火の種
三ヶ月後の十一月になると彼女は私に連絡を取り、私が彼女がいつも使っているスタジオに向かった。彼女のマネージャーと私や彼女のバンドメンバー三人は、彼女の最初のアイディアを聴くだろうと予感していた。そして実際に彼女は、新たなサウンドプロダクトを開発し、みんなの前で実践してみせた。
暗闇の中で熾る火たちのように、彼女のギターはこの部屋の全てになった。風が吹いたときに形を変える焚き火、ときに柔らかく、ときにはひゅるひゅると空に立ち上っていく。煙のように静かに私たちの耳に吸い込まれていき、新しいメロディが新しい歌を口ずさむ。それからみんなで口ずさむ。その一つ一つの和音には、新しい音楽の種がぎっしりと詰まっていた。その種は、それぞれの土壌に埋め込まれ、健やかな成長を今か今かと待ち望んでいた。そして小さな恵の雨が降った。種子は、芽吹き、急速な成長を遂げて果実をつけた。その一つ一つは、はじめにはなかったものだ。しかし今はある。
彼ら(ボーカルピアノ、ベース、ドラマー)たちは、それぞれの担当楽器を持ち、そのプロダクトが最も有効に響く場所を探し当て、より大きな成長を望んだ。植物たちが太陽に向かってその芽を傾けるように。
私たちは、その姿を最初に見た誰かだ。私は言葉にかきつけ、彼女のマネージャーはなかば放心状態(あとで聞くと泣きそうになるほど喜んだ)にあった。そして彼女たちはそれらの現象の、常に一番手を担っていた。 そして彼女たちが熾した火は、重厚な雪がどっさり落ちて消えたりはしないし、吹雪によって飛ばされたりはしない。あらゆる不安の姿形をした野生の狼たちを遠ざける旅人たちにとってのまさに生命線。火の種だった。