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28. 新パーティ結成

「しかし、アレだな」

 晴れてパーティとなったサラ、ロイ、グランの三人を見て、ゴルドは首を傾けた。

「魔術師三人とは、異様にバランスが悪いな」

「「「あ」」」

 三人は顔を見合わせた。

「わ、私一応、拳で語れます!」

「俺も、剣術なら少々」

「ワシも若い頃は弓ぐらい使えたが……」

 うーん、と三人は考え込んだ。

 このメンバーであれば、魔術師だけのパーティというのも無くはないのだが、接近戦に持ち込まれたり、魔力切れを起こした場合を考えると不安が残る。

「あ、でもグラン先生はSSランク冒険者だし、三人でも何とかならないか?」

「確かに元SSランク冒険者だが、すっかり年をとって、今はせいぜいSランク程度だぞ?」

「「「うーん」」」

 いきなり、つまずいた。

 その様子に、ゴルドは超低音で「ふはははは」と不気味に笑った。

「ま、魔王!?」

「誰が魔王だ、小僧!」

 怯えるロイに、魔王よりも恐ろしい顔でゴルドが吼えた。

「どうかなさったんですか、お父様。顔が恐いです」

「うむ」

 ゴルドはサラを見て一旦頷くと、前触れもなく転移した。

「何処へ行く気だ。アマネ」

「お花摘みです。離してください。ゴルド様」

 客間から忍び足で出て行こうとしていたアマネを、ゴルドはひょいと肩に担いだ。ちなみに、「お花摘みに行く」とは「トイレに行く」という意味である。

「降ろしてください、ゴルド様! 大きい方です! 責任とれるんですか!?」

「ふざけていると、故郷に返すぞ」

「引っ込みました」

「言葉遣いを何とかしろ!」

「要求が多すぎます! ゴルド様!」

 ゴルドはアマネをサラ達の元へ運ぶと、ストン、と降ろした。逃走防止のため、アマネの頭を掴んでいる。

「サラ。アマネは『鬼』として修業を積んでいる。その辺の武闘家よりも役に立つはずだ。連れていけ」

「「ええええええ!」」

 サラとアマネが同時に叫んだ。

「嫌です、旦那様!」

「嫌なら、テスの元で一から修行のやり直しだが?」

「サラ様! お供します!」

「「ええええええ!?」」

 アマネの変わり身の早さに、サラとロイが同時にうろたえた。

「二言はないな、アマネ」

 ゴルドはアマネをジロリと睨んだ。実は、卒業祝いのあった日から、ゴルドはゴルドなりにサラのパーティについて熟考していたのだ。花も恥じらう可憐な娘を、男ばかりのパーティに放り込むことなど考えたくもない。ゴルドは、『鬼』から女性を選出することにした。そこでテスと相談した結果、アマネに白羽の矢が立ったのだ。シズが存命であれば、間違いなくシズが適任であろうが、アマネもそこそこ優秀なのである。何より、サラが気を遣わずに済むというのが、一番大きい。尤も、アマネがサラに気を遣わないところは大問題であるのだが。

「二言が許されるのですか?」

「許さん」

「じゃあ、ありません。サラ様。さっさとSランクになりましょう!」

 アマネは急にやる気満々だ。本当にさっさと終わらせてしまいたいのだろう。

「え、えええええ? お父様、『鬼』が冒険者など、いいのですか!?」

 サラはあまりの急展開に動揺している。

 つい先ほどまで、悩みに悩んで、最終的に「一人で冒険者やります」とまで思い詰めていたはずが、立て続けに仲間が増えている。目標としていた五人パーティまであと一人だ。

「構わん。もう一人も『鬼』から選出した」

「もう一人!?」

 どうやら、ゴルドの中では既に決まっていたらしい。ロイやグランはもちろんのこと、アマネも目をぱちぱちと瞬かせているところを見ると、全員初耳のようだ。

「『鬼』からということは、シユウですか?」

「いや。シユウは別の国で任務中だ。もっと適任者を用意した」

 ゴルドの言葉に、アマネがびくっと反応した。何処か隠れられる場所はないかと、キョロキョロと挙動不審に辺りを見回し、グランのマントに隠れた。

「え!? 自由すぎないか、アマネ!」

 微動だにしないグランの代わりに、ロイが突っ込んだ。アマネはロイの周りにはいないタイプだった。ゴルドとサラも目を丸くしているところを見ると、誰の周りにもいないタイプらしい。……先行きが不安だ。

「お、お父様。もう一人の方は、今ここにいらっしゃるのですか?」

 気を取り直して、サラがゴルドに尋ねた。「ああ」とゴルドは頷いた。

「今から呼ぶが、気に入らなければ遠慮なく断って構わん。サラのパーティだからな」

「……はい。お気遣いをありがとうございます。お父様」

 サラは少し顔を曇らせた。ロイとアマネとは気心が知れている。グランにはこれまで何度も世話になっている上に、リーンの関係者だ。ある意味、サラの信頼できる者だけで固めたパーティの中に、見知らぬ者が加わるのだ。上手くまとめていけるか不安だった。

「サラ」

「ロイ……うん。迷ってる場合じゃないよね」

 心配そうにサラを見つめるロイに頷いて、サラは父に向き直った。

「お父様、お願いします」

「うむ」

 ゴルドは何もない空間を見据えて、パーティ候補者の名を呼んだ。


「シグレ」

「はっ」


 サラ達の目の前に、一人の男が姿を現した。


「!?」

 サラはその姿を見て言葉を失った。

 男は背が高く筋骨隆々であるが、美しい立ち姿と涼し気な眼差しのせいか、忍びというより、凛とした武士を思わせる美丈夫であった。その整った顔立ちに、サラは見覚えがあった。

「…………シズ」

 ぽつり、とサラは呟いた。男は目元だけ、ふっと優しくなった。

「シズは、私の妹です」

 男はゆっくりとサラに近づくと、片膝をついた。サラの胸が、トクン、と高鳴る。

「お初にお目にかかります、サラ様。私は、シグレと申します。以後、お見知りおきを」

(ああ、声まで似ている)

「シグレ……シズの、お兄さん?」

「はい」

「シズの、お兄さん……!」

 サラは、シズに兄がいることを知らなかった。シズと一緒にいた時間の短さを改めて思い知らされた気がした。

 シグレは20代後半に見えるが、シズの兄であれば30代以上であろう。

(シズを失った時、どれ程辛かっただろう)

 サラは、知らず知らず唇を噛みしめて涙を堪えていた。

「シグレは、テスの後継者候補だ。無口で不愛想な性質だが、腕は俺とアイザックが保証する。パーティを組むかどうかは、少し行動を共にし……」

「決めました」

「ん?」

「決めました! シグレさん! 不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします!」

「速攻か!?」

 驚く父には目もくれず、サラは涙を溜めて、シグレの手をとった。今まで出会った誰よりも大きくて、温かい手だった。その眼差しと温もりが、シズを彷彿とさせた。

「……シズ……!」

 堪えきれず、嗚咽が漏れる。

「サラ様」

 表情を変えぬまま、シグレはサラの両手を大きな手の平に包み込んだ。

「妹を、忘れずにいてくださり、感謝いたします」

「……! ぅぐう! シズ! シズ! うわああああああん!」

 サラはシグレの太い首に飛びついた。シグレは無表情のまま、サラにされるがままになっている。

「……決まりだな」

 目頭が熱くなるのを誤魔化す様に、ゴルドは髪をかき上げた。


 ゴルドに言われるまでも無く、シズとよく似た日本人っぽい顔立ちと、物静かで、知的マッチョなシグレにサラ(もといマシロ)は即落ちであった。


 パーティ名は決まっていない。

 が、ようやくメンバーが揃った。


 泣き虫Cランク冒険者『聖女』サラ。

 サラを温かい目で見つめる元SSランク冒険者『大賢者』グラン。

 初対面の男に抱きついて涙を流すサラに慌てる新米冒険者『闇の精霊使い』ロイ。

 グランのマントの中で「うわあ。よりによってシグレ兄様!」と唸る新米冒険者『鬼っ娘』アマネ。

 シグレを良く知る者が見れば驚くほど困惑しているのが分かるのだが、無表情のままサラに抱きつかれている新米冒険者『鬼の後継者』シグレ。


 Fランク冒険者から始めなければならない者が三人もいるため、パーティランクもFからとなるが、大した問題ではないだろう。


 こうしてゴルドが見守る中、実力だけならとっくにSランクパーティが誕生した。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!


今回は新キャラ登場の回でしたが、アマネが自由すぎて記憶に残らないですね。

すまぬ、グレ兄。


今日は、「ヴァイオレットエヴァーガーデン 外伝」を観てきました。

恥ずかしながら、全く予備知識が無かったのですが、とても美しく、優しい映画で感動しました。

良いものを観られて幸せです!


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