88. 進め
本日、87話、88話を投稿しています。
連合軍は、7つの部隊に分かれ、旧アルバトロスの首都を囲む様に配置されている。
それぞれを指揮するのは、直接パルマと意思疎通が出来る『梟』の猛者達であるが、副将は各国の代表が務めていた。
その中の一人、巨人族のゼダという男が副将を務める第2部隊、通称『巨人部隊』は、パルマのいる本隊と魔王城を挟んで反対側に陣をとっている。5人の巨人と60万の兵を擁しており、他部隊と比べると少数であるが、ゼダの圧倒的なカリスマ性により最下層の一兵に至るまで士気の高い部隊である。
ゼダは、リーン息子・ゼノの子だ。
顔立ちはリーンによく似て涼し気だが、身体は巨人族の遺伝子を色濃く反映し5メートルを超す巨漢である。種族的に魔力容量の少ない巨人において、エルフ並みの魔術が使える貴重な人物とあって、巨人だけでなく人間達からも一目置かれている。
「でかい、強い、カッコいい」と三拍子揃った男、それがゼダだ。
戦場において、身体が大きいという事はそれだけ標的になりやすいともいえるが、仲間の兵からすれば、何処にいても頼れる大将の姿が見えるというのは、心強いものだ。
ゼダと5人の仲間達は、今回、自国を護る父に代わって連合軍に参加した。
本来、総大将を務めてもおかしくない実力者であり、実際にパルマと初めて会った際には、こんな地味な人間の子供の下につくのかと、ゼダは鼻で笑った。しかし、忙しい仕事の合間を縫って頻繁に巨人族の村へ足を運ぶパルマと話をするうちに、パルマを認める様になっていった。戦力としては、ほとんど人間のパルマよりも、リーンの孫で巨人族の血を持つゼダの方が圧倒的に上だ。だが、パルマにはゼダにはないものがある。ゼダはパルマのことを「誰よりも人の心に寄り添い、いつの間にか仲良くなれる稀有な人物」だと思う様になった。
父ゼノ曰く、レダスは何千年もの間、様々なモノに転生してきたため、色々な立場が分かり、どんな相手に対しても尊敬の念をもって接し、相手の気持ちを思いやる力が抜きんでているのだそうだ。まさに、十人十色の連合軍のまとめ役に相応しい人物であり、自分には務まらない、とゼダは思った。
「全軍進め! 正義は我らにあり!」
念思で、パルマから全軍に指令が飛んだ。巨人部隊にも『梟』がいるが、この部隊においては実質的な大将はゼダである。
「行くぞ、我が同志よ! 暴れに暴れて、魔王軍の注意をこちらに引き付けろ!」
「「「おおおおおお!!」」」
ゼダの声に、兵達が呼応する。ゼダは念思ではなく、声で指揮をとる。魔術師ではない一般の兵は、念思には不慣れなのだ。巨漢のゼダが魔力を込めて発する声は、戦場の隅々まで行き届き、兵たちの心に響く。自分の声一つで、仲間の士気を上げられることをゼダはよく分かっていた。
「ん?」
戦いが始まってしばらくした頃、先頭に立って片っ端から魔王軍の魔物達を巨大な棍棒で叩き潰していたゼダが、ふと動きを止めた。
上から眺めると、ゼダと5人の巨人が引っ張る形で三角形を描いていた巨人部隊に、別の三角形が出来ている。
先頭に立つのは、金髪の青年を中心とする5人組だ。
ゼダは彼らに見覚えがなかった。急遽参加した冒険者パーティであろう。
「どうした、ゼダ!」
急に立ち止まったゼダに、仲間の巨人が声を掛けた。
「ガッツ! あそこに、光の精霊がいる! 勇者かもしれん。加勢に行く!」
「はあ!? 目の前のでかいカバどうすんだよ!?」
「お前達に任せた! 何とかしろ!」
「ざけんな! ベヒモスだぞ!? SS級だろ!?」
「あとでエルフを紹介してやる」
「女だろうな!?」
「どっちでもいいぞ」
「じゃあ女で! うっしゃー! 気合入れていくぜ!」
「カバとバカの対決だな」
「聞こえてるぞ!?」
「では、頼んだ」
短く言い残して、ゼダは軽く踏み込むと、スッと、飛んだ。巨漢のゼダが飛行するには大量の魔力を消費するが、ゼダは敢えて転移ではなく飛行で冒険者達の元へ向かった。ついでに、空を飛ぶ魔物をフルスイングで魔王軍へと撃ち落としていく。その雄姿に、いっそう部隊の士気が上がった。
「助太刀する!」
「感謝する!」
ゼダの巨体がカイトの前に舞い降りた。
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一方。
サラ達が転移した先は、パルマの指揮する連合軍本隊の後方であった。
「パルマ!」
「サラさん!」
サラの声に、本陣で指揮を取っていたパルマが反応した。
周りの兵達が、聖女と大賢者の姿にざわめく。ほとんどの者が、初めて目にする聖女の神々しさに目を丸くしている。全身を鎧に覆っていても、輝くばかりの瑞々しい美貌が分かる。160センチと、女性としては平均的な身長であるが、屈強な戦士達からしたら、小柄で可憐な少女である。聖女として生まれたがために、恐ろしい魔王と戦う運命を背負う、自分の妻や娘より年若い少女。ああ、この人のために自分達は命をかけているのだ、と兵達は胸を熱くした。
「あれが、魔王の城ね。……すごい、瘴気だわ……」
パルマの元に駆け寄り、サラが息を飲んだ。城を囲う城壁までの距離は1キロほどか。遠目からでも異様なまでの瘴気が渦巻いているのが確認できる。リーンの結界の中は、どうなっているのだろう。
「先程までは、あの城壁までなら、直接転移も出来たんですが、今は危険です。僕と、直属の精鋭部隊が道を開きますから、サラさん達は力を温存しながら付いてきてください」
「分かったわ!」
パルマの作戦に、サラは力強く頷いた。そのサラの様子に、パルマは微笑した。
「……見違えましたね。サラさん」
前回の魔王戦では、サラは震えて動けなかった。あれからたったの2年。だが、誰もが大きく成長した2年だった。
「私、一人じゃないもの……!」
サラは『黒龍の爪』や連合軍を見回した後、最後にパルマを見つめた。
「ありがとう、皆! ありがとう、パルマ!」
「!」
思わず、ぐっと目頭が熱くなった。パルマは誤魔化す様に、目線を魔王城へと向けた。ここから魔王城までの間では、魔王軍と連合軍の戦いが始まっている。今は、小規模な小競り合いと、互いの魔術師同士が魔法攻撃で牽制し合っている段階だが、パルマ達が動けば戦は一気に苛烈さを増すだろう。
「お礼を言うのは、魔王を倒してからにしましょう? ……覚悟は、いいですね?」
今更、引き返すことなど出来ないのに、わざわざサラに逃げ道を提示してくれるのはパルマの優しさだ。恐らくパルマは、サラが嫌だと震えれば、覚悟が決まるまで身を犠牲にして戦ってくれる。もしかしたら、手を握って、何処かへ逃げてくれるかもしれない。
その優しさが、サラに勇気をくれる。
「大丈夫よ。パルマ。私、行けるわ」
サラは満開の花のように笑った。その笑顔に、パルマも大きく頷いた。
パルマは鎧を纏ったペガサスに騎乗すると、あらかじめ決められた通りに軍勢を動かし始めた。サラ達も、ケンタウロスに騎乗した。メスのシルビア、オリビアにはサラとアマネが乗り、残り4体にはグラン、ロイ、シグレ、そしてゴリラ男爵ことダイが乗った。
「今から僕が出ます! 僕のゴーレムが暴れますから、獣人軍、レダコート第三騎士団、連合軍魔法騎士団はその後に続いて下さい! 聖女のパーティはそれに遅れないようについていって下さい! SSランクの冒険者の皆さんは聖女のパーティを囲う様に配置! エルフ軍は後方から支援を! 妖精軍は各魔術師、エルフに付いて援護を!」
「「「おお!」」」
「プラチナゴーレム!」
パルマが古代龍のヒゲで作った魔法杖を振るうと、三体の巨大なゴーレムが地響きと共に出現した。
「三体!?」
目を見開くサラに、パルマは振り返ってウィンクした。
ここは砂漠だ。土魔法の使い手が最も得意とするフィールドである。
「さあ、行きますよ! 出撃!」
パルマの号令で、精鋭部隊が一斉に駆け出した。
サラ達も遅れまいと後に続く。
パルマはプラチナゴーレムを操りながら、魔王軍に穴を開けていく。その穴を連合軍の精鋭達が聖女を護りながら駆け抜けていく。
空の魔物達は、魔術師達が次々に屠っていく。
もちろん、連合軍も無傷ではない。
先頭を走っていた獣人が、騎士達が、何人も倒れ砂に埋もれていく。
その横を、その上を、サラ達は駆けて行く。
だが、立ち止まっている暇はない。
サラの近くを走っていた冒険者の頭を、魔族の放った氷の矢が貫いた。
サラはこの場で治癒魔法を使いたい気持ちをグッと堪えた。
きっと、世界中で、誰かが戦っている。
その全てを救うことはできない。
今、自分に出来ることは、確実に魔王を倒すこと……!
「頑張れ、皆、頑張れ……!」
瞬きもせず、血塗られた戦場を駆け抜けながら、サラは涙を流し続けた。
ラフですみません。
ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!
今日は急に代休になったので、めっさ頑張りました!
2話とラフ画を投稿しています。
さあ、どんどん戦いが進んでおりますが、
ちゃんと完走できるのか、私! と、ちょっぴり弱気です(笑)
戦闘物って、好きなんですが、恋愛物と同じくらい書くの苦手で……!
じゃあ、何が得意なんだと聞かれても困りますが。
では、また次回!