12.sideアヴィスト
「おい、アヴィスト! お前、手加減っつーものを知らねぇのか!」
「もちろん知っているさ」
「じゃあなんで今本気出してんだよ!? 俺を殺す気か!?」
殺す訳がないだろう。何おかしなこと言っているんだ、コイツは。この貴重な戦力をわざわざ戦闘不能にするなんて、馬鹿のやることだろう。それに、これくらいで殺されるほど弱くはない。一応、魔術士団のナンバーツーなんだから、実力はそれなりにあるはずだ。
実際、俺の攻撃は奴に掠りはするが当たってはいない。急所は外しているとはいえ、俺が狙っている場所にヒットする寸前に躱される。魔術で防がれることもあれば、己の身体能力のみで逃げられることもある。後者はちょっと憎らしい。魔術士のくせに。
ちょこまかと訓練場の端から端を縦横無尽に逃げ回るサネルガに、だんだんイライラしてきた。訓練なんだから、少しは攻撃してきてもいいものを。ただただ専守防衛に徹する奴に、真面目に相対する気がないのだと分かってきた。こうなれば致し方ない。急所のギリギリを狙っていこう、そうしよう。そうと決まれば早速。
剣の柄の握る場所を若干鍔側に近づけて、間合いを気持ち近くする。奴の移動先を予測し、グッと足に力を溜めて爪先一点に集中させ、一気に地面を蹴る。駆け出した一歩でグンと迫る俺に、ギョッとした顔で目を見開くサネルガ。その右目の目尻目掛けてギュッと握った剣を突き出す。咄嗟に左に顔のみを倒して刃を避けたが、ほんの数ミリ、皮一枚分の皮膚が裂けた。ピッと一直線に走る赤。傷を付けた、と認識したと同時に、足場がグラリと揺らぐのを感じ取った。前かがみになった身体を無理やり引き戻し、バックステップで距離を取る。次の瞬間には、俺がいた場所に地割れができていた。間一髪、あのままいたら落ちていた。
「ばっ…か、野郎! お前、今完全に俺の目狙ったろ! ふざけんなよ!? 馬鹿だろ!」
「そうしないと、訓練にならない」
「だからって目を潰す理由にはならねぇだろ!?」
「逃げてばかりいる。俺の訓練にならない」
「自分本位か!」
「魔女を倒すためには強くならないと」
「魔女討伐を大義名分にして俺を殺そうとするな! 大馬鹿野郎!」
「殺しはしない。お前を殺してもなんの得にもならない」
「これは貶されてると取っていいんだよな? 喧嘩を売られてるんだよな、俺は?」
「魔術士団副団長の戦力を失う訳にはいかないだろう」
「………おっと、ちょい待ち。これは褒められてんのか?」
「こんな奴でもいないよりはマシだ」
「いや、やっぱり貶されてる方に天秤が傾いた。お前の俺に対する評価が、今のひと言でよぉく理解した」
「今すぐブッ殺す」と、こめかみに青筋をピキピキと浮かび上がらせ、口元をヒクリと引き攣らせたサネルガは、今まで取っていた回避の行動をピタリと止めた。何か口の中でブツブツと唱えているが、上手く聞き取れない。どんな攻撃が来るのか予想がつかないため、取り敢えず剣を構えて重心を低くする。いつでも動けるように、サネルガのことは頭の先から足の先まで注意深く見るのはもちろん、周囲の気流から魔術の気配を探る。
魔術に気配があるのかと問われると、多くの人が「ない」と答えるだろうが、俺は剣術の師匠からその探り方を教わっていた。魔術は突然その場に発生するものではない。魔術を放つ者から目視できない“気の道”を通って発生場所に出現する、らしい。最初は理解できなかったし察知することなど不可能だったが、王都での修行で魔術士相手に何度も訓練を重ねるうちに、気配に気づくことができるようになった。これは魔物相手でも通用したのは幸いだった。まさかそれで“英雄”なんて呼ばれる羽目になろうとは思いもしなかったが。
閑話休題。俺は五感全てをサネルガに集中させた。自然と周囲の音がなくなり、己と奴が発する音だけを敏感に拾う。ピリピリと皮膚を走る緊張感。生え際から滲み出た汗が、つぅ…と顔の輪郭をなぞる。ドクドクと脈打つ心臓の音がうるさく感じられた、その時。
俺は反射的に姿勢を地面スレスレまでに沈ませ、片手を着いて身体を支える。頭の上を雷撃が掠め通ったのを確認する間もなく、地面の下からブワリと膨れ上がる気配を察知した。すぐさま横転し、その場から離れると、ゴゥ!と音を立てて燃え上がる炎の柱が視界に映る。二つの属性魔術をほぼ同時に展開するとは、さすがは魔術士団副団長。その実力は泊付きだ。そう関心するや否や、俺は低い体勢を保ったまま、奴に肉迫した。地面を擦り付けるように振るった剣が、サネルガの腹部へ一直線に向かう。しかし、あと少しで刺さるといったところで、ガキン!と金属がぶつかる音を立てて弾かれた。刃から柄へ、柄から手へとジンジンとした痺れが伝わってくる。
攻撃魔術から防御魔術に変更するのが速い。それとも、反撃が来るのを予想して予め予防策を張っていたか。どちらにしろ、並大抵の能力ではできない芸当だろう。副団長の名も伊達じゃない。
「…ったく、油断も隙もありゃしねぇ」
「それはこっちの台詞だ」
「あと数秒、魔術が完成するのが遅かったら、身体が真っ二つになってるところだったぞ。本気で殺す気かコノヤロー」
「感電と燃焼で殺す気だったのはそっちだろ」
「まさかそんな非道なこと、するはずないだろう? ちょーっと痺れて、ちょーっと火傷するくらいだろ」
「お前の“ちょっと”の基準がイカれてる。どこをどう見たら、あの威力が“ちょっと”で済まされるんだ」
「そりゃあ…“英雄”様の基準だろ?」
「ふざけるな」
もういい。話が通じない。こいつと話すといつもそうだ。訳の分からない方向へ会話が転がっていくのだから、疲れて仕方がない。
そういえば、リランと話している時も、おかしな方向に話が逸れてしまうことがあるが、不思議と彼女との会話に疲れることはない。同じような会話をしているのに、相手が違うとこうも感じ方が異なるのか。天真爛漫さと悪童の違いか。それとも幼い頃からの付き合いだからか。
戦闘中だというのに、ふとリランとエナーシャ様のことが気になりチラリと横目に場外へ視線を向ける。話はできたのだろうか?
そこには、阿呆みたいに口を半開きにしてエナーシャ様をガン見するリランと、頬を赤らめ両手を組んで必死な表情でリランを見つめているエナーシャ様がいた。
一体、何をどう話したらこんなカオスな状況になるのだろうか…?
「余所見してんじゃねぇぞ、英雄様!」
「うるさい黙れ消え失せろ」
「おいコラ待て。今の俺の言葉のどこが気に障って、そんな酷ぇこと言われなきゃならねぇんだよ。英雄呼びか?」
「お前の存在自体が気に障る。話し掛けるな」
「存在から否定されんの!?」
サネルガの奴が何事かを喚いているが、完全に無視することに決めた俺は、なかなか決着が着かないこの戦いを終わらせるべく、一度深く息を吸って自身を落ち着かせた。俺の雰囲気が変わったことを察したのか、ギャンギャン騒いでいたサネルガも口を閉じて真剣な眼差しになった。お互いが、次で決めると、そう思った瞬間だった。
「ごるぁ! 誰だぁ、訓練場を壊した奴はぁ!」
耳を劈くような怒声が響き渡った。鼓膜を破る勢いで空気がビリビリと震える。それまで張り詰めていた緊張感がパッと弾け飛んだ。未だに耳鳴りが治まらずキンキンと痛む頭を押さえながら、憤りの声を張り上げた人物の方へと目を向ける。この声の、これだけの声量が出せる人物は、俺の中では一人しか当て嵌まらない。
そこには、腰に手を当てて鬼の形相を顔に浮かび上がらせながら仁王立ちした、騎士団長がいた。俺の予想は大当たり。外れてほしかったという本音は隠しておこう。何せ、この人が絡むと碌な目に遭わなかったことがない。俺のトラブルメーカーだ。
ハゲたトラブルメーカーこと、俺の上司・騎士団長は怒気を孕んだままヅカヅカと訓練場を横断し、俺たちの傍まで歩いてきた。そしてそのまま無言のゲンコツを俺たちの頭に落とす。骨が砕けたのでは、と疑ってしまうほどの音が訓練場に響き、俺とサネルガは同時に蹲って頭を押さえる。グワングワンと目が回る。本当にカチ割れたのではないか、この痛さは尋常じゃあない。
「お前ら、手加減ってものを知らねぇのか。周りをよく見ろ。どこの戦場だここは? 大穴のある訓練場なんて聞いたことねぇぞ」
「それ、俺もアヴィストに言いました。でも全然加減してくれなかったんスよ。むしろ本気でこられたし」
「サネルガが逃げてばかりいるから、仕方なく」
「何気なく俺の責任にしてないか? 何が仕方なくだ。ただの訓練に本気を出す馬鹿はいないからな、普通」
「訓練に対して真剣に取り組まない腰抜けに言われたくない」
「おいアヴィストてめぇ。さっきから喧嘩売ってんのか。言い値で買うぞコラ」
「別に喧嘩を売ってる訳じゃない。事実を話してるだけだ」
「なんだと?」
「なんだ、やるのか?」
「いい加減にしろってんだ。二人とも同罪だ、同罪。血の気の多い奴らだな。訓練場をぶっ壊すなんて前代未聞だぞ。俺だってやったことねぇし」
呆れた声で、溜め息混じりに呟かれた言葉に、思わず顔を上げる。それはサネルガも同様だった。
「……おい、なんだその目は。その“心底驚きました”感満載の顔は」
「いえ…。普通に驚いています」
「団長、そんなに大人しくないでしょう」
「ほほぅ…?」
だって、あの団長だぞ。戦場でバッタバッタと魔物を倒しまくり、一人で敵を一掃する力を持っているという噂が騎士団の中で浸透しているのだ。実際にその姿を目にしたと証言した先輩団員は、あれはまさに鬼神だったと身を震わせた、そうな。何度も一緒に戦場に立つが、先陣切って戦う団長を見たことがない俺は、普段の団長の態度その他諸々を含めて、噂は本当だと思っている。だから訓練場に大穴の一つや二つ、作っていると勝手に想像していたのだが…。
なるほど人は思ったより羽目を外さないらしい、と一人感心していた俺は、ユラリと揺れる影に気づかなかった。
「……お前ら、俺のこと上司と思っていないだろう? 普段から薄々感じてはいたが、年長者に対する言動じゃあねぇぞ?」
「ん…?」
「取り敢えず、歯ぁ食い縛れよ」
黒いニッカリ笑顔を張り付けて、固く握り締めた拳が振り下ろされたのは、「よ」を言い終えるのとほぼ同時だった。歯を食い縛る準備時間すら与えられなかった俺たちは、再び悶絶することになった。
「手伝おうか?」
訓練場を使えなくした罰として、俺とサネルガは再生整備を命じられた。まぁ、壊したのは俺たちだから、それは自業自得で仕方のないことなのだが、あのゲンコツは罰にカウントされないのだろうか?
そんな疑問に頭を捻りつつも、せっせと訓練場を直している俺たちに、親切な声が掛かった。手を止めてそちらを振り向くと、そこにはコテンと首を傾げてこちらを窺う幼馴染みの姿があった。
「リラン…」
「まぁまぁ、派手にやらかしたねぇ。ボッコボコだよ」
ちょこんと俺の傍にしゃがみ込み、瞳にくるりと光を灯らせて、興味津々に亀裂やら断層やらが張り巡らされた訓練場を見つめている。「見るも無残な有り様ですなぁ」と変に感心しているリランを見て、先ほど気になったことを訊ねてみようと思った。
「なぁ、リラン」
「ん、何?」
「エナーシャ様と、どんな話をしたんだ?」
名前を呼べばパッとこちらを振り向く彼女に、心の内でホッと安心する自分がいた。そのことが気に掛かったが、それよりもあの妙な光景の方が気になり、すぐに忘れてしまった。
一瞬、怪訝そうな顔をしたリランだったが、すぐに思い当たったのか「あぁ~…あれね、あれ」と呟きながら目を泳がせ始めた。なかなか戻ってこない視線に、そんなに答えづらい質問だったか?と、不安を覚える。言いたくないなら言わなくていい、そこまで追求しようとは思っていない、と伝えようと口を開きかけた時。ウロウロと空中を彷徨っていた春色の瞳が俺を捉えた。
「女の子同士の秘密です」
語尾にハートが付くような声音でそう答えられた。胡散臭い笑顔と共に。
その瞬間、俺は自分の眉間にグワッと皺が寄るのを実感した。完全に誤魔化されている。誤魔化されているのだが、この顔はこれ以上何も教えてくれない時の顔だ。物凄く納得がいかないのだが、どう頑張っても目の前の彼女から情報を得られないことは、残念ながら過去の経験上知っている。そしてリランは俺がそのことを知っていることを知っている。だから、俺はこれ以上言葉を掛けられない。
ニコニコの笑顔のままのリランと、暫し無言のコミュニケーションタイムが始まる。まぁ、それも一分も経たずに俺が根負けして終わるのだが。
「……はあ」
「ゴメンね? プライバシーにも関わることなので、アヴィストにも教えられないの」
「お前がプライバシーという言葉とその意味について知っていることに驚いていいか?」
「え、ちょっと? それはあまりにも私に対する評価が低すぎない?」
「そうか?」
「まさか本気で言ってる、それ? え、ちょっとどころじゃなく結構心が抉れるんだけれど。グサリと胸に突き刺さったよ? てか、一周回って一体君の中の私はどれほど馬鹿なのか、逆に知りたくなってきたよ」
自身の胸に両手を当ててショックを受けたというリアクションを取ったのも束の間、すぐに恐る恐るといった様子でこちらを下から覗き込んで伺ってくるリラン。そのコロコロと変わる態度に、思わず吹き出しそうになる。やっぱり、リランと一緒にいると俺の感情はいろいろ引き出される。
口元に手の甲を当てて吹き出すのを堪えるが、喉の奥でクツクツと笑い声が鳴ってしまう。それをリランが胡乱げな瞳で、表情で見つめてくるのを肌で感じ取った。
「………直すの手伝おうと思ったけれど、やっぱ止めようかな」
「ゴメンて」
「えー…どうしよっかなー。リランさんのガラスのハートは傷つきました」
「ガラス? そんな繊細なハートじゃないだろう」
「あ! 今のは本当に傷ついた! 酷ぉい!」
眉尻を吊り上げ、バシバシと肩を叩いてくる。鍛えられ筋肉の付いた男の腕にとっては、女の細腕から繰り出される攻撃は些細なものにすぎない。軽くマッサージを受けているようなものだ。だから甘んじてそれを受け続ける。相手が気の知れたリランだから、というのもあるのだろうけど。
自分の攻撃がそれほど効果のないものだと気づいた彼女はある程度叩くと、両腕を胸の前で組んで今度はプックリと頬を膨らませて拗ね始めた。
「アヴィストの意地悪ぅ」
「許してくれ」
「嫌。許しません」
「今度何か奢るから」
「……許しません」
「王都で有名なスイーツ買ってやるよ」
「………………………………………………、許します」
スイーツで堕ちた。無言の時間が葛藤の時間だったのだろうけど、結局は好物に陥落した。ある意味、素直と言っていいのか。己の欲望には負けるリランが、ふと失った故郷を思い出させる。たしか、昔もこんな感じで不機嫌な幼馴染みを慰めていたような。あの時はおやつだったけど。少し懐かしくなる。
「アヴィスト、絶対だよ? 王都の有名スイーツ、買ってきてよ?」
「分かったよ」
「絶対の絶対だよ?」
「なんだよ、俺がそんなに信用できないのか?」
「別にそういうんじゃないんだけれど…」
右手を地面に翳して、掌からポゥ…と淡い光を放つリランが口籠る。普段、ハキハキと喋る彼女にしては歯切れが悪い。どうしたのだろうか?
「……私、気軽に出掛けられないし。王都の街ってどういうのかなぁ…とか、思ったり」
「……」
「まぁ、罪人がフラフラ出歩いてたら、街の人たちを不安がらせちゃうだろうしねぇ」
「そんなことはっ…、」
「私も歩いてるだけで石とか投げられたくないし。水くらいならいいけれど、魔術で乾かせるから」
あはは、と軽く笑うリランに、思わず言葉が詰まってしまう。掛ける言葉が見つからない。俺はリランのことを魔女騒動の罪人だとは思ったことがなく、むしろ被害者だと思っている。しかし、街の人はどうだろうか。街を壊し、国中を恐怖と混乱に陥れたのは、魔女に乗っ取られた“リラン”だ。国民の中では、その姿を見た者たちから「魔女=リラン」という認識が広がり、無意識下に植え付けられているはずだ。その中に何気ない顔をしてひょっこりリランが現れたらどうなるだろうか。そんなのいちいち考えなくても想像がつく。大混乱になり、挙げ句の果てにはリランに危害を加えようとする輩も出てくるだろう。いくら俺一人が声を張り上げて「違う」と叫んでも、きっと国民には届かない。不審な目を向けられるだけだろう。否定したくてもできない現実が目の前にある。
俺が傍にいて護ってやると言いたいところだが、俺にも仕事というものがあるし、俺一人では全ての悪意からリランを護り切ることは不可能だろう。一応サネルガが保護責任者兼監視役であるから、街に出る時は付き添いでいると思うが、それでも懸念は拭えない。
俺が言葉を紡げずにいると、それに気づいたリランはバシン!と俺の背中を叩く。
「なーに辛気臭い顔をしているの、英雄さん!」
「おい、それ…」
「確かに、王都の賑やかな街の中を歩けないのは残念だけれど。代わりにアヴィストが楽しんで来てよ」
「? どういう…」
リランの言っている意味がよく解らず、疑問を返す。そんな俺にニッコリといつもの笑顔を見せたリランは、一旦整備の手を止めて、その手を俺の方に差し出した。
「アヴィストが私の代わりになって王都を散策して来てよ。それで、見たこと、聞いたこと、楽しいと感じたこと、面白いと思ったこと、全部教えて?」
「リランの代わりに…」
「そうそう。楽しみにしてるからね!」
そう言って、半ば無理やり俺の手を取って握手をした。ブンブン振ってくるこの強さは、相変わらずだ。
「スイーツ、忘れないでね!!」
「あぁ」
念押しとばかりに真剣な表情で伝えてくるリランに、思わず苦笑する。
「魔女を倒したら、一緒に街を歩こうな」
俺がリランの好みのものを選んで来るより、自分で見て気に入ったものを買った方がいいだろう。街の賑やかさも雰囲気も実際に見聞きして感じた方が、きっと話を聞くだけより楽しいはずだ。
魔女を討伐できたら恐らくリランの冤罪も晴れ、街を歩くこともできるのではないか。そう思って、提案してみた。リランも賛成してくれると、目を輝かせて嬉しそうに笑ってくれると。
だけど。
リランはただ、笑っているだけだった。
いつもの微笑みを浮かべて。
それが俺の言葉に対する答えで、俺はその笑みが同意の意味を持っているものであると理解した。
言葉にしなくても、昔から知っている幼馴染みの態度や表情から、感じ取れると俺は信じていた。
それが過信であると、己の鈍感さに、気づくことなく。




