82. 凱旋パーティ ーリーンー
本日、2話投稿しています。ご注意下さい。
「サラちゃん、大きくなったねぇ!」
「うわあ、最低」
「胸の話じゃないよ!?」
ロイと向かい合って一礼したあと、サラはニコニコ顔のリーンと踊ることになった。
リーンとは9歳の頃に出会ってから、7年の付き合いになる。
当時は、ゲームでのエロい印象が強すぎて警戒していたものだが、実際のリーンは誰よりも懐が広く、いい加減に見えて実は……やっぱりいい加減で、だけど、肝心なところではビシッと決めてくれる頼りになる大人だった。
子供の頃は、「リーンのどこがエロいんだろう?」と不思議に思ったものだが、少し大人になってみると、何となくリーンの魅力が分かるようになってきた。
フワフワとふざけているように見えて、所作が美しい。
女性だけでなく、男性に対しても身分を問わず分け隔てなく優しい。
決して人を貶めたり、傷つけたりしない。……勇者は別らしいけど……
圧倒的な魔力で何億年もこの世界を護り続ける、「世界の守護者」。
よくよく考えると、これ程味方として頼もしい人物はいないだろう。リーンに少しでも悪意が芽生えれば、魔王よりもずっと恐ろしいのではないだろうか。
「あ、サラちゃん、ひょっとして僕の魅力が分かるようになってきた?」
「えええ!? 心読んだの!?」
「えええ!? 当たっちゃったの!? 嬉しいねえ! えへ!」
「うわあ、しまったぁ!」
ダンス中でなければ、両手で頭を抱えているだろうサラの様子に、リーンは朗らかに笑った。
「うーん、もう少しってとこかな? 僕と付き合うには、サラちゃんはまだ幼いねえ」
「付き合わないから!」
「ふふ! ……おっと、危ない」
「きゃ!」
ごく自然な動きで、ふわっとリーンに持ち上げられ、クルッと半回転させられた。
どうやら、サラがよそ見をして他のカップルにぶつかりそうになったらしい。
ロイもそうだが、リーンも細身に見えて実は逞しい。軽々と抱え上げられて、サラはほのかに赤くなった。
「サラちゃん、ダンス上手だねぇ。アイザック君の指導が良かったのかな?」
「上手じゃないよ。今だって、ぶつかりそうだったし」
「今のは僕の不注意だよ? サラちゃんと踊れるのが楽しくて、距離をとるのがおろそかになっちゃった! てへ」
「……」
なるほど、とサラは得心した。
リーンが大人の女性にモテる理由がやっと分かった気がした。
リーンの言動に注意したことがなかったが、リーンは自然に相手を褒め、その人の家族を褒め、相手の失敗を明るく解決してしまう。グランが「エルジアのエルフはパッパラパー」と言っていたが、お互い気持ちよく過ごすために、わざと道化を演じているのではないか、とサラは思った。きっと今までも、サラはリーンの言葉に救われてきたに違いないのに、全く気がついていなかった。
(どんだけ、私、幼かったんだろう)
そう思うと、サラは急に恥ずかしくなった。
「リーン」
「なあに?」
「リーンって実は、凄くかっこいい大人だったんだね。私、子供すぎて、全然理解できてなかった。色々、ごめんなさい」
「えええ!? 僕のこと、何だと思ってたの?」
「ただのエロフ?」
「旅のエルフ? みたいなノリで言わないでよ!」
アハハハ! とリーンは楽しそうに声を上げて笑った。
「……でも、嬉しいねえ! サラちゃんも大人になったんだねえ。うんうん。嬉しいけど、ちょっと寂しいなあ。急いで大人にならなくてもいいんだよ? 僕は、ウホウホ言ってるサラちゃんと遊ぶのが、とても楽しかったんだから」
「ウホウホ言ってない!」
「ふふふ。そうそう、サラちゃんはそういう元気な感じが一番魅力的だよ? もちろん、綺麗な聖女様も似合ってるけど、無理はしないでね? 自然体で、自分の思ったとおりに生きるほうが、聖女は力を発揮できるんだから」
急に父親みたいな顔になったリーンに、サラは思わず「う……」となった。
「でも、聖女は特定の異性と仲良くしちゃいけないって……」
「サラちゃんは、今、誰かとお付き合いしたいの? したいなら、僕の責任のもと応援するよ?」
サラの愚痴に、ますます優しい目になり、リーンが小声で尋ねた。
「そ、そんな事はないの! やっと、『これか恋なの?』って、意識し始めたばかりだし、困ったことに対象がいっぱいいるし……」
「アハハハ! サラちゃんらしいと言うか、聖女らしいと言うか。聖女はねえ、皆に分け隔てなく愛情を注ぐから、一人を選ぶのが難しいんだよね」
「え!? 他の聖女も?」
「例外もいるけど、そんなコが多かったね。んで、結局選べなくて、推しの強い人と結ばれるってパターンだね! サラちゃんも、嫌じゃない相手に迫られたら断れないタイプじゃない?」
「……」
「えええ!? 図星なの!? ひょっとして、ロイ君と何かあった?」
「……」
「あ! 目が泳いだ! 当たりだね!? わぁー、息子ちゃん出遅れちゃった」
息子ちゃん礼儀正しくて控えめだもんねぇ、と言いながら、リーンはとても楽しそうだ。サラとロイの成長を、リーンなりに喜んでいるのだろう。
「サラちゃん。焦らなくても大丈夫だよ。僕も、ジークも、グランも、リュークも、大人達がちゃんと見守ってるから。ね?」
「うん……ありがとう、リーン」
「大好き、は?」
しんみりと感謝を伝えるサラに、リーンはいたずらっぽく片目を瞑ってみせた。
「あはは! おねだりされた! 大好きよ、リーン!」
パルマ達に向ける「大好き」とは違う「大好き」ということもあり、照れも無く素直にサラは口に出した。リーンは満面の笑みで、クルッと回った。
「うわーい! 嬉しいねえ! そんな可愛いサラちゃんに、とっておきのプレゼントを準備したから、後で受け取ってね?」
「プレゼント?」
「ウフフ! 内緒! さ、曲が終わったね。順番待ちの列ができてるから、僕は退散するね?」
そう言って、リーンはサラに回復魔法をかけると、にこやかに順番待ちの女性陣の中に飛び込んで行った。
順番待ちって、そっちのかーい! とサラは脳内で突っ込んだが、サラを待つ殿方の列もできていたので、リーンを見習って思い切り微笑んでみた。「おお」と、誰ともなくつぶやいてくれたのが少し嬉しい。
先は長い。頑張らなくちゃ、と、サラは気合いを入れ直した。
今回は、皆のアイドル、ゆるふわエロフのリーンさんのターンでした。
凱旋パーティは後1話で終わりです。
これが終わったら、ラストに向けて駆け抜けなくては!
あ、その前に登場人物のおさらいを挟みますね。
では、良いお年をお迎えください!