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127. これからも道は続いていくから

 リュークに抱えられ、力を使い切ったサラは眠っていた。

 その顔には、満足そうな笑みが浮かんでいる。


 聖女の力と、ドラゴン達の物理的な力で扉は閉じた。

 扉は完全に閉じると同時に消滅したため、今は扉があった場所には澄み切った青空が広がるだけである。 


 門を閉じた後、必要の無くなった結界を解除し、サラ達一行は魔王城を出て噴水のある大聖堂前広場に集結した。

 連合軍の精鋭部隊も合流している。


 皆、疲労困憊であったが、どの顔にも清々しい笑顔が浮かんでいた。


「皆、よくやったねえええええ!!」

 僕ちゃん感激ー! と、リーンがあちらこちらで「よしよし」をして回っている。腹の傷はすっかり治ったようだ。


 ジークの翼の影に避難しているバンパイア王があからさまに「よしよし」に困惑しているが、疲れ切っているため苦言を呈する気にもならないらしい。

「おや? 『よしよし』って、意外に良いものですね!」

 と、デュオンが笑っている。

 ラズヴァンに至っては、リーンだけでなくエリンとアマネからも「よしよし」されて尻尾を振っている。

 チビエロドラゴンが「ぼくもー!」と言いながらエリンとアマネの間に割って入ろうとして、「邪魔しちゃ駄目だよ?」とロイに抱えられて大人しくなった。

 それを見たゴリラが「あ! このエロドラゴン! 離れやがれ!」と手を伸ばし、ぱくり、と手を喰われて悲鳴を上げている。


 ほんの数分前まで、歴代最強の魔王と戦っていたことが信じられないほど、明るい光景が広がっていた。


「夢みたい」


 ぽつり、とソフィアが呟いた。腕の中では、泣きつかれたキトが眠っている。

 生まれ育った場所が、たった一日で全く別物になってしまった。

 今回、誰よりも失ったものが多かったのは、ソフィアに他ならない。だが、不思議と喪失感は無かった。


 サラのおかげで、父や兄の想いを受け取ることが出来たから。

 カイトのおかげで、新しい命を授かることが出来たから。


 お腹の子供が、「あの子」でもヒューそのものでもない事は分かっているが、ソフィアにとっては、大事な、大事な宝物だ。

「ソフィア」

 カイトが、後ろから左腕をソフィアの肩に回しながら、右手で腹を撫でた。

「名前、ヒューにしよう?」

「!? ……まだ、男の子かどうか分からないわよ?」

 意味もなく、涙が溢れてきた。

「大丈夫。男の子だよ? 僕、分かるんだ。そういうの」

「何、それ……」

 ソフィアは、カイトの胸に顔を埋めた。涙が止まらないのは、きっと、嬉しいからだ。

(この子は、幸せになる……)

 そう、心から思えたから。



「シグレ君もよしよーし……って、あれえ!? 何でシグレ君、片腕ないの!? 何か、腕失くす人多くない!? 腕ってホイホイ失くしていい物じゃないよ!?」

 シグレにまで「よしよし」をしようと近づいたリーンが、シグレの惨状に気付きうろたえている。

「不可抗力です」

「治癒は? 腕、無くしちゃったの?」

「消失しました」

「え!? 僕のせい!?」

「違います。人の空間魔法に腕を突っ込んだ自分の責任です」

「何してんの、君!?」

 リーンのツッコミが止まらない。冷静沈着なシグレとの対比が面白い。


「シグレ様、剣士ですから、片腕が無いと大変でしょう? ランヒルド。あんたの腕あげたら? 長さもいいくらいだし、どうせ生えてくるんでしょう?」

「む? それもそうだな」

「へ?」

 アルシノエの冗談を真に受けて、ランヒルドが「ズシュ」っと自分の左腕を切り落とした。

「痛い」

 無表情のまま、ランヒルドの目からボロボロと涙が零れた。

「「「ええええええええええええええええええええ!?」」」

 目撃した全員が悲鳴を上げた。言い出しっぺのアルシノエが一番動揺している。

「ぎゃあああああ! 何やってんの!? 何やってんの!? 馬鹿じゃないの、あんた! あんたのそういうところが嫌いなのよっ!」

 そう言いながら、アルシノエは素早くランヒルドの腕を拾い上げ、問答無用でシグレの肩に繋いだ。

「ありがとうございます……凄いですね。色んな意味で」

 突然の僥倖に、シグレも困惑している。

 今ここに、オーガの右腕と、ドラゴンエルフの左腕を持った鬼が誕生した。

「ランちゃん! 傷口は塞いだから、後はじっくり生えるのを待とうね!」

 リーンがワタワタと抱きしめながら、泣いた娘をあやしている。

「父上。ランヒルドは頑張りました」

 ランヒルドにしてみれば、妹に提案され、「む、名案だ」と思って実行した訳だが、「腕を切ったら痛い」ということが失念していたようだ。

「分かってるよう! んもう、ランちゃん可愛い! 良い子、良い子!」

「む。ランは、良い子」

 腕を失う、という大事件が起こったというのに、父の「よしよし」だけで済ませそうな姉の姿に、主犯の女は「きいいいいいい!!」と奇声を上げた。

「リュークお兄様! ぼーっと立ってないでランヒルドを褒めて!」

 突然、指名を受けてリュークがビクッと肩を震わせた。

「ぼーっと立っていた訳ではなく、心配していたんだが……」

 そう言いながら、リュークはサラをリーンに渡して、ランヒルドの頭を撫でた。

「リュークお兄様。ランヒルドは頑張りました」

「ランヒルドが頑張ったのは分かり切っている。ランヒルドは良い子だからな」

「む。ランは、良い子」

「だああ!」

 ああ、じれったい、とアルシノエが割って入った。

「そこは『よしよし』だけじゃなくて、ご褒美のチューよ! リュークお兄様っ!」

「む、そうなのか?」

「む、そうなのか!?」

 驚いたように、リュークが眉を上げ、ランヒルドは顔を輝かせた。

「ランヒルド。よく頑張ったな……偉いぞ」

 それぞれが色んな想いで注目する中、リュークはランヒルドに……キスをした。

「うわああああああ!」

 叫んだのはロイだ。リーンは楽しそうに笑っている。


 サラが気を失っていて本当に良かった、とロイは心から思った。


 ◇◇◇◇


 魔王が倒れたことで、世界中の魔が一気に弱まった。

 落ち着くのも時間の問題であろう。


 世界中で多くの犠牲が出たが、この規模の魔王の出現にしては、破格に被害が少なかったと言える。

 勇者、聖女、大魔術師、古代龍、と、あらゆる戦力が揃っていたことも理由であろうが、間違いなく、レダコート王国が発案した国連の成果があったことを忘れてはいけない。

 もちろん、不備も多く、反省すべき点が山積だが、これから一つずつ改善していけばいいのだ。


 ◇◇◇◇


 帰還後。


 カイトとソフィアは、アラミスと共に実家へと戻った。 

 魔王の妹との間に子供ができたと聞き、父からは勘当されたが、その後、孫が生まれると少し態度が軟化したらしい。

 現在は、カイトの母が孫とソフィアをいたく気に入り、可愛がってくれているそうだ。

 もちろん、子供の名前は「ヒュー」である。


 ユーティスは、父王や各国の代表とともに事後処理に追われている。結局、1日で魔王が倒れたために、避難民を速やかに帰すことになったが、場所によっては派手に破壊され、しばらく住めない所もあり、そういった者達の受け入れや、街の修復の援助に力を入れている。 

 ちなみに、甲斐甲斐しくユーティスを補佐する公爵令嬢の姿が目撃されており、結婚も間近では? と、噂が立っているが、真偽のほどは定かではない。


 パルマは、レダコート王国の使者として、各国を飛び回っている。時々、お土産を両手に抱えてサラの元を訪れる姿が目撃されている。


 ロイは、一度故郷へ戻ったが、すぐに冒険者へと戻り、頻繁にサラや『紅の鹿』達とダンジョンに潜っているらしい。現在は、父エドワードと共に、生まれたばかりの姪っ子にメロメロだと報告されている。


 バンパイア達はリーンの転移で無事にハミルトン王国へ帰って行った。

 後日、サラとパルマが使者として礼に行った際、バンパイアにも犠牲者が出たことで落ち込むサラを慰めるゾルターンの姿が目撃されている。

 デュオンは、バンプウィルスを大量に失い、ほとんど人に戻っていた。だが、ピュアエルフの血肉と、精霊の血を受けたデュオンは以前よりもパワーアップをしており、ナイトの称号は返上したものの、冒険者ギルドのマスターは続けることとなった。

 時間が経てばバンプウィルスが増殖しバンパイアに戻るか、逆にエルフや精霊の血により完全に浄化されて完全に人に戻るのかは分からなかったが、「いい実験ですね」とデュオンは笑った。


 シグレは新しい左腕を馴染ませるために、しばらく山に籠っていたらしいが、最近動きがあったようだ。    


 ランヒルドは、本来であれば魔王を倒した後はすぐに眠りにつくのだが、今回はもうしばらく起きているらしい。「S会」の商品を食べさせると、大層テンションが上がった。どうやら、ドラゴン族に「S会」は大好評のようだ。


 アルシノエは自分の国の復旧に忙しい。

 エルフの魔力は高いため、魔王が復活すると一番に餌として狙われるらしい。とはいえ、今回はそれほど被害がなく、とばっちりで被害にあった近隣の国々の復興を手伝っているそうだ。……駆け落ちした孫娘の行方は、未だに不明だそうである。


 グランは、容態が芳しくない。アルシノエの治療で一命を取り留めたものの、ギィとの戦いの負荷は、老体には重すぎたのだ。今は、家族の元でのんびりしているらしい。冒険者は引退だ。


 サラは、武器屋で正社員として働きながら、時々冒険者としてダンジョンに潜っている。たまに国から頼まれて、聖女のアルバイトをしているらしい。


「らしい、って、把握してないの? 君んとこの従業員でしょ?」


 王都の昼下がり。武器屋の一室で紅茶をすすりながら、リーンは笑った。

「それはそうなんだが、サラは忙しくてな。休みをやると、ダンジョンに潜るか『S会』で新商品の開発を行っている。まあ、うちは俺一人でも何とかなっているから、好きにさせているが……」

 リュークは苦笑しながらリーンの問いに答えると、紅茶のおかわりを継ぎ足した。

「そう言うリーンは、まだ眠らないのか?」

「ん? 僕?」

 『S会』の新商品であるブランデーケーキを頬張りながら、リーンはにっこりと口角を上げた。

「まだこれから、面白いことが起こりそうな予感がするんだよね。だから、しばらくサラちゃんを見守ることにしたんだ」

「面白いこと?」

「ふっふーん! 秘密だよ。というか、まだ予感でしかないから説明できないんだ」

 でも、とリーンは付け加えた。


「僕の運命が、大きく変わる気がする」


 ◇◇◇◇


「ふう! 今回も頑張った!」


 サラは王都の冒険者ギルドでダンジョンで得た宝を換金すると、一度屋敷へと戻り武器屋の制服に着替えた。

 白い長袖のブラウスに、ダークピンクのネクタイとフレアスカート、白いハイソックスとダークピンクの靴のコントラストが『大人可愛い』、武器屋オリジナルコスチュームである。


 今日はまだ日が高い。今から行っても、数時間は働けるだろう。


「お父様! 仕事に行ってまいります」

「日が暮れる前に戻れ! 泊りは許さん!」

「わわわ分かってます!」


 いつもの調子で見送られながら、サラは赤くなった頬をパアンと叩いた。


 数日ぶりの出勤だ。

 リュークは元気にしているだろうか。

 ひょっとしたら、リーンが遊びに来ているかもしれない。


(ねえ、リューク。私、今が一番楽しいよ)


 サラは、もうすぐ18になる。

 15歳で成人するこの国の令嬢にとって、子供でいられる時間は、もうないのだ。


(でも、もう少しだけ、このままでいさせて?)


 リュークは、相変わらずサラをどう思っているのか分からない。

 だが、初めて会った頃よりも、格段に笑顔が多くなった。

 その笑顔の源が、自分であると信じたい。


 想いを伝えたら、きっと今の関係は壊れてしまう。

 だから今日も、サラは自分の気持ちに蓋をする。


(もう少しだけ、待っててね。リューク)


 サラはもう一度、パアン、と頬を叩いて顔を上げた。


「さて、武器屋に行きますか!」


ブックマーク、評価、感想等、本当にありがとうございます!


何とかたどり着くことができました!

皆さまのおかげです。感謝いたします!


拙い文章で思い付くまま書き進めので、色々と至らない点があるのは重々承知しております。

ちょこちょこと修正しつつ、更新も進めて行きますので、お気づきの点がございましたら教えていただけると幸いです!


これからもよろしくお願いします。

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[気になる点] オーガの右腕が唐突にオークの右腕になったのは何故?
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