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126. 勇者の奇跡

本日、2話投稿しています。(125話、126話)

ご注意ください。

「聖剣生成」


 カイトの剣が光と共に生み出された。


「すごい……!」


 カイトは思わず嘆声を漏らした。

 サラの鎧が皆からの想いが籠った物であるのに対し、カイトの剣は皆への想いを籠めた物だ。

 今まで触ったどの剣よりも、カイトに力を与えてくれる。

 皆のためなら……ソフィアのためなら、何だって出来そうな気がしてきた。


「カイト! やったわね。後は、私が魔王の動きを止めれば……!」

「ソフィア、何をする気!?」

「さっきので、魔王は警戒していると思うの。同じ手は使えないわ。だから、初めから私が魔王を押える! きっとまたあの攻撃が来るから、一瞬でケリをつけてね!」

「危険すぎるよ!?」

「大丈夫! 皆、命を賭けているわ。それに……」

 ソフィアは輝くばかりの笑顔を見せた。

「奇跡を起こしてくれるでしょう? 勇者様」

 ぐっ、と、笑顔一つでカイトの心に火が着いた。

「分かった! やってやる!」

 火力充分、勇気満タン。

 そんな顔のカイトを見つめながら、ソフィアは覚悟を決めていた。奇跡など、そうそう起こせるものではない。


「ごめんね、カイト」


 ぼそっと、ソフィアは呟いた。

 自然に、お腹に手を添えて目を閉じる。

(今から、そっちに行くね。お爺様と、伯父さまと、4人で暮らそうね?)

 赤ちゃん、とソフィアは心の中で呼びかけて、目を開いた。


「勇者! そろそろ限界だ!」

「大丈夫! 行けるよ!」


 リュークの咆哮に、カイトが答え飛び上がった。


「私もっ!」

「待って!」


 カイトの後を追って飛ぼうとしたソフィアにサラが抱きついた。


「サーラちゃん!?」

「ソフィア! 想いを届けて!」

「!?」


 突然、ソフィアの中に温かい魔力の塊が入り込んできた。

 目を覚ましたサラが『共感と共有』の力を使う相手に選んだのは、ヒューではなくソフィアだった。


 ヒューの身体にはソフィアの右腕が残っている。

 そして身体から消えたヒューの想いは、きっと何処かを彷徨っている。ヒューに取り込まれて消えたはずのガイアードの想いが、残っていたように。


 サラの声は届かなくても、長い間想いを『共有』していたソフィアの声ならば届くかもしれない、と、サラは賭けに出た。


 もう一度。

 もう一度だけ、ヒューの想いを蘇らせる……!


「……ああ!」

 思わずソフィアは悲鳴を上げた。

 サラの魔力で満ちた身体に、『想い』が宿る。


「プラチナロード」


 サラが、聖なる道を魔王へと延ばす。サラは、卒業式の時に卒業生全員の想いを籠めて作った『フラワーロード』を思い出していた。

 今度の道は、もっと沢山の人の想いを籠めたものだ。鎧の刺繍がサラに力をくれている。


「行って! カイト! ソフィア!!」


 聖なる道を、カイトが駆ける。

 ソフィアは転移でヒューだった者の正面に躍り出る。


「お兄様、もう終わりましょう」


 ソフィアはヒューの頭を胸に抱えるように、正面から抱きしめた。


「!?」


 ソフィアを払おうと、右手でソフィアを掴んだ魔王の手が、一瞬止まった。


 サラからソフィアを通して、ガイアードやソフィアの想い、そして、ヒュー自身の想いが流れ込んでいく。


「届いて……! お兄様っ!!」


 ソフィアが泣きそうな声で叫んだ。


「……あ」


 ヒューの目に、一瞬だけ光が灯った。


 その瞬間。


 ズブリ


 カイトの剣が、ソフィアの腹を通してヒューの胸を貫いた。

 勇者の力を宿す聖剣は、暗闇に光が差すようにヒューの中を進み、魔界の扉を破壊する。


「ぐああああああああああああああああ!!!」


 魔王が苦悶の声を上げた。


「お兄様! 私も、一緒だから……! 一緒に、逝きましょう」


 ソフィアはありったけの力で、暴れる兄の頭を抱きしめた。


「ぐあああああああああああああああ!!!」


 魔王だった者の身体に光が満ち、弾け飛ぶ寸前。


「奇跡よ、起これえええええええええ!!!」


 カイトの絶叫が響き渡った。


 パアン!


 乾いた音と共に、世界が光に包まれた。


 真っ白な、清らかな世界。一瞬の静寂。


 その中で、ヒューの魂は聖剣の光によって浄化され、光の花びらとなった自らの体とともに消えようとしていた。だが、消えかけた魂を包み込み、背を押す者があった。温かな、大きな手。その手に押されるまま、ヒューの魂は聖なる光の中に入り、やがて、居心地の良い器に納まった。


 光が治まった時。


 トクン、と小さな鼓動がソフィアの体内で蘇った。


「あ……ああ……!」


 思わず、ソフィアが嗚咽を漏らす。


 カイトの聖剣は、『魔』だけを討つ。

 まっさらな、無垢な魂となったヒューは、聖剣により繋がった赤子の体へと還った。


「……カイト……!」

「ソフィア……!」


 勇者は奇跡を起こしたのだ。


 泣きながら抱きしめ合うカイトとソフィアを眺めながら、サラはヒューへと祈りを捧げる。


 ……優しい愛に包まれて、今度こそ幸せに。おやすみなさい、ヒュー……



「よし! 門を開く力は無くなったよ! ジーク、マール、力で押し切って! リュークとランちゃんも手伝って!」


 静まり返った戦場に、リーンの元気な声が響いた。

 魔王の最期を見届け、放心状態だった仲間達が「はっ!」と我に返る。


 魔王は倒れた。

 後は扉を閉じるだけだ。


「サラちゃん! もう一踏ん張りだよ! 皆! サラちゃんに協力して!」

「「「おお!」」」


 サラの中に、皆の想いと魔力が流れ込んでくる。

 サラは目を閉じて、胸の前で両手を組んだ。


 今もなお、扉からは魔物達が這い出してきている。

 世界中に溢れた魔物達も沢山残っている。


 だが、それらは頼もしい仲間達が何とかしてくれるだろう。


 サラの仕事は、扉を閉じることだ。


「聖女の揺り篭」


 サラは仲間に後を託し、祈りを捧げた。


ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!

評価が増えると、大変、テンションが上がります。


今日は2話投稿しています。

なんなら、もう1話いけそうな感じです!ノリノリです!

ようやく、ここまで辿り着いて感無量です……って、まだ終わってませんけど、既にやり切った感があります(笑)

あともう少し!

最後までお付き合いいただけると幸いです!


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