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小説家になろうラジオ大賞4

ランドセルに入れて

作者: 尾手メシ

「これ、ランドセルに入れて」

 傍らに立つ少女が何かを手渡してきた。

 四角いブリキの箱。元は煎餅でも入っていただろうそれに、今は何が入っているのかは、フタを開けるまでもなく知っている。ブリキ箱を軽く振ると、ガラゴロと色とりどりのおはじきが音を立てた。

「ねえ、ランドセルに入れて」

 背を向けて背負ったランドセルを見せながら、顔だけ振り向いた少女が催促してきた。

 少女に促されるまま、ランドセルのフタを開く。真っ暗闇のその中へ、ブリキ箱を納めた。

「次はこれを入れて」

 次に少女が手渡してきたのはペンケース。化学繊維で出来た青色のペンケースの表面で、アニメの主人公が可愛らしくポーズを決めて笑いかけてくる。中に入っている果物消しゴムが、甘い香りを放っていた。

 少女が背負ったランドセルの闇の中へ、ペンケースを納めた。

 茶色い毛皮のテディベア。頭に黒いシルクハットをちょこんと乗せて、赤いスカーフを首に巻いている。

 ランドセルの闇の中へ、テディベアを納めた。

 映画のパンフレット。評判の良いラブロマンスの映画だったが、緊張で内容は全く頭に入ってこなかった。

 ランドセルの闇の中へ、パンフレットを納めた。

 プラチナのネックレス。ネックレストップのハートの中で、誕生石がキラリと輝いていた。

 ランドセルの闇の中へ、ネックレスを納めた。

 結婚指輪。普段使い出来るようにシンプルなデザインで、裏側に互いの名前を彫り込んだ。サイズが変わらないように頑張ろう、と笑いあった。

 ランドセルの闇の中へ、結婚指輪を納めた。

 探偵事務所の調査報告書。分厚い報告書に、二人でホテルに入っていくところの写真が添えられていた。握りしめて皺になった写真の中で、二人が笑いあっていた。

 ランドセルの闇の中へ、調査報告書を納めた。

「最後はこれを入れて」

 少女が指を指した先、部屋の天井から私がつり下がっていた。四肢はダランと力無く垂れ下がって、顔を俯けている。目は限界まで見開かれていて、眼球が半分ほど飛び出していた。だらしなく開かれた口からは、舌が突き出している。

 ランドセルの闇の中へ、私を納めていく。私が闇に沈んでいく。すっかり包まれた闇の中で、少女がランドセルを閉める音が聞こえた。

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