表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/365

3. 暗殺者襲撃

聖なる土壁(プラチナシールド)!」

 パルマの詠唱に呼応し、大理石の床が隆起しユーティスとサラを守る。

「闇の精霊よ!」

 ロイの呼びかけに闇の精霊達が応える。精霊達はシャンデリアを包み、落下速度を落とした。

 激しい衝突音と共に、シャンデリアが砕け散る。

 振動が王城を激しく揺らした。

 貴族達は突然の事故にパニックに陥った。訳も分からず、狭い出口へと殺到する。王族の方からも悲鳴が上がるが、混乱の中で聞く者はいない。

 この広い会場で、まともに動けた者は少なかった。

 とっさに魔術を行使しサラ達を守ったパルマと、被害を最小限に抑えたロイは見事であるが、瞬時に状況を把握し、暗殺者の襲撃から王を守ったゴルドとアイザックも流石であった。

「ふん!」

 ゴルドは拳に魔力を溜め、暗殺者の腹を殴り飛ばした。夜会のため、剣などの武器は持ち込みできなかったのだ。

「アイザック、王をお守りしろ!」

「分かってます!」

 息子に指示を飛ばし、ゴルドは暗殺者を睨みつけた。既に会場のあちこちで、『梟』や騎士達が暗殺者達と戦い始めている。よく見ると、ゴブリンなどの魔物も紛れていた。誰かが召喚しているのだ。

 王を狙った暗殺者は、他の雑魚共とは格が違っていた。面を着けているせいで表情は分からないが、ゴルドの渾身の一撃を受けて立っていられる者などそうはいない。暗殺者は先の大きくカーブしたナイフを構えていた。

 素手とナイフ。

 ゴルドは全身を魔力で覆った。


「ユーティス!? 大丈夫!?」

「問題ない。サラ、怪我はないか?」

「はい!」

 大理石の壁が、二人を覆う様に反り出ている。ユーティスは立ち上がるとサラに手を差し伸べた。サラは迷わずその手を取った。

「さっきは言いそびれたが」

 『絶対空間』を張りながら、ユーティスはサラに微笑んだ。

「髪、伸びたんだな。ドレスも良く似合っている。……綺麗だ」

「……! なななな何言ってるんですか!? こんな時に!」

「本心だ。それより、俺は今、怒っている。よくもサラとの初ダンスを邪魔してくれたな」

 ユーティスの目が座っている。

「狩る」

「だ、駄目駄目駄目! あいつらの狙いは王と王子よ!? 出て行ったら駄目!」

 サラは慌ててユーティスの腕にしがみついた。

 ゲームではこの日、他国の暗殺者チームが王都を襲う。ロイが居ないとはいえ、そのエピソード自体は変わらないだろうと、サラは事前にリーンと父に相談していた。もちろん、ゲームや前世の話をする訳にはいかなかったため、『夢を見た』という事にしておいた。それで信じてもらえるのだから、『聖女』は便利である。

 そのため、王城周辺は念入りに『鬼』や『梟』、リーンやグランによって守護されているはずであった。それなのに、今、ゲーム以上の襲撃が起こっている。何か見落としがあったに違いない。

「あいつら? サラ、あいつらが何者か、知っているのか?」

「それはっ」

 サラが言い訳をしようとしたその時、パルマの声が割り込んできた。

「王子! ちょうど良かった! ティアナさんとシャルロットさんを入れてください! 僕ちょっと手が離せないんで!」

 パルマはそう言うと、二人の令嬢を『絶対空間』に押し込んできた。ティアナはパルマと、シャルロットはロイと踊っている最中だったのだ。

「すすすすすみません!」

 シャルロットが赤い顔で謝る。

「サラ様! ずるいですわ!」

「あ、こら!」

 ティアナがユーティスの空いている腕にしがみついた。

(グッジョブ、パルマ、ティアナ!)

 これでユーティスは動けない。


「ロイ! エドワードさん、これ使って!」

 パルマは空間魔法で二振りの剣を取り出した。

「助かる!」

「助かります!」

「ここ、頼みますね! 僕はお客様を誘導しないといけないんで!」

 パルマは念話で『梟』達に指示を飛ばしつつ、会場内で右往左往している貴族達に声を掛けて回った。本人も公爵家(最上級貴族)であるにも関わらず、こういう場面でも裏方にまわれるところがパルマの美徳である。……地味な仕事がよく似合う、出来る男なのだ。

 パルマから剣を受け取ったエドワードとロイは、互いに背を合わせて襲撃者と戦っている。戦争のほとんどない平和なレダコート国において、一介の貴族が突然の事態に対応できていることの方が奇跡である。二人は並みの騎士達よりも修羅場を潜り抜けてきたのだ。経験値が違う。

「アグ・ロス!」

 ロイが叫び、魔物達が動きを止めたところをエドワードが剣で追撃した。

「ご無事ですか?」

 ゴブリンに襲われ、腰を抜かしていた男爵一家がガタガタと首を縦に振る。

「良かった。早く避難を」

 エドワードに笑顔を向けられて、ずきゅんと胸を射抜かれた奥方と令嬢を男爵が引っ張っていく。そこに襲い掛かるゴブリンを、再びエドワードは切り捨てた。

「キリがないね」

「父上。屋上から強い気配がします。俺はそっちに行くので、父上はシャルロット達を外へ避難させてください」

「分かった。気を付けるんだよ」

「はい」

 艶やかに微笑んで、ロイは消えた。恐らく、先行して屋上へ向かった精霊達の気配を追って転移したのだろう。エドワードは飛び掛かってきたゴブリンを蹴り飛ばすと、娘の元へ向かった。


「うおおおおおお!」

 ゴルドの拳が、暗殺者の顔面を捉えた。面がはじけ飛ぶ。

「! 魔物か!?」

 暗殺者の顔は空洞だった。

「父上! 加勢します!」

「王はどうした!?」

「『絶対空間』に入られました。父上、剣を!」

「いらん! サラのデビューを邪魔した奴らは直に叩きのめす!」

「……承知しました」

 勇ましくファイティングポーズをとる父の横で、アイザックは『鬼』から受け取った剣を構えた。

 暗殺者のナイフが、父に迫る。アイザックが剣で応戦する。『鬼』達と共に育ったアイザックの剣術は、騎士達のものよりも柔軟で実践的だ。だが。

「!」

「アイザック、どけ!」

 アイザックの剣が暗殺者の顔に吸い込まれた。

 一瞬の隙を暗殺者は見逃さなかった。ナイフがアイザックの腹を切り裂いた。

「ぐはっ!」

「下がっていろ!」

 幸い、ゴルドが先に息子の体を後ろに引き寄せていたおかげで、傷は深くはない。しかし、毒が塗ってあったのだろうか、アイザックは床に崩れ落ちた。

「お兄様!」

「来るな、サラ!」

 ユーティスの『絶対空間』からハラハラと父と兄の戦いを見守っていたサラは、兄の危機に思わず飛び出してしまった。

「サラ! 放せ、ティアナ!」

「出来ませんわ! 貴方を守るのが、私の使命ですもの!」

「王子! 私が追います!」

 娘の近くに来ていたエドワードがユーティスの代わりにサラを追った。

「サラ様、援護します!」

「エドワード卿!」


 サラにエドワードが追い付き、ゴルドの怒りの鉄拳が暗殺者の体をナイフごとへし折り、パルマが大多数の貴族を外へ誘導し終わり、王族が王の張った『絶対空間』に納まったその時。


「勇者、参上おおおおおお!」


 天井に開いた穴から、魔族と勇者が舞い降りた。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、いつもありがとうございます!


何か第2章は序盤から大変なことになっております。

これもそれも、第1章で出番のなかったあいつのため……!(笑)

もう1話がんばります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ