41. 来訪者たち
ロイは眠っていた。
繋がれたままでは何もすることがないため、来訪者がいない間は寝ていることが多かった。
そう、来訪者がいない間は。
ここに繋がれて以来、知らない顔がやたらとロイの元を訪れた。
初めは少女だった。
サラという可愛らしい少女は、あれから何度もここを訪れた。とても危なっかしくて、ロイは毎回ハラハラしてしまう。一応、シズという護衛が付いているのだが、転移が使えないのか、二人とも律義に何処かの抜け穴からやってきた。そのため、「いつかここの主と遭遇してしまうのではないか」とロイは心配でならなかった。
初日にサラを転移で連れ去ったリュークという黒フードの男も、時々やってきた。
姪ドラゴン(?)とやらが好きだったという黒い魔石を持ってきてくれるのだが、この牢屋内には厳重に結界が張られており、勝手に異物を入れることは出来ない。
そもそも、それをどうしろというのだ。
パルマという少年もやってきた。彼も初日に現れた一人だ。
サラとリュークが消えた直後に姿を見せ、ロイの顔を見るとすぐに去っていった。次に現れた時は、奴隷商人と一緒だった。初めてロイを見る様な素振りで、奴隷商人と交渉しているようだった。この国では成人しか奴隷を買うことが出来ないと聞く。彼は見た目は子供だが、中身は大人ということだろうか。
他の『ご主人様』候補達もやってきた。
前の『ご主人様』と奴隷商人を足して割ったような、嫌な匂いのする気持ちの悪い男が来た時もあれば、仮面で顔を隠した身なりの綺麗な男女が来たこともある。
『半魔』だとか『化け物』だとか、嫌な言葉が飛び交っていた。
そういえば、ロイを『ギャプ・ロスの精』と呼ぶものもいた。
初めて呼んだのはリュークだが、その後、リュークが連れてきたエルフもそんなことを言っていた。『ギャプ・ロスの精』が何なのかは分からなかったが、嫌な言葉ではなかった。彼らの瞳が、ロイに優しかったからだろうか。
そのエルフはリーンと名乗った。昔、地下室で読んだ絵本の主人公と同じ名だった。
彼には、いくつか質問をされた。彼は聞き上手だった。
彼は優しい目でロイを見つめ、時々頷きながら話を聞いてくれた。急かすことも、否定することもせず、ロイが言葉に詰まると待ってくれた。タイミングよく「そうなんだ」とか「なるほど」とか「すごいね」とか「大変だったね」とか「偉いね」とか「それから何があったの?」とか「どうしてそう思ったの?」とか挟んでくるので、別段隠すこともなかったこともあり、ロイはほとんどの半生を語ってしまったように思う。話過ぎて、喉が枯れた。闇が、すぐに癒すのだが。
彼はロイ自身のことに加え、ロイにかけられた封魔や奴隷魔法にも興味があるようだった。色々調べた挙句、「これ、すごいね」と言って肩をすくめていた。奴隷商人の魔法は、エルフの目から見ても優れているのだろう。
カツーン
ロイは目を覚ました。
遠くから、足音が近づいてくる。
最近すっかり聞きなれてしまった、サラの足音だ。護衛も近くにいるはずだが、シズは足音を立てない。
(また来たのか。……もう来るなと言ったのに)
言葉では拒絶しても、心は弾んでしまう。
危険だから来てほしくないのに、会いたいと思ってしまう。「ロイ! 会いたかった!」と言われると、何故か目頭が熱くなる。
彼女の存在は、亡き父を思い出させた。
彼女が買ってくれたらいいのに、と思う気持ちと、彼女にだけは買われたくない、という相反する気持ちが混ざり合い、ロイはいつも混乱してしまう。
カツーン、カツーン
足音が近づいてくる。いつもよりも足早だ。
(今日は、何を話そう)
長い間、奴隷として暗い人生を歩んできたロイが、陽の光を受けて育った少女に語れることは少ない。それでも、彼女と話をしたかった。
(そうだ。リーンと話をしたことを話そう。リュークが持ってくる魔石を、どうしてあげたらいいのか聞いてみるのもいい)
サラの愛らしい顔と、シズの仏頂面と、リュークの困り顔と、リーンの優しい笑顔が胸に浮かぶ。
ロイの口元は自然にほころんでいた。
まさか、こんな環境で、こんな気持ちになれるとは思ってもみなかった。
カツーン…………………………………………
(……何だ?)
足音が、止まった。
ロイの牢屋のずっと手前で。
酷く、胸が騒いだ。
ロイは重たい鎖を引き摺って、牢の格子に手をかけた。
刹那。
聞きなれた少女の悲鳴が、地下通路にこだました。
(サラ!?)
一気に血の気が引く。
「おやおや。この小さなネズミと大きなネズミはお知り合いですか?」
「!?」
振り返ると、歪に笑う奴隷商人が、ロイの後ろに立っていた。
青ざめたサラと、ぐったりとしたシズを抱えて…………
ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!
今日で投稿初めて丸1カ月経ちました。感謝です!
今回は放置プレイ中だったロイ君の再登場でした。
姪ドラゴンの魔石、どうするのが正解なんでしょうね? やはり、食べるのでしょうか。
ドラゴンの考えることは、良く分かりません(笑
これからもよろしくお願いします!




