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80. 凱旋パーティ ーパルマー

「ほらほら! ぼーっとしてると、ぶつかっちゃいますよ!?」

「え!? あっ……」

 突然、後ろから手をとられ、気が付くとサラは躍らされていた。パルマだ。

「ほら、そんな顔してると、変な噂が立ちますよ? さ、笑って」

「パルマぁ!」

「だー! 泣きそうな顔しないの! あ、そうだ、口を開けてください。はい、あーん」

「? あーん」

 パルマに誘導されるまま、口を開いたサラの口内に、パルマは小さな飴玉を放り込んだ。

「!? おいひい!」

「ふふふ。でしょう? サラさん、お昼ご飯食べてないと思って。あと、踊り疲れてきた頃でしょう? 体力回復の魔法もかけときましたから。……どうです? 元気出ました?」

「うん……うん!」

 パルマのいつも通りの優しさに、サラは胸がじんと熱くなった。

「良かった! 笑えましたね」

 にっこりと、パルマが笑う。心が温まる、陽だまりの様な笑顔だ。

「……ありがとう。パルマ」

「あはは! 『安心、安全。困った時のパルマさん』ですからね! ……自分で言ってて虚しくなってきたな……」

「ふっ……ふふふ!」

 相変わらず、地味にボケて地味に自分で突っ込んでいる。その様子が可笑しくて、サラも思わず笑った。

「王子に何か言われたんでしょう? 王子、ずっとサラさんだけを見てきたのに、全然サラさんと会えなくて凹んでた上に、サラさんが正式に聖女認定されてイチャイチャする機会を失って、どん底なんですよ、今。許してあげてください」

「うっ……」

 パルマの言葉に、サラは顔をしかめた。肩をすくめて小さくなるサラに「あちゃー」とパルマはため息をついた。

「その様子だと何か追い打ちかける様な事を言いましたね? はあ、可哀そうな王子」

「だって、聖女は恋愛しちゃ駄目でしょう?」

「うわあ。鈍感子供脳のサラさんから『恋愛』なんて言葉が聞けるなんて、感激です」

「鈍感子供脳……」

「サラさん。ダンス以外での直接的な触れ合いはご法度ですけど、心まで閉ざす必要はないんですよ? 聖女の力の根幹は『共感と共有』だって、サラさん言ってたじゃないですか。僕はむしろ、もっといっぱい恋愛した方がいいと思いますけどね?」

 軽快にサラと踊りながら、パルマはパチンと片目を瞑った。むぅ、と、サラは頬を膨らませる。

「でも、私、『恋』とか『愛』とかよく分かんないの。その……鈍感子供脳なんで」

「はは! 無理に分かろうとしなくていいですよ。まあ、周りは困ってますけどね。でも、サラさん、こう考えたらどうでしょう。サラさんは、他の人の哀しい想いや苦しい気持ちに敏感でしょう? それと同じく、楽しい気持ちや誰かを『好きだー!』って想いも共感できてるんじゃないですか?」

「え……!?」

 思わぬことを言われ、サラは目を見開いた。『好き』を共感している? 私がユーティス達を好きなのは、単なる共感なの? と、サラは混乱し始めた。そんな様子のサラを見て、パルマは少し優しい笑顔になった。

「ふふ。王子と居る時、どういう気持ちになりました?」

「えっと、胸が苦しくて、ドキドキして、顔を見たいのに恥ずかしくて目を合わせられないの」

「へ? ……へえ? じゃ、じゃあ、ロイと居る時は?」

「ちょっと前までは、可愛いなあ、ギュってしたいなあ、よしよししたいなあ、幸せにしたいなあ、って思ってた」

「ほ? ……ほう?」

「でも今は、見つめられるとドキドキするし、気が付くとロイの指とか唇とか見ちゃうし、まつ毛長いなあ、とか、お肌綺麗だなあ、とか、意外に胸板厚いんだなあ、とか」

「ストップ!」

 質問。僕は今、何を聞かされているのでしょうか? 

 答え。好きな子の惚気(のろけ)話です。

 正解!

 と、脳内で一人クイズ大会を開催しながら、パルマは大きくため息をついた。

「サラさん……僕の想定では、『何だかせつなくなるの』くらいの答えを期待していて、『ふふ、それが恋ですよ』とか言おうとしてたんですが、そんなに具体的に言われると、僕が言えるのは一言だけです」

「え?」

「サラさんの馬鹿野郎! 何が『恋』とか分かんない、ですか!? それが恋じゃなくて、何だというんですか!? がっつり恋してるじゃないですか! 共感とかじゃなくて!」

「えええ!? 一言じゃないし、声大きいよ!?」

「大丈夫です。遮音の魔法かけてるんで。あと、口元を読まれないように『ぼかしの魔法』も使ってるんで、はたから見たらニコニコ談笑しているようにしか見えませんよ」

「良かった! って、そうじゃなくて、え? え? これが恋なの?」

「一般的には、そうだと思いますけど? 僕だったら、完全に恋してる状態ですけど?」

「そ、そうなの? え? 私、ユーティスやロイが好きなの? ずっと、友達としての好きだと……ひゃ、ひゃああああ」

「……ちなみに、僕と居る時はどうですか?」

「安心する!」

「家族か!」

「何でも話せちゃう!」

「親友か!」

「あと、首が楽!」

「ヒールを履いたサラさんとは、10センチも目線が変わりませんからね。……って、どうせ僕は皆より背が低いですよ!? 」

「それからね、パルマと居ると、人に優しくなれるし、ワクワクする! 元気になるし、いつも楽しいの。ありがとうパルマって、会わない時も思ってる」

「……」

「困った事があるとね、自然に『パルマぁ』って言っちゃうの」

「……」

「それから……え!? どしたの? 顔真っ赤だよ?」

「あ、いえ、続けてください。さあ、カモン」

「えっとね、パルマの奥さんになる人は、幸せだなぁって思う」

「……サラさんが望むなら、いつでも貰ってあげますよ?」

「えー? じゃあ、10年経っても結婚してなかったら、貰ってくれる?」

「あはは! 先が長いなあ。第10夫人とかになっちゃうかもですよ?」

「ええ!? せめて第3婦人くらいで……」

「ええ!? 独占欲とか無いんですか!?」

「だって、皆のパルマだし」

「ええ!? めちゃくちゃ複雑な気持ちなんですけど!? ……まあ、10年後じゃなくても、いつでも歓迎しますから。サラさん」

「えへへ! その時は、よろしくね」

 サラは完全に冗談のつもりなのだろう。朗らかに、笑っている。

(僕は、本気ですけどね)

 自然と、サラを握る手に力がこもった。サラは、気付いていないのだろう。会わない時でも名を呼んでしまう、という意味に。

(僕なら完全に恋ですけどね。むしろ、愛でしょ)

 サラの身体から伝わる熱と柔らかさを急に意識してしまい、パルマはらしくもなく心が乱れていた。一瞬、エロフと目が合い、ニヤニヤされて腹が立った。

 そんなパルマにお構いなしに、サラは「そうだ!」と笑顔になった。

「ねえ、パルマ。パルマに聞きたいことがあったの。……3つ」

「3つ!? なんですか?」

「あ、でも曲が終わっちゃったよ?」

「そんなん、無視です。もう1曲踊りますよ!」

「ええええ!? あ、始まっちゃった! あ、ロイが『がーん』ってなってる! わあ! お父様の顔が怖い!」

「無視です! ほら、今じゃないと聞けないこともあるんでしょう? どうぞ」

 強引に踊り続けながら、パルマはサラを促した。周りは皆、目が点になっているが、レダス様には誰も文句が言えないらしい。

「えっと、じゃあ1つ目。『聖女の泉』のクラリスさんとレダスさんは、どういう関係だったの?」

「ええ!? 予想外の質問!」

 そこかい! と、パルマは脳内で突っ込んだ。

「クラリスは、当時のレダスの妹ですよ。父親が違いますけど」

「妹!? そっか、てっきり恋人だったのかと……」

「ちなみにクラリスの父親はあそこで公爵夫人と踊っているエロフです」

「ええ!? あ、だからリーンは勇者に怒ったのか……あれ? じゃあ、クラリスさんって、ハーフエルフ? めちゃくちゃ強いんじゃ……」

「歴代最強聖女でしょうね。母親も高位のエルフでしたし、聖女の力がなくても初代レダスより強かったんじゃないですかね?」

「ひえええ!?」

「まあ、テイマーではなかったので、総合力ではサラさんもいい勝負ですよ? ……はい、じゃあ時間もないので2つ目は?」

「あ、パルマって、どんだけ偉いの?」

「はい?」

「もちろん、レダス様の生まれ変わりだから特別なのは知ってるけど、その年で理事長だったり、使者だったりしてるし……」

「うわー。今更ですね。でもまあ、分かりやすく言うと、この国ではある意味『一番偉い』ですよ?」

「ええ!?」

「あのね、サラさん。この国の名前は?」

「レダコートです!」

 はい! と、元気よくサラが答えた。ここは学校か、と突っ込みが止まらない。

「レダスが守る国、という意味です」

「はっ!」

「嘘!? 知らなかったんですか!? 100年前に勇者が魔王を倒した時、レダスは生まれてなかったんです。しかも、王家には幼い姫しかいなくて。それをいい事に、勇者が国を乗っ取ったんですよ。だけど、簒奪だと思われたくなかったのか、『あくまでもレダス様を敬います』って意味を込めた国名にすることで、民衆や貴族の怒りを逸らしたんです。だから今でも、王家は僕個人には頭が上がらないんですよ。家柄的に公爵家なので、王家に使えてますけど、世が世なら、僕が王様です」

「うわああ。……勇者って……」

「突っ込んじゃ駄目です。……さて、本題にいきましょうか。どうせ、前の2つは『ついで』でしょう? さ、3つ目の質問をどうぞ」

 パルマには初めから、サラの質問の3つ目が本命であることを見抜いていた。恐らく、聞きにくい質問だったのだろう。言いやすいように、優しく促した。

「……うん。パルマ……」

 パルマの優しさを感じ取り、サラは勇気を出した。ずっと、確認したかったことだ。ギュッと、パルマの手を握り返した。

「何ですか?」

「Who are you?」

「!」

 突然、英語で質問されて、パルマは一瞬言葉を失った。この世界には誰にでも分かる共通言語がある。異世界の言語は、基本通じない。それを知っていて、サラは質問しているのだろう。ついにこの時が来たか、とパルマは覚悟を決めた。

「……I am Leonhard. I was a German officer. I was born」

「わわ! 待って! 英語、分かんない!」

「ええ!? じゃあ何で英語で聞いたんですか!?」

「何となく?」

「えええ?」

 まったくサラさんには敵わないな、とパルマは笑った。

「……私は、レオンハルトです。ドイツ人将校でした。生まれは1918年で、フランス人の祖父の元で育ったので、フランス語に堪能でした。そのせいで、フランス戦に駆り出されて戦死しました」

 パルマの答えに、サラは目を丸くした。マシロの生まれた年と、40年も変わらない。

「やっぱり、向こうの人だったんだ……」

「サラさんもですよね? シュトーレン、美味しかったですよ?」

「ほ、本場の人に褒められた! 私はね、日本人だったの。名前は、カシワギ、マシロと言います」

 マシロの名を名乗るのは2人目だ。少し照れ臭い。

 パルマは驚いたように目を見開いた。

「日本人! はは、予想外でした。でも、納得です。サラさん、『鬼』の方々とすんなり馴染んでましたもんね。それに勤勉で義理堅い。ふふ。そうか、日本人か」

「パルマは、ドイツ人だったんだね。私の子供の頃、近所にドイツ人のおじさんが住んでてね、一人暮らしだったから、よくお裾分けを持って行ってたの。お礼にシュトーレンの作り方を教わったのよ? ホントはもっとバターとラム酒が効いてて、しっとりしてるんだ、っていつも言ってたけど、当時はバターもラム酒も手に入りにくかったの」

 まさか、とパルマは耳を疑った。胸が早鐘を打つ。

「……名前、覚えてます?」

「名前? えーと、確か、バルド……バルド・ヘルマン……?」

「!?」

 衝撃に、思わず足を止めた。サラが心配そうに見上げている。

「パルマ、どうしたの?」

 はっ、と気を取り直し、パルマは再びステップを踏み始めた。

「いえ……いえ。彼と仲良くしてくれて、ありがとうございます」

「知り合い!?」

「ふふ。たまたまかもしれませんが、僕の親友の名前と同じです。彼には家族がいなかったから、僕の家で一緒に育って……同じ戦場に行ってたんです……そうか、生きてたのか。……あはは! 参ったな、すごく嬉しい」

「ええええ!?」

「ありがとうございます、サラさん! ますますサラさんのこと、好きになっちゃいました」

「ひええええ!?」

「さ、もっと激しく踊りましょう! ラララ~」

「え!? えっ? ら、ラララ~」

 何だか大事なことを踊って誤魔化された気がしたが、サラは敢えて考えないことにした。ずっと聞きたかった事を聞くことができた。そしてそれに、パルマがちゃんと答えてくれた。今はそれで充分。


 楽しそうに踊るパルマの横顔を見つめながら、サラは心の中でそっと呟いた。


 ……私ね、パルマのことも、大好きみたいよ?



ブックマーク、評価、感想等、ありがとうございます!


今、昆虫ヤバイぜ! と観てました(笑)


それは置いといて、今回はパルマ君の回でした。

サラちゃんが成長しております(笑)


明日から実家に帰ります。

年内にもう1~2話更新出来たらいいなと思ってます。

次はロイとリーンでしょうか。

お付き合いいただけると幸いです。

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