表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編 いろいろ

約束は破るためにある。

フラウの蟇蛙。と呼ばれる令嬢が居る。その姿、まこと見るに堪えず、醜悪。ぶよぶよと醜い脂肪を纏い、皮膚は弛み段を重ね、常に汗を掻き、目は虚ろ。汗で張り付いた髪は風に攫われることもなく、てらてらと鈍く光を反射する。自ら歩くことすらままならず、常に車輪をつけた椅子を従者に押させている。


「では、契約を確認致します。

一つ、夫婦は白い結婚である。互いに干渉せず、求めず、自由であること。

一つ、お互いパートナーが現れた際は、これを認め、第二夫人、愛人とする。

一つ、第二夫人との子を跡継ぎとする。

一つ、サリア様は内政、ないしは領内のあらゆる権限をゲルド様へ譲渡する。

一つ、それにあたり、ゲルド様はサリア様から求められた金銭その他生活を保証する。

以上でよろしいですね?」


明るく輝くテラス。美しく整えられた庭。今日を祝福するような快晴。そして、呪われたような目の前の女。今日、俺はこの醜い蟇蛙と結婚する。式は挙げない。書類だけの結婚。この醜い女は、王家に次ぐ権力を持った公爵家の娘。俺は、その娘を国王様から押しつけられた。眩暈がした。国の為に尽くしてきた。命をかけて戦ったことも、数え切れないほどある。それなのに、この仕打ちか。騎士団長としての俺と、目の前の女は同格だと。ああ、本当に。


「勿論。」


「…構わない。」


逆らえない国王様への抵抗として論えた、契約。それを送りつけて尚、更にこちらに利がある条件を添えられ、結婚は決まってしまった。ただ一言発することすら出来ないのか、指を動かし、控えている従者が応える始末。その間も、本人は大量の汗を掻き、肩で息をしている。


「では、これにて、夫婦と相成りました。おめでとうございます。」


棒読みで言祝がれ、書類は神官の手で神殿へ運ばれていった。残されたのは、夫婦になった俺達と、互いの従者。


「やった…ついにやった…。」


何を言うべきか、これからの生活を思うと、既に億劫になっている。そんな俺の耳に、聞いたことの無い女の声がした。…誰だ?ここには男しかいない。サリア嬢は、声帯が病気により潰れていて声が出ないはずだ。


「いいいいいやっほおおおおお!!!!」


ガタン!と音を立てて倒れる椅子と、勢い良く立ち上がったのは、サリア嬢。驚き、呆然と見つめてしまう。た、立てるのか?歩けないのでは?そもそも、今喋ったか?


「ほら見ろジェイス!だから言った通りだったろ!どんな不良債権だろうと、金と権力が欲しい奴はいるんだよ!買い手がつく市場で我を通すなんざ朝飯前!」


令嬢とは思えない口の悪さで、鈴を転がすような笑い声がする。見た目と声の差について行けない。


「ちっ、仕方がありませんね。賭けはお嬢様の勝ちです。」


「ふふーん!じゃあ、三日後の建国祭はジェイスのおごり!」


「了解しました。」


唖然としている俺に、ぐるんっと勢い良くサリア嬢が振り返る。そのまま指を鳴らすと、蟇蛙がかき消えた。


「じゃあ、旦那様。後はよろしくお願いします。私は離れに住みますので、お構いなく。」


現れたのは、黒く艶のある髪を靡かせ、アメジストの瞳を輝かせて笑う、女。ジェイスと呼ばれた従者すら、霧のようにかき消え、身なりの良い侍女になってしまった。


「はっ、え?」


「ひゃほーっ!自由だぁあ!独身貴族を謳歌できないと知った時は泣きそうだったけど、諦めなくて偉かった私っ!魔法様々!わーいっ!」


「お嬢様、そろそろ下町のパンが焼き上がる時間です。急がねば。」


「はっ!売り切れる!旦那様、いってきます!」


嵐のように輝く笑顔を振りまきながら、サリア嬢とジェイスは走り出して。


「ゲルド様、一つ、よろしいでしょうか。」


「…なんだ。」


「初恋は叶わないモノらしいですよ。」


「…うるせぇ。」


じわじわと熱の集まる顔に、手を当てて空を仰ぐ。ああ、くそっ。とりあえず、今出たばかりの神官を捕まえて、書類を破棄させるところからだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 刺激的なタイトルに惹かれ拝読しました。 サリア嬢策士ですね。 ゲルドも心を入れ替えればチャンスはある…かも?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ