六 父と母が墓から蘇る!
しかし王子は諦めきれず、とある腕利き匠にねがい、粉々割れたる足袋の硝子を、元の姿へ復元し。そしてそれからしばらく経って、王様おふれ、行き渡り、「とある娘を探し出せ。大会の中で優勝なさった、この硝子のみが足に合う、常軌を逸した娘さん。わが殿下様の意向では、朕はあの時娘以外と、結婚する気は毛頭起こらず、あいつ見つからないのなら、生涯独身、養子を取ると」そして城下は大騒ぎ、例の娘を探す人、また騙る人も現れて、混沌の極となりにけり。継母、様子を見物し、そして歩いて家へと帰り、デレラに向かって言いしこと、「お前、早くに名乗り出ろ。私も王妃は狙っていたが、お前のせいにてできなくなった、私の気持ちを汲み取って、お前が王妃になるべきだ」「ああお母様、しかし私は、一生田舎の娘でいいわ」「お前のためにも言っている、私のことなどどうでも良いのだ、王妃になりうる言うことは、国の中でも最大幸福、ただそれだけのみ理由にあらず、王妃になったら権力増大、権力ある人財力あって、武闘会など開けるし、そして開いたその中で、強いものたち見つけ出し、それをお前が養成するか、もしくは手合わせ願うなど、田舎などではできぬこと、いとも簡単出来なさる。お前が高みを狙うには、王妃の座なども必要なのだ。娘、王妃になりなさい」「しかし私はこの家を、父が作ったこの家を、手放す気持ちになれないわ」
その晩、娘は例の木の、亡き父と母に向かっては、「私は一体どうするべきか、教えてください二人とも」そこへ現れ嘉納治五郎、「お前がお望みあるならば、私は降霊術をば使い、お前の父親また母を、霊の形で呼び寄せて、お前に教えを授けさせよう」「そんなことまでできるのね。武道の神様さすがです」そして治五郎、父親と、母親二人を呼び出した。「ああわが娘、わが娘、ずいぶん久方振りだねえ。私、私よ、母さんよ、ずいぶん大きくなったねえ」「そして私は父親だ、聞いたところによればだが、お前は数多の戦いの果て、ついに王妃を掴み取り、しかしその座を拒んでは、帰宅し行方を絶ったとな」「ええお父様、お母様、再び会えては嬉しいわ。早速だけれど私の悩み、私結婚するべきか、二人はそれをばどう思う」「知っての通り、若い頃、私は東洋渡っては、とあるお方に教えを乞うて、そしてそれをば持ち帰り、独自発展、生み出した。戦い続けた若い頃、結婚なんぞは考えず、どうせ一生独身と、ただそれでいいと思ってた。しかしお前の母と出会って、彼女、私を打ち負かし、目から鱗が落ちていき、我より強いものがあると、初めて世間を私しり、ついには恋愛感情抱き、むやみ必死にアプローチ、そして幾年思いは巡り、ついに成就と愛なった。お前も私の血を引く子、きっと強者の男でなくば、結婚しなさる甲斐がない、そうお考えであるのだろ。それじゃお前は王子と戦い、王子の強さを見極めて、お前の眼鏡にかなうなら、申し込みをば受諾して、仮に弱きの者ならば、断り田舎へ帰るといい」「母の私も同感で、ただ一つだけは言えること、生前、私がお前に伝えた、教えを覚えているかしら。神を信じて愛していれば、さすれば幸福訪れん。あなたは武道の神様頼り、そうして大会優勝し、王妃の位を勝ち取った、これは恐らく幸福の、神の与えた見返りの、そういう兆しと思うのよ。もちろんお前の気持ちは大事、これはあくまで私の考え、お役に立てるかわからないけど」「ああ、ご教授をばありがとう。二人の気持ちはわかったわ。されば私も名乗り出て、そして王子と戦いましょう。彼がほんとに強いなら、私は申し出受けてしまうわ」
やがて晩暮れ、日は明けて、午前8時か9時の時、娘はボロ着で王城向かい、片方履いたる硝子足袋。