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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第一章:水上貿易都市「ウェクリア」/勇者と賢者の始まり
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14:勇者の仮説

アリアが観衆の視線を惹いている後ろ。

私はミリアにある魔法の行使を依頼し。術中にいる人間を探していた。


「…ねえ」

「何かな」

「連絡スピーカーなんて塞いで、なにか意味があるの?」


アリアに言われ、私たちが塞いでいるのは都市に張り巡る連絡用の新型スピーカー。

ここから敵は術を伝えていると、アリアが気づいてくれた。


・・


ミリアと別れて少しした後。

アリアはスピーカーを指し示しつつ、私に答えに繋がる話をしてくれた。


「これから音が伝わっているわ」

「え、なんでそんなこと…」

「音の響き方よ。貴方、演奏会には行ったことがある?」

「劇場に?お金ないから行ったことないよ」

「でしょうね。私はお母様の趣味で何度か連れて行かれたことがあるわ」


貴族自慢というわけではないらしい。

彼女が歩んできた時間、そして経験。

私たちが知らない世界を、彼女は知っている。

無論、彼女が知らない世界を私たちは知る。

今回は、そんな彼女が生きていた世界の一端にヒントがあったらしい。

茶化さずに、彼女の言葉へ耳を傾けた。


「先ほどの笛は綺麗だったけれども、音の響き方といい、生の演奏とは大きく異なる音だったわ」

「つ、つまりそれって…」

「笛の音は録音だと思うの」

「…そっか。録音。その可能性は盲点だった。けれど、レコードであんな音を出せるわけ?」


この世界の音楽はまだレコードで記録されるような場所だ。

前世のようにCDだとか、音源ファイルとかではない。

綺麗な音をそのまま保存できる時代ではないのだ。


「レコードであの音は難しいわね。でもね、相手は魔法を使用しているのよね?その前提を忘れたわけじゃないわよね?」


そうだった。相手は魔法を行使している術者だ。

この世界でも、前世と同じように音を記録することは可能だ。

私がアリアの着替えを撮影しようとしたときに使おうとした魔法…記録魔法なら。

映像だけでなく、音も記録できる。


「…記録魔法を使用した録音を使用している」

「私は、犯人がそれを使っていると考えているわ。それをごまかすためのスピーカー。あれなら音の発生源を特定されても「放送だったから」と言えるから」

「なるほど」


ウェクリアで採用されている連絡手段は、配管を使用したものではなく、電気を使ってスピーカーを経由して音を伝えるもの。機械都市で作られた最新鋭の伝達手段だと聞く。

あれならば録音した音声を流しても、多少はごまかせる…はずだ。

実際の放送は聞いたことがないから、流石に断言はできないけれど。


「それに、魔法使いの法則を前提とするならば…一度に複数の魔法は使用できないのでしょう?だったら行使されている魔法は一つだけ」

「笛の音は、魔法が音色に乗せられているかもって思わせるカモフラージュ」


実際は記録魔法で記録した演奏を流しているだけ。

撮影した記録は、別媒体での保管が可能だ。再生も魔力をちょちょっと与えるだけで自動再生してくれるし…別の魔法を使うことに支障はない、


「実際は、記録を再生しながら…何らかの魔法をかけている」

「私はそう考えているわ。具体的には人の行動を操る魔法とか。そんなものは存在するの?」

「記録にはない。禁術扱いされているものならいくつか」

「ふむ」

「けれど、魔法に不可能ってないんだよ」


どんなに禁術指定しようが、記録から抹消しようが「そうしたい」と願う人間がいる限り、何度でもその魔法は生まれる。


「なるほどね。どれだけ禁じられて、記録を消そうが…願う人間がいる限り、その魔法はこの世に在り続けるのね」

「そういうこと。でも、使える人間は限られてくるよ。一応、精神干渉系の魔法は難しい扱いに分類されるからね」

「難しい術なのね。それなら貴方と同じ存在…賢者が協力者にいる可能性は?」

「現時点では否定できないけれど、多分ないと思う」

「どうして?」

「術の行使といい、何もかも拙さを感じるんだ。私なら、同じ条件で「誰でもいいから人を連れてこい」って言われたら、隠蔽工作を含めもっと上手くやる」

「貴方なら誰にもわからないようにしそうだけれど、今回の犯人は貴方より悪知恵が働かないみたい」

「みたいだね」


「精神干渉の魔法が使用されていると仮定した場合、人を集めるのにはかなりのリスクがある。それを回避するために貴方はスピーカーから音が伝わらないように、スピーカーを何かで覆ってほしいの。それから、どういう風に流しているのか特定も」

「術中の人間を探すのと並行って言うのはちょっと…」

「ミリアは突貫で仕上げられる?あの子は回復支援の魔法に特化しているようだし、結界魔法は使えないかしら?」


…元々あの子は回復支援役。結界魔法程度なら使用できるはずだろう

応用させれば、スピーカーの防音ぐらいはできると思う


「仕方ないな。アリア。できなくても突貫でできるよう仕上げるさ。その代わり、後で何でも一つお願いを聞いて」

「そういうのよくないわよ」


アリアはやれやれと言わんばかりの表情で私から距離を置き、都市の方で歩き出す


「…今回だけよ」


そう、そっと呟いたのは勿論聞こえないふりをするわけがない


・・


「うん。あのスピーカーから音が出ている。塞ぐと同時に音が出たら」

「…貴方みたいに探知はできないわよ」

「わかっている。だから、音が出たら役割交代だ」

「了解」


軽く打ち合わせをして、私は術中の人間を探す作業に戻る。

一応、この場に集まった人間で術にかかっていたのは三人。

アリアが集めてくれたおかげで、無駄な魔力を使わず発見できた。

その三人を中心に、私は魔力の痕跡を辿る。

細い糸を切れないようにたぐりながら、魔法使用者の元へ意識を巡らせる。

そして辿り着いた場所に、私は息をのんだ。


「ああ、そういうことか」

「…どうしたのよ」

「いや、これはどうしたものやら」


とりあえず、術中にあった三人にかけられた魔法を解除する。

それからアリアに「目的が達成されたこと」を通信魔法で伝えた。

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