13:駒の役
「せっかくなので…ベリア、ヴェル」
「どうした?」
「あ〜」
「盤はウエハースじゃねえんだよ。囓るな」
「…お姉ちゃん腕力強くなったね。ぐぬぬ」
「顔が近いぞヴェル。意地で囓ろうとするな…!」
エミリーは論戦遊戯のボードを双子に手渡す。
ヴェルが反射で囓ろうとするが、ベリアがひったくって回避してくれていたが…ヴェルの抵抗も止まない。
流石にキリが無いのでパシフィカが間に入って止め、ヴェルの口に特大ペロペロキャンディーを突っ込んでくれていた。
扱いが手慣れすぎている。
「私もうろ覚えではありますが、少なくともヴェルはルールを覚えていますよね」
「ガジガジ。まあ、うん。もちのろん」
「なら、実際にプレイすることは出来ますよね」
「そりゃあ、そうだね…」
「戦いまで時間がありません。ベリアに流れを覚えて貰う為、個人戦ルールになりますが…実際にプレイするのは如何かなと。その横で、私が説明しますので」
「…確かに、その方が感覚が掴みやすいかもな」
「いいよ〜」
双子の了承も得たので、私達は双子の論戦遊戯———その個人戦を見ながら、エミリーの解説を受けることになる。
ふと、気になってノワの方へ視線を向けておく。
先程のような形相は浮かべていない。
いつも通り無表情で過ごしているが…今回は事情が事情な為、耳は貸してくれているらしい。
「では、早速議題を決めましょうか」
「えー…何にしよう」
「どうせならやりがいがある奴が良いよなぁ…」
「それなら、せっかくですし私が提供させていただいても?」
「曾お婆ちゃんが?」
「はい。いたって簡単です。議題は「友江一咲」についてとしましょう。それならべっさんもヴェッさんも公平に情報を得ているでしょう?」
「確かに…あたしは椎名補正があるからな」
「もぐ。使役対象としては私が一番の理解者かも。お姉ちゃんにも負けないかも」
「ならば…」
曾お婆ちゃんは二人にそれぞれ耳打ちをする。
二人は最初不思議そうにそれを聞き入っていたが…。表情がすぐに切り替わる。
「なるほどね。それが私の弱点情報」
「あたしの弱点情報は…なるほどな。なんとなくヴェルの方も分かったけど…」
「相手の弱点情報が理解できていても、理詰めで弱点を吐かせなければ無効ですよ。これは弱点情報を上手く突く為に外堀を固めていくゲームでしょう?答えに察しがついているのなら、上手く立ち回りなさいな」
「…なるほどな」
「猫さん、お願いしますね」
「ありがとうございます、鴇宮さん」
盤上を整えた曾お婆ちゃんは私の横に立ち、子供の様に笑いかけてくる。
「…ちなみにだけど、弱点情報何にしたの?」
「傍観者も参加者と共に推理するのが醍醐味では?」
「…人の尊厳に関わることじゃないよね?」
「不安ですか?」
「超不安」
「大丈夫ですよ。フェーズが進めば自ずと貴方も両方の弱点情報に察しが付く」
「お姉ちゃん。私も何となく弱点情報を察しているけれど…できるだけ勝負を長引かせたい。だから核心を突くのは10ターン経過後にしよう」
「了解。じゃあ、始めよう」
二人は盤に駒を並べていく。
それからサイコロを振って、先攻後攻を確定させた。
「じゃあ、あたしが先攻だな。エミリー、動きはチェスと同じでいいんだよな?」
「ええ。では、まずベリアが持っている「兵士」の駒ですね」
兵士の駒は何の変哲も無い駒。
他の駒の様に駒特有の効果すら持ち合わせいない、ただの駒。
「一番よく動く駒なので、兵士の駒には近接戦を得意とする剣士や格闘家が配置されるとよく聞きますね」
「じゃあ、兵士の駒には私が立っていい?」
「アリアが?危ないよ…」
「皆危ないのは同じでしょう?」
「片翼は私が担いましょう。特殊能力は使えませんが戦うことは出来ますし…他の上位駒に配置される程、私は貴方達の中では有力ではありませんから」
兵士役に立候補したのは、アリアと曾お婆ちゃん。
他の駒には、彼女達以上に最適な存在を当てておきたい。
自然と、アリアと曾お婆ちゃんは一番大変な位置に配置されてしまう。
「兵士役は一番大変だけど、ゲーム中に使える特殊カードが五枚じゃ無くて十枚。それを上手く使うのも、あたしの仕事だし…」
「同時に、騎士や僧侶、塔の駒を使って上手く立ち回らせるのも、お姉ちゃんの仕事」
ヴェルが動かしたのは、騎士の駒。
騎士の駒は防御の駒。対戦中、五回という制限付きだが、戦闘フェーズを肩代わりすることができる効果を持つ駒。
「これは誰が何と言おうとも一人ですね…」
「…ルールブックを読んだ時点で察していました。騎士は私が担います。騎士、ですからね」
ここは誰も文句を言うこともなく決定する。
パシフィカがやらなければヴェルに自然と移行する。
強さも固さも持ち合わせているパシフィカであれば自然と託しやすい。
「僧侶は、確か五回だけ味方の回復を担当できるんだよな」
「じゃあ、そこは私ね。任せて頂戴」
パシフィカもミリアも、適材適所の駒に割り振られていく。
残りは私、エミリー、ヴェル、そしてノワ。
…塔が残り二人。軍師と副官がそれぞれ一人。
私達はどこに割り振られるのだろうか。
「塔は行動回数消費無しで、行動範囲内に限りますが「最適」な動きを三回できる効果を持ちます」
「つまり…動ける範囲にいれば、兵士役の盾になって、戦闘フェーズだっけ?それに突入できるのかな?」
「そうなりますね。では…」
「…私がここに入る。軍師も副官も、任せられる存在じゃないでしょう?」
「では、同じ魔法使いとして私が塔として参加しましょう」
塔に立候補したのはノワとエミリー。
…流石にそれは納得がいかない。
「エミリーはルールも分かっているし、軍師とか副官の方がベリアも安心するんじゃない?私が塔をやればある程度は対応できるし…」
「バカを言わないでくださいね、一咲。貴方は今、水準としては平均以上ではありますが…攻撃魔法の威力が弱いのでしょう?」
「それは…」
「ノワはバランス型の魔法使い。私は攻撃特化の魔法使いです。いざという時…誰かの代わりに戦う事になった際、塔は勝利を掴んでこられる可能性を向上させておかなければならないんです」
「…」
「それに、副官は貴方にぴったりですよ。一咲」
「私が副官!?そんな重要な役やれるわけが…」
「副官は、三度議論フェーズの代理参加ができます。貴方なら、お堅い魔王軍軍師を引っかき回すのも容易では?」
「…どんな期待をしているのさ」
「貴方の口を信頼しているのですよ、一咲」
「…わかったよ」
褒められているのか、貶されているのかさっぱり分からないけれど…信頼はされているらしい。
与えられた役。任された役だ…全うして見せよう。
そういえば、もう一つ駒が残されていたような。
「…エミリー、私が言うのもなんですが」
「私もこればかりは不安よ」
「…ま、まあ。肝心な所は決めてくれる印象があるわ」
「…残りの駒は「軍師」だったよな」
「任意のタイミングで相手の行動フェーズを三回スキップできる効果を持ちます…が」
「もぐもぐ。皆、大船に乗った気でいなよ。華麗なタイミングでお父さんに泡吹かせるから」
「…ヴェル。適当に使っちゃダメだからね」
「そんなことしない〜…」
残った軍師は自然と残っていたヴェルに任されることになる。
…エミリー、今からでも遅くないから前言撤回してくれ。
彼女を使役している私が言うのも何だが…私が軍師。ヴェルが塔の方がいいと思う。
———間違いなく、引っかき回してくるぞ。ヴェルは。
ぼんやりした目を盤上に向けながら、ペロキャンをガジガジ噛んでいるヴェルは…自分が任された軍師の駒を持ち上げて、不敵に笑う。
「———戦闘フェーズ入ろっか、お姉ちゃん」
…いつもはふざけている彼女の本気を、遂に見られるのだろうか。
周囲が冷や汗やため息を吐く横で———ちょっとだけ、期待に胸が高鳴った。
おまけ:賢者様、おさぼり一周年祝いをさせてください。
「なんでそんなものを祝わないといけないんだ。すっかり忘れていた二周年のお祝いとかにしなよ」
「…ちょうどサボって一年だから」
「も う そ ん な に」
「そんなに、なんだよ…一咲ちゃん」
「あいつ、この一年何してたの?」
「新しい作品を四作作って全部連載中」
「私達のテーマ「物語の完結」を復唱させる日が来たようだな」
「言っても聞くわけがないよ。五年以上やってこの体たらくなんだから…」
「それもそうか」
「それから何してたの?流石にそれだけじゃないでしょう?」
「椎名さんぬいぐるみを自作してた」
「呪物を生成したのか…」
「…やめなよそんなこというの」
「他には?」
「…1/4サイズで一咲ちゃんドールが生えた」
「趣味全力で謳歌してるのは良いけど永羽ちゃんは?」
「私はまだだけど」
「今年中には来て」
「無茶言わないで」
「で———これから、前みたいに毎日連載とか出来ると思う?」
「無理かな。週一で出るぐらいだと思うけど」
「できる限りだせればなって感じかぁ…とりあえず、三年目もぼちぼちやっていきますかぁ」
「そうだねぇ〜」
・・
なんだかんだで二周年。三年目に突入していました。
一年ぶりとなりましたが、賢者様関係はぼちぼち更新があります。
最新話という意味合いでは無く、過去回の修正が大半を占めていますが…。
その他にも、予定していた5.5章に相当する鉱山都市ヴィラロック「炭鉱の金糸雀は魔法を歌う」
7.5章に相当する高陽奈「紅鳥の忘れ仕事は丑巳の影に」の追加章も存在しています。
追加話もぼちぼち存在しているとおり、これからも動きはあります。
ペースはかなり落ちていますが、続きは必ずお届けし続けられるように頑張りますので、これからも別作品共々見守っていただければ幸いです。
今後とも、よろしくお願いします。




