81. 凱旋パーティ ーロイー
「……ロイ、目、開けよう?」
パルマと踊り終わったあとロイの手を取ったサラは、可憐に舞いながらも困り果てていた。ロイが目を閉じたまま、サラを見てくれないのだ。
「だ、だってサラのお胸が……近い!」
耳まで真っ赤にして、ロイが声を絞り出した。朝ので大人になったかと思いきや、全く初心なままの反応であった。王子やパルマは身分が上のため、なかなか凝視することが出来なかった観衆も、相手が子爵家のロイであれば遠慮なく見られるとあって注目が集まっている。遠目から見れば、美男美女の舞であるが、近くから見た者はその異様な光景にザワザワとざわめいている。
「いやいや、目を瞑ったまま踊られると余計目立つし、そもそもどうやってるの!?」
サラが突っ込むと、ロイは何故か嬉しそうに微笑んだ。
「ルカが動かしてくれてる!」
「早速、ルカの無駄遣い! ロイ、上を向いていいから、お願いだから目を開けて? 見てないのロイだけだよ? 損じゃない? ほれ、ほれ」
「うわあ、サラ! 飛び跳ねたら駄目だよ! お胸が、暴れ馬……!」
「どういう状況!? 言っとくけど、そんなに出てないからね!? ロイの反応が面白くてからかったけど、本当に、ここでは普通の露出だからね? ロイの想像の中で、私、どんだけ破廉恥なの!?」
「う、うう。ごめん。頑張る」
「頑張れ!」
サラと精霊とルカに応援されて、恐る恐るロイは目を開いた。濡れた黒真珠のような瞳が一瞬見開かれ、ロイはすぐに目を細めて笑顔になった。
「良かった! サラの目から上を見たら、お胸は視界に入らない! あ! でもちょっと離れると……うわあ! 他の人に見せちゃ駄目だったら!」
「お、おおう。落ち着いて!」
ロイをなだめるのに無駄に体力を消耗したものの、昔と変わらないロイの様子にサラは小さな喜びを感じていた。今日は色々ありすぎて、急に大人になった気分だった。いや、お互い大人になろうと頑張った一日だった。
(やっぱり、ロイは可愛い。パルマは恋だって言ってたけど、私とロイにはまだ早いわ)
クスクスと笑うサラの笑顔にロイも今朝のことを思い出したのか、ふと真面目な顔になった。
「サラ。朝のこと、ごめん。困らせたよね? 俺、サラが聖女だってこと忘れてた」
「ううん。聖女になる前に、女の子らしい思い出が出来たわ。ロイ、ありがとう」
サラは頬を染めて、柔らかく微笑んだ。「でも」と、サラは続けた。
「一応聞くけど、聖女じゃなくて何だと思ってたの?」
「ゴリ……」
「ストップ!」
予想通りの答えに、サラは思わず笑ってしまった。
ゲームのロイは、暗い過去と過酷な運命に翻弄され、寂しげな笑みを見せるだけのキャラだった。その瞳が捨てられた子犬のようで、胸がキュンとなったものだ。「ロイを幸せにしたい」と、多くの女性ファンが思ったことだろう。その願いをサラは叶えることができた。そればかりか、ロイがこんなに純粋で可愛い男の子だということを、この世界に来て初めて知った。幸せな気持ちになったのは自分の方だと、改めて思う。
(ありがとう、ロイ。生きてくれて)
「ロイ。私はロイの幸せをいつも願ってる。……聖女の祈りは、最強よ?」
「ふふ。ありがとう、サラ。大好き」
ギュッと手を握って自分の幸せを願ってくれる優しい少女の小さな手を、ロイは愛おしそうに握り返した。魔王を倒すまで、サラは普通の女の子の様には生きられない。リーンはそのことを分かっていて、わざとあの男子会を開いてくれたのだろう。おかげで、サラに告白することが出来た。……本当に、ギリギリのタイミングだったけれど。
「そう言えば、アイザックさんのこと聞いてる?」
話題を変えるように、ロイが明るい声で尋ねた。
「婚約したこと? 詳しい話は聞いてないわ」
「そっかぁ。ふふふ。おめでたいよね!」
「うん!」
サラも明るく笑った。昨日までの関係に戻すのは寂しかったけど、今はそれが一番いい。
「サラ。俺は死ぬまで、サラの側に居るからね。騎士として、仲間として、家族として」
「家族? もう! もう孫娘とは思ってないってば!」
「ははは!」
本当の家族になるんだけどね、と、ロイは心の中で呟いた。
シャンデリアに負けない輝きで微笑む聖女に、黒髪の騎士は誓いを新たにする。
しばらく恋愛はお預けだけど、君の一番近くにいる。
君が何度も救ってくれた命を、精一杯生きる。
俺はまだ、嫌になるくらい子供だけど、君に選ばれる男なるよ。
だからサラ。
一緒に大人なろうね?
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今日は大晦日です。
6月末から書き始めて、半年が経ちました。
書き慣れなさが滲み出る、拙い文章にもかかわらず
いつも読んでくださってありがとうございます!
深謝いたします。
来年も引き続きよろしくお願いします。