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18.sideアヴィスト





「──っていう訓練メニューを考えてみたのだけれど、どうかな?」

「鬼か」


 春色の瞳をキラッキラに輝かせながら、頬を少しだけ上気させながら、ボールが弾むような声で告げられたメニュー内容は、思わず反射的にそう答えを返してしまうようなものだった。いや、本当に鬼畜としか言いようがない。


 “団長・副団長・(リラン)の三人を同時に相手しよう!”


 どんな訓練だ。この訓練場に死屍累々の画を描くつもりか。団員たちの気持ちを考えろ。俺だって本音はお断りしたい、口には出さないが。


「えぇー…? いいメニューだと思うんだけどなぁ…」


 唇を尖らせて不満を顕にする。ついでに片足で地面を蹴るという行動付きだ。

 まあ確かに、現時点でのこの国のトップスリーを一度に相手することが、強くなるには一番手っ取り早い方法だとは思うけど。訓練が開始される前から、もっと言えば、訓練メニューを聞いた時点から団員たちの顔色が真っ青に変わり尻込みする情景がありありと思い浮かぶ。逆に嬉々としてやる気に満ち足りた表情の三人組も頭に思い浮かぶ。ちなみに面子はハゲ団長、サネルガ、リランの三人だ。騎士団副団長は真面目な人なのだが、真面目に厳しい人なので三人の後ろに立ってアルカイックスマイルを浮かべていそうだ。魔術士団長はあまり面識はなく、見掛ける度に優しそうな初老の男性という印象を持っていたのだが、サネルガ曰く「喰えない狸親父」とのことで、ニコニコぽやぽやな雰囲気で騎士団副団長と並んで立っていそうだ。

 やる気満々な手加減知らずの三人に、彼らを止める気は更々ない笑顔の二人。対して気迫で既に負けている団員たち。……うん、訓練にならないのではなかろうか。“訓練”と呼べるものが、果たして成立するのだろうか。

 苦虫を噛み潰したような表情になっているであろう俺の前で、頭を捻って別のメニューを考え出すリラン。ぶつぶつ文句を垂れているところを見ると、本当に鬼畜のメニューが名案だと思っていたようだ。どうしよう、いつの間にか物騒なアイディアを考える幼馴染みに変わってしまったようだ。幼い頃からの天真爛漫さは変わっていないので、そこがまた悪い方向に拍車を掛けている。天然で物騒を生み出すのはやめてくれ。

 もっと鬼畜なアイディアは出してくれるなよ、と願っていると、口から流れ出ていた文句がピタリと止んだ。それから、そろりとこちらを窺うように上目遣いで俺を見た。それにドキリと心臓が鳴った気がしたが、そこに疑問を持つ前にリランから「じゃあさ…」と小さな声が零れた。


「制限時間を作って、その時間内にミッションをクリアしてね、っていうメニューはどうかな…?」


 なるほど。制限時間か。その訓練はしていなかったし、そもそもその発想がなかった。

 “魔女”は圧倒的な力を持っている。だからこちらの体力、魔力、忍耐力が尽きたら負けが決まってしまうから、それらの最大値を底上げする目的で今まで訓練していた。初めに比べたら団員たち全員が最大値を上げられたと言えるだろう。……まあ、村で培われた体力オバケのリランに敵う奴はいなかったが。俺は村にいた時からリランと行動を共にしていたので話は別になるのだが、それでもギリギリかと感じてしまうほどだ。

 団員たちの体力、魔力、忍耐力の底上げはできた。だけど、それは“魔女”相手に持久戦に持ち込めた時に発揮されるものだ。

 前回の対戦で、“魔女”は最初から全力を出すことはないと踏んでいた。それは身体を乗っ取られたリランも同じ意見だった。これまでの被害から見るに、“魔女”は生命を弄んでいる。少しずつ、少しずつ、出力する力を強くしていき、最後に最大限の一撃を喰らわせるのだ。だから、“魔女”の遊びを耐え切れるように訓練してきた。

 だけど、対峙してすぐに“魔女”が全力で向かってきたら? 弄ぶことなく、最初から生命を奪いにきたら? それに耐えられなかったら意味がない。“魔女”は、団員たちが付いていくのさえ必死な今のリランよりも強いのだ。

 今更ながらに気づかされたことに衝撃を受けた。“魔女”は最初から全力を出してこない。この先入観が盲点だった。


「……いいんじゃないか? 制限時間を設けるのは、緊張感もあっていいと思う」

「ほんと!?」

「ああ。……ただし、そのミッションとやらの内容にも依るけど」


 パァッと明るくなったリランに、相変わらず分かりやすいな、と内心苦笑する。


「やったぁ! アヴィストにいいって言われた!」

「それで、ミッションの内容はなんだ?」

「んっとねー、」


 万歳のままピョンピョン飛び跳ねるリランに続きを促せば、くるりと回って俺の方に向き直り、ルンルンと踊る声で告げられた内容は。


「十分以内に私に膝を着かせること!」


 どう頑張っても団員たちに優しくないミッションだった。

 前言撤回したくなった俺は、団員たちの味方だと言えるだろう。だが、撤回することは言わずもがな、撤回を申し出ることすらできなかった俺を、果たして団員たちは許してくれるだろうか。








 リラン考案の新しい訓練メニューは、まずサネルガの奴に「ナイスアイディアだ、リランちゃん!」と褒められ、ハゲ団長に「よし、それでいこう」というGO発言で決定打となり、リランの気分は爆上がった。そして、そのやり取りを見ていた団員たちの顔色は、想像通り見る見る内に青褪めていった。立っているのがやっとというような団員、遠い目をして現実逃避をしている団員、既に精神的苦痛を受けた団員……やる気満々の三人の反対側で団員たちは様々な反応を見せている。

 俺はというと、口を噤んでだんまりを決め込んだ。一般団員の一人なのだが、新メニューを考えたリランと旧知の仲ということもあり、対外的に見ると良くて中立、悪くて板挟みの立ち位置にいる。しかし俺の心中はそんなどっち付かずの状態に困り果てているなんてことはなく、ただただ団員たちに申し訳ない気持ちでいっぱいなのである。何故なら、一番最初に「いい」と言ったのは何を隠そう、この俺なのだから。

 どんよりオーラを纏わせている集団の中から、次第に俺へ向けられる視線を感じるようになる。チクチクと刺すようなその視線は、少しずつ数を増やしていく。それらに含まれている感情は、目を向けなくても分かる。


 “何故止めてくれないのか、知り合いの暴挙(ていあん)を”

 “何も言わないのは、お前に否があるからか”

 “魔女と戦う前に、俺たちを殺す気か”


 ヒシヒシと伝わる彼らの無言の圧力。本当に申し訳ない。俺にはもう、奴らを止めることはできない。その資格がない。

 ミッションの内容も聞かずに“可”と答えたのは俺だから。たとえ「内容にも依るが」と追加で言っていたとしても、リランからすれば「だって“いい”って言ったじゃない」という認識になってしまっているのだから。覆すことはできないのだ、過去の経験からしてこれは確定事項である。俺に残された今時点のできることは、団員たちからの視線を受け止めることのみ。黙って針の(むしろ)に成り果てるのみ。罵詈雑言は、後で聞こう。


「あれ? お前らどうしたんだよ、みんな揃って青い顔して」

「あ"ん? なんだ、腹でも壊したのか? だらしねえな、体調管理くらいしっかりしろよ」


 自分たちと団員たちのテンションの違いにやっと気づいたサネルガとハゲ団長は、気合が足りないと言わんばかりの溜め息を吐く。揃いも揃って、酷いとしか言いようがない。見当違いも甚だしい。ワザとやっているのかと疑ってしまう。

 そして、男二人の間からひょっこり顔を出した、訓練メニュー考案者のリランはというと。


「訓練内容に何か不満でもありましたか?」


 首を傾げて本心から不思議そうに聞く姿に、団員たちは頬をヒクつかせながら「いやぁ~……」と決まりが悪そうに言葉をまごつかせる。

 そんな彼らの様子から、何かを察したように「あぁ!」と声を上げて。


「やっぱり、団長・副団長・私の三人を同時に相手するメニューの方が良かったですか? ちなみに時間は無制限……」

「「「ミッションクリアを目指します!!!」」」


 俺が即却下した案を聞いて、団員たちの心は一致団結した。やはり、三人同時に相手するのは断固拒否したいらしい。一瞬にしてどんよりオーラを吹き飛ばし、ピシッと背筋を伸ばした姿勢は、国民が憧れる騎士団・魔術士団そのものだった。

 ちぇーっと拗ねた顔をしたリランは、最初に思い付いたメニューを実行したかったと見える。諦めていなかったのか…。というか、時間無制限の訓練だったのか…。即却下して正解だったな。

 そしてサネルガと(そこの)ハゲ団長(ふたり)、リランの没案に興味津々なのが丸分かりだ。初等学校の子どもみたくウズウズしてるのがバレてるぞ。……おい、こっそり聞こうとするな。団員たちの心情を考えろ。青も白も飛び越して土気色になるだろ。彼らの批判は全部俺に向かってくるんだぞ。俺の心労も考えろ馬鹿野郎共。


 何はともあれ、リラン考案の新メニュー訓練は(団員たちからすれば泣く泣く)開始された。

 俺はただ、魂が昇華される団員が少なく済むよう、願うばかりである。






 ぶわっ!と高速で当てられた風圧によって、青年団員の足が地面から浮き上がり、次の瞬間にはそのまま身体ごと宙に吹き飛ばされた。悲鳴は風に掻き消された。だが、そこはこれまでの訓練で鍛えられた者であるので、綺麗な弧を描いて落下した先ではしっかり受け身を取っている。団長には「簡単に吹っ飛ばされすぎだ!」と怒られているが、訓練初日の状態から考えれば受け身を取れるようになった分、彼には拍手を送るべきだろう。すぐに起き上がって剣を構えているし。

 彼が吹っ飛ばされた瞬間、その下から女性の魔術士が炎の矢を放っていた。猛スピードで一直線にリランを狙うその矢は、敵の不意をつくベストタイミングだった。この相手が魔物であったなら、反応される前に致命傷を与えて倒せていただろう。だが、今の相手はリランだ。攻撃が来ることを予測していたように、水の盾が炎の矢の行く先を阻んだ。ジュッという炎が強制的に消される音がしたかと思うと、盾の形状が鞭に変化して魔術士に向かって伸び、彼女を薙ぎ倒した。サネルガに「攻撃が単調だ! やるなら複数生成しろ!」とアドバイスが含まれた怒鳴り声を飛ばされているが、攻撃を受ける瞬間に身体強化の魔術を使っていたから無傷であるのは、成長した証拠だろう。

 その後も、攻撃しては反撃されて地面に倒されることを何度も繰り返し、遂にはリランに膝を着かせることなくタイムリミットを迎えてしまった。終了の合図が鳴り、リランを相手にしていた団員たちはガックリとその肩を落とした。対するリランは、仁王立ちで腰に両手を当てて、「いい汗かいた!」と言わんばかりの満面の笑みである。

 この光景を目にするのは、本日なんと五度目である。それも休憩を挟むことなく、ぶっ通しの五連戦。体力オバケだと解ってはいたが、騎士と魔術士合わせて四人を相手にして疲れを見せない幼馴染みは、ここまでくると最早化け物としか言いようがない。限界値が見えなくて鳥肌が立つ。


「さあ、次の人は誰ですか! どんどんやっていきましょう!」


 鼻息荒く、次の挑戦者を誘う言葉に頭痛を覚える。


「リラン、少し休憩しよう」

「ん? なんで?」


 思わず声を掛けた俺に、きょとりと目を丸くして問うてくる幼馴染み。春色の瞳に純粋な疑問しか写っていないことを認めると、はぁ…と溜め息が漏れた。


「団員たちは十分交代だけど、お前は続けてやってるだろ。そろそろ休憩しないと、倒れるぞ」

「えぇー…? まだやれるんだけどなぁ…?」

「ぶっ倒れる前に休め」


 「見てるこっちの心臓が持たない」と言うと、パチパチと瞬きを繰り返す。暫くの間じっと見つめられて理由(わけ)の分からない居心地の悪さを感じ始めた頃、そっと視線がズラされていく。むず痒いといった表情のリランに、今度は俺の方が疑問符を浮かべることになる。

 一体、今の少しの会話の中で何が引っ掛かったのだろうか? 俺は何か変なことでも言っただろうか?

 そんな質問を言葉にする前に、リランが「……分かった」と小さな声で承諾してくれたため、安心感が湧き出て疑問を塗り潰した。よくよく見れば、彼女の頬がほんのり赤く染まっていたのだが、リランの倒れる姿がトラウマになっている俺は全く気づくことはなかった。加えて、俺たちのやり取りを見ていたサネルガと団長に生温かい目で見られていたことにも、不覚にも全く気づかなかったのだ。


「十分間の休憩にします。その間に、騎士団長さんと魔術士副団長さんから評価とアドバイスをもらってください」


 リランの声掛けに、訓練した団員たちの表情がヒクついた。所謂(いわゆる)「げ、マジか」の顔である。対するサネルガとハゲ団長は、嬉々としてアドバイスという名のシゴキに乗り出していった。……心から同情する。

 俺は近づいてきたリランに、タオルと水筒を手渡した。「ありがとう」と笑顔で受け取る彼女は、汗をかいているものの団員たちのような疲労は見られない。言っていた通り、まだまだ余裕で訓練できそうだ。まあ、嘘を吐いたら言動に出るタイプの人間だから、分かりやすいだろうし。

 ……それにしても、よほど喉が渇いていたのだろうか。ずっと水筒に口を付けて、ゴクゴクゴクゴクと、水が喉を通る音が止まない。その様はまるで、夜の大衆食堂で食前酒を一気飲みするおっさんのよう──と考えて、リランに失礼だと慌てて頭に浮かんだイメージを掻き消したのだが、水を飲み干したリランが「っぷはぁ!」と息を吐いたことにより、消去したイメージを復活せざるを得なかった。一体どこで学んでしまったのか、その姿。

 リランはというと、無意識に半目になってしまった俺の方を見て、にっこり笑うと。


「次の相手、アヴィストやる?」


 とても楽しそうである。元気そうで何より。


「……ああ、頼む」

「えっ!? あ、うん、分かった! よろしく!」


 心配して損した、と溜め息を吐きながら次の相手を頼むと、何故かビックリして言葉がカタコトになった。誘ってきたのはそっちだろう。ジト目で訴えると、リランは焦った様子でキョロキョロと視線を泳がせて、まだミッションにチャレンジしていない団員たちの方を振り向いた。それは俺に背を向ける形で、それになんとなくムッとした。


「組む人は誰にする? アヴィストとなら組みたいって人、いっぱいいると思うけれど!」

「……誰とでも。サネルガと団長は論外な」

「その二人は大トリだから大丈夫! マイリーさんとかは? まだ相手してないよ」


 今普通に流されたが、かなりの衝撃発言だった気がする。

 まじか、あの二人もやるのか…。やる気に満ち満ちた三人の姿を思い浮かべる。訓練場が破壊されないことを願っているが、破壊させて三人一緒にこってり絞られればいいと思ってしまう自分がいる。決して口にはしないが。


「彼女がいいなら」

「オッケー! 聞いてみる!」


 俺の答えを聞くや否や、これ幸いといった様子でマイリーの元へと猛ダッシュしていった。片手をブンブン振って「マイリーさあぁぁんっ!」と大声を上げたリラン。突然名指しされた当の本人は、「はっ、はいぃぃ!?」と可哀想なくらい全身をビクつかせ、実際に数センチ飛び上がった。周りの団員たちもギョッとしてリランを見ると、これまでのリランの行動を既に認識しているため、すぐに「あぁ…」という表情になりマイリーに同情の視線を送っていた。

 遠くて何を話しているのか分からなかったが、リランがマイリーを説得しているようだ。片方はグイグイ顔を近づけて、もう片方はその圧に仰け反り戸惑う。それは一歩間違えば脅迫の現行犯ではなかろうか。そうまでしてマイリーと組ませてもらいたいとは思っていないし、リランが無理やり押し付けるようであればマイリーに申し訳ないから謝ってこちらから断ろう。

 そう思って、二人の方へ足を進めようとすると。パッとこちらを振り向いたリランの顔と言ったら。


「アヴィスト! 一緒に組んでいいって!」


 ……本当に? あの様子から許可を取ったというよりも、脅迫したという方が合致する気がして瞬間的に疑問に思ってしまった。

 だが、マイリーの手を引いてパタパタと駆けてくるリランは、周りに幻の花を散らせているようで。嬉しさを隠しもせず自分のことのように喜ぶ幼馴染みの姿に、じんわりと胸に広がった温もりは、なんという言葉が当て嵌まるのだろうか。

 ニコニコ笑顔のリランの後ろから、そぉっとこちらを窺い見るようにマイリーが顔を覗かせた。パチっと視線が合うと、「あ、あのっ」と上擦った声を上げた。


「もし、もし嫌でなければ、その…、ご一緒しても、よろしいでしょうか…?」

「いいよー!」

「何故お前が答える」


 緊張に強張った表情で尋ねるマイリーに即答したのはリランだった。聞かれたのは俺なのに何故だ。


「だってアヴィストは誰と組んでもいいんでしょ?」

「それはそうだが…。聞かれたのは俺なんだから、」

「えぇー? でも答えは同じでしょ?」

「そう…だが……」


 リランの言うことは最もなのだが、釈然としないのは当たり前の感情だと思うのは俺だけだろうか。チラリとマイリーの方を見ると、こちらも困ったような笑顔で所在なさげに立っている。そうだよな、そうなるよな。

 ぶーっと不満を顕にするリランを余所に、俺はマイリーに向き直る。答えは俺の口から伝えたい。


「マイリー、俺からも頼む。一緒に組んでほしい」

「はい、是非! よろしくお願いします!」


 スッと手を差し出すと、服で数回両手を擦ってからギュッと握り返される。その瞬間、パチリと小さな静電気が走ったような感覚があったが、一瞬のことだったので気のせいだと思い「よろしく」と言葉を返した。それからリランの方を見ると、ムスッとした表情で目を据わらせ、腕を組んで仁王立ちしていた。まだ機嫌を直していなかったのかと内心苦笑し、挑発的な笑みを見せる。


「ミッションの第一成功者は、俺たちだ」


 俺の挑発を受けたリランはパチクリと目を瞬かせると、瞬時に不満を霧散させ、チラリと春色の瞳に炎を揺らめかせて踏ん反り返る。


「絶対負けないんだから!」




 この後、リランと俺たちはお互い一歩も引かず本気でぶつかり合った。

 結果として、制限時間ギリギリでリランに膝を着かせることができ、俺たちの勝利となった。負けず嫌いのリランは悔しさを全面に出し、後続の団員たちをバッタバッタと倒していくのだが、八つ当たりと言っても過言ではないそれは、また別の話である。

 ちなみに、サネルガと団長VSリランの勝負は、開始三分と経たずに訓練場が見るも無残な姿に変貌したことにより、両者引き分けとなった。国王陛下直々に叱られたのは言うまでもなく。ガックリ肩を落とす三人に、「これに懲りたら無茶な訓練メニューは考えないことだな」と言うと、「訓練場に強化魔術を仕込んでおけばいいんじゃね?」というサネルガのとんでもない発言で俺の忠言は水に流された。この三人を止めるのは一生無理かもしれないと悟ったのは、仕方がないことだと思う。

 あと団長、前にサネルガと訓練場を壊した時にもらったゲンコツ、忘れていませんからね? そのことで俺をイビるのは、今後はもう不可能ですからね?



 そんなこんなで、新メニューの訓練初日は幕を閉じた。





 そして──。


 この訓練が、後に引き起こされる事件のきっかけになるなんて、この時は誰も思っていなかったのだ。






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