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賢者様、貴方をパーティーから追放させてください!  作者: 鳥路
第一章:水上貿易都市「ウェクリア」/勇者と賢者の始まり
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12:その行動は、巡り巡って

「ミリア、お疲れ様」

「勇者様…と、はい。お疲れ様でした。こちら、受け取ってください」


先程、商人さんから受け取っていた革袋をミリアはそのまま手渡してくる。


「わあ、やった。全額ぅ。いくらかな、いくらかな!」

「ちょっと待ちなさいよ…ねえ、ミリア。貴方はそれでいいの?全部だなんて」

「私は依頼を引き受けただけで、何もしていませんから。実際に依頼をこなした存在に渡すのは当然のことかと」

「私の方が何もしていないわよ…。ノワ」

「私としては仲介料を引かれていても文句を言えない立場だし、引いてくれてもいいんだけど…ま、全額くれるなら受け取っておこう。どもども〜。アリア、これ路銀に足しといて」

「助かるわ」

「助かったついでに〜、今日の晩ご飯はちょっとグレードを」

「無駄遣いはしないわよ」

「そんな殺生な!」


「ところでこれ、いくら入っているのかしら」

「あ〜。確認しておかないとだよね」


ノワはミリアから革袋を受け取り、その中身をワクワクしながら開封していく。

その中身を確認した私とノワは、無言で顔を見合わせてた。

なんせ、普通ならあり得ない代物が入っていたのだから。


「商人の方が「面白いものを見せてもらえたから」と、報酬は多めにしておいてくれたそうですが…やはりお金は入り用ですよね。少額ですが、感謝の気持ちですから怒りを抑えていただけると…」

「「いやいやいやいや!怒るとか絶対ない!逆に報酬が多すぎるから困惑してるんですけど!?」」

「へ?」


どうやらミリアは中身を確認していないようだ。

私とノワは頭を近づけて、自分たちの常識確認を行う。

流石に、流石に今起きている光景が嘘だと思いたいからだ。


「私の金銭感覚というか常識がおかしいのかしら。商団護衛で貰える報酬の相場はリグルド銀貨五枚のはずよね?」

「うん、私もこの旅に合流する前の仕事でやった商団護衛はそれぐらいだった。学生時代、五年ぐらい専属契約をしたって話していた子はこれぐらい貰えていたらしいけれど…一日じゃありえないって!」

「あ、あの…私が聞くのも何なのですが、報酬はおいくらで?」

「「リ、リグルド聖貨二枚…」」

「はぁ!?」


この世界の通貨は大きく分けて二つ存在する。

一つは「クォリア硬貨」この世界における「商売の女神」の名前がつけられた硬貨だ。

レートは日本円と同じだったみたいだから、必死に覚える必要はあまりなかった。

確か、クォリア銅貨が日本円だと1円、銀貨が10円、金貨が100円に相当する。


その次の単位が「リグルド硬貨」この世界における「均衡の女神」の名前がつけられた硬貨だ。

リグルド銅貨が日本円で1000円、銀貨が5000円、金貨が10000円と言った感覚。

そしてこのリグルド聖貨というのは、最上位の価値がある貨幣。

この世界にある最も貴重で神聖視されている「白聖鋼はくせいはがね」で作られている硬貨だ。

日本円だとざっくり10万円程度はあるはず。


ノワが言う通り、決して一日程度の護衛で貰える報酬ではない。


「なぁ…!?私、間違えて財布を頂いたのかしら」

「そういう考えになるわよね。今からでも追いかける?間違えているんじゃないかって」

「んー…でも、これが報酬みたいだよ。手紙入ってるし」


ノワが私達に差し出してくれたのは、革袋の中に入っていたらしい羊皮紙。

作りが良いそれに書かれているのは流れるような文字。


「お二人の糧になることを祈って…か」

「期待されているねぇ」

「ま、まあ魔王討伐が可能な存在だからね。期待されるのもわかるけれど…」


流石に貰い過ぎだ。

しかも私は何もしていないし、勇者としては何も示せていない。


「アリアはこれ、日常的に使ってる?」

「貴族でも年に一度使うかどうかの代物よ。私も実物を近くで見たのは初めてだもの」

「…ちなみだけど、いつ使うの?」

「当主や次期当主の誕生日祝いか、領民への感謝と慰労のパーティーぐらいね。滅多に使わないわよ」

「なるほど、てか領民に感謝のパーティー?貴族が?」

「うちの当主…お父様の方針よ。普通はありえないみたいだけれど」


うちの領土はだだっ広い農耕地。領民の殆どが農業を営んでいるような場所なのだ。

安定した収入、安定した領地経営ができているのは領民の皆さんのおかげだ。

それは物語アリアも、私もお父様もお母様も理解している話。


だからこそ、彼らに感謝を伝えるためにイレイス家は定期的に領民が参加できるパーティーを催している。

堅苦しい形式はなく、ただ騒いで、飲んで食べて…パーティーというよりは宴に近いけれど。

お陰でイレイス家は領民から親しまれる家庭になってくれている。


私も遠巻きにされず、領地内に友達が複数できた。身分差が強いこの世界では難しいんだろうなと思っていた庶民の友人だ。

道中でイレイス領に立ち寄ることはないから、もう二度と会えない…大事な友達だった皆を



「私、この旅が終わったらイレイス領に越そうと思う。領地護衛は任せろ。格安で引き受けるよ」

「パーティー目当てなのが透けて見えるわよ。働かない人間に食べさせる食事はないから、働かなかったらすぐに追放ね」

「ここでも追放?追放ノルマとか自分に課してるの?」

「うるさい!」


リグルド聖貨を親指ではじき、ノワの額に思いっきりぶつけてやる。

こんな貴重な代物を、対人用武器にしたのはおそらくこの世界で初めてだと思いたい。


「あだっ!?コイン攻撃とか初めてだよ…」

「馬鹿な事をいうからでしょう。全く…」

「で、アリア」

「わかってる」


別に何も言わなくても意思疎通ができるわけでもない。

「あれとって」「それしておいて」であれそれが理解できるほど、長い時間を共にした覚えもない。

けれど、今の彼女が何を言いたいのかぐらいはきちんと理解できる。


「リグルドなら両替可能程度に持っているわ」

「流石アリア。じゃあ金貨十枚、ミリアに渡して。聖貨だと絶対遠慮されるし。分けておけば受け取りやすくもなるでしょ」

「はいはい」

「そんな!私何も!」

「何度も言うけれど、何もしていない具合なら私のほうが強いわ」

「依頼、引き受けてくれなかったらこれ貰えなかったし。君には感謝してる。これはその報酬っていうか、仲介料ってことで。ほれ、はんぶんこ」


ミリアの手にリグルド金貨を十枚。

受け取りたがらない彼女の手に置き、それをしっかり握らせた。


「…何よ、最後まで格好つけちゃって」

「文句を言わずに受け取ってくれないかな〜」

「仕方ないわね。じゃあ、これは報酬の前受けってことで受け取っておくわ」

「報酬の?」

「前受け?」

「まあ、見ていてください勇者様。この分前は、悪いように使いませんから」


ミリアは出会った時と同じような清々しい笑顔で、それを握りしめてくれた。

うん。しょぼくれた顔よりはこっちのほうが遥かにいい。


「では、私は準備がありますので。ここで」

「うん。じゃあまた…あれ?」

「…」


ふと、周囲に笛の音が響く。

心地の良い音色だ。近くで楽団が演奏とかしているのだろうか。


「ねえ、これ凄く綺麗な音色ね。どこに行けば聞けるのかしら、みり…あ」


ノワは瞬時に音波探知の魔法を使用し、ミリアは耳を塞いで震えていた。

この音は当たり前じゃなくて、異常なものなのだと。

私が理解するのに時間はかからなかった。

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