表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/365

16. 勇者御一行

今回は残酷な描写があります。苦手な方はスルーしてください。

「えー? なんでそんなのも倒せないの?」

「申し訳ありません! ですが、私達ではB級は……」

「えいっ! ね? こんなの、ちょちょーいだよ! 気合が足りないんじゃないの?」

「……申し訳ありません」


 サラ達が『牛頭・馬頭の間』に到達した頃、カイト一行は5層のボスを相手にしていた。カイトとサラが同時期にこのダンジョンに訪れたのは、全くの偶然である。

 和気あいあいと攻略を進めた『紅の鹿』一行と比べ、『勇者』御一行には沈黙が漂っていた。無理もない。カイトの突出した能力のお陰でここまでこられたが、他4名はレダコート学園の普通の生徒なのである。勇者の側に居れば学園でも社交界でもちやほやされるとあって、多くの貴族や商家の子供達が競ってカイトのパーティに入りたがった。その中でも、比較的、魔術や剣術に秀でた者が今回のダンジョン攻略パーティに選ばれてきたのだ。

 彼らは甘く見ていた。

『月花のダンジョン』が初心者向けのダンジョンであることに加え、A級の魔物を一撃で仕留めるカイトが一緒ということもあり、大した苦労もせず『ダンジョン攻略者』の称号を得られると思っていた。そのため、装備もCランクの冒険者程度にしか揃えておらず、ポーションや食料も碌に携帯していなかった。

 ダンジョンに潜るには、事前に冒険者ギルドへの申請が必要であり、ギルドから発行される通行手形なしではダンジョンに入れないよう入り口に結界が張られている。

 しかし、誰一人冒険者のいない勇者御一行はそのルールを知らなかったばかりか、例のごとくカイトが「何だこれ、邪魔だなー」と結界を破ったせいで、簡単に侵入できてしまったのだ。その上、サラ達一行が魔物を一掃した直後とあって、4層まではほとんど魔物に遭遇せずに来れてしまい、引き返すチャンスを逃してしまっていた。

 ボスでさえC級の魔物しか出現しなかったため、「ダンジョンって大したことないな」と、思っていたくらいだ。

 しかし、5層に入ると一気に雰囲気が変わり、道端にC級の魔物が溢れ、ボスもB級のオーガが現れた。

 それでも勇者の取り巻き達は、カイトが何とかするだろう、くらいにしか思っておらず、他人事のように初めてのダンジョンにドキドキしていた。

 しかし、ここに来て「僕見てるから、皆で倒してみてよ」とカイトの思い付きにより、急遽オーガと対峙することとなってしまったのだ。

 それでも、彼らは甘く見ていた。

 カイトが易々と魔物を討伐する姿に見慣れていたため、魔物本来の恐ろしさをすっかり忘れていたのだ。自分たちが、Eランクの冒険者にすらなっていないにも関わらず、だ。

『学生』という、狭い、狭い社会の中で、ほんの少しカーストの上位に居るというだけで、彼らは自分達が特別な存在なのだと勘違いしていた。

 何故、冒険者にランクがあるのか。何故、魔物に級があるのかも考えず、彼らはオーガと対峙した。


「喰らえ! 汚らわしい魔物め!」

 一人の少年が自慢の剣でオーガに切りかかる。学園ではカイト、ユーティスに次ぐ実力だと自負していた。卒業後は騎士団に所属して、勇者のパーティに取り立ててもらう予定だった。

「え?」

 少年の剣が、オーガの目前で止まった。左肩から右腹にかけて、袈裟斬りにするつもりで剣を振りかざしたはずだった。

 オーガは一歩も動かぬまま、左手を軽く上げ、少年の剣を指先でつまんでいた。ポキッと、剣が折られた。オーガは呆然と立ち尽くす少年の頭を掴み、まるでトマトでも潰すかのように、ぐしゃっと、ソレを潰した。

「! 逃げて! マイス!」

 女生徒がオーガの近くで固まる別の少年に向かって叫んだ。少年の頭も、ぐしゃりとなった。

「ぅうあああああああああ!」

 女生徒は混乱し、カイトの元へ駆け寄った。

「カイト様! 助けて下さい! カイト様!」

 助けを求める女生徒の後ろで、また別の学生がぐしゃりとなっている。

「カイト様!」

「何で?」

「へ?」

「僕、見てるからって言ったでしょ? まだリリーが残ってるじゃない。戦わないの?」

「……ひぃっ」

 少女は初めて己の愚かさを知った。学園では生徒会にも所属する彼女は、自分の才色兼備ぶりに自信を持っていた。将来は王妃か、勇者の妻か、と目論んでいた。一度も剣術で勇者に勝てない第一王子より、魔王を倒せば国王になるのも夢ではない勇者の方が将来性があると見込んで仲間になった。カイトは頭は悪いが、その分扱いやすいと見下していた。

(人間じゃない……!)

 リリーと呼ばれた侯爵家の令嬢は、ガタガタと震えながら魔法杖を構えた。オーガは勇者を警戒しているのか、3人を潰した後はじっとしている。ぴちゃ、ぴちゃとオーガが手にしている学友の首から、赤いものが滴っていた。

「無理……」

 リリーは太ももがじゅわぁと熱く濡れるのを感じた。びちゃん、と自らの水溜まりに座り込んだ。恐怖で、体中に力が入らない。涙も止まらなくなっていた。

「無理です! カイト様! 助けて下さい!」

 リリーはカイトを見上げて懇願した。命乞いをする相手は、オーガではなく目の前の勇者だ。

「えー? なんでそんなのも倒せないの?」

「申し訳ありません! ですが、私達ではB級は……」

 しょうがないなあ、と言いながら、カイトは剣を握った。

「えいっ!」

 カイトが軽く剣を振ると、オーガが真っ二つになり、光となって消えた。

「ね? こんなの、ちょちょーいだよ! 気合が足りないんじゃないの?」

 カイトがにっこり笑う。仲間が3人死んだことなど、全く眼中にないかの様に。

「……申し訳ありません」

 リリーはカイトから目を逸らし、自らの腕を抱きしめた。震えが止まらない。

 何よりも、魔物よりも、勇者という生き物が恐ろしい。第一王子やその周りの者達が、カイトから距離を置いていた意味が良く分かった。

「んー。ダンジョンで死んだらどうなるんだっけ? 教会で復活できるんだっけ?」

 今日の晩御飯何だっけ? くらいの気軽さで、カイトが尋ねる。

「……できません。ここの教会にいる司祭が使えるのは治癒魔法のみです。死んだ者は、生き返りません」

「え!? そうなの!?」

 カイトが目を丸くする。

「どうしよう! ガーランドもマイスもコーンも死んじゃったよ!? 僕、生き返るんだと思ってた」

 カイトがわたわたと焦っている。本気で言っているところが、余計に恐ろしい。

「あ! ダンジョンの中だから、まだその辺に魂が残ってるはずだよね? 僕、一気に3人も復活させるの初めてだけど、やってみるね!」

「……え?」

「頭が無いから、どれが誰のか分かんないけど、魂を戻したらきっと蘇るよね!? いっくよー」

「ま、待ってください! カイト様!」

 リリーは気が動転しながらも、カイトの腕を掴んだ。

「どうしたの?」

「まずは体を元に戻してからでないと、アンデットになってしまいます!」

「……ああ! 凄いや、リリー! さすがだね!」

 一瞬目を丸くした後、カイトは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、治癒魔法が先か」

「治癒魔法では、失った体は戻りません。肉体の時間を巻き戻す魔法か、再生の魔法があれば……」

「おお! 時間を巻き戻す魔法!? 凄い発想だね! 面白そう! やってみるね!」

「……え?」

 カイトの体が眩い光に包まれた。否、カイト自体が発光していた。

「えーと、時間よ、戻れ! そして、ガーランドとマイスとコーンの魂よ、自分の体に帰れ!」

「え!? い、いやああああああ!」

 リリーが悲鳴を上げた。カイトの放つ光が、3人の遺体だけでなくリリーも包んだのだ。

「おお! 出来た! ……あれ!? ちょっと戻し過ぎた? あはは! リリーも小っちゃくなってる!」

「そんなっ! カイトさ……カイトしゃま!?」


 ぐにゃり、とダンジョンが歪んだ。

 あははは、と可笑しそうに笑うカイトが、笑顔のままリリーの前から消えた。

 ちょうど、最下層でサラ達が消えた瞬間だった。


「カイトしゃま!」 

 カイトの消えた空間に、舌足らずなリリーの声が響いた。



 モーガン、ピコ、ホッケフが5階層のボスの間で幼児4人を保護したのは、その数十分後である。

 少女を除く3人は、その後長い間、口も利けず、ただ震えていたという。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告ありがとうございます!

いつも励みになってます。


カイト君、無邪気な善意のまま成長してませんでした! 残念!

明日から、夏季休暇でしばらく沖縄の離島を彷徨います。大好きなんです。離島。

更新が中々出来ないと思いますが、見捨てないでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ