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7.sideリラン






 訓練が開始されてから早一か月。今日も今日とて汗に(まみ)れる訓練場。魔女討伐に燃える騎士や魔術士たちによる剣戟の音で(やかま)しいその空間に、黄金の妖精が舞い降りた。




「貴女が、リランさん?」


 コロリと鈴が鳴るような声で、そう尋ねられた。背後から掛かったその声の主を振り返った私は、その姿を目にした瞬間ピタリと動きを止めてしまった。ついでに呼吸も止まった。これは誇張表現ではなく、事実である。何故ならそこにいるのが、それはそれは途轍もなく美しい少女が優雅に立っていたからだ。加えて、そこに立つのがこの国の第二王女様であるからだ。驚愕を通り越して衝撃に打たれた私が、動きだけでなく息すらも止めてしまうのは仕方のないことだと思う。

 少し癖のある金色に輝く長い髪を垂らし、満月を閉じ込めたかのような瞳、スラリとした目鼻立ち。言葉に表せないくらいの美貌の持ち主が、その視界にしっかりと私を捉えていた。私はというと、たっぷり数十秒ガン見してしまっていた。彼女の護衛の騎士が、わざとらしく「ゴホン」と咳払いするのと同時に、ハッと我に返る。しまった、返事をしていない。今のはめちゃめちゃ失礼な態度だった。

 私は慌てて膝を折り、頭を下げる。


「失礼致しました。おっしゃる通り、リランはわたくしめにございます」


 心臓がバクバクしている。大丈夫かな、間に合ったかな。ギリギリセーフ? それともアウト? 言葉遣いもこれであってる? もしかしてこのまま首を(ちょん)切られるコースまっしぐら? せっかく処刑を先延ばしにしてもらっているのに!

 顔を青くして冷や汗をかきながら次の言葉を待つ。どうか死刑判決は免れますように! ご慈悲を! どうか!


「そんなに畏まらないで。顔を上げてちょうだい」

「はい」


 その言葉に内心ホッとする。言われた通り顔を上げると、視線がバッチリ交差する。ちょっと感情が読み取れなくて若干の困惑と不安が胸を占める。なんだろう。私に用でもあるのかな。


「ちょっとお聞きしたいことがあるのだけれど、お時間いいかしら?」


 小首をコテンと傾げるその様は、同性の私でさえ見惚れてしまうほどの魅力に溢れていた。天使……いや、女神様か!? 後光が差しているような錯覚に、目が眩んでしまいそう。同じ女として自信をなくすどころか、そんなの飛び越えて平伏したくなるのは何故だ。

 こんな可愛らしい方に「いいかしら?」なんて可愛い仕草で尋ねられたら嫌とは言えない。思わず頷こうとして、しかしはたと気づく。


「申し訳ありませんが、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」

「あら、何か不都合でも?」

「あ、いえ。ただ自分一人で判断する訳にはいかないので、確認をして参りたく…」


 そう、今の私に自由な行動をする権利はない。サネルガさんという監視役が必要なのだ。だから、いくら高貴な方からのお誘いでも個人で勝手に判断してしまうことはできない。彼に相談して、許可をもらわないと。


「どうした?」


 ひとっ走りして聞きに行こうと身体の向きを変える前に、ちょうど求めていた人物がひょっこりやって来た。ナイスタイミングです。心の中でグッと親指を立てる。


「あれ? エナーシャ様? どうなさったんですか、こんな汗臭い場所に足を運ぶなんて」

「えっ……えっと、少しリランさんにお話がありまして…」

「リランちゃんに、ですか?」


 そう言って視線を女神様──エナーシャ王女から私に移す。パチリと瞬いたその瞳の中に、ちょっと残念そうな色が一瞬くるりと浮かんだことは、追及しないでおこう。見目麗しい方と平凡な私を比べるんじゃない、と一応抗議の文句だけ言わせてもらうが。

 サネルガさんは、ふむ、と指を顎に当てて考える姿を見せ、それから後ろを振り返る。そういえば、訓練の途中だったな。突然の豪華な来訪に忘れてしまっていた。


「エナーシャ様、申し訳ありませんが少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」


 眉尻を下げて本当に申し訳なさそうな表情で、軽く頭を下げるサネルガさん。え、断ってもいいの? 大丈夫? 無礼な態度だって怒られない? 首チョンパされない?


「まだ訓練の途中でして、それが終わってからなら少しだけ時間が取れると思うのですが…」

「そ、そうなの……」

「それと、私も同席させていただくことになりますが、それでもよろしいですか?」

「えっ!? あ、いえ、それなら仕方がないわね。うん、今日はやめておくわ」

「申し訳ありません」

「い、いいのよ。突然来た私が悪いのだから…」


 サネルガさんのまさかの発言に驚きで目を白黒させている私を他所に、何故か話を続ける二人。当事者であるはずの私を置いてきぼりにして、どんどん話が進んでいく。あれ? 私に話があったんじゃないの? そう思って二人のことを交互に見てみるが、私のことなど視界どころか意識にすら入っていないようで、仕方なく空気になるべく存在感を消しておく。私は空気よ、空気、空気…。

 その後、幾つか言葉を交わすとエナーシャ様は護衛を連れて去って行った。残された私は「結局なんの用だったんだろう?」という疑問で頭がいっぱいだったが、解らないことは考えても解らないのだから仕方なし、と気を取り直す。だけど気になったことは聞いておきたい。そう思って私はツツツ…とサネルガさんの側に忍び寄り、その耳元に手を翳す。そして他の騎士や魔術士たちに聞こえないよう、こっそり尋ねてみた。


「サネルガさんサネルガさん、王女様のお誘い、断っても良かったんですか?」

「ん? あぁ、大丈夫」

「ホントですか? 無礼だって言われて首はねられたりしません?」

「しないしない。他の王族なら分からんが、エナーシャ様は温厚な方で多少の無礼は許されるから」

「なんと。容姿だけじゃなくて性格まで天使だとは」


 ……って、いやいやそれでいいのかエナーシャ王女。王族の威厳はどこへやら。あらゆる意味で心底ビックリしている私を見て、サネルガさんは「ハハハッ」と軽快に笑った。そしてポンポンと私の頭を軽く叩く。その仕草があまりにも自然で、これは下に弟か妹がいるな、と場違いなことを思ったり。私は彼にとって妹的立場なのだな、と察してみたりする。


「そうだな、天使だと思うよな。でも案外おっちょこちょいなところもあったりするんだぜ?」


 これみんなには秘密な、とパチリとウインク一つと共に小声で聞かされた事柄に、きょとりとした表情を返す。あんなに完全無欠で隙も何もないような印象のお姫様に、そんなところがあるなんて。そんなの欠点でもなんでもなくて、ただ可愛らしい部分が増えただけな上に親しみやすさも加点されているのではなかろうか。女として勝ち目のない私に対する慰めのつもりか何か知らないけれど、それは傷口に塩を塗るだけだとツッコミたかったが、口には出さなかった。


「その秘密をいつどこでどのように知ったのか聞きたいところですけど、とりあえず訓練に戻ります?」

「その心遣いに感謝すると共に、とりあえずそうしようか」


 どちらからともなく頷き合うと、何事もなかったかのようにさっさと訓練場へと足を向けた。







 その日の訓練が終わり、夕刻時。私はサネルガさんと一緒に、王宮に勤める者たちのための大食堂へ来ていた。以前は歩くのにもひと苦労で、特別医療室から出られるはずもなくあの部屋で食事も摂っていたが、今は訓練ではっちゃけられるくらい動けるようになったため、こうして大食堂で他の人たちに混じって食べている。まあ、最初はこの場に一歩足を踏み入れただけで一斉に視線を向けられて敬遠され、居心地は最悪だった。だけど、訓練で交流(?)していくうちに騎士や魔術士には受け入れられてもらえたようで、今では軽く挨拶をする程度にまでは自然とここにいられるようになった。侍女や文官など、直接顔を合わせて会話する機会のない人たちには相変わらず避けられてはいるけれど、それも仕方のないことだと自分に言い聞かせる。本音を言えば、やっぱりちょっと寂しいのだけど。

 いつものように食堂の端っこへ移動して席を確保する。初めて来た時からずっと同じ席なので、成り行きで私たちの特等席となっている。周りにもそう認識されているようで、いつも来るとポツンと不自然に空いている。この席は周りからは目立たないが、出入口に近いこともあって人の行き来がよく見える。だから顔見知りが出入りすれば挨拶を交わすし、誰と誰が仲良しだとか人間関係の観察もできる。簡単に言えば、人との交流を持てる場であり、人の繋がりを知るにはもってこいの場でもあるのだ。

 だから、いつもと違う状況にも一早く気づくことができる。──今のように。


「おおー、珍しい人と一緒にいるもんだなぁ」


 間延びしたサネルガさんの声を耳で拾いながら、私は「あれ?」と首を捻る。

 食堂に来たのはアヴィスト。最近、というか私が食堂を利用するようになってからアヴィストとサネルガさんの三人で一緒に食べている。ちなみに私がサネルガさんと一緒に来て、後からアヴィストが合流するっていう感じだ(騎士は訓練だけじゃなくて、当番制で王都の巡回もあるからだ)。今日もいつものようにアヴィストが来るのを待っていたのだけれど、彼は一人ではなかった。

 ゲンナリとした表情のアヴィストの肩をガッシリと掴んで、にんまりと笑顔で並んで来たのはハゲ──ごほん、失敬、えー…ツルリと頭皮を輝かせた厳つい風貌の男性だった。アヴィストとのオーラの差が激しい。これは何かしつこくされた挙げ句の果てに、断りきれなかったといったところか。それにしても、はて、この男性はどこかで見たことがあるような…。

 少しの間、記憶の海に潜っていた私がハッと思い当たるのと、サネルガさんが席を立つのは同時だった。


「お疲れ様です。騎士団団長殿」

「おう! お疲れさん!」


 大口を開けてサネルガさんの挨拶に応える彼は、誇り高き王宮騎士団の頂点に立つ団長様その人であった。道理で見たことがあったはずだ。私が魔女に乗っ取られていた時に、魔女の暴走を止めることを失敗した場合の保証として頼った人であり、訓練初日の顔合わせの時にも会っていた。そうだそうだ、思い出した。そしてアヴィストの上司だ。

 そこで私は再びハッとなる。大変だ、挨拶をしていない!


「お、お疲れ様です! 騎士団団長様!」

「お? おう、お疲れさん」


 サネルガさんに倣ってガタリと椅子を鳴らして立ち上がり、若干噛みつつも挨拶をした私に、ニッカリと白い歯を見せて挨拶を返してくれた。その親しみやすさにホッと息を吐く。

 実を言うと、団長さんのことはあまりよく知らない。訓練でも顔合わせの時以来会っていないし、言うまでもなく手合わせもしたことがない。まぁ、騎士団のトップなのだから相当強いのだろうし、わざわざ改めて訓練しなくても大丈夫だと踏んでいる。お忙しい方なのだろうけれど、やっぱり訓練させてもらっている相手の上司とはなるべく良い関係を築いておきたい。それにアヴィストの上司だし。うん。


「今日も訓練場を貸していただき、ありがとうございました!」

「お礼なんざいらねえよ。こっちとしても部下たちの相手してもらってるし、お互い様ってやつだ」

「いえ、でも、ありがとうございます」

「ガッハッハッ! 礼儀正しい嬢ちゃんだ。アヴィストの幼馴染みとは思えんな!」

「………団長?」


 バシン、バシンと背中を大手で叩かれながら、不機嫌な顔でアヴィストが言う。その目は「どういう意味だ」と問うていた。だけど団長さんは気づいていないのか、はたまた気づかないフリをしているのか、大声で笑い続けていた。それはもう、この大食堂中に響き渡るくらいの大きさだ。結果はもちろん、食堂にいる人たちの注目を浴びることになった。「一体何事だ」という視線は、次第に「ああ、なんだ、騎士団長か」というものになり、最後には「可哀想に」というものへと変わっていった。ちょっと待っておくれみなさん。その視線の意味は一体どういうことだい?

 周囲の視線の変化に対して、頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべていた私は、向かい側の席にドカリと座った団長さんの行動に目をパチクリさせた。その隣にはアヴィストが座って…いや、座らされている。ちなみにサネルガさんは私の隣だ。この状況から推測するに、団長さんは私たちと一緒に食事をするということだろうか。


「嬢ちゃん、メシはまだか?」

「え、あ、はい!」

「よし、アヴィスト。メシ取ってこい」


 推測は当たっていた。そして私の肯定の返答を聞くと、当然のようにアヴィストに命令する団長さん。理不尽な要求を突きつけられた当の本人は、やはりというか、これまた当然のように顔を歪める。言い表すならば「なんで俺が」。周りの人たちの憐れむような視線の意味が理解できた。アヴィスト、頑張れ。心を強く持つんだ。

 私の心の声援が聞こえたのか分からないが、アヴィストは文句の代わりに長く深い溜め息を一つ吐くと、席を立ち上がった。とてもご機嫌斜めな表情でカウンターの方へと歩いていく。

 この食堂はバイキング形式で、カウンターに並んだいろんな種類の料理を、好きなだけお皿に盛り付けて持ってくることができる。これまではアヴィストが料理を持ってきてくれていた。サネルガさんは食べたいものをアヴィストに注文して頼み、私の好みはもともと把握されているから席で大人しくお留守番をしていた訳だが…。


「あ、アヴィスト! 私も一緒に…」


 今回は人数も増えたし、一人では持ってくるのが大変だろうと思い、声を掛けた。


「サネルガ、あいつと一緒にメシ取ってきてくれるな?」

「え……」

「へ? あ、はい。すみません。すぐに行ってきます」


 私の言葉を遮り、サネルガさんに団長さんが言う。有無を言わせない語調に気圧されて、サネルガさんが席を立ちアヴィストの後を追っていく。その後ろ姿を、席を立ち上がり掛けた体勢のまま見送る私。えっと…、これは一体?


「嬢ちゃん、アヴィストと仲いいんだってな?」

「なっ、なんですか、急に…」


 心臓を突き刺すようないきなりの発言に、慌てて振り向くとニヤニヤとした笑みを浮かべた団長さんがいた。心の奥を見透かされているような感覚になり、だんだん顔が赤くなっていくのが分かる。思わず両手で頬を覆う。


「なんだ、好きなのか?」

「………はい」

「いいねぇ、青春だ」

「………なんか、楽しんでません?」


 その声に楽しんでいる色が含まれていることに、立場を棚の上に上げてジトッとした目線を向ける。目線の先の人物は悪びれもなく「おうよ」と答えて笑う。

 くっ、こうも自覚しながらからかわれるのは、なんか癪に障る…! 嘘を吐いている訳でもないのに居心地が悪くなるのは何故だろう。なんか言い返したいのだけれど、言葉が浮かばない。この胸のモヤモヤをどうにかしたい。


「あいつには気持ちを伝えていないのか?」


 頭の中で「ウガアァ!」と叫んでいる私に、団長さんは身を乗り出して尋ねてくる。距離が近くなった分、声量は若干抑えられていた。


「………伝えてません」

「何故だ?」

「それは……」


 ぐっと言葉に詰まる。視線が少しずつ下に下がって、テーブルの木目を見つめる形になる。自然と頬から離れた両手が、膝の上で拳を作りギュッと握る。

 私の想いは、アヴィストには伝えないつもりだった。それは幼い頃に決めたことだ。鈍感な彼に、ずっと前から好きだったと伝えたところで、ちゃんと理解して受け取ってもらえるか不安だし、理解されたとして断られたらと考えると勇気が出ない。今のこの関係が壊れるのが怖い。壊れるくらいなら、“幼馴染み”のままでいい。魔女に乗っ取られた時は、好きだと言わなかったことを後悔したけれど、今の状況になって更に伝えるのを恐れるようになった。だって。


「……いいんです」


 己の髪先を指で挟んで弄る。視界に入るそれは、くすんだ薄桃色。これは私本来の色じゃない。私の髪は春に映える桃色だった。この身体が魔女に乗っ取られた時に魔力が混ざった結果だろうと、サネルガさんが言っていた。私もそう思う。

 これは、私の罪の証だ。きっと元に戻ることはない。


「本当にいいのか? 伝えられる時に伝えなきゃ、後悔しても遅いんだぞ」


 視線を前に戻すと、とても真剣な表情で、真剣な瞳で私を見ていた。そこに少しの心配と強い意志の色が垣間見え、私のことを思ってくれていると解った。

 ふっと、身体の力が抜けた。こんな私を案じてくれる人がいることに、少しだけ泣きたい気持ちになった。


「……そうですね。じゃあ、魔女を倒して……全てが終わった後にでも、伝えてみます」

「…ああ、そうしろ」


 私の言葉に賛同して目元を緩めた団長さんは、その大きな手で私の頭をくしゃくしゃと撫でた。それがまるで父親が娘にしてくれるもののように感じて、胸の奥がじんわりと温かくなった。罪人の私にも優しくしてくれる人がいるのか、と。たくさんの命を奪ってきた私にも優しさを分けてくれる人がいるのか、と。そう感じた途端、言葉に言い尽くしづらい気持ちが湧き上がってきた。

 この人が守りたかった村や町を襲った。この人が守りたかった人たちを殺してきた。罵倒したいだろうに、罪を贖わせたいだろうに。その気持ちを押し殺して、全く正反対の優しさをくれるのか。心を配ってくれるのか。

 嬉しさと申し訳なさが入り交じって、何がなんだかよく分からなくなった私は、頭を撫でられながら静かに俯いた。目頭が熱くなったが、涙は溢さなかった。溢す権利はないと、そう思ったから。落ち着くまで少し時間が必要だったけれど、団長さんは何も言わずに頭を撫で続けてくれた。



 本当に、アヴィストの周りには優しい人がたくさんいる。ただの幼馴染みの私にも、その優しさの欠片を分け与えてくれるほどに。恵まれた環境にいられて彼は幸せだなと思った。私がいなくても大丈夫そうだと思うと、寂しくもあるけれど。




「………何してんですか、団長」


 ドスの利いた声がすぐ側から聞こえてきた。その声の主がアヴィストだと認識すると、私はパッと顔を上げて笑顔を作る。


「アヴィスト、おかえりー」

「ただいま。……で、何してたんですか。人の幼馴染みに…犯罪になりますよ?」

「おーい、アヴィストくん。俺、お前の上司だかんな?」


 何故か目が据わっているアヴィストに「なんでもないよー」と声を掛けると、納得のいかない表情をしながらも何も聞かずに席に着いてくれた。それまで空気と化していたサネルガさんにも「ありがとうございます」とお礼を言うと、引き攣った顔をしながらも「…あ、うん」と返事をして席に座った。

 変な空気がテーブルの上を支配していたけれど、団長さんが「おっ、美味そうだな!」と言って料理に手を付けると、これを皮切りに食事が始まった。見た目通り大食いな団長さんにアヴィストが何かと突っ掛かって、サネルガさんが間に入って落ち着かせて……と、始まりこそ気不味い感じだったけれど、食事は終始楽しい雰囲気で進んでいった。



 こんな平和な日常が、何気ない一つ一つのことが途轍もなく幸せなことなんだと、独り噛み締めていたことは私だけの秘密だ。






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