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100. 大聖堂の戦い ー狂気のエルフ 3ー

本日、99話、100話を投稿しています。ご注意ください。

「グラン! あぶねえ!」

 突然、風の刃がギィの腕ごとグランを切り裂いた。

「ぐあっ!」

 血をまき散らしながらグランが倒れる。

「うりゃああ!」

 腕を失い、後ろへ下がったギィの身体に、ダイとバンパイアの剣が無数に突き刺さる。

 が、ギィは転移して上空へと飛び「あははは!」と笑った。

「やっぱり年寄りは食えないな! 面白い。かなり持っていかれたが、まあ、後で補充すればいいだけのことだ」

「何故、死なん!? アンデットなのか!?」

 ダイが叫んだ。心臓も、首も、頭も切った。なのに薄皮一枚を残したまま、ギィは生きている。

「ふふ。不思議か? では、1つ質問しよう。実験に失敗した女達は、どうなったでしょうか」

「はぁ!? 分かる訳ねえだろ! このサイコ野郎!」

 あはは! とギィは笑う。

「答え。彼女達の魂と魔力は、俺の中に閉じ込められているのさ。彼女達の数だけ、俺は生きていける。ふははははは!」

 ギィの身体は笑っている間にも驚異的なスピードで回復している。

 一方で、グランの怪我は酷く、一刻も早く治癒魔法をかけなければ死んでしまうだろう。バンパイアが手当てをしているが、明らかに追い付いていない。


「……くそ……!」

 詰んだか、とダイが諦めかけたその時。

 凄まじい振動が大聖堂を襲った。


「あはは……何だ!?」

 ズドーンッ! という轟音と共に、白い光線が壊れるはずのない大聖堂の壁に穴を開け、ギィをかすめながら真っ直ぐに大聖堂の床に突き刺さった。


 誰もが呆気にとられる中、白い砂煙と共にゆっくりと細長い影が立ち上がった。

 影は白い人型になる。ダイは目を細めた。

「女……?」

 影は、ドラゴンエルフのランヒルドだった。


 ランヒルドは「む」と唸ると、周りを見渡し、とりあえず近くに立っていたゴリラに声をかけた。

「ギィは、どっちだ?」

「は?」

「建物を壊してすまない。エルフの気配がしたから寄ってみた。だが、二人いた。ギィというエルフを探している。どっちがギィだ?」

「……」

「む。人違いか。ならば失礼する」

「あ、いやいやいやいや! 待てや! マイペースだな! ギィなら飛んでるあいつだ!」

 一瞬、呆気にとられたが、野生の勘で「敵ではない」と判断したダイは、ギィを指し示した。

「む。かたじけない」

 ランヒルドは空を飛ぶと、ギィの目の前で浮遊した。

「念のために、確認する。お前がギィか?」

「素晴らしい……!」

 ランヒルドの質問には答えず、ギィは突如として目の前に現れた途轍もない魔力の持ち主に目を輝かせた。ドラゴンとエルフのハーフなど、世界中何処を探しても見つからない希少種だ。

(圧倒的強者。ああ。改造したい……!)

 と、ギィは胸を震わせる。


「ギィか、と聞いている」

 不機嫌そうに、ランヒルドが問う。

「そうですとも。美しい御姉様。私の名はギィと」

「では死ね」

「は?」

 ズブリ、と、傷が治ったばかりのギィの身体をランヒルドの腕が貫いた。先程までと違い、格上相手に魔力で身体を覆っていたはずだった。だが、ドラゴンエルフの爪は、あっさりとギィの身体を貫通した。

「おい! そいつはそれくらいじゃ死なねえ! 体ん中に、いくつも命があるらしいぜ!」

 下から、ダイが忠告する。余計なことを言うな、とギィは焦った。

「む。そうか。ならば、粉砕する」

「な……!? 待て……!」

「ムムムムムムムムム!!!」

 ガガガガガッ! と高速の拳がランヒルドから放たれる。一発ごとにギィの身体が吹き飛ぼうとするが、吹き飛ぶよりも速く次の一打が襲う。ギィの身体はランヒルドの猛ラッシュに押され、壁に激突した。

「ぐふあっ!!」

「ムムムム! やはり、死なんか」

 壁に張り付かせた状態で、なおもランヒルドは殴り続ける。ギィの身体は破壊と再生を繰り返している。転移して逃げる暇すら、この女は与えてくれない。

「おい! 白い姉ちゃん! 俺にも殴らせろ!」

 足元から、ダイが叫んだ。

「ム!? お前も恨みがあるのか?」

「さっき、妖精ちゃんと約束したんだ! 仇をとってやるってよ!」

「ム! では、これを使え!」

 ランヒルドは黒い塊を空中から取り出すと、ダイに向かって投げた。ダイはその塊を両手で受け止めた。30センチ程の巨大な魔石だった。ズシリと重たい。

「重っ! これ、どうすんだ!?」

「黒い魔石は『魔』を吸収して封じ込める。……行くぞ!」

「はあ!?」

「うりゃあああああ!」

 ランヒルドはギィの顔を左手で鷲掴みにすると、ダイの元へ一気に落下した。瞬時にやるべきことを察し、ダイは魔石を右手で掴んで身構えた。

「ふんっ!!」

「おりゃああ!」

 ランヒルドがギィを投げ飛ばすのに合わせ、ダイは思い切り右手を突き上げた。ズブリ、と魔石ごとダイの腕がギィの身体を貫通した。勢いに乗った男の身体の重みが衝撃となってダイを襲ったが、そこはSSランクゴリラだ。「うりゃあ!」と身体を捻って地面へギィを叩きつけた。その衝撃で黒い魔石がギィの胸にピタリと納まる。

「ぐあああああああああああああああああああああ!!!」

「観念しやがれ、ゲス野郎!!」

 ギィを逃がすまいと、ダイは魔石を握りしめたまま、片手でギィの髪を掴んで頭を押さえつけた。

「ミミと仲間の仇だ! 滅びやがれ!」

「がああああああああああああああああ!!!」

 演技ではない、本物の断末魔の叫びを上げながら。


 ギィは黒い魔石に吸収され消滅した。


 狂気のエルフ、撃破。


 はあ、はあ、とダイは肩で息をした。

「仇、とったぜミミ……グラン」

「勝手に殺すな!」

「グラン! 生きてたか!」

 ダイが顔を上げると、バンパイアとランヒルドに支えられて立ち上がるグランの姿が見えた。その横には、顔を焼かれたバンパイアが死んだ仲間を抱えて立っている。

「やったぞ、皆!」

「「「ああ!」」」

 魔石を片手にダイは仲間達に駆け寄った。

「世話になったな、姉ちゃん!」

「む」

 ダイは魔石をランヒルドに渡し、代わりにグランを受け取った。グランは何とか命の危機を脱したものの、自力では立っていられない状態だった。


「……ランヒルド様とお見受けするが、いかがかの?」

 苦し気に、グランがランヒルドを見上げた。「そうだ」と短く答え、ランヒルドは頭を下げた。

「お前達に頼みがある。……カサンドラのことは内密にして欲しい」

「は? 誰だそれ」

 ダイが目を丸くしたその時だった。

 大聖堂の扉が勢いよく開き、威勢のいいグラマラスな美女が飛び込んできた。

「ふっはっは! 御覧なさい、ランヒルド! 魔石をこんなに……うそお!? 何よ、その魔石、でかっ!」

 ランヒルドの持つ巨大な魔石を見て、アルシノエはバラバラと魔石の山をまき散らした。

「アルシノエ、うるさい」

「きいっ! 数は私の方が上よ! ……って、グラン!? あんたどうしたの!? 死ぬの!? いや、死んでんのか!? はは!」

 半ば驚き、半ば笑いながらアルシノエがグランに駆け寄った。

「ババア……ぐふっ!」

 アルシノエの拳が、瀕死のジジイの腹に埋まった。「やべえ! グランが死んだ!」と、ダイは本気で焦った。腹に拳を沈めたまま、アルシノエがグランを睨む。

「怪我人は黙ってろ! って、ああん! そちらの騎士様もお怪我をされていますのね? アルシノエが治して差し上げますわぁん。ヒール!」

「こっちもマイペースか!」

 思わずダイが突っ込みを入れる。マイペースだが、ランヒルドもアルシノエも、実力はSSSランクだ。低級治癒魔法のヒールで、あっという間にグランとバンパイアの怪我が消えていく。

「ははは! どうよ、私の治癒魔法は!」

「アルシノエ」

「何よ!」

 ランヒルドの呼び声に、不機嫌そうにアルシノエが片眉を上げた。


 昔から、喜怒哀楽の激しい妹だった。ランヒルドにしてみれば、何故嫌われているのか分からない。だが、この粗暴で下品な妹が父に似て面倒見がよく、情に厚いことをランヒルドは知っていた。

 だからこそ、ひ孫の死を伝えることがためらわれた。

 駆け落ちしたと思われている、とカサンドラは言っていた。それが本当なら、アルシノエはひ孫が今でも何処かで幸せに暮らしていると、信じているだろう。

 そしてそれは、アルシノエにとっても幸せなことだ。


「……いや、何でもない。また私の勝ちだなと、思っただけだ」

「きいいいいいい! 負けてないわよ、私っ! はっ! 近くに大きな魔族の気配がするわ! そいつを狩ってやるぜ! 見てろよ、ランヒルド!」

「はいはい」

「きいいいいいい!」

 思い切り奇声を上げながら、アルシノエは大聖堂を飛び出していった。

「……何だ、あの女……」

 さすがのダイも、呆然と見送ることしか出来なかった。


「先程は、黙っていてくれて、かたじけない」

 突然、ランヒルドが、再び頭を下げた。

「いいや、こちらこそ感謝する」

 と、グランも頭を下げた。

 ダイもバンパイア達も無言でその様子を見守っている。

 彼らが、あの騒がしいエルフのことを思いやっているのが伝わったからだ。

 きっとカサンドラという娘は、あの女にとって大事な人物だったのだろう。

 知らない方が幸せなことはある。


(黙って仇を討ってやったアンタたちの気持ち、あの女に届くといいな)

 と、ダイは心から思った。


 ふと、顔を上げたランヒルドと目が合った。

 ダイの想いが聞こえたのか、ランヒルドは「ありがとう」と呟いた。


 ……ダイのハートがランヒルドの「不意打ち笑顔」に撃ち抜かれたことは、言うまでも無い。


ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!

第2章も100話目に突入しました!


キリのよい100話目で、胸糞悪いサイコ野郎を倒せて良かったです(笑)

ギィはゲス野郎なので、気分を悪くされた方も多いかと思います。

申し訳なく存じます。

ランちゃんとダイちゃんで仇を討ちましたので、お許しください!


次回からは、サキュバスvsサキュバスハンター(笑)の戦いです。

よろしくお願いします!

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