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25. 卒業。そして冒険者デビューへ。

 リーンスレイ魔術学園に入学して3年が経ち、サラは15歳になった。


 澄み渡った青空の下、サラは卒業式を迎えていた。

 式には卒業生の他、在学生やOB、教師に加え、多くの保護者や冒険者、従魔達が参列している。今年は『聖女』様の卒業とあって、例年の数倍の人数が学園に集結していた。もちろん、『聖女』であることは在学生と教師しか知らない事ではあるが、サラの存在自体は国内外に広く知れ渡っていた。


「では、卒業生代表挨拶をサラ・フィナ・シェードさんにお願いします」

 壇上から、拡声器の様な魔道具を持った司会の理事長が卒業生の席に呼びかけた。が、先ほどまで大人しく座っていたはずのサラの姿が消えている。よく見ると、卒業生の全員がオークやゴブリン、ケンタウロスなどの人型の魔物に入れ替わっていた。ミノタウロスもいる。

「ええええ!?」

 司会者の狼狽ぶりに、何事かと参列者たちもざわめき始めた。

 その時。

 突然、卒業式が行われている校庭を闇が包んだ。雷鳴が轟き、客席から悲鳴が上がる。

「ふふふふふ」

 不気味な少女の笑い声が辺りに響いた。拡声器を仕込んでいるのだろう。声が良く通る。

 壇上に、ぼうっと白い人影が浮かび上がった。白いフードを目深にかぶった少女が、会場からの視線を一身に浴びてニヤリと笑った。

「いでよ、我が(しもべ)達!」

 ゴゴゴゴゴ、と空気が鳴って、少女の左右に15名の魔術師が出現した。会場から、「おお!」と歓声が上がる。

「ふふふふふ。貴方が探しているのは、凄い魔術師かしら、それとも、とんでもない魔術師かしら」

 ポカンと口を開けて呆けている司会者に向かってニヤリと笑った。

「いえ……私が探しているのは普通の卒業生です。サラさん」

 司会者、パルマは頭を抱えた。

「オーマイ!」

 少女、サラも頭を抱えた。

「そいつは出来ない相談よ! 何故なら!」

「何故なら?」

「私達は皆、普通ではない、唯一無二の魔術師だからよ!」

「「「イエッサー!」」」

 サラの合図とともに、卒業生達は一斉にフードを取ると杖を構えた。

「お前達! やっておしまい!」

「「「イエッサー!」」」

 壇上から、客席に向かって15本の光の線が伸びた。その光の道に、土魔法と風魔法で大地が生まれ、水魔法の雨が潤す。そこから、植物が勢いよく伸びていき、会場中が緑で満たされた。


「第292期生、合同魔法『フラワーロード』」


 サラの呪文に呼応し、点灯式の様に緑の道に色とりどりの花が咲いた。それぞれの道に一人ずつ、壇上から来賓者の元へと卒業生達が歩いていく。

 花束を作りながら、どの顔も、笑みで溢れていた。


「私達は、この三年間、様々なことを学び、経験し、成長しました。それはあたかも、この『フラワーロード』の様です。リーンスレイ魔術学園という土壌の上で、私達という小さな種は、先生方や先輩方、あるいは冒険者の皆さまの力を借りて大きく育ちました。ここにいらっしゃらない多くの方々も、太陽の様に温かい眼差しで私達を見守って下さいました」


 卒業生たちが辿り着いた先は、それぞれの家族や恩師、恋人など様々だ。中にはこれからお世話になる冒険者パーティや、これからも共に戦っていく従魔を選んだ者もいた。


 サラが軽く杖を振ると、新しい道が出来た。その道は、この場で最も高位の来賓者へと続いている。ふわり、とサラは花道へ飛び乗った。


「初めに伸びた光の道は、私達の心の支えを意味します。ここに居る皆様が私達の光であり、私達の足元をしっかりと支えてくださっているからこそ、私達は今日この学園を巣立ち、それぞれに旅立って行くことができます」


 サラはゆっくりと道の先へと歩いていく。歩を進める度、サラの腕の中で花束が膨らんでいく。会場の全員が、サラの一挙一動を見守っていた。笑顔の者もいれば、目に涙を浮かべる者もいる。


「私達はきっと、これから先も悩み、苦しみ、傷付くことがあるでしょう。一人では乗り越えられない壁に阻まれることや、這い出すことの出来ない沼に落ちることがあるかもしれません。それでもどうか、私達を見守り、時に手を差し伸べていただけないでしょうか。そして私達は、皆様を守れるようにこれからも精進してまいります」


 サラは舞う様に光の花道を渡り、目頭を押さえる父の元へと辿り着いた。すっ、と両手いっぱいの花束を父に差し出す。


「お父様。サラは無事に、卒業いたします」

「……うむ」

 父は溢れる涙を誤魔化しもせず、両手で花束を受け取った。


「皆様! 今までありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!」」」

「そして、これからもよろしくお願いいたします! 卒業生代表、サラ・フィナ・シェード」


 わあああああ! と歓声が学園を包んだ。


 『聖女』であることは、現時点では知られていない。しかし、サラという学生の事は、伝説として今後も長く語り継がれていくことだろう。

 最後に皆で何かしたいとサラが提案し、全員で考え、作り上げた卒業生挨拶と共に。


 こうして、サラは卒業した。



 卒業式の夜。

 いつもの武器屋で、サラとパルマの卒業祝いのパーティが催された。

 リーンスレイ魔術学園の二日前に、レダコート学園でも卒業式が執り行われており、パルマやユーティス、ティアナ、カイト、シャルロットといった面々も卒業していたのである。


「サラちゃん、息子ちゃん! 卒業おめでとう!」

 参加者は、主賓の二人に加え、リューク、リーン、ゴルド、『紅の鹿』のメンバーだ。

 今回、ユーティスは不在である。

 実は『魔王の森』事件以来、サラとの関係がギクシャクしてしまい、まともに話せていなかった。サラは何度かユーティスが参加しそうな夜会に出向いたのだが、ユーティスから避けられてしまい、挨拶すら出来ていなかった。

 それ以来、サラの心は曇天の様に重く沈んでいた。

 とはいえ、今夜はサラとパルマの卒業祝いである。

 祝ってくれる仲間のためにも、今日は明るく過ごそうと決めていた。


「いやあ。あのサラが卒業とはなぁ」

 酒をあおりながら、ボブがしみじみと呟いた。

 何とボブ達『紅の鹿』メンバーは、日中に行われた卒業式にも参加していたのだ。

 さすがに二メートルを超すピコとモーガンは目立つため、従魔達が控える一角に立っていたが(ちなみにケンタウロスの群れに紛れるのがお薦め)、ボブ、ライラ、ホッケフはこの日のために一張羅を準備し、保護者さながらにサラの様子を見守っていた。

 そこで、五人はサラの卒業生代表挨拶に感動して泣き、その後のサラとの別れを惜しむ全校生徒および教師達のやり取りを見て号泣し、『ケンタウロスにハンカチを差し出される冒険者』という伝説を残してしまっていた。


()()、とはどういう意味だ? ……モブだったか」

「ひいっ!」

 蛇に睨まれたカエルの様に、ゴルドに睨まれたボブは震えあがった。ベテランAランク冒険者といえども、上級貴族は怖い。貴族じゃなくても、ゴルド様は顔が怖い。

「いえ、その、俺はサラが、ぐあああ。わたくし、ボブはサラ様が8歳くらいの頃から見て来たんで、大人になったなあと、感慨もひとしおってやつだ……んです」

 途中でライラから足を踏まれ、涙目になりながらもボブは言い切った。その様子に、サラは「あははは!」と笑った。

「お父様。モ……ボブさん達にはとても良くしてもらいました。それだけじゃありません。ここに居る皆に支えられて、私はここまで来ることが出来ました。皆様、改めて、本当にありがとうございました」

 ペコリ、とサラは頭を下げた。サラはここ最近、本当に自分は色々な人に支えれて生きていると痛感していた。ここにジークが居ないことが、とても残念である。

 近くでリーンとふざけていたパルマも、サラの挨拶に合わせるように頭を下げた。

「僕も同じです。自分の無力さを嘆いた時期もありましたが、皆さんが手を差し伸べてくれたお陰で、こうして前を向くことが出来ています。本当に、ありがとうございました」

「「……うっ」」

 二人の父親が、感極まって口元を手で押さえている。

 よせばいいのに、その内一人は思ったことを口に出した。

「サラちゃん、息子ちゃん…………………結婚式みたいだねぇ!」

「「ええええええ!?」」

 パッと、サラとパルマは顔を見合わせた。

 この数年で、サラはぐっと大人っぽくなった。身長も150センチを超え、身体つきも女性らしくなり、流石はヒロインというべき輝くばかりの美少女である。一方のパルマも170センチを超え、優しい眼差しはそのままに表情も引き締まって、地味だが知的な美少年へと変貌を遂げていた。

 公爵家の跡取りと伯爵令嬢。

 ………文句なしに、お似合いであった。

「パルマ……」

「サラさん……」

 二人は見つめ合った。

 しばしの沈黙の後、先に顔を背けたのはサラだった。唐突に、ゲームのパルマルートでのやり取りを思い出してしまったのだ。幼い頃からしょっちゅう会っていたせいで、すっかり忘れていたが、パルマも攻略対象のイケメン貴族なのである。

「もう、もう! 変なこと言わないでよ、リーン! 私そういうの、まだいいんで!」

「そういうの……」

 何故か、パルマはショックを受けているようだった。

「サラはどこにもやらん」

 内心でパルマに「ざまあみろ」と唱えながら、ゴルドはふんっと笑った。

「ええええ!? 僕、ゴルドっちと親戚になるのも悪くないなと思ってたのに」

 残念そうな口ぶりだが、リーンの目も笑っていた。「ああ!」と手を叩く。

「いっそ、ゴルド父上って、呼んでみようか!?」

「ひいっ!」

「やめろ」

「やめてください、エロ親父」

「ええええ? 冗談だよ? 僕のターゲットは見た目が20代から60代だからね!」

「60!? すげえ! あんた、漢だな!」

 何故かボブが異様に反応した。 

「お!? 君、分かる漢だね?」

「もちっすよ! 俺の奥さん、40後半なんすけど、堪んねえんだわ! これがっ!」

「同志よ!」

「同志よ!」

「「「うわああ……」」」

 ドン引きする女性陣の横で、リーンとボブが手を組んだ。その上に、ホッケフが手を乗せ、再び「「「同志よ!」」」と言っている。モーガンも入ろうとしたが、女性陣からの冷たい視線を受け、出しかけた手を引っ込めた。


「ところで、サラはこれからどうするんだ?」

 話題を変えるように、チュールを肩に乗せてワインを飲みながらリュークがサラに尋ねた。リュークは、人間の恋愛話が苦手だった。どちらかというと、興味もない。

「あ! それ気になる! どうするの?」

 リーンやゴルドだけでなく、『紅の鹿』の面々も興味深げにサラに注目している。


「私は……」

 サラは大きく息を吸い込むと、グッと腹に力を入れた。

「お父様が許して下さるなら、冒険者になりたいと思ってます!」


 宮廷魔術師や、他の令嬢達と同じく家庭に入るという選択肢もある中、サラは初めから冒険者になりSランクを目指すつもりでいた。ゲームでは、Sランクかつ武器屋での購入回数10000回で、リュークから特別な装備がもらえたからだ。そしてそれが、魔王と戦う上で最低限必要なレベルでもある。

 サラはあくまでも、魔王を倒すことを目標としていた。ヒューやソフィアと出会い、他の可能性も探りたいと思っているが、何をするにも力を付けることが必須である。

 手っ取り早いのは、Aランク以上のパーティに入り、がつがつと評価を上げて個人ランクもAまで上げ、パーティとともにSランクに挑戦、という流れだ。

 魔術学校卒業者は特例でCランクから始めることが出来、CランクであればAランク以上のパーティに参加することが可能だ。

 サラはかねてからの希望通り、『紅の鹿』に入れてもらうつもりだった。


「お前が望むなら、俺は止めん。だが、信頼できる者としかパーティは組ませられん」

 ゴルドは不愛想に答えた。

 15歳ともなると、結婚のことも考えなくてはならない年頃だ。ましてやサラは庶子とはいえ伯爵家の令嬢であり、他の追随を許さない美貌と才能を持っている。引く手あまたである。

 しかし、サラは聖女だ。

 この先、魔王との戦いが待っていることを思うと、結婚して幸せな家庭を築く前に、力を付け、身を守る術を身につける方が先決だとゴルドは思っていた。更に、娘を嫁にやりたくないゴルドとしては、信頼できる者達と冒険に行ってくれた方が都合が良かったりもする。


「ありがとうございます! お父様!」

 ゴルドの回答に、サラは花が咲いたように笑顔になった。


 サラは『紅の鹿』に向き直った。

「ボブさん、ライラさん、ホッケフさん、モーガンさん、ピコさん!」

「「「「「おお?」」」」」

 サラは、極上の笑みを浮かべた後、頭を下げた。

「私を、『紅の鹿』に入れてください!」


「「「「「断る!」」」」」


「……ええええええええええええええええ!?」

 サラの絶叫が狭い武器屋に響き渡った。


 当然の様に仲間に入れてもらえると思っていたサラは、驚きのあまり言葉を失い、床にへたり込んだ。

「貴様ら。そこに並べ」

 目の前で大事な娘が打ちのめされる姿を見て、父は静かに激怒した。

「ちょっ! うおっ! 危ねえ! 勘違いすんなよ!? サラの事が嫌いになったとか、そんなんじゃねえからな?」

 ボブが慌ててサラに駆け寄った。

「サラちゃん、ごめんなさい。前々から、皆で話し合ってたことなの」

 ライラがフォローに入る。

「サラを泣かすな」

 リュークの視線も怖い。「ひいっ!」と『紅の鹿』は縮み上がった。だが、ボブは堪えた。ドラゴンの視線なら、前にも味わったのだ。

「サラが、Aランクになるまでは一緒にいれるけどよ、サラが目指してるのはもっと上だろ? 俺達は、Aランク止まりだ。どんなにサラが望んでもSランクには挑戦できねえ!」

 ボブ達は、Sランクまでは目指していなかった。Aランクでも十分凄いことなのだが、『月花のダンジョン』でサラの実力を見て思い知ったのだ。

 ……自分達では『聖女』のパーティは務まらない、と。


「うぐっ……ぱ、パルマぁ」

「僕は駄目ですよ。『梟』の長として、本格的に指揮を取らないといけないんで」

 すまなそうに、パルマが肩をすくめた。

「リーン……」

「はいはーい! 僕、冒険したいでーす!」

「リーンは駄目だろ? 過剰戦力だ。サラの成長にならない」

 元気よく手を挙げたリーンに、リュークが冷静に突っ込んだ。

「ひんっ……リュ、リューク……」

「すまない。俺は商人だ。冒険者にはならない」

 困った顔で、リュークも肩をすくめた。

「ええええ……」

 サラは涙目で周りを見回した。見かねたゴルドが口を挟む。

「サラ。父と組もう」

「「「「「「「ええええええええ!?」」」」」」」

「君、貴族の当主だよね!?」

「シェード伯爵、娘可愛さに冒険者デビューとか、駄目ですからね!?」

「……ぐうっ!」

 リーン(大魔術師)パルマ(公爵)から叱られ、ゴルドは唸った。


「う……うええええええええええ……」

 卒業初日から計画が打ち砕かれ、サラは心の底から号泣した。


 サラの冒険者デビューは、いきなり波乱の幕開けとなった。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告ありがとうございます!


思ったより長くなってしまい、気がついたら日付が変わってました。

すみません!


サラにいいパーティが組めるのでしょうか。心配です!

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