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2. 人生の選択肢

※エロフの方が浸透してきたので「エロ導師」を「エロエロフ」に変更しました!(2020/3/13)

『聖女の行進』は、マシロが死ぬ7年ほど前に発売され、一部のゲーマー達から絶大な人気を誇った「愛と絶望の乙女系RPG」という良くわからないジャンルのスマホゲームだ。


 攻略対象は5人の貴公子達。

 伯爵家の庶子として生まれた薄幸のヒロインが、夢と勇気を胸に困難を乗り越え真実の愛を得る、という定番の物語だ。


 しかし、このゲームが女子だけでなく、口コミからじわじわと男性からの支持を得たのは、恋愛そっちのけのRPG的な要素でも楽しめたためであろう。


 退職前のマシロにとっては、ゲームなど甥っ子姪っ子がカチャカチャとコントローラーを握りしめてテレビに向かっている姿を眺めるくらいの存在でしかなかった。 

 38年間勤めあげた会社を退職して暇を持て余した際に、姪っ子から勧めれられて始めたのが『聖女の行進』だった。


 碌な恋愛もしてこないまま、ただひたすら老後のために働いてきたマシロにとって、ゲームの世界はまさに夢のようであった。

 貴公子達との恋愛にドキドキと胸が高鳴り、悪役令嬢との争いに一喜一憂し、勇者との旅に心を熱くし、魔族との戦いに心を痛めた。


 全てが初めての経験だった。


 今まで単調で灰色だったマシロの世界はあっという間に極彩色に彩られ、『聖女の行進』は枯れかけていたマシロの生きがいとなった。


 そんな『聖女の行進』の主なエンディングは以下の8種類である。サラとして生きていくからには、どれか1つを選ぶ必要があった。


 1.5人の貴公子全てを落とす「ハーレムルート」

 2.メイン攻略対象である、第一王子「ユーティス」ルート。別名、「チョロ王子」

 3.ユーティスの親友であり後に宰相として国を支えていく「パルマ」ルート。別名「ジミー(地味)」

 4.魔物と人間の血を引くためにどちらからも忌み嫌われて育った青年「ロイ」と二人で生きていく「ロイ」ルート。別名「ボッチ」

 5.魔王を封じるべく旅を続ける伝説のエルフ魔術師と魔道を極める「リーン」ルート。別名「エロエロフ」

 6.聖女として魔王を倒すべく勇者カイトと旅をする「カイト」ルート。別名「正統派RPG」

 7.誰とも結ばれず、魔女として殺される「魔女」ルート。別名「カラレール(狩られる)」

 8.ひたすら剣術または魔術レベルを上げ特定の条件を満たした場合に得られる『伝説の装備』を身に着け、一人で魔王を打ち倒す「聖女」ルート。別名「聖女無双」


 もちろん、マシロは全てのルートを攻略していた。


 キャラクターは皆、魅力的であり、どのストーリーもマシロは気に入っていた。これがゲームであれば、とりあえず「ハーレムルート」を目指すべきだと思うが、今のマシロ、もといサラにとっては現実である。

 愛とか恋とか面倒事は嫌いだし、不幸になる人間も多い。

 それは面倒事より嫌だった。

 また、死が待ち受ける「カラレール」だけは何としても避ける必要があった。

 できれば何度顔から火が出たか分からない「エロエロフ」ルートも避けたい。

 個人的にはいまいち盛り上がりにかける「ジミー」も無しだ。

 「チョロ王子」を選ぶと悪役令嬢絡みで色々と面倒事が多いし、「突然の婚約破棄から公爵令嬢の死刑」なんかをやってしまう駄目王子に育ててしまう。

 「ボッチ」は特にお気に入りだったが、寂しすぎた。ロイとはどのルートを選んでも孫のように可愛がり……もとい友達になってあげたい。

 勇者との旅は魅力的で、男性ファンからの支持も多いルートだが(一部の女性ファンの1番人気は「エロエロフ」だということは置いといて)、ゲームでは描かれなかった魔王を倒した後の生活に不安があった。あいつは絶対、調子に乗って浮気するタイプだ。


 ちなみに、「魔王ルートを作ってください」「魔王は魔物なので無理です。魔物とイチャイチャとか、俺、そういうの嫌です」「そこは愛の力で何とか」「愛の力で解決できないこともあります。世の中、だいたいそうです。人生なめんな」というファンと製作者とのやりとりは有名である。


 だとすれば、サラに残されたルートは1つ。

 誰も不幸にならない、最も過酷で孤独なルート。


「よし、今日も頑張ろう!」


 サラは固いベッドから飛び降りると、伯爵令嬢とは思えないほど質素な服に着替えた。

 着替えを手伝う侍女も、朝食を運ぶ使用人もいない。

 そればかりか、サラの部屋は広大な屋敷の端にあり、周りにはほとんど人の気配がない。 


 わざわざノルンから連れてこられたというのに、完全に放置だ。

 サラは自力で生きていこうと、早々に腹を決めていた。


 んー、と背筋を伸ばすと、サラは大きく息を吐いた。

 

 悩んだり、落ち込んでいる暇はない。

 ルート攻略のために、やることが山積みなのだ。


「さて、武器屋に行きますか」


 自ら稼いだ小銭を片手に、サラは今日も屋敷を抜け出した。


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