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24. それぞれの夜 2

4人目の攻略対象者、ジミーことパルマ君の登場です。

 一方、王都の中心に位置する王城の一室で、第一王子ユーティスはため息をついていた。


 今日は「王子たるもの市井の生活を知っておくのも必要」と思い立ち、数人の護衛を付けて街に出てみた。初めての、お忍びである。

 もっとも、街の人々には正体がバレバレで、皆「王子?」「王子だろ」「王子に違いない」「絶対王子」「一周回って王女」などと思い、誰も目を合わそうとしなかったので、市井の生活とやらが感じられたかどうかは不明である。


 ついでに、ユーティスは、最近何かと噂になっている『S会』とやらも探っておきたかった。

『S会』のメンバーと噂されるパン屋に行くと、食べたことも見たことも無い様々なパンが並び、どれも衝撃的な美味しさで、危うく優雅さを忘れるところだった。どこでレシピを手に入れたのかと問う王子に、それまで下を見ていたジムは顔を上げ、真っ直ぐに目をみて「それはたとえ王様にも言えません」と答えた。


 そういえば、とユーティスは唇に手を当て、くすり、と笑う。


(真っ直ぐに目を見て、と言えば、あの子は可愛かったな。サラと呼ばれていたか。彼女には運命のようなものを感じる……)

「思い出し笑いをすると、鬼が現れて、鼻フックするそうですよ」

 どこから現れたのか、本気なのか冗談なのか判断に困ることを言いながら、友である茶髪の少年が隣に座った。少年の名はパルマという。この国の宰相の息子であり、「ジミー」ルートの攻略対象者だ。

「……それは、地味に嫌だな。お前の一族に伝わる話か?」

「いえ、これから伝えていく話です。今思いつきました」

「……そうか……」

 ユーティスにとって、パルマは唯一心を許せる相手だ。だが同時に、パルマがユーティスのことを只の王子としか認識していないことも知っており、寂しさも感じている。

 ゲーム内では語られることが無かったため、サラは知らなかったが、パルマは『記憶持ち』だ。

 レダコート国が生まれる前から、ずっとこの地を守り続けてきた『(フクロウ)』と呼ばれる一族の一員でもある。

『梟』の祖は、神話の時代に魔王と戦ったエルフの子孫だという。

 かつてこの地が『魔』に飲まれそうになった際、巨大な梟に乗ってこの地に降り立ち、強大な魔術で人々を救ったと伝説に残されている。その彼が、謝礼として王族が差し出した金銀財宝ではなく、王女を望み、愛し合った結果生まれたのが『梟』の一族だ。

 現在、梟はレダコート国の象徴であり、エンブレムにも使用されている。

『梟』の一族には、稀に、最初の子供である『レダス』と呼ばれた男の記憶を受け継ぐ者が生まれた。パルマも、その一人である。

 遠い先祖がエルフとはいえ、パルマの見た目は人間と変わらない。ただ、『レダスの記憶持ち』に現れるエメラルド色の瞳だけが、先祖の面影を宿していた。


「ところで、サラ様の身元、分かりましたよ」

「早いな」

 ユーティスは形の良い目を見開いて、身を乗り出した。

「ゴルド・シェード伯爵家の庶子で、我々と同い年です」

「ゴルド伯爵の娘? ただの平民には見えなかったが、まさか、伯爵令嬢とは……」

(伯爵令嬢が、何故、()()()()()()()……?)

 ユーティスは眉をひそめた。


 ユーティスが今回、視察に東の市場を選んだのは、この国で一番大きな市であることと、奴隷市が立つから、という理由であった。

 市場の裏手に国でも有数の奴隷商の屋敷があり、ユーティスはそこを視察したかったのだ。将来この国を治める者として、我が国の奴隷たちがどのように売買されているのか、人権は守られているのか、等、知っておきたかった。

 一貴族のふりをして奴隷商人の屋敷に行くと、あいにく主人は他の客の相手をしているとのことで、用意された控室でしばし待つことになった。

 暇つぶしに屋台を見てみようと外に出た際、視界の端に、見知った少女が屋敷の裏に回るのが見えた。

 止めるパルマを振り切り、ユーティスは少女を追いかけた。黒フードの男から『サラ』と呼ばれていた少女が、壊れた壁の隙間から屋敷に入るのが見えた。自分も続くべきか悩んでいると、見張りをしていたパルマから、前の客が帰ったと知らせを受けた。


 ユーティスは急いで控室に戻った。

 屋敷の主人に見つかったら、サラは只では済まない気がしたのだ。

 ユーティスは『借金奴隷』を買いに来た客のふりをして、出来るだけ主人をこの場に引き留めようと心に決めた。

 主人は笑ってはいたが、細い目には深い闇が落ち、油断のならない男だとユーティスは感じた。幸いサラの侵入には気付いていないようだった。


 その後、しばらく主人と話をし、一通り奴隷達を物色していた際、ユーティスの代わりにサラの後を追っていたパルマから「もう大丈夫」というサインをもらって王城に戻った。


 そして、現在に至る。

(それにしてもパルマが見たと言った「半魔」の男とサラ嬢。そして、サラ嬢と転移魔法で消えた黒い男。一体、この国で何が起きている……?)

 ユーティスは水色がかった銀髪を掻き上げた。

 自分の与り知らぬところで、何か大きなものが蠢いている気がして、ユーティスは背筋が寒くなった。

 横を向くと、パルマのエメラルドの瞳と視線が合った。ユーティスが頷くと、パルマもゆっくりと頷き返した。


 今日は収穫の多い一日だった。


 若い王子と『梟』の、人生を変えるほどに。


あれ?パルマ君の設定、どこかで見た気が(汗)

予定外の設定が生まれて、作者自身戸惑っております(笑)


ブックマーク、評価等、ありがとうございます。

楽しんでいただけていれば幸いです。

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