117. 魔王城3階の戦い -双子の守護者 2-(挿絵あり)
本日、116話、117話を更新しております。ご注意下さい。
※2020年3月13日 ゾルターンと、何故かユーティスのイラストを追加しました。
胸の中に、ガイアードの想いが残っている。
(これ程、愛があるのなら……!)
「ガイアード。『魔王の国』を諦めて、大人しく何処かで暮らしてくれるなら、ソフィアを助けてもいいと言ったら……?」
思わずサラは禁断の提案を口に出していた。
『共感と共有』の力で、ガイアードの心に触れてしまった。触れただけで、予定していた浄化までは出来なかったが、それでもサラはガイアードと話がしたいと思ってしまったのだ。
「お前は、その男を助けると言えば、魔王討伐を諦めるのか?」
ガイアードの言葉に、サラは床に転がるゾルターンに気が付いた。あちこち傷付いてはいるが、まだ息はある。ただ、ほとんど魔力が尽きかけていた。こんな状態になるまで、よく一人で耐えてくれたと、感謝に堪えない。
すぐにでも駆け寄って治癒を施したいが、今は動けない。
「……それは、できません」
サラは、ぐっと唇を噛みしめた。
「俺も同じだ。俺はこの国の王だった。今の俺にとって、魔物や魔族こそが守るべきものであり、我が民だ。お前達にとって魔族が敵であるように、俺にとって人は敵なのだ。かつて、人は俺から全てを奪った。妻も子も、民も、友も。そしてまた、俺から奪おうとしている。お前達は、我が国の侵略者だということを忘れるな!」
「侵略者……」
―――魔物と我々とでは『価値観』が違う。
そう言ったのは誰だったか。
サラが思わず謝りそうになった時、張りのある男の声が響いた。
「王だ、王だと、たかが即位3年で国を滅ぼした愚王が知ったような口を利くな!」
見ると、先程まで倒れていたゾルターンが、剣を杖代わりにして立ち上がっていた。
「貴様の言う王とは何だ? 全てを手に入れた者か? 己の欲しいモノ全てが手に入るとでも思っているのか? 貴様は幼子か? それとも馬鹿か?」
「!!」
ゾルターンの暴言に、ガイアードは目を見開き、息を呑んだ。
「王とは、民の奴隷だ。民のために身を粉にし、盾となり、剣となり、屋根となり、大地となり、光となり、闇となる。王は全てを手に入れるのではなく、全てを与える者だ! 王が何かを得るためには、何かを捨てざるを得ない。それが出来ないお前は、愚王なのだ!」
「うるさい! 俺は、たった今、子のために友を捨てたばかりだ!」
止まることを知らないゾルターンの叱責に、ガイアードは反論した。牙を剝くガイアードに、ゾルターンは「ふん」と笑った。
「余は、妻のために父と兄らを殺した。だが、それは妻のためだけではない。妻を想うだけならば、攫って逃げればいいだけの話だ。余が肉親を手にかけたのは、不毛な実験を繰り返し、民の命をいたずらに消耗する愚行を正す必要があったからだ。だが、お前はどうだ。妻と子を失ったことは同情を禁じ得ないが、それで魔族となり、仇だけではなく、お前を慕う部下や民まで滅ぼしたのは、お前の弱さだろう! 自分の過ちを他者のせいにするな!」
どこにそんな胆力が残っていたのだろう、と思えるほど、ゾルターンの声には覇気があった。
ゾルターンは怒っていた。
300年、王として生きてきたゾルターンから見れば、ガイアードはたかが3年王位に就いていただけの若造だ。
それは同じ王としての、怒りだ。自分一人の感情で、国を滅ぼした愚かな王に対する怒りだ。そしてこの愚王は、また同じことを繰り返そうとしている。
「子のために友を捨てたと言っていたが、王ならば国を、民を想うべきだ。死んだ娘を生き返らせるより、生きて忠義を尽くす者達を護るべきなのだ。それが理解できないから、貴様は、全てどころか、何も手に出来ないのだ!」
「……黙れ……」
ゾルターンの言葉の一つ一つが、容赦なくガイアードの心を抉っていく。
「貴様が求めているのは、民のための国ではない」
「黙れ」
「貴様が欲しいのは、自分の望むモノだけが当たり前にある国だ! そんなものは絵空事に過ぎぬ! 貴様は絵に描いた林檎を欲しがる、ただの愚か者だ!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
ガイアードの叫びと共に、魔力が一気に膨れ上がったかと思うと、ボウッ、と部屋の温度が上がった。
「うおおおおおおおおお!!!」
ガイアードは怒りで我を忘れている。
「くぬう!」
「王様!」
ガイアードの隙を突いて、サラはゾルターンの元へ転移した。結界でゾルターンを包み、治癒魔法をかける。ほんの一瞬の間に、ゾルターンは皮膚のほとんどが焼けただれていた。
ジュッ、と音がして、部屋にあった家具が全て消失する。消滅、といってもよかった。
もう少し遅ければ、ゾルターンも消滅していただろう。それほどまでに、ガイアードの火力は凄まじかった。
「聖女殿。感謝する……すまぬ。怒らせ過ぎた」
肩で大きく息をしながら、ゾルターンがサラに謝る。「いいえ」とサラは首を振った。
「王様の気持ち、分かります。それに……きっと、あの人には叱ってくれる人がいなかったんです」
そう言って目を伏せる聖女の姿は、年齢よりもずっと大人びて見えた。
「おおおおおお!」
「危ないっ!」
ガイアードがサラ達に襲い掛かった。サラはとっさにゾルターンを胸に抱いて、転移した。転移するためには、具体的な場所や人をイメージしなければならない。サラがイメージしたモノ。それは、視界の隅に入った、ソフィアの眠る水晶だった。
ゴツン、と、サラの鎧が水晶にぶつかった。
サラ達を見失い戸惑った様子のガイアードだったが、振り返りざまに音のした方向めがけて愛刀を投げた。
「!!」
振り返ったガイアードの目に入ったのは、真っ直ぐに飛んで行く愛刀と、再び転移で逃れる聖女と男、そして、愛娘の眠る水晶だった。
「ソフィアアアアアア!」
ガイアードは吼えた。反射的に体が動く。
ガイアードは愛刀が水晶を砕くよりも早く、自ら水晶の盾となった。
「ガイアード!?」
思わず、サラが叫んだ。ガイアードの愛刀は、主の腹に深々と刺さり、止まっていた。
「ぐっ」
ガクッ、とガイアードが膝を突いた。自分の剣で死ぬことはないが、痛みはある。が、そのおかげで頭が冷えた。
ソフィアは無事か、と振り返り、ガイアードはあることに気付く。
……ソフィアに、この場に居る誰のものでもない、膨大な魔力が注がれていた。
↑そう言えば、ゾルターンを描いたことないなと思いまして……
ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!
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今回はガイアードが先輩王にめっちゃ叱られるお話でした。
ゾル様、容赦ない(笑)。
あと1~2話で、ガイアード編も終わりです。
次回もよろしくお願いいたします。
そういえば、新型コロナが流行っていますね。
再来週から1週間、北海道に旅行に行く予定なのですが・・・行っていいのかな。
ちょっと不安になってきました!