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27. 旅の仲間

「お願いします!」

「ごめんなさい!」

 何度目のやり取りだろうか。


 卒業式から1週間あまり、サラは毎日知り合いの元を訪ね回っていた。「パーティを組んでいただけないでしょうか」「今ならチュール触り放題!」「何と! ケンタウロスに乗れちゃうよ」「ミノタウロスの乳とコカトリスの卵で作った絶品プリンはいかが?」等々、あの手この手で仲間に引き入れようと画策するも、全て断られてしまった。

 やはり、サラが規格外すぎることに加え、Aランクパーティである『紅の鹿』が断ったことが大きかった。

 『梟』の長として激務をこなすパルマや、『王子』として成長していくことを誓ったユーティスは諦めた。

『勇者』として成長途中のカイトとは、『魔王の森』事件のようなことが起こる可能性があるためパーティは組めない。ゲームではカイトと問題なく組めていたはずなので、内面的な成長が遅れたことが原因だとサラは考えていた。

 ちなみに、ゲームで最終的に魔王を倒す勇者パーティは、カイト、サラ、パルマ、ユーティス、ティアナの五人組か、もしくはカイト、サラ、リーンの三人組である。

 カイトは現在、従者のアラミスと共に世界中を旅している。『魔王の森』事件から人が変わった様に勉強に打ち込み、内面的に著しい成長を見せていると、国王ノーリスが教えてくれた。

 本当の『勇者』になる日も近いだろう。

 それまでは、パーティを組むのはお預けだ。


 そうなると、サラと組めそうな者は限られてくる。


 一応、サラは最終手段として考えている人はいるのだが、断られた時を想像しただけでショックが大きすぎたため、声をかけられずにいた。


「ううう。もう、いい。私、一人で冒険者やりますよぅ」

 昼下がりの武器屋で、サラはいじけていた。

「俺が組めれば良かったんだが……客が世界中にいる。すまない、サラ」

 リュークが申し訳なさそうに、机に突っ伏したサラの頭を撫でた。すっかりリュークの飼い猫となったチュール達が、ペロペロとサラの手を舐めている。慰めてくれているのだろう。

「いいもん。私、一人だけど一人じゃないもん。チュールもケンタウロスもミノタウロスもグリフォンもコカトリスもドラゴンもエロフもいるもん。召喚すればいいんだもん」

「……俺と父さんとリーンを数に入れないでくれ」

「あはは! 僕、テイムされた覚えはないけど、呼ばれたら飛んでくよ!」

 ケラケラとリーンが笑う。

 ふと、サラは気になって顔を上げた。

「そういえば、リーンっていつも何してるの?」

「「え?」」

 リーンとリュークが揃ってポカンと口を開けた。

「今更だな」

「今更だねぇ」

「うっ……何かごめんなさい。だって、リーンって『S会』の皆と遊んでるイメージしかないんだもん」

「あ、その通りです」

「否定せんのかーい! ……はぁ」

 お約束通り突っ込んで、再びサラは突っ伏した。

「はぁ。忙しい皆には断られ、暇人のリーンとは組めない」

「暇人って! 僕、これでも忙しいんだよ!?」

「遊んでるのに?」

「遊びは人生を豊かにするための活力だよ。僕、皆の見てないところで大活躍なんだからね!」

「……そうですね……はぁ」

「うわっ。サラちゃん、会話が雑だよぅ……」

「今はそっとしてやれ」

 少し涙目のリーンにリュークが紅茶を差し出した。その時、ガランガランと呼び鈴が鳴って、アマネが姿を現した。メイド姿がすっかり板についている。

「あ! やっぱりここに居ましたね。サラ様」

「あ、アマネちゃん久しぶり!」

「紅茶飲むか?」

 リーンとリュークが笑顔で招き入れる。アマネのことは今のサラと同じくらいの頃から見てきたため、親戚の子供が遊びに来た気分になるのだ。「まあ、すっかりお姉ちゃんになって」と言い出しかねない勢いである。

「お久しぶりです。リーン様、リューク様。サラ様をほっといてサボりたい気持ちでいっぱいですけど、仕事中です。サラ様、お客様ですよ。早く帰ってもらわないとゴルド様に叱られますよ、私が。さあ、帰りましょう」

 そう言いながら、ちゃっかりアマネはリーンの紅茶を奪って飲んだ。

「熱いです。クッキーはどこですか?」

「サボる気満々じゃないか!」

「マイペースだねぇ、君!」

 苦笑しながら、面倒見の良い大人達は色んな所からお菓子を出し始めた。それを遠慮なくアマネは頬張る。小さなジーク(腹ペコおじさん)である。

「……ん……お客様?」

 だるそうに髪をかき上げながら、サラが顔を上げた。

「あ、この丸いお菓子好き……あ、お客様が来てるので、早く帰ってください。私もう少し食べてから行くので」

 『S会』の新商品『ひと夏の恋☆甘夏のマカロン』をもぐもぐしながら、アマネはサラに手を振った。

「えええええ!? アマネ、私の護衛じゃないの!?」

「安心してください。ケンタウロスに乗った女を襲う輩はこの町にはいません」

「いやいや、そういうことじゃないでしょ! 早く帰るわよ、一緒に!」

「えー」

「えー、じゃない! リューク、リーン。お邪魔しました! ほら、アマネ! テスに言いつけるわよ!」

「ちっ」

「舌打ちすなー!」

 何やかんやで、アマネのお陰で元気を取り戻したサラは、アマネの腕を掴んで外に出ると、ケンタウロスのケンタロウと共に自宅へと転移していった。

「わはは! 女の子同士の会話は賑やかでいいねえ!」

「……あれは一般的なのか?」

「んー。どうだろう」

「サラに客だと言っていたが、『彼ら』か?」

「たぶんね」

 リュークの問いに、リーンがニヤリと笑った。

「ふっふー。僕だって、ちゃんと仕事してるんだから。僕からの卒業祝いだよ、サラちゃん!」



 自宅前に転移して、ケンタロウを豪華な納屋まで見送ると、サラはアマネと共に急いで客間へと向かった。幸い正装に近い服装であったため、髪の乱れを整え、裾が上がっていないかだけをチェックして、客間の扉をノックした。

「サラでございます」

「入れ」

 中からゴルドの低い声がした。

「失礼します…………あっ」

 扉を開けた先に居たのは、サラが声をかけたくて、かけられなかった人だった。

「お久しぶりです。サラ様」

 その人は、ゆっくりと振り返ると、右手を胸に、左手を腰に回し、微笑みながら一礼した。

 白い肌に、ビロードの様に艶めく黒髪。紅い唇が艶めかしい、20代半ばに見える青年。

「…………」

 サラは扉に手をかけたまま、時を忘れてその人の一挙一動に見惚れていた。

「……サラ様?」

  その人が首を傾げると、長い前髪がふわっと頬にかかり、何とも言えない色香を放つ。

「……ロイ……?」

「はい。サラ様」

「ロイ」

「はい」

「ロイー!」

 サラは客間に飛び込むと、可憐な少女とは思えない跳躍でロイに飛び掛かった。

「うわあああああん! 会いたかった、ロイー!」

「うっく! 予想より激しい! そして苦しい、サラ!」

 サラにマウントポジションをとられ、ロイは呻いた。喜んでくれたのは嬉しいが、手荒い歓迎である。

「サラ! はしたない! 離れろ!」

 目を白黒させたゴルドが伯爵とは思えない跳躍でサラの後ろに回ると、サラの腰に手をかけそのまま上に引きはがし、肩に担いだ。

「ひゃああ! 苦しい! お父様!」

「えっ!? ちょっと、それはゴルド伯爵……!」

「やかましい! 小僧!」

 サラを仰向けの状態で肩に担いだままロイから距離を取ると、ゴルドはサラを降ろした。

「娘に触れることは断じて許さん!」

「ええっ!?」

 ガーンと背景に効果音が付きそうな顔で、ロイが床に手をついた。

 温和なエドワードの元で貴族としての所作を学んだロイからすると、脳筋伯爵父娘のやり取りは理解を超えていた。

「これが、上級貴族………!」

「いやいや、この父娘がおかしいだけだ」

 壁際で三人の様子を無言で見守っていた老エルフが、すっと前へ出た。このままでは話が進まん、と判断したのだ。

「サラ殿。ちゃんとお会いするのは初めてですかな?」

「え……と。あ、大賢者グラン様! リーンの師匠の!」

 サラは手をポン、と叩いた。

「いえ。気持ちは分かりますが、私がリーン師匠の弟子です」

「さぞ、苦労なさったことでしょう」

「サラ……様! そこはホロリとするところではありませんよ」

「だって、リーンの弟子とか……泣ける」

 サラの頭の中のリーンは、一言で表現すると「てへぺろ!」という感じだ。

「あれでも、やれば出来る方なんですよ。面倒見もいいんです」

 グランは苦笑したが、実際に泣けるほど苦労したので否定はしない。


「サラ。今日はグラン様とロイから話があるそうだ」

 ゴルドが本題を切り出した。娘の醜態に我を忘れていたが、目上の立場にあるグランの前であることを思い出し、ゴルドは冷静さを取り戻した。ちなみに、我を忘れていた間のことはよく覚えていない。サラが感情が高ぶると記憶が飛ぶのは、完全に父譲りである。


「お話、ですか?」

 サラは改めて、ロイとグランを見た。ロイは立ち上がると身なりを整え、にっこりと微笑んだ。

「サラ様、ご卒業おめでとうございます」

「ありがとうございます!」

 サラも応えるように笑顔になった。

「実は、サラ様が困っていると師匠から聞きましてな」

「リーンから?」

「はい」

 きょとん、と首を傾げるサラに、グランに代わってロイが言葉を続けた。


「サラ様」

 ロイは片膝をつくと、すっと右手を差し出した。まるで、プロポーズの様に。

「私達をパーティに入れてください」


 それは、サラが一番欲しい言葉だった。


「……うっ」

 サラは、胸の奥が熱くなるのを抑えることが出来なかった。大粒の涙が頬を濡らす。

「……はい。喜んで!」


 サラは迷わずロイの手を取った。


 こうして、『闇の精霊使い』ロイと『大賢者』グランが仲間になった。



ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!


『旅の仲間』と言えば、『ロード・オブ・ザ・リング』ですよね。

映画に出てきたエルフ王子レゴラスの衝撃は忘れられません。

映画のレゴラスは真面目で賢そうでしたけど、原作のレゴラスは自由でお茶目だった気がします。

たぶん、リーンのモデルはレゴラスです(笑)


さて、ロイとグランが仲間になり、魔法使い三人チームになってしまいました。

バランス悪っ!

というわけで、次回は新キャラが登場予定です。

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