかないなぁと考えていた矢先の事だった。


物語と同じタイミング。

彼女と関わるようになったのは、奇しくも師匠の話題がきっかけだったのだ。

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