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71. 第一回男子会議 in 武器屋

70話、71話、同日投稿しています。ご注意ください!

「はいはーい! 第一回男子会議を開催しまーす!」  

 パオーンと、わけの分からない楽器を鳴らしながら、リーンが元気よく開催宣言を行った。  

 場所はレダコート王国の武器屋である。

「突然人を呼び出しといて、何ですかその会議は。バカ親父」

「俺は忙しい。サラの凱旋祝賀会の準備があるんだ。用がないなら帰らせてもらう」

「俺も帰りますね、先生。治療中だし」  

 パルマ、ユーティス、ロイの三人はそれぞれに呟き、帰ろうと踵を返した。

「ふぅん? サラちゃんのことでも?」  

 ぴたり、と、少年達の動きが止まった。  

 がたっ、と一斉に椅子を引き、同じタイミングで座った。

「……で、サラがどうしたと?」  

 ユーティスの目が座っている。このメンバーの中で一番サラに会えていないのはユーティスなのだ。はっきり言って、飢えている。

「いやね、君たちもうお年頃でしょ? いい加減、サラちゃんのこと白黒はっきりさせた方がいいんじゃないかと思って」

「決まっている!」  

 ばんっ! と机を叩いてユーティスが立ち上がった。

「サラは俺の妻となる!」

「それはどうだろう」  

 高々と宣言したユーティスに対し、少しムッとした表情でロイも立ち上がった。リーンが「おお!」と『ワクワク顔』で様子を見守っている。

「サラが王子の事を旅の間に口にしたことはないな。眼中にないのでは? そもそも王子はサラよりも国の方が大事なんだろう?」

 ロイは、サラが仲間を集める際、ユーティスから断られたことを知っている。サラの大事な時に無視しておいて、妻になどと虫が良すぎる。

 ロイの挑発を、ふん、とユーティスは鼻で笑った。

「国とサラは別物だ。一緒に考えたくはない。第一、歴代の聖女の多くは、その国の王に嫁いでいる。何か問題でも? 子爵殿」

「俺は子爵の地位など、サラのためなら捨てられる。そもそも、この1年間、ずっとサラの横にいたのは俺だ。俺はサラがゴリラでも愛せる!」

「サラをゴリラと一緒にするな! サラは……そう、天使だ」

「いやいや、二人とも、サラさんは人間で聖女ですよ?」

 パルマの冷静な突っ込みを無視して、ユーティスが攻撃を仕掛ける。

「だいたい、1年もサラと寝食を共にして進展が無いとは、貴様は男か? いや、その顔、女だったか! ははは!」

「うわ、王子。悔しいからって大人げない」

「くっ! 進展ならある! これを見ろ! これはサラが俺のために悩みに悩んで贈ってくれたプレゼントだ!」

 ロイは髪留めを外し、ユーティスに突き付けた。

「ふん! 俺がもらったプレゼントからすれば、そんなもの、ただの石にすぎん!」

「何だと!? いったい何をもらったと言うんだ!?」

「はははは!」

 低い声で笑い、ニヤリ、とユーティスは勝ち誇った。

「ファーストキスだ!」

「ぐああああああ!」

「おっと! ロイ君の精神力が残り1%に!」

「弱っ! 大丈夫ですよ、ロイ。サラさん、完全に無かったことにしてますんで」

「くわああああああああ!」

「今度は王子君の精神がやられた! 息子ちゃん、恐るべし!」

「うるさいぞ! エロフ!」

 ユーティスがキレた。

「そういうリーン先生はどうなんですか!?」

「え? 僕? んー。サラちゃんは可愛いけど、まだ子供だなあ」

 でも、と急に真顔になって、リーンは付け加えた。

「サラちゃんが僕を意識できるようになったら、全力で落としに行くから覚悟しといて」

「怖っ! あんたが一番怖いわ!」

 パルマの突っ込みに、あはは! とリーンは朗らかに笑った。

「だから、サラちゃんが子供なうちに皆は頑張らないと! 僕、強敵だよ? どうなの? 息子ちゃんは」

「ぼ、僕ですか!? 僕は完全にサラさんから『面倒見のいい幼馴染』としか思われていませんからね。……幼馴染がいつの間にか恋人に、の流れでいこうと思ってます」

「「「いこうと思ってるんだ!?」」」

「いいでしょう!? 中身はレダスですが、心と体は少年パルマなんですから! っていうか、親の前でこんな話するの死ぬほど恥ずかしいんですけど!」

「やーん! 息子ちゃん、可愛い! パパ、負けないぞぅ!」

「そこは身を引いてくださいよ! なんで対抗したがるんですか!」

「くっ、パルマは強敵だ」

「貴様、俺は敵ではないとでも?」

「悪いけど、俺はパルマは認めても、王子は認めてないんで」

「いい度胸だ。表へ出ろ」

「受けて立つ」

「おおーっと! 決闘? 決闘なの!? 僕ちゃんも混ざるー!」

「「「あんたは引っ込んでろ!」」」


「騒がしいな」  

 若者達が揃ってリーンに怒鳴ったところで、コトン、とティーカップを置きながらリュークが4人の輪に加わった。4人が仲良く騒いでいるのは店の奥だが、店舗まで声が聞こえてきて、正直なところ接客の邪魔だった。

「喧嘩なら、わざわざここでしなくていいだろう? 客が帰ってしまった」

「めんご!」

「微塵も反省してないな。リーンは」

「てへ!」

 ぺろり、とリーンが舌を出した。いい年したおっさんエルフだが、似合っているところが悔しい。

「リュークおじさん。この際だから聞きますけど、リュークおじさんはどう思っているんですか?」

「何をだ?」

「サラさんのことです」

「…………………………………………?」  

 ティーカップに紅茶を注ぎながら、リュークは考え込んだ。パルマの質問の意図がよく分からなかった。 サラの何について答えればよいのだろう。

「ちょ、リューク! 紅茶こぼれてる!」

「……ああ。考え事をしていた」

「見りゃわかるよ!」

 そうだな、とティーポットをテーブルに置いて、リュークは腕を組んだ。

「サラは旅を通して、聖女として着実に成長している。魔王復活も近い。俺は今、サラのために武器や鎧をあつらえているところだ」

「「「「……?」」」」

「本来聖女の鎧は物理耐性があり、魔力の出力を高める素材を使うべきだが、サラは割と物理攻撃も得意だ。どんな戦闘スタイルに仕上がるか、もう少し様子を見ながら準備すべきだと思う」

「「「「いやいやいやいや」」」」

「武器屋としてサラさんの装備をどう思うか、なんて訊いてませんよ、おじさん!」

「確かに大事な話だけど、今話しているのは、サラちゃんを女の子としてどう思ってるか、ってことだよ?」

「女の子?」

 リュークがキョトンとした表情で首を傾げた。サラが女の子なのは見れば分かることだ。

「アマネさんが、リュークさんはサラのことを『小さくてよく泣く生き物』としか思ってないって言っていましたが、本当ですか?」

「……本当だな。言われてみれば、サラを見てるとジェーンを思い出す」

「姪ドラゴンちゃんね! まあ、ジェーンの場合『啼く』だけど。でかいし。……って、全然違うよ!?」

「サラを女性として見ていないならば問題ない! 部外者は口を挟まないでいただきたい」

「いや、俺の店なんだが」

 何故か人の家でも偉そうなユーティスに苦笑しながら、リュークはテーブルに手を突いた。

「俺は、人間の情など良く分からないが、これだけは言っておく」

 すっ、と、リュークの瞳孔が縦に伸びた。ピリッと空気が変わる。

「俺の店で騒ぐな。そして、サラを泣かすな。サラを泣かしたら、誰であろうと許さん」

「「「「……はい……」」」」  

 リューク(黒龍)の迫力に、4人は黙り込んだ。


 こうして、第一回男子会議は、リュークの脅しで幕を閉じた。

 ……おそらく2度目の開催はないだろう。


 4人が帰った後、ふと思い立ち、リュークはサラが使っていた部屋へと足を運んだ。

 クローゼットには、もう着ることが出来なくなった小さな制服が掛けられていた。

(小さくて、よく泣く生き物……か)

 確かにその通りだと思った。

(小さな手で、必死で未来を掴もうとしていた。小さな身体で、一人で生きようともがいていた)

 出会った頃は、泣き方も、甘え方も、頼り方も知らない不器用な子供だった。

(よく泣いて、よく笑い、俺を頼ってくれる、小さな命)

 気が付けば、孤独だったリュークにも沢山の仲間ができた。毎日のように客以外の誰かと話をし、笑える日々が送れるなど、サラに出会う前の生活からは考えられなかったことだ。

(小さくて、大きい。サラは、不思議な生き物だ)

 以前、リーンがパルマのことを「僕の宝物」と言っていた。とても大事なもの、という意味なのだろう。

 人間の恋愛感情など理解できないリュークだが、これだけは言えるのかもしれない、と小さな制服を手に取った。


 ……サラは、俺の『宝』だ。何があっても、護る。


ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!


今回は、箸休め的なお話でした。

久々のリュークが書けて、アタイ、嬉しかったヨ。(←誰だよ!)


次回はサラ様のご帰還です。よろしくお願いします!

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