23:私達だからできることを
宿を出て、私たちは教会へ向かう。
そこで憲兵に事情を話し、半壊した教会の中を探索させて貰った。
「…流石にこれは魔法のサポートがないと、移動もままならないわね。やり過ぎよ」
「…え、覚えていない感じ?」
「どうしたの?」
「…て、手加減をするのは二流の仕事。一流の魔法使いなら、どんなに実力差がある相手でも本気を出したまでさ」
「それもお師匠さんの教え?」
「うん」
「なんだか、らしいわ。あの人なら言いかねない。あの人、手加減とかできないでしょ?」
「まあ、そうだけど…なんでわかるの?テレビでの情報?」
「それもあるけれど…」
…自分の立場を理解していても、ああいう行動に出る人だもの。
ああいう事を許してはいけない。
けれど、それに救われた私もいるから、強くは責められないのがなんとも言えない話だ。
「あの人は…私にとって一番ショックだった出来事に対して、私の代わりに声を出してくれた人なの」
「え、師匠何したの…」
「それは思い出して貰わないと。それに貴方も…」
「私も?そんな出来事あったの…?なんで忘れているかなぁ…」
忘れてしまうのは仕方が無い。彼女はそういう病と闘い続けていたのだ。覚えている方がむしろ驚いてしまうかもしれない。
それに、なんだろう。忘れていてくれた方が、私としては…いいのかもしれない。
一咲ちゃんに無意味な怒りを与えずに済む。
けれど、あの人達にああ言ってくれた彼女に…自分自身が告げた言葉を思い出してほしい気持ちもある。
あの日、落ち込んだ私の心を救ってくれたのは…一咲ちゃんの言葉だったから。
あの日から、私にとって友江一咲という女の子は同じ病室で過ごす、共通の話題を持つ友人から…私の「大事な友達」になった。
これは自分で勝手に思っていること。一咲ちゃんに対して、直接「貴方は私にとって大事な友達です」とは言ったことがない。
本人は忘れているだけで、きっと私以上に大事な友達がいて、親友とか呼べちゃう子がいるだろうから。
ほんの短い時間を過ごした私には、その立ち位置は相応しくないだろう。
「ねえ」
「なあに?」
「貴方は、怒っていない?私が願ったせいで、一緒の世界に…」
「ああ。それ、君も願ったの?」
「君もって…」
「私も師匠にお願いしたんだよ。次も、君といられますようにって。一緒だね」
「…そう。私も、同じ!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。ほら、手を出して」
瓦礫の上から、彼女が手を差し伸べてくれる。
少し高さのある瓦礫。魔法で私を浮かせたらいいのに、なんて無粋なことは口が裂けたって言えない。
彼女の手をとり、力を借りて瓦礫の上に立つ。
「ありがと」
「いいって。いやぁ…風が気持ちいいね」
「そうね…。あれ、これ氷…?」
「まだ溶けてなかったかぁ」
「貴方、神父を倒す際に氷の魔法を使ったの?」
「そうだよ。これは氷結魔法…怪我させずに止める為には、ちょうど良かったんだ」
「貴方は彼を生きて確保したかったの?」
「彼って…神父だよね?あれはぶっ殺す気満々だったけど?」
「え?」
「え?」
「…なんか話が食い違っているね」
「違うの?」
「うん。だって、私が止めたかったのは君だから」
「私…って、気絶していただけじゃ」
「とりあえずさ、落ち着いて聞いてほしい」
「覚悟は、した方がいい?」
「それなりに」
ノワは何度か息を吸い込んで、私の目を自分の目としっかり合わせる。
いつになく真剣に。ふざけた態度はどこにもない。
「君は特典を顕現させている。名称は短剣群「舞光」…光の剣を顕現させる能力だ」
「剣…それで、神父を殺したのは私?」
「…っ」
こんな風に話をされるのだから、そういうことだろうと思った。
申し訳なさそうに目を伏せる彼女は、再び深呼吸を繰り返し…意を決し、私の問いへ答えてくれた。
「…そうだよ。君が殺した」
「そっか。私の転生特典、なかなかに凶暴なのね」
「…昨日も言ったし、こういう風に言うのもなんだけど、慣れてほしい。今後、君は大義を成す為に誰かの命を奪わなければならない時が来る。今回みたいに意識がない場合もあれば、君自身の意志で殺しを行わないといけない時が来る」
「そこは大丈夫。それなりの覚悟は勇者になる時点で決めていたから。心配してくれてありがとうね。私は、大丈夫だから」
「…ごめんね。できれば、私が」
「私の代わりに、貴方が誰かを手にかけるのはダメ。私の代わりに貴方が背負う罪じゃないから」
「でも」
「私がやるべき事は、私がきちんとやる。勇者アリアの役割は、そういうものなんだから。言ったでしょう?」
「…君に、そういうことは」
「させられないのなら、必要最低限に留められるように立ち回って。貴方なら、できるでしょう?」
「…うん。必ず果たすよ」
決意を固め、前を向いた彼女は私の手を引きながら、教会跡地の探索を進めていく。
「ノワ。その石、何か特徴的な形をしていない?」
「本当だよく気がついたね。確かに特徴的な…げ、これ女神の光輪部分じゃね?形の一部に見覚えある」
「ま、まあ仕方ないわよ。こういう状態だし…女神像の半壊は、必要な犠牲よ」
「てかさ、こういう風に間近に部品を見る機会ってないから知らなかったけど…なんか文字彫られてる。私には分からないけれど、アリアは読める?」
「この文字は…オヴィロ語ね。この女神像、戦争前の代物だったとは…随分古いわね」
「製造年代含めてなぜ分かる」
「お父様に教えて貰ったっていうのもあるけれど…まずは年代の方ね。オヴィロ語が使用されていたのは戦前。大体五十年程前になるわ。今は新公用語に統一されているから…これが使用されているってことは五十年以上前に作られたものってことになるわね」
「ほうほう。でも、私達が今いるメルクリア王国で製造されている可能性だってあると思うけれど…」
「それはないわ。こういう像は隣国であるオヴィロ帝国内にある聖教都市の依頼を受け、芸術都市で作られているの」
「なんで?」
「こういう神像は盗難やすり替え対策で厳重な管理をされているものよ。第三者の模造を禁じたりとか…様々な決まりも存在している筈よ。詳しくはミリアに聞いた方がいいわね。詳しいと思うわ!」
流石に教会の決まり事まで知っているわけではない。そこは専門に任せよう。
「覚えていたら聞きます!ちなみにだけど、光輪には何が書いてあるの?」
「向こうで言えば…生産国が書いてあるタグみたいな代物ね。メイドインアーツギフィア。制作者の名前は…割れてしまっているわね。この先のパーツが見つかれば、分かると思うわ」
「そっか」
「…探すとか言い出さないでよね」
「流石に興味ないよ。とりあえず、ここをもう少し掘り進めてみよう。女神像本体が転がっているのが望ましいところかな。それがなくても、大まかな位置が分かるはず」
「お願いしていい?」
「勿論」
魔法で瓦礫をふよふよと移動させ、位置を特定できる情報を探し出して貰う。
私はノワが浮かせた瓦礫が女神像であるか確認、ノワは瓦礫の移動を続行した。
幸いにして、早い段階で女神像の大半を浮かせていた事実が分かったので、現在位置を女神像があった場所とし…そこを中心に探索を続けていく。
「ノワ、念の為に探知魔法を使用して貰える?」
「うん。生存者が埋まっているかもしれないし、そうで無くとも…早い段階で見つけてあげられるからね」
「魔力は問題ない?」
「問題ないよ。これでも、師匠の二番弟子。師匠の半分ぐらいの魔力はあるよ」
「…具体的にどれぐらいの魔力を有しているのかわからないのだけれど」
「つまり、滅茶苦茶多い!」
「わからないけれど、分かったことにしておくわ」
探知魔法をしばらく使って貰い、生存者も取り残された人間もいないことを確認。
場所もわかった。人もいないことが分かった。
後は、神父が使用していた部屋に…彼の犯行動機を探しに行くだけ。
「と、言うわけで…ここが神父の部屋っぽいね」
「教会探索の時も思ったけれど、追跡魔法って便利ね…」
最初から追跡魔法を使う手段もあっただろうけれど、不特定多数が出入りしている教会で足取りで追跡するのは困難だ。
ある程度の場所を定め、追跡魔法を発動。
そこで男性らしき足跡が一番多い場所があれば、そこが神父の部屋だ。
「これ、眩しすぎるわ…。色はどうにかならないの?」
「こういう蛍光色の方がわかりやすいと思うけれど…。雰囲気重視の白がいい?」
「白よりは…わかりやすさ重視の方がいいわね」
「じゃあ今後も蛍光色を採用するね。光量は抑えめにしておくよ」
「できるんだ…」
追跡魔法を切って、再び瓦礫をどける作業をノワには行って貰う。
私は瓦礫の調査では無く、瓦礫が取り除かれた事で現れた品々の確認。
手記でも都合良く発掘されたら、いいのだけれど…そう上手くはいかないらしい。
「…犯行動機らしきものは見当たらないわね」
「だねぇ…」
「…ん?」
ふと、近くに落ちていた本を手に取る。
真っ黒な表紙。見たこともないそれにはタイトルも書かれていないけれど…なんというか、読みたくなる代物だ。
無性に興味を惹かれるというのは、こういうことを…。
「ストップ、アリア。その本から手を離そうか。落下させていい。そのまま離して」
「え、ええ…。どうしたの、ノワ」
「その本から魔力が出ている。見たこともない術式だね。悪魔の代物かな…」
「…じゃあこれが!」
「犯行動機かなぁ。洗脳っていうのは何かすっきりしないけれど…とりあえず、刻まれている魔法陣を解析してみようかね」
ノワの話だと、この本は表紙に何らかの術がかけられているだけのただの「儀式演奏の譜面集」らしい。
あの笛と一緒に販売されていたんじゃないかって言うのが、ノワの見解だ。
しかし笛…笛…。この世界の教会には笛を使った祝福の儀があったはず。
買ったと言うよりは…貰ったとか、元々持っていたの方が正しい気がする。
けれどそれなら…。
「アリア。教会関係の話になるけれど、神父って笛の演奏をするの?」
「婚姻の儀の中に、神父が祝福を授ける儀式があるの。空の女神と笛の音で会話し、新郎新婦に祝福を授けてほしいとお願いする役目」
「じゃあ、神父が笛の練習をするのは趣味じゃなく仕事か…」
「そうなると、その本も笛も神父自身が買ったのではなく、聖教都市から与えられたってことになると思うの」
「そうだね。そうなると…今回の一件には、聖教都市が一枚噛んでることになっちゃうね」
「…そう、なのよね」
「まあ、三巻の舞台が聖教都市メサティス…。魔王に遭遇し、アリアだったものと戦闘をさせられる時点で何かあるとは思っていたけれど…なかなかに毒されているのかな」
「聖教都市は、悪魔によって陥落させられているのかしら」
「そういう前提で動いていた方が気が楽だね。今後はどうする?新しい土地に到着する度に「ご挨拶」へ行くの?」
「…一応、行こうと思う」
「その理由は?」
「…事情を知らないミリアみたいな子もいるはずだから。様子を見て回るぐらいはしておこうと」
「君の肩書きは一種の武器だからね。牽制になると思うよ。後は会話で少々引っかき回してみるぐらいはしておこうか」
「それは貴方に任せるわ。言葉の真偽を暴くのは得意でしょう?」
「了解」
互いができることを、互いでやっていく。
本来の物語ならあり得ない話だろうけど…今は私達だから。
アリアとノワではできなかったことでも、霧雨永羽と友江一咲なら、成せるだろうから。
「さてさて、今後の方針も定まったことだし。もう一つ、調べておきたいことを調べておこう」
「もうひとつ…?」
「シスターシェリアさ。彼女の死に何が隠されているのか…暴きに行こう」




