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めーでーめーでー
こちらイルカ。こちらイルカ。
今、クジラとお祭りにきてるの。
いや、自分でも何言ってるのかさっぱりだけど、ここ大量殺戮現場じゃなかった。
普通のお祭りだった。
さらに言うならこれが勇者感謝祭みたいな僕らがまったくにあわない祭りであることが衝撃の大きさを増やしてくる。
あれ? 魔族のクジラさん…だよね?
今僕の横を歩いているクジラは人間のように肌が白くていつもの刺青やツノやミニ羽がない。
え? クジラだよね?
「えぇ、ねえ? く……クジラ?」
「なんだイルカ。食いてぇもんがあったか。言ってみろ」
「あ、わたあめ……じゃなくて!こ……ここ人間の町っていうかクジラその姿……」
クジラは人間の見た目でもイケてるめんずだった。
青い目を大きく丸くしてから、彼はフッと笑う。
やべえ、いけめんってすげぇ。
「この姿か? 擬態だ。ぎ・た・い、高位の魔族ならみんなできるぞ。で? あ、わたあめか。ちょっと待ってろ今作ってくる」
擬態…魔族すごいな。あれ? みんなもできるの? 今度やって見せてもらおうかな。
って…。
「わたあめ作るの? 売ってるよ?」
体験型とかどこかでやっていたのだろうか。
「あ゛? ……あぁーそっかお前人間だったなぁそういえば、人間のはらわたのあめ漬けなんて食えねーやな」
「うわ、何その趣味の悪い食べ物。…今度作ってるとこ見せて」
というか、僕が人間だって、忘れていたのかこの男。
「うん、でここに何しにきたのさ。観光?」
今の物騒な発言から考えてただの見物にきたわけではない気がする。
でももしかしたら、文化の差なだけかもしれない。
人間だって魔物、食べるもんな。
僕は基本、動物しか食べないけど。
そうそうこの世界動物がいる。
普通、魔物が動物の代わりにうようよしているのが異世界だと思っていたが、あらまびっくり。
動物が進化すると魔物になるらしい。
必要アイテムは魔素なんだって、人間には感じない謎の力なので僕にあまり実感はない。
魔法? 呪文唱えてイメージするだけで、魔素なんてわからないよ?
あ、でも進化っていうより変態っていうんだっけ? 前世の学校で習った気がする。
それはともかく今はこのおっかなびっくりな保護者との会話だ。
「あー。今度この町破壊するからその下見ついでだ。まさかこんな最低な祭りやってるなんて思わなかったけどなぁ」
やっぱり魔族が勇者感謝祭に出るのは嫌だったらしい。僕も人間だけど嫌だ。だって、勇者が強くなって崇め奉られているのは、
僕の家族もしくは友人が殺されているせいだからな。
その当時の魔王や魔物と知り合いって訳ではないのだけど、なんとなく嫌な気分になる。
この町破壊、僕もできるといいなぁ。
まあ他の人たちが強すぎて、僕なんてそこらのゴミ漁りしかできないのだろうけど。
「あ、見てクジラ〜。あの人間。美人さんだねぇ。ほらこっち向いた。ふぁー」
感嘆をあげつつクジラに聞く。
「あの人、美味しそう?」
僕は食べないけど、他の幹部のお土産にはちょうどいいかもしれない。暴食のタチウオなら美味しくいただけそうだと思う。
ちなみに美人が美味しいっていうのは僕の単なる偏見である。
もしかしたら、よく肥えた人間の方が美味しいのかもしれない、見た目的にアブラギッシュなので不味そうだけど。
「あー、うん。土産は止めような。ほら、こっちの奴らに感づかれても困るし、あれ、聖女だから、きっと不味い」
え、聖女?
聖女ってしすたーとかそんなやつ?神聖な女性ってこと?色気たっぷりな美人のおねーさんでなくて?
「えぇ? 居酒屋の看板娘とか、バーのおねぇさまとかじゃなくて?」
隣で何も口にしていなかったはずのクジラが、確かに。
むせた。
……もしかして僕に内緒でポテリングでも食べたの?
ずるい、僕も食べたかった。