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12. 学園初日のヒロイン

「サラと申します。訳あって家名は申せません。ただの、サラとお呼びください」

 リーンスレイ魔術学園への入学初日、サラはクラスメイトを前に自己紹介をしていた。出来るだけ目立つまいと、髪をおさげにし、眼鏡をかけ、ローブの下も平民の普段着にしてみた。

 本日のテーマは『初めての中学校。田舎からの転入生。ペットを連れて』だ。


 サラのクラスは16名だが、下は8歳から上は40歳までと年齢層が幅広く、男性8名、女性8名と男女のバランスは良い。サラは、下から数えて5番目に若かった。

 クラスメイトたちは教室に適当に座った後、前の列に座った者から順番に自己紹介をすることになった。サラは一番後ろの左端に座った。目立ちたくなかったのと、チュール三匹と()()()()()()()()()()()()()を連れていたからだ。学園の入学説明書に『テイマーは魔物を連れて登校してよいが、入学式当日に登録したものに限る』と書いてあり、サラの他にも魔物を連れた者達が揃って一番後ろの席に座っていた。

 クラスメイト達の個性的な自己紹介が終わり、最後にサラの番になった。

 サラはこの3日、考えに考えて『目立たずに、でもほんのりユーモアを交えた好感度の高い自己紹介』を特訓してきた。

 サラが立つと、それまでにこやかにざわめいていたクラスが、しんっ、と静まり返った。サラは完全に誤魔化せていると思っていたが、『サラ・フィナ・シェード』であることは周知の事実だった。「家名は申せません」と言った時、「知っとるわ!」と全員が脳内で突っ込んだ。

「一応、基礎魔術は全て使えます。趣味は、料理と、ペットと遊ぶことです。あ、ペットというのはドラゴンみたいな大きな魔物ではなくて、この子達みたいな小さな生き物ですよ!」

 えへへ、と、サラは微笑んだ。

(((絶対、ドラゴンも飼ってる……!!)))

 全員が、2年前の事件を思い出していた。あの日、巨大なドラゴンを直に見た者も少なくない。あの事件がきっかけで、一から魔術を学び直そうと入学した者もいるくらいだ。

「不束者ですが、この子達共々、よろしくお願いします」

 ペコリ、とサラは頭を下げた。それに合わせて、チュール達も「にゃーん」と鳴いた。

 サラは可愛い。チュールも可愛い。

 可愛いが、サラの後ろに鎮座する大鷲と豚が気になって笑う気になれない。誰か、そいつらのことを突っ込んでくれ、とクラスメイトがお互いに目配せしていると、最年少の男の子が空気を読んで手を挙げた。

「サラ……お姉ちゃん。後ろの、魔物は何ですか?」

(((よく言った!!)))

 全員の心が一つになった。

「えっ!? あ、気が付きました?」

(((気が付かない訳ないだろー!)))

「グリフォ……ただのペットの大鷲と、その餌ですわ」

(((グリフォンかよ!)))

(((A級かよ!)))

(((餌って何だよ!)))

「サラさん、餌を学園に連れてきてはいけませんよ?」

「すみません、先生! 家を出た時はいなかったのですけど、教室に来た時には並んでいたのですわ! 最近のオークは、自ら食べられに来るのかと……」

(((んな訳あるかーっ!)))

(((オーク、泣いとるぞ!)))

(((逃げろー! オークゥゥゥゥ!)))

 ちなみにその頃、別の教室では「俺のオークがいない!」と騒ぎになっていた。余談である。

「この子は、通学用の馬車みたいなものですので、お気になさらないでくださいね!」

 と、サラは朗らかに笑った。

(((気になるわ!!)))

 入学して半日で、サラのクラスはサラを除いて一致団結した。


 こうして、サラの無難な(?)自己紹介が終わり、初日という事もあって昼食を前にこの日は解散となった。

 サラは、迷子のオークを「ちゃんと家に帰りなさい」と優しく諭して別れると、チュールとグリフォンを連れて学園内を探検することにした。

 クラスメイトに微笑みながら手を振ると、何故か皆、一度ビクッとなってから引きつった笑顔で手を振り返してくれた。やはりグリフォンはまずかったか、とサラは間違った方向に解釈した。


 実はこのグリフォンは、父からのプレゼントである。

 シェード家から学園までは歩くと1時間ほどかかるため、サラは学園内にある寮に入ろうと思っていた。しかし、それを聞いたゴルドが顔を青くし、3日後には「馬車代わりに使うといい!」と、素手で狩ってきたのだ。

 じゃあ、馬車でいいではないか、むしろ転移すればいいのでは? とサラは思ったが、前世で38年間電車通勤をしていたマシロは「グリフォン通学、何ソレ!? カッコいい!」と、ときめいてしまい、有難く頂戴することにした。

 とは言え、サラがテイム出来なければ只の危険なA級魔物である。サラに引き渡す際、ゴルドは責任をもって始末するつもりで拳を握りしめて待機していた。

 そんな父の心配をよそに、サラはあっさりとグリフォンと打ち解けた。サラはグリフォンの首を撫でながら、「お父様、毎日オーク二体で手を打つそうです」とゴルドに言った。ゴルドは「お、おお。そうか」としか返せなかった。

 どうやらサラは、魔物に好かれるチート性質らしい。


 そんなグリフォンを連れて敷地内を歩いていると、「サラ・フィナ・シェード!」と名を呼ばれ、10人程の魔術師に囲まれた。ローブの刺繍の色から判断して、上級生のようだ。

 グリフォンが居ても気にしていないところを見ると、かなり腕に自信があるらしい。

「お前、あの時の魔女らしいな」

 目つきの悪い、リーダーらしき男が言った。サラは、ふうっ、とため息をつき、眼鏡を外した。

「やはり、気付かれていたのね……」

 せっかくの変装も、ばれてしまっては意味がない。

「サラ・フィナ・シェード! お前のせいで、どれだけの人間が死んだと思っているんだ!魔女め!」

「そうよ! 私のお父さんを返してよ! どの面下げてここに来たの!?」

「奴隷をむさぼる魔女! 汚らわしい、化け物め!」

 散々な言いようである。だが、サラは冷静だった。この2年、ずっともがき苦しみ、今でも心が折れそうになるが、自分の中で折り合いをつけてきたことだった。批判も、罵倒も覚悟していた。それでも、少し傷付いた。だが、俯くわけにはいかない。ちゃんと向きあうと決めてきた。

 サラは上級生達の輪に一歩一歩近づいた。

「確かに、あの事件は私が起こしたことです」

 腹から声を出しながら、サラはすっ、すっ、とおさげを結んでいたゴムを解いた。

「私は魔族から友を救いました。それが罪というのなら、喜んで罰を受けましょう」

 ごくり、とサラのただならぬ様子に、上級生達は息を飲んだ。

「亡くなった方々のことを、一日たりとも忘れたことはありません。本当に、心から冥福をお祈りします。……本当に」

 サラは足を止め、目を閉じ、両手を胸の前で握りしめた。

「そんなことをしても、騙されないぞ!? 大人しく学園から出て行け! サラ・フィナ・シェード!」

「嫌です!」

 カッ、と、サラが目を見開いた。

「私は魔女ではありません! そして、恥ずべきこともしていません! 私は、死んでいった仲間の為にも、前を向かなければなりません! 私が俯き、あなた方に許しを請うことは、仲間を侮辱するも同じこと!」

「くっ、こうなれば力ずくで……」

「ですのでっ!」

 魔法杖を構える上級生を前に、サラはバッとローブを脱ぎ捨てた。

「拳で語りましょう!!」

「「「ええええええええええ!?」」」

 2年間のノルンでの生活で、サラは脳筋になっていた。誰の、とは言わないが、血は争えない。

「おりゃあああああ!!」

「「「ぎゃあああああああ!!」」」


 数分後。


 サラの足元には屍が、もとい、ひざ下を曝されチュール攻めに悶絶する上級生達が転がっていた。ゴルドと『鬼』仕込みの体術にチートな才能が加わり、サラは拳で語れる魔女っ娘になっていた。

(テッペン)、とったどー!!」

 サラは拳を突き上げた。マシロは少年漫画も好きだった。


 忘れてはいけないが、サラはヒロインだ。

 重要なので重ねて言うが、乙女ゲームの可憐なヒロイン、『聖女』である。


「「「やめてくれええええええ!」」」

「嫌です!」

「「「ええええええええ!?」」」

 リーンスレイ魔術学園に、魔術師達の悲鳴がこだました。


 入学初日にして、サラに舎弟ができた。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告ありがとうございます!


マシロは多分、「ごく〇ん」とか「何とか男塾」とか好きです。


どうしましょう。サラのヒロイン力が足りません!

第1章ではロイに、第2章ではソフィアにすでに負けています。

これから挽回できるのでしょうか!?

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