表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/365

番外編4 Bランクパーティ 『紅の鹿』

「と、言う訳なんだ! すまねえ! 皆、俺を男にさせてくれ!」

「「「「えええええええええ!!」」」」

 安宿の食堂で、ボブの四人のパーティメンバーは一斉に突っ込んだ。夕飯時だけあって、狭い食堂はごった返していた。食堂中の視線が、ボブのパーティ『紅の鹿』へと注がれる。

「いやいやいや! お前、ダリアはどうするよ!?」

「姐さんは止めとけ! ちょっと年増じゃが、高嶺の花ってやつじゃぞ!?」

「そうよ、彼女誰にでも優しいのよ!? ボブが特別って訳じゃないと思うわ」

「仮にAランクになれたとして、プロポーズしたら『そんなつもりじゃなかったの。勘違いさせてごめんなさい』ってパターン確定」

「ええええええ!? 全員揃って真っ向否定かよ!」

 誰か一人くらいは味方してくれるだろうと期待していただけに、ボブはうろたえた。

 が、ここで引くわけにはいかない。

「ダリアは可愛いし、幸せになって欲しいとマジで思ってる! だけどよ、俺が幸せにしたいのはローズだって気付いちまったんだわ!」

 普段あまり自己主張せず、調停役にまわることの多いボブだが、今日は一味違った。最近、仲間同士のコミュニケーションが上手くいっていない。「ちょうどいい機会だ、白黒はっきりつけてやる!」と、ボブは意気込んでいた。

「うわ! 最低! のらりくらりとダリアの気持ちを弄んでおいて、開き直ったわね!?」

 杖を抱きしめながら、エルフの魔術師ライラがドン引きしている。

「今の台詞、ダリアが聞いたら泣くの確定。だいたいさ、ローズ姐さんを幸せにしたいなら、Aランク止めて、Bランクのままの方が絶対いいって」

 そう言うのは、巨人族の父親を持つ少女ピコだ。まだ17歳という若さであり、成長途中らしいが既に2メートルを超えている。攻撃とタンクを両方こなす、期待の新人だ。

 『紅の鹿』は、男性三人、女性二人の五人で構成されている。

 Bランクに留まりたい女性陣とAランクに昇格したい男性陣で意見が分かれていた。

 Bランクを勧めるピコの意見に、前衛の要であるタンク役のモーガンがピクリ、と反応した。

「おい、ピコ。ボブの事は置いといても、俺はAランクに行くつもりだぜ? お前も覚悟決めろよ。ビビってんなら家に帰れ。ったく、これだからガキは」

「何だって!?」

 ガタン、と椅子を倒しながらピコが立ち上がった。

「ああん? 喧嘩売る気か?」

 モーガンも立ち上がる。モーガンは人間だが、2メートルを超える巨漢だ。でかい二人が立ち上がると威圧感がすさまじい。

「おい、止めろ二人とも!」

 さすがにここで暴れるのはまずい。ボブは慌てて止めに入った。

「俺が悪かった! すまん!」

 ボブは二人の間に体を滑り込ませると、勢いよく頭を下げた。

 二人はきょとん、としている。素早く食事をテーブルごと移動させていたライラとドワーフのホッケフも「?」と疑問符を頭に浮かべている。

「……何でお前が謝るんだよ」

「そうだよ、ボブ兄! これは私とモーガンの喧嘩だ!」

「そうじゃない!」

 ボブは頭を上げると、仲間達一人一人と目を合わせた。

「俺は、今日は皆とちゃんと話がしたかったんだ。Aランクを目指すにしても、Bランクに留まるにしても、ちゃんと話し合って、皆が納得する答えを見つけたい! 今まで、のらりくらり返事を伸ばしてたのは、ダリアの事だけじゃねえ。俺は、お前達にも『進むか、留まるか』自分の意見を言ってなかった。っつーか、言えなかったんだわ。ずっと考えてたんだぜ? でもよ、俺あんま頭良くねえし、答えが出せなかった。だけど、今日やっと分かったんだ。待たせて、すまねえ!」

 一息でそこまで言うと、ボブは再び頭を下げた。

「俺はAランクに行きてえ! 堂々と、胸の張れる男になりてえ! そんでもって、ローズを幸せにしてえ! 頼む! 俺の夢をかなえさせてくれ! お前達となら出来ると思ってる。お前達は、俺の最高の仲間だからよ!」

 しーん、と水を打った様に食堂が静まり返っている。

 人々の視線と沈黙が、ボブの胃をぎゅっと締め付ける。

「……駄目か……?」

「駄目じゃないわよ」

 はっと、視線がライラに注がれる。

「仕方ないわね。ワイバーン相手じゃ、魔術師がいないとどうしようもないでしょ」

「ライラ……!」

「それなら、弓使いも必要じゃわな!」

「ホッケフ爺さん」

「俺は最初からやる気だぜ?」

「モーガン」

「…………! ああ、もう! 分かったよ! 皆、馬鹿確定! ヤバくなったら、私は逃げるからね!?」

「……ピコ……!」

 ぐっと、ボブの胸に熱いものが込み上げてくる。

「皆、ありがとう!」

 ボブは再度頭を下げた。

(こいつらには、一生、頭が上がらねえ!)

 何故か、食堂に拍手が沸き起こった。ほとんど全ての客から「頑張れよ!」「あんた、いい男だぜ!」「ローズは止めとけよ!」「ダリアどうすんだよ!」「俺達も、あんたらの仲間だぜ!」「ローズは無理だがよ!」「両手に花とか、死んじまえ!」等々の温かいコメントを頂いた。

 『紅の鹿』は全員赤面し、仲良く机に突っ伏したという。



 5日後。

『紅の鹿』の面々は作戦を練り上げ、ワイバーンの目撃例が多い岩場に辿り着いていた。空間魔法の使い手がいないため、各自がポーションや食料を背中や腰にくくり付けている。

 長年かけて溜め込んだ金をつぎ込んで、装備も新調した。王都で懇意にしていた武器商人が「全くもって偶然だが、ちょうど特別セール中だ」と言って、ちょっとやそっとじゃ手に入らない最高級の物を揃えてくれた。『お値段以上』の物を次々に取り出す武器商人に、仲間達も口をあんぐりさせていた。何度か魔石を投げつけられたこともあったが、いい奴である。Aランクに上がったら、定価で武器を買いに行こう、と『紅の鹿』は誓った。


「いたわよ!」

 崖の上から偵察していたライラが南の空を指さした。

 まだかなり距離があるが、大きさ的にワイバーンで間違いないだろう。複数いる場合も想定していたが、運よく1匹のようだ。

「やる?」

 ひらり、とライラが着地した。魔術師とはいえ、エルフの彼女は身軽であった。

「当たり前だ!」

 モーガンが楽しそうに、2メートル近い新調したばかりの盾を振り回している。大盾の使い方を間違っている気もするが、モーガンの攻撃的な性格には合っているのだろう。

「じゃあ、皆。作戦通りに!」

「「「「了解!」」」」

 『紅の鹿』が陣取っているのは、両側を崖に挟まれた横幅20メートルほどの道だ。所々に大きな岩が転がっているため、身を隠すのにちょうどいい。


 作戦はシンプルだ。

 ①龍種が好きな香を焚いておびき寄せる

 ②人間を見付けて襲い掛かろうと地上に近づいたところを、弓と魔法で攻撃する

 ③地面に落ちたところを前衛でたたく


「風向きもばっちりだ! 行くぜ」

 ぺろっと乾いた唇を舐めて、囮役のボブが香を焚いた。

(やるっきゃねえ! 頼んだぜ、お前ら!)

 匂いに惹かれたのか、ワイバーンがぐんぐんと近づいてくる。近づくにつれ、ワイバーンの姿がはっきりしてきた。

 かつて複数パーティで倒したことがあるワイバーンとは、少し色が異なるようだ。

 赤みのかかる黄色い鱗に、所々黒い斑点があるのが確認できる。長い爪とシャープな顔立ちが凶暴さと知性を感じさせた。

 ぞぞぞっ、と全身の毛が逆立った。ワイバーンから放たれる威圧感がボブを襲う。

 ワイバーンの視線から逃れることができない。急降下しながら、ドラゴンモドキはニタァと笑った。

(……くそ! 耐えろ! 耐えろ! 耐えろ!)

 ボブは失禁しそうになるのを、丹田に力を溜めて踏みとどまる。

(俺は、お前を倒してAランクになるんだ!)

 残り、50メートル。

(もう少し……!)

 残り、30メートル。

「今だ!」

 ボブは振り返って走り出した。

 ゴゥン! と重く鋭い音と共に、ホッケフの放った巨大な矢が崖の上からワイバーンを襲った。1メートル近い鉄の矢は、ワイバーンの固い鱗も突き破る特注品だ。この矢を使いこなせる射手を、ボブはホッケフ以外知らない。

 しかし、あざ笑うかの様にワイバーンは僅かに身を捻じっただけで矢を避けた。


 ……狙い通りだ。


「貫け! 氷槍!」

 ライラの鋭い声と同時に、矢を避けるために態勢を崩していたワイバーンに無数の氷の槍が降り注いだ。いくつかの槍が、硬い翼を貫いた。

 耳をつんざく様な悲鳴を上げながら、ワイバーンが墜落した。激しい振動が響く。

 間髪入れず、その翼をホッケフの矢が大地に磔にした。

 狂ったようにワイバーンが暴れだした。


「行くぜ、モーガン、ピコ! 爺さん、援護を頼む! ライラは魔石食って回復しろ!」

 ボブはモーガンの盾から飛び出すと、先頭を切ってワイバーンに襲い掛かった。

 この世界では、ワイバーンは炎を吐く魔物として知られている。ボブたちは事前にライラから氷の加護をかけてもらっていた。ワイバーン程度の炎ならしばらくは持ちこたえられるはずだ。

(やれる、やれるぜ!)

 ローズの向日葵の様な笑顔が浮かんだ。

「うりゃあああああああ!」


 ボブが大剣を振りかざした刹那。


 ワイバーンの体から稲妻がほとばしった。


お盆休みの方も、そうでない方も、

お読みくださいまして、ありがとうございます!


しかし、すみません! 

なんだかボブが可愛くて、予想よりも長くなってしまい、もう一話続けることになりました(汗)

ボブ編が終わったら、本編の第2章に入りたいと思います!

お付き合いいただけると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ