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夏のホラー 短編

扉を開けると

作者: 空色
掲載日:2019/08/18

初投稿です。楽しんで頂ければ幸いです。

 それは私が10歳になる年の出来事だ。


 私は小さな村の出身だった。当然娯楽施設などはなく、遊びと言えば山で昆虫採集をしたり、川に行って釣りをしたりと山や川など自然が遊び場だった。

 そんな辺鄙な村で唯一異質なものがあるとすれば、少し村から離れた山の奥まった所にある洋館だろうか。なんでも病院として昭和初期に建てられたものらしい。理由は不明だが建てられて直ぐに閉院したそうだ。


「なあ、肝試しやろうぜ」


 その日も数人の友人と集まって山や川て遊んでいると友人の一人が思い付きでそんな事を言った。

 季節は夏休みの真っ只中、テレビでも怪奇特番がよく放映されていたから影響を受けたのだろう。


「いいな! 寺の墓地でやるか? それとも神社?」 

「えぇー違う所でやりたい!!」


 時折、村の夏祭りで数人が集まって寺や神社で肝試しをするイベント自体はあった。その時は手入れのされていない山の中は危険という事で大抵寺か神社で行っていた。


「違う場所?」


 私が尋ねるとその友人はニッと笑って「()()()」と言った。


「廃病院? あそこは建物が古くて危ないから入っちゃダメって父ちゃんが言ってたよ」

「うちの母ちゃんも言ってた。……でも、そっちの方が面白そうじゃん!」


 友人の一人が乗り気だと分かるとあっという間に決まってしまった。私も正直興味はあった。親に秘密で夜にこっそり抜け出し肝試しをするという行為そのものが子供達の好奇心を掻き立てたのだ。

 肝試しの内容は廃病院の中に予め蝋燭を置いておき、その蝋燭に火を灯して戻ってくるというものだった。


「明るいうちに蝋燭を置いて来よう」


 下調べも兼ねて蝋燭とマッチを持って友人数人と廃病院へ向かった。

 鬱蒼とした木々を背後に建つその廃病院は、木造の二階建の洋館でT字型している。昭和初期に建てられたものとは思えないほど不思議と外観は綺麗なままだった。

 木造のステンドグラスが嵌められた扉を開くとギギィと鈍い音が響いて、大量の埃が舞った。


「うわぁー雰囲気あるなぁ! 本当になんか出そう」


 元は病院の受付だったのだろう。小さな窓口と埃と蜘蛛の巣にまみれた2対の長椅子が並んでいた。


「こっちは診察室かな?」


 友人達と中にずんずんと入って行くと奥に二つ小部屋があった。小部屋のドアを開けると後ろからバキッと木の割れる音がした。


「!?」


 私達は驚いて後ろを振り返った。


「うっわぁ! 床が抜けた!」


 後ろには片足を床に突っ込んだ状態で慌てる友人がいた。大きな音は床を踏み抜いた音だったらしい。私達はほっと胸を撫でおろした。

 それから小部屋を覗いたりしていたが、友人が床を踏み抜いた事以外は何も無く、当初の予定通り蝋燭を置いて帰ることにした。その頃には空は夕日で真っ赤に染まっていた。


「なんか拍子抜けだな」

「なんか出るかと思ったのに」


 他愛ない話をしながら、私達は道を下り家路を歩いていた。


「!」


 ふと、ポケットに手を入れると家の鍵が無いことに私は気がついた。


 ──廃病院に行く前には確かにポケットの中に入っていたのに!


 当時、私の両親は共働きで家に帰るのが遅かったのに加え、祖母が入院中で母は祖母の病院にも顔を出していた。その為、私が帰る時間に家には誰も居らず、私はいわゆる鍵っ子というやつだった。 


「僕、鍵落としたみたい」

「何処で落としたかわかるか?」

「多分……廃病院。大丈夫! さっきも何も無かったし、探してくるから先に帰ってて!」

「一緒に行かなくて大丈夫?」


 友人の一人は心配してくれたが、迷惑をかけたくなくて「大丈夫!」と言って急いで廃病院へ向かった。

 昼間見た光景と違い、真っ赤な夕日をバックにした廃病院はやたらと不気味だった。

 ゆっくりとステンドグラスの嵌められた扉を開くとちょうど入り口の近くに鍵が落ちていた。思いの外早く見つかった事に私は安堵して扉の隙間から鍵に手を伸ばした。そして気付いてしまった。

 昼間は埃や塵、蜘蛛の巣だらけだったはずの床が綺麗な事に。恐る恐る顔を挙げると、やはり長椅子も綺麗な状態でその一番端に水色のワンピースを着た髪の長い女が座っている。


「!」


 私は恐ろしくなって急いで鍵を掴んだ。


 ──カシャリ。


 鍵を掴むとキーホルダーと鍵が擦れて音が鳴った。女の方を見ると女がゆっくりとこちらを向く。

 女の顔を見た瞬間、私はその場から急いで山を下った。ひたすらガムシャラに走って家に帰り頭から布団を被ってガクガクと震えていた。


「大丈夫かい? どうしたんだい?」


 心配する祖母の声が布団の上から聞こえたが、私は恐ろしくてその夜は布団から出ることが出来ず、そのまま母に起こされるまで気絶する様に眠ってしまっていた。


 ──私が見た恐ろしいもの。それは振り向いた女の顔でその顔は青白く、眼は真っ黒な空洞が開いているだけだったのだ。


 翌朝、友人達によると抜け出そうとしたところを親たちに見つかって、こってりと絞られ肝試しどころでは無かったらしい。

 その後、暫くして父親の転勤が決まり、私は別の町に引っ越した。

 あれから30年近く経つが、風の噂であの廃病院が民宿として建て替えられる事を知った。そもそもあの廃病院は歯科医院で()()()()()()と言うことは無かったらしい。


 ──では、私が見たあの女は何だったのだろうか?


 そして、もう一つ──

 あの当時、私の母は()()()()()()の祖母を見舞う為何時も帰りが遅かった。祖母は入院しており、家には居なかったのだ。

 あの日、私が聞いた祖母の声は何だったのだろか。




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