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125. カイトの剣とサラの鎧

 カイトの剣が、白く、淡く輝く。

 カイトはソフィアの腰に回していた左手を離し、剣を両手で構え直した。


「行くよ、ソフィア」

「ええ。私の聖魔法と闇魔法で道を作るわ。カイトは、真っ直ぐ進んで……!」

「うん。任せた!」


 カイトは全身に光の精霊を纏い、空高く舞い上がる。

 カイトに合わせ、ソフィアもひらりと飛翔した。


「ドレイン! ……プラチナロード!」


 ソフィアの身体から、莫大な魔力が放出された。

 ソフィアはドレインで魔王との間の『魔』を吸い取ると、それを聖魔法に変換し聖なる道を作った。先程、サラからもらった聖女の魔力を使った応用技だ。元々、闇魔法と聖魔法に長けたソフィアにとって、サラの魔力は非常に相性が良かったようだ。


 ソフィアから魔王へと延びる真っ直ぐな光の道に、カイトが飛び込む。


「覚悟しろ! 魔王!」


 魔王は本能的に勇者の剣は危険だと察したのか、光の道から外れようと更に高く飛び上がった。だが、光は魔王の後をぴたりと付いていく。


「逃がさないよ!」


 転移で逃れようとした魔王の身体を、リーンが後ろから羽交い絞めにする。


「リーン!?」


 思わずリュークが叫んだ。いくらリーンとは言え、魔界の扉と繋がる魔王に直接触れるなど狂気の沙汰だった。過去の戦いでも、そんな暴挙に出たことは一度もなかったはずだ。


「くらえ!!」

 カイトの剣が魔王をリーンごと貫いた。……いや、貫こうとした。


 剣は、魔王の本体から生えた複数の黒い手の様な『魔』の塊によって受け止められていた。

 魔手はそのままカイトの剣を折り、別の手はリーンの身体を貫いた。


「………………!! っくあああ!!」

 急激に『魔』に触れ、体内の魔力を蹂躙される痛みに耐えきれずにリーンが落下する。


 更に別の手が容赦なくカイトを殴りつけ、後ろにいたソフィアごと吹き飛ばした。

「ソフィア!」

 カイトは空中でソフィアを抱きかかえると、庇う様な姿勢のまま瓦礫へと激突した。


「リーン! なんて無茶なことを!」

 先に落下したリーンを空中で受け止めながら、リュークはリーンを叱る。

「て、てへ。怒られちゃっ……ぐふっ! ちょっと、ヤバイ」

「俺の翼で休め」

「すまないね。でも、どうしてもさっきのチャンスを逃したくなかったんだ。扉を具現化させるほどの魔王って、久々でしょ。エルフが魔王になると、こんなに強いんだね」

「喋るな。腹に穴が開いているぞ」

「ん。……リューク。僕はアルちゃんかランちゃんに預けて、君は勇者のサポートをお願い。僕も、サラちゃんも動けない今、勇者だけが希望なんだ」

「……分かった。早く、回復してくれ」

「うん」


 リュークはリーンをアルシノエの後ろに寝かすと、カイトの元へ転移した。

 カイトに大した怪我は無いが、ソフィアの負傷の程度が大きいことと、全力で放った攻撃が通用しなかったことに、少なからず衝撃を受けているようだった。


「勇者、大丈夫か?」

「大丈夫! 1度で駄目なら、何度でもいく!」

「落ち着け」

「落ち着いてる場合じゃないよ!」

「お前は力を使い切れていない」

「!?」

「お前が今使っている剣は、サラの物だろう? 黒龍の爪では魔王は倒せない。それは、防御のための剣なんだ」

「じゃあ、どうしろとっ」

「本来の勇者の剣は、柄だけだ。勇者は力を具現化させて剣を作るんだ。やってみろ」

「やってみろって……あ!」

 カイトは、先程根元から折られたユエンから貰った剣を思い出した。カイトはサラの剣をリュークに渡し、ユエンの剣を鞘から抜いた。

「いい柄だ。俺は時間を稼ぐ。急げ、勇者よ」

 そう言い残すと、リュークは体形を変え戦闘モードに入ると、魔王に向かって飛び立った。


 呼吸を整えるカイトの袖を、ソフィアが掴む。

「カイト。頑張って。私も、まだやれるわ」

「うん。ソフィア。……愛してる」

 カイトはソフィアにキスをすると、立ち上がって剣を形成し始めた。やったことはないが、自然にイメージが湧いてくる。光の精霊を集め、勇者特有の聖魔法で繋いでいく。大事な人達を思い出し、彼らを守りたいと想う気持ちを籠めた。



 一方、サラは気を失っていた。

 気持ちだけではどうしようもない程、魔力を消耗していたのだ。

「サラ、しっかりして」

 ロイはサラを横抱きにして、額を合わせる。

「ルカ! ルカの魔力と、僕の魔力をサラに分けられる?」

 ロイが身体の中のルカに呼びかけると、(うん。もうやっているよ)と、脳内に返事があった。

「我々の魔力も使え。我らも聖女殿にテイムされている身だ。魔力の移譲は可能だろう」

「……はい! ありがとうございます!」

 ゾルターンとデュオンも、サラの手を握り魔力を送り始めた。二人とも、激戦の後でほとんど回復していないはずであり、送り込める魔力は微々たるものだ。だが、ロイにはサラを想う二人の気持ちが嬉しく、思わず満面の笑みで礼を言った。「そなたに礼を言われる筋合いはない」と言いながらも、ゾルターンもデュオンも微笑んでいた。


 ◇◇◇◇


 サラの意識は、何もない空間を彷徨いながら、空っぽの身体に魔力が流れ込んでくるのを感じていた。

 それだけじゃなく、何か温かいもので包まれているのを感じる。先程、ヒューの意識の中で海底に引き摺り込まれそうになった時に感じた温もりと同じものだ。


(……ああ、これは、皆の想いだ)


 ほわっ、と、サラの胸に熱が籠る。


 直接魔力を流し込んでくれているロイ達だけではなく、この場に居ない人達の分も全身から感じ取ることが出来た。


(これが、新しい鎧の力……?)


 防御力だけなら、『聖女の鎧』の方が数段上だろう。

 だが、刺繍の一針、一針から、サラに対する想いが伝わってくる。これは、サラだけを守る、サラだけの鎧だ。


 頑張れ。

 負けるな。

 お前なら出来る。

 俺達が付いている。

 代わってやりたい。

 好きです。

 無事に帰ってきて。


 その想いの一言、一言に、想いを籠めた人の顔が浮かんでくる。


 ―――サラ。お前は一人じゃない。


 その人の顔が浮かんだ時、ドクン、とサラの鼓動が高鳴った。


 ―――こんなにも多くの人が、お前を想っている。これが、お前が選択してきた結果だ。サラ。たくさん悩んで、たくさん考えろ。そうして選んだ道には、きっと多くの奇跡が生まれている。


 うん、そうだね。と、サラは呟く。意識の中なのに、涙で視界が滲んだ。


 ―――サラ。また、一緒に踊ろう。


 うん。うん……!


「大好き……みんな!!」


 サラは、目を覚ました。


ブックマーク、評価、感想等ありがとうございます!


文字数の都合で、今回ちょっと短めでした!

何となく、サラが感じた想いの大半がゴルドパパの想いな気がする……


次回で、決着がつきます。(多分)

その後、1話で第2章が終わる予定です!

うー。早くアホな話が書きたいです!!

これからもよろしくお願いします。

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