8.sideアヴィスト
王都の街は、王宮を中心に円形状に広がっている。王宮からは放射状に六本の太い道が通っており、そこから細い道が幾つも枝分かれして伸びている。また、城門から約一キロメートルほどのところには広場がある。その中央には噴水が拵えており、地下から汲み上げた豊かな水が天に向かって放たれている。
実はこの噴水、王宮を守護する結界魔術の要となっている。そして、地下の水脈が術式の陣を描くように設営されているのだ。街の人たちは知らないので、憩いの場として利用することが多いが、俺たち王宮に仕える者はそうもいかない。結界魔術に綻びや異常がないか確認するのも仕事の一つである。
俺は今日、相方の先輩騎士と魔術士と共に王都の巡回任務に就いている。今は魔術士が結界魔術に変化がないか確かめているところで、俺たちは周囲を見回しながらその結果を待っている。
暫くの間、目を閉じて神経を集中させながら魔術式を見ていた魔術士が、ふぅ…と息を吐いて集中を解き、こちらを振り返る。
「お待たせしました。結界に異常は見られませんでした」
「そうか」
魔術士の言葉に先輩騎士が一つ頷いてみせる。とりあえず、ひと安心と言ったところか。魔女のこともあり、以前より頻繁に結界魔術の確認を行っているが、今のところ異常はない。だけど、気は抜いていられない。魔女は俺たちの目を掻い潜り、いつの間にか忍び寄っているのだ。
アミュータの街が襲撃を受けてから、約三か月が経った。これまで新たに襲われたという情報は入っていないから、魔女は身を潜めていると考えられているが、本当のところは不明だ。もしかしたらもう既に王都の街中に入り込んで、今この時も、すぐ側で俺たちのことを見ているかもしれない。そう考えるとゾッとするが、可能性だけを上げていてもキリがない。今は巡回の任務に集中しよう。
結界魔術の確認が終わったので、街中を巡回しようという先輩の言葉に頷き、人通りの多い道の方へと足を向ける。
「それにしても…賑やかさが少し戻ったようだな」
「そうですね」
通りの両側に立ち並ぶ商店に目を遣りながら、人々の表情を観察する。
魔女の襲撃が頻繁に起こっていた頃は、人々の表情は暗く、街全体の雰囲気も不安と緊張が混在していた。外出する人の数も少なく、外に出ても周りを気にしながら常にビクビクしている状態だった。いつ魔女が襲ってくるのか、いつ自分が命の危険に晒されるのか、気が気じゃなかっただろう。魔女捕獲及び討伐の成果を上げられない国の守護者たちに対して、不満も日に日に増幅していっていた。街を巡回する騎士団員を見つけると、「役立たず」といった意味合いを持つ視線を何度突きつけられたことか。
あの日々を思い出すと、今でも己の無力さを悔いてしまうが、街の様子が良い方向に向かっているのはいいことだ。こちらの活力にもなる。
「これも魔女騒ぎが一旦収まったからかねぇ」
「そうですね。でも、油断できません」
「そりゃそうだ。次こそ取っ捕まえて倒してやるさ」
掌と拳をガツンとぶつけ、ニヤリと笑う先輩。その瞳には闘志に燃える炎がチラチラと見え隠れしていた。圧倒的な強さを誇る魔女に対して、前回は足も手も出なかったのに、燻ることもない様子に頼もしいな、と思った。
「次の被害がないことを願いたいですけどね」
「まあな…でも、遅かれ早かれいずれは捕まえなきゃならんし」
「確かに…」
元凶を倒さなければ事件解決とはならない。だからこそ、魔女討伐訓練を行っている訳だが。
「俺たちがやらなきゃ国民は安心して生活できない。……とは思っているんだけどなあ」
「? どうしたんですか?」
はぁ…と諦めが込められた溜め息に、首を傾げる。
「どうも何も、年下の女の子相手に一本も攻撃が当たらないとなると、自信もなくすよなあ…」
「あー…そう、ですね」
「なーんであんなに強いんだよ……反則級だろ。どうすりゃ少量の魔力で的確な攻撃魔術が放てて、どんな特訓すりゃあんな動きができるんだよ…」
両手を頭の後ろに組み、口を尖らせて拗ねるような顔をする彼に、俺はなんとも言えない気持ちになった。
俺は今でも討伐訓練にリランが参加することを快く思っていない。彼女が戦闘に身を投じることに違和感を拭えない。だって、普通の女の子だったのだ。それが会わなかった──正確には会えなかった数年間のうちに、どうして血生臭いところへ来てしまったのか。リランを傷つけたくなくて、リランを守りたくて強くなったはずなのに。それが今はどうだ。一緒になって戦おうとしているなんて。
グッと拳を握り締める。胸の奥底から込み上げてきた怒りを無理やり押し込める。己を落ち着かせるために、先輩に気づかれないよう、そっと息を吐く。たまにこうやってガス抜きしないと、頭に血が上ってどうにかなってしまいそうだ。
「本当に、あの魔術操作技術は特級品ですね…。私もあのように扱えるようになりたいものです」
魔術士も感心したように呟いている。
「まぐれでいいから一回くらい攻撃が通用してほしいわ…」
そうでないと心が先に折れそう、としくしく泣き出す先輩に苦笑いを返しながら、リランの戦闘力の強さを改めて実感させられる。
実を言うと、訓練開始から二か月が経った今でも、俺自身はリランと直接訓練したことがない。リランが大勢の騎士と魔術士相手に戦っているところを見ているだけにしている。本当は俺も参加しなければならないのだが、どうしても彼女と対峙したくない気持ちが出てきてしまうのだ。強くなったのは、リランを守るため。それがどうして彼女と剣を交えなければならないのか。努力して身に付けた力を、どうして彼女を傷つけることのために使わなければならないのか。答えの出せない問いが思考回路を円環し続け、葛藤を呼ぶ。
サネルガはそんな俺に一つ笑い、一度でいいから戦ってみろと言う。人の気持ちを知った上での言葉だから、何か思うところがあるのだろうが、言われたこっちは堪ったもんじゃない。今のところ無視し続けているが、そろそろ限界かもしれない。お互いに。
「アヴィストはさぁ、」
急に名前を呼ばれ、思考の海に潜り込んでいた俺はハッと顔を上げる。先輩はチラリと横目で俺に視線をくれて、にやぁ、と下卑た笑みを浮かべていた。何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「あの子とどんな関係なんだよ?」
「どんなって……ただの幼馴染みですよ」
「ただの幼馴染みぃ? いやいやお前、そりゃないだろ」
「…どういう意味ですか」
「だって、ほら。あの子カワイイじゃん?」
「え……」
先輩の言葉に、思わず固まってしまう。瞬きも、呼吸すら一瞬忘れてしまったくらいに。
「最初はやっぱ、なんだコイツって思ってたけどさ。いきなり上から目線の言葉で何様だよって感じだったし。だけど訓練の相手をしていくうちに、だんだんと印象が変わっていったっつーか…。思い直したっていうの?」
思考停止している俺を置いて、先輩は尚も喋り続ける。
「自分のどこに欠点があるのか、実践内で的確に教えてくれるし。自分の命を、仲間の命を守るために、どういうふうに戦えばいいのか理解させてくれるし。訓練では厳しく指導してくれるけど、戦闘から一歩離れると普通の女の子じゃんか? 明るくて親しみやすくて、容姿も超絶とまではいかなくてもそこそこ可愛いくて、王宮で働く女たちとは違った雰囲気を持ってる子なんて、そうそう俺たちの近くにいないだろ?」
「………貴方の言うその“王宮で働く女”の一人である私を目の前にして言います、普通? それ、王宮内で言わない方がいいですよ。絶対殺されますから」
カラカラと笑う先輩に、ジトッとした目線で忠告する魔術士。「それとも今ここで殺った方がいいですか」という言葉と共に若干の殺意を混ぜたオーラを立ち上らせるのを感じ取った先輩は、口端をヒクリとさせて表情を強ばらせた。俺は先輩を擁護することなく、むしろ自業自得だと思いながら二人のやり取りを、半ばぼんやりとして見ていた。
“明るくて親しみやすい”。確かに、リランの性格はその通りである。実際、村にいた頃には俺自身リランのそれに救われていた。いつでも楽しそうに笑う彼女に、いつも俺を引っ張ってくれる彼女に、何度感謝したことか。……だけど。
──可愛い、か…?
考えてもみなかったその言葉に、頭を鈍器で殴られたような気がした。
名前を呼べば、いつだって笑顔で振り向いてくれる。俺の名を、とても大切な宝物を扱うように優しく包んで届けてくれる。暖かな春の色を閉じ込めた瞳は、いつだって俺の姿を見つけて、嬉しそうに細められる。脳裏に浮かんだ彼女の姿が、ふわりと輝いて…──。
「で、ぶっちゃけどうなんだよ?」
慌てて話を逸らそうと、こちらを見て問い掛けてくる先輩の言葉に、思考の海に囚われていた俺の意識は現実に引き戻された。未だにジリジリとした視線を向けてくる魔術士を気にしながらも、俺に答えを催促してくる。それを困惑した思いで受け止めながら、俺は視線を漂わせた。
どう、と聞かれても。これまでずっと気の置けない幼馴染みという認識でしかなかったから、そうとしか答えられない。だけど先輩が聞いてるのは、きっとそういうことじゃなくて。
……恐らく、異性として、という意味だと思う。
「……どう、と言われましても」
「なんだよ? なんとも思わねぇのかよ?」
「思うも何も……ずっと親しい幼馴染みだとしか…」
「おいおい嘘だろ。あんなに…」
俺の歯切れの悪い答えに、心底信じられないといった表情で目を丸くする先輩は、はぁー…と肺の中の空気を全て吐き出すような溜め息を零した。「可哀想に」だとか「どんだけ鈍いんだよ」だとか、ブツブツ何かぼやいているけれど、全く意味が分からない。
「……お前、他人から鈍感だって言われたことない?」
「は? ……いえ、記憶にありませんけど」
「……なんてこったい。今までどんだけ優しい人たちに囲まれていたんだ。優しすぎて逆に酷い…」
呆れと憐れみが混在した目を向けられて、俺の中の疑問符は更に増えた。一体なんだって言うんだ。感情が乏しいとは言われたことはあるが、鈍いとは言われたことはない……はず。ちょっと自信はない。
ポンポン、と肩を軽く叩かれてそのままガッシリと肩を組まれる。その重さと勢いに、自然と姿勢が前のめりになる。顔のすぐ横で、はぁー…と再び溜め息を吐かれ、眉を潜める。ほんとに、なんなんだ。
「お前、自分の容姿を見たことあるか?」
「毎日鏡で見てますけど…」
「何か思うことは?」
「……?」
思うこと? そんなの、特にない、のひと言である。生まれた時から変わらない、いつもの見慣れている顔だ。
質問の意味が解らず困惑していると、先輩の額に青筋が浮き立つのが見えた、気がした。
「お前いい加減にしろよ? 全世界の男を敵に回す気か? 上等だコラ、ぶん殴るぞ。お前ほど見目麗しい奴なんざ、世界中探してもそうそういないからな? 同性の俺たちでさえお前の容姿は整ってるって思うんだ、異性からしたら喉から手が出るほどのもんだぞ。そこんとこ解ってるのか? 自覚してんのか? ん?」
「先輩、肩痛いです…」
言葉が連ねられていくと共に、ギリギリと肩を掴む手に力が入ってくる。地味に痛いやつだ。それから顔が怖い。口許は笑っているのに、目の奥が笑っていない。
「もっと周りに目を配れ。周りの感情、視線に敏感になれ。自分に向けられるものの真意を探れ、察しろ。善意も悪意も」
「真意…ですか」
「じゃないと、当たり前にあったものが目の前から消えていくぞ。このままだと手を伸ばした先に掴むのは、“後悔”という一生抱えなきゃならん苦さかもしれねぇぞ」
真っ直ぐと、こちらの心の奥深くまで見透すような目付きが俺を貫く。「後悔」という言葉に、目が覚めるような感覚を覚えた。
そんなの、疾うに知っている。生まれ育った故郷が無惨な瓦礫と化し、リランの行方が分からなくなったあの時に、もう後悔はしたのだ。そして、二度と後悔はしないと己に誓った。同じ過ちは繰り返さないと、繰り返してなるものかと、強く心に刻んだのだ。
「………善処します」
「そうしろ」
そう言ってニッと笑った先輩は、頼もしい年上らしさが滲んでいた。
「アヴィスト様」
後ろから掛けられた声に、体ごと振り返る。視界の真ん中には、ゆったりと腰まで伸びた黄金の髪を綺麗に纏め、くるりと光の粒を揺らめかせた同じ色の瞳を真っ直ぐに向けてくる少女。淡い赤に縁取られた唇は、少しだけ弧を描いている。
背筋を伸ばし、両手を体の横にピタリと張り付け、頭を軽く下げる。
「これは、エナーシャ様。お声掛けいただき、光栄にございます」
「そう固くならないで。楽にしていいのよ」
「いえ、ですが、」
「あら、私がいいと言っているのに。真面目な方ね、疲れてしまうわよ、英雄様」
「……は。では、お言葉に甘えて」
一瞬、表情が歪んでしまったのは仕方のないことだ。頭を下げていたおかげで見られてはいないと思う……思いたい。“英雄”呼びは未だに慣れないし、正直呼ばれたくない。王族を目の前に、口が裂けても決して言えないが。
「自分に何かご用でしょうか?」
「ふふふ…そうね、用事があると言えばあるのだけれど。少しお話したいな、と思って」
「話、ですか…?」
「ええ」
にっこりと微笑まれるそのお姿は、まさしく天使と呼べるものだった。一瞬ドキリと心臓が鳴った。なるほど、これは騎士たち(主に男たち)の間でエナーシャ様が噂になるのも頷ける。害意のない笑顔を向けられて心が弾まない奴は、相当頑丈な鋼の心の持ち主だろう。身分云々を吹っ飛ばして懸想してしまう輩もいるに違いない。
普段、あまり公務に顔を出さないにもかかわらず、第二王女に対する王宮内及び国民からの印象は悪くない。それはきっと、王宮内で働く者たちへの気配りや孤児院訪問などの活動により、ディスアドバンテージがカバーされているからだろう。みんな口を揃えて天使だの女神だのと称えている。まぁ、外れてはいないと俺も思う。
目の前でふんわりと頬笑む王女を見て、何故か脳裏に屈託のない満面の笑みのリランの姿が浮かんだ。
それを不思議に思う間もなく──いや、不思議に思ったのだがそれは一瞬のことで、次の発言に衝撃を受けたのだった。
「急で悪いのだけれど、明日の午後、私とティータイムでも如何かしら?」
まさかのお誘い。これにはどんな意図が含まれているのだろうか。“自分に向けられるものの真意を探れ、察しろ”。昼間の先輩騎士の助言が思考を掠めた。
「……と、おっしゃいますと?」
「ですから、私と一緒にお茶しませんか? というお誘いなのだけれど」
「……エナーシャ様と私とで、でしょうか?」
「ええ」
「失礼を承知でお伺いしますが、他の者はいらっしゃるのでしょうか」
「いいえ、いないわ。護衛の者も下がらせるし、侍女も下がらせるもの。少し二人きりでお話ししたいことがあるの」
「………」
これは困った。どう返事をすればいいのか判らない。普通に考えて、(自分で言うのもアレだが)年頃の男女が、しかも護衛も侍女もなしの場で王女様と“二人きり”という状況は、非常に不味いのではなかろうか。
これはどう答えるのが正解なのだろうか。返答に窮した俺は、チラリと王女の背後に立つ護衛を窺い見た。そして後悔した。見なきゃ良かった。
ひと言で言えば、物凄く言葉に言い表し難い表情をしていた。恐らく王女の発言内容は護衛にも聞かされていなかったのだろう。驚愕、混乱、焦燥、その他諸々。様々な感情が混ぜ込まれた顔をして、しかし口を開くことはなかった。めちゃくちゃ何か言いたげではあるが。
ぐるぐると回る思考中の俺を見て、王女はきょとりと首を傾げた。
「あら、何か不都合でもあったかしら? 一応、貴方の上司の方にも仕事のシフトを聞いて、空いている時間を確認しておいたのだけれど…」
「いえ、あの………」
ちょっと待て団長に聞いたのか、俺の許可なしに。いや、王族なのだから俺なんかの許可を必要とはしないのが普通なのだが。事前準備が早いというか…。おっとりした雰囲気にそぐわず用意周到だな。さすが王族といったところか。抜かりない。……いやいや、感心している場合じゃない。そんなことより、あの口軽ハゲ親父め、あとで絶対切り刻んでやる。
心に決めたこととは別に、考えが纏まらず口籠る俺をエナーシャ様は咎めることはしなかった。むしろだんだんと眉尻を下げてションボリとした表情になっていく王女を見て、今度は焦りが生じた。
「やっぱり、突然すぎたわよね……。ごめんなさい、貴方の都合も考えずに突飛なことを言ってしまって……。そうよね、せっかくの空き時間だもの、もう予定とか入れてあるわよね……。本当にごめんなさい」
その瞬間、ギロリと鋭い視線が俺を突き刺した。出所はもちろん、王女の護衛だ。黒いオーラを沸き立たせて睨んでくるその目は、「まさか断らないよな? 断る訳ないよな? 王女様の頼みだもんな? 一介の騎士が断れると思うなよ?」と心の声を発してくる。おい、つい先ほどまで何か言いたげだっただろ。急に全く正反対の感情を飛ばしてくるとはどういう了見だ、この王女第一主義者め。そしてそんなのは重々承知している。承知の上だからこそ迷っているのだが。
二人きりの密会(と言っても過言ではないだろう)、それも一般騎士と第二王女というメンツは些か外聞が良くないだろう。噂好きな貴族社会にとっては格好のネタになる。その場合、ダメージが大きいのは王女様であるエナーシャ様の方だ。回避するにはこのお誘いを断るべきなのだろうが…。
この誘いはただの誘いではない。高貴な方、それも王族からのお誘いを拒否することは、不敬罪に当たってしまうのではないだろうか…? 最悪の場合、牢獄行きになるかもしれない。
高速で思考回路を回転させて考え抜いた俺の答えはというと。
「………せっかくのお誘い、慎んでお受け致します」
腰を折り曲げ、頭を低く垂れて、礼を取る。悩みに悩んだ結果、俺はエナーシャ様のお誘いを受けることにした。不敬罪で投獄されるのは、さすがに勘弁願いたい。保身のために選んだ一択だった。
エナーシャ様は俺の返答に一度びっくりしたように目を丸めていたが、意味を理解すると満足したようににっこりと微笑まれた。それはもう、とても嬉しそうに。
答えを返したその瞬間、脳裏を掠め通った人物には気づくことなく、今後自分に向けられる視線が増えるであろうことの方に思考は回されていた。
話というのは一体なんなのだろう。それによっては方々への対応をしなければならないなと考えると、もう今から頭が痛くなってくる。俺のライフゲージは既に消耗していた。
数日後、やはりというか、俺とエナーシャ様の噂は王宮中に広まっていた。