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63. エルフの王女と救出作戦

「サラちゃん、また背が伸びたねえ! その髪飾り可愛いね! 大人っぽいね!」

「えへへ! ロイがくれたんだ」

「おお! 頑張ってるねぇ、ロイ君!」

 灯りを抑え薄暗いはずの病室が、エロフの登場により、ぱあっと一段明るくなった。


 ゆるふわエロフ曰く、世界一の美女と愛を語っていたところ、グランから要請があってハミルトン王国まで転移してきたらしい。直接グラン達のところに行くのは癪だったので、まずはサラの元に飛んでみた、ということだ。

「世界一の美女?」

 はて、と首を傾げたサラの様子を見て、リーンはピクピクと耳を震わせた。

「そだよ。会いたい? 呼ぶ? 呼ぶね! アルちゃ~ん!」

「え!? 一言も」

 言ってませんけど、とサラが言い終わる前に、リーンのすぐ後ろに一人の美女が現れた。

「うわあ!」

 思わず、サラが感嘆の声を上げた。アルちゃん、と呼ばれた女性は、ブルーダイヤモンドのような瞳とリーンによく似た色の金髪を豊かに腰まで伸ばした、長身のエルフだった。年の頃は20代半ばから後半に見える。ドレープの豊かなドレスに身を包み、きゅっとくびれたウエストと、エルフとは思えないほど豊満な胸とお尻が魅力的な肉感的な美女だった。

「……これぞ、エロフ……!」

「誰がエロフだ! コラァ!」

「ええええ!? 痛い!」

 呟いたら殴られた。サラは美女から繰り出された鉄拳と荒々しい物言いに、痛みとショックで頭を抑えた。

「アル殿、落ち着いて下さい」

 目の前で主を殴られ、シグレが仲裁に入った。殴られる前に止めることもできたが、失礼な事を言ったのはサラなので、あえて放っておいた。

「気安く呼ぶな! 人間ふぜ……」

 勢いのままシグレも殴ろうとして、ピタリ、と美女の動きが止まった。そして、目線はシグレを捉えたまま、おもむろに拳を握った状態の右手を顎に添えると、左手でドレスの裾を掴んで、ヒラヒラとし始めた。

「……アルシノエでぇす。お兄様のお名前、教えてくださぁい」

「「「「ええええええ!?」」」」

「シグレと申します。アルシノエ殿」

「「「「ええええええ!?」」」」

 アルシノエの豹変ぶりと、表情を変えずにシグレが答えたことに、一同は2度驚いた。

「はは。そこで普通に返すところが手慣れてますね、シグレさん」

「うっさいぞ! バンパイ…………アァン!」

 きゃ、と、アルシノエは身をくねらせて恥じらった。

「節操ねぇな!」

「サラ! サラまで口汚くなってるよ!?」

「黙れクソガキ! 誰が口汚っ……はん! 私、アルシノエでぇす」

「それはさっき聞きました」

「ああん!」

 いじわる! と、ロイを前にアルシノエが赤くなった頬を両手で覆った。

「「「「「…………」」」」」

 どこからどう突っ込んでいいものかと、全員が沈黙した。

 リーンだけが、ニコニコと笑っている。

「僕はねぇ。贔屓目で見て、アルちゃんが世界で一番かわいいと思うんだ」

「贔屓目かよ! ひで…………ひどいですわ。お父様」

「「「「「お父様!?」」」」」

 驚くサラ達に、リーンは満開の笑みで「そうだよー」と答えた。

「え? え? 娘ってこと!? リーンの子供って、レダスだけじゃないの!?」

「違うよ、サラちゃん。僕、トータルで1万年近く起きてるんだよ? 子供は100人いるよ。今、生きてるのはパルマも入れて5人だけど」

「100人!?」

「すごいでしょ! エルフの出生率1.8倍なんだよ。そんな中、僕、頑張ったでしょ!」

「いやいやいやいや! もう、誰に何を突っ込んでいいか、分かんなくなってきたから!」

 サラはベッドに突っ伏した。理解の限界を超えていた。エロフ二人の破壊力が凄すぎる。

 ふっふふ~ん、とドヤ顔しながら、リーンは一同を見渡すと、ポン、とサラの肩に手を置いた。

「まあまあ。それより、そろそろ皆で王城に行こうか。グランが待ってるし」

「え?」

 そんな、いきなり。と、誰もが思った瞬間、サラ達はロイのベッドごと、それを囲むようにして王城の会議室へと転移した。


 会議室では、ゾルターンやグランを始めとした見識者達による討論が白熱している最中であった。そこに前触れもなく現れた一行に、誰もが唖然となった。

 城には、結界が張ってあったはずである。

 目が点になっている一同を前に、リーンはクルリと回ってみせた。

「お待たせ! 大魔術師、リーンでぇす!」

「エルジアから参りました。エルフの女王、アルシノエと申します。バンパイアの王にお目通りがかない、恐悦至極に存じます」

「うわ! アルちゃんの裏切り者!」

「ふっ」

「うわああああん!」

 娘の裏切りに、リーンが涙目になった。はあ、とグランがため息をついた。

「……申し訳ない。ゾルターン殿。あの方が、ワシの師匠のリーンです。隣の方は……呼んだつもりはないので、幻でしょう」

「幻じゃねえし! ざけんなよ、グランの分際で…………やだ。おほほほ」

「……アルシノエさん、取り繕うの止めたら?」

「黙れ、聖女……様!」

 きゃ、と、アルシノエは顔を赤らめ、リーンのマントに潜り込んだ。背が高いため、勢いあまって同じ穴から首が出た。

「……賑やかだな。エルフは」

 ようやく状況を飲み込めたらしく、ゾルターンが二人に近づいて一礼した。

「ゾルターンだ。お呼びだてして申し訳ない。我が娘と民のため、あなた方の力をお貸しいただきたい」

「「……」」

 ゾルターンの真剣な様子に、空気の読めない父娘は至近距離で顔を見合わせた。グランが頭を抱えている。サラ達も他人のふりをしている。

 父娘はようやく、場違いなことを悟った。アルシノエはリーンのマントから首を外すと、改めてリーンの横に立ち、居住まいを正した。リーンの瞳も真剣味を帯びた。

「……もちろんです。バンパイアの王よ」

「話を、お聞かせ願えますか?」

「ふむ」

 二人の様子を確認し、ゾルターンは頷いた。


 ゾルターン達が立てた作戦を分かりやすくまとめると、以下の通りである。

 ①湖の水を抜く

 ②異界の穴を見つける

 ③穴を広げる

 ④迎えに行く

 ⑤戻ってくると同時に穴を塞ぐ

 ⑥水を戻す  ……以上。


 箇条書きの作戦書を見ながら、リーンが「うーん」と唸った。

「水を後から戻すくらいなら、水は抜かずに湖を割って、道を作った方がいいね」

「お父様、水魔法はお父様より私の方が得意ですわ。お任せください」

「おっけー! じゃあ、僕は異界の穴を絶妙な大きさに広げて維持するね。迎えに行くのは誰? 帰って来られないと大変だから、僕の魔力と繋げておいた方がいいよね? 出来れば一人がいいな。違う場所に飛ばされた時に、手繰り寄せるのが大変だから」

「なら、私とも繋がればいいですわ。そうしたら、二人は行けますでしょ?」

「いいね! 僕達が頑張ってる間に発生した魔物はグランにお願いしよう」

「死ぬまで働いたらいいですわ」

「「「……」」」

 今度の週末どうする? くらいの気軽さで、トントン拍子に話を進めるエルフの重鎮達を前に、一同は言葉を無くした。簡単そうに見えて、とてつもなく不可能に近い作戦であることは、皆分かっていた。何一つ、具体的な案が出せないでいたのだ。無理を承知で、藁にも縋る思いでリーンの力を借りることにしたのだが、大魔術師とその娘は事も無げに案を練っていく。しかも、楽しそうだ。

「ねえねえ、サラちゃん。ラズヴァン君を呼び出せないの? テイムしたんでしょ?」

「え!? あ、うん。やってみたけど、出来なかったの」

 不意に話を向けられて、サラはガタッと椅子を倒して立ち上がった。

「んー。獣人でバンパイアでも、魔物じゃないから難しいのかな? それともよほど遠い世界に居るのかな」

「え? 遠い『世界』……? 魔界に行ったんじゃないの?」

 サラが首を傾げた。その後ろで、シグレが椅子を戻してくれている。

「え? だって、ルカ湖の魔物ちゃん、『異界の穴』って言ったんでしょ? 魔界じゃなくて」

「そうだけど、一緒じゃないの? 魔物が溢れてくるって言ってたし」

「ああ。ちょっと勘違いしているみたいだね!」

 サラと同様に、一同が「?」と首を傾げているのを確認して、リーンはにっこり笑った。


 リーンの説明によると、この世界の他にも、無数の世界が存在しており、それらを総称して「異界」と呼んでいるそうだ。魔物のみが生息する魔界も、異界の一つに過ぎないのだと、リーンは笑った。

「特定の世界を狙って開けた場合は、『穴』ではなくて『扉』と呼ばれることが多いよね。『穴』は偶然繋がっちゃった、って感じかな? 常時開いていることはほとんど無いんだけど、ルカ湖は瘴気が濃いし、水が穴から抜け出て行って、塞がることが無かったのかもね」

「穴の向こう側は、同じところに繋がってるわけじゃないの?」

「ん。ずっと開いてる穴なら、大概は同じところに繋がるはずだけど……。無数の世界が交わる通り道みたいなところがあってね、そこに開いた穴なら、どこにでも行っちゃう可能性があるんだ」

「?? どゆこと?」

「……つまり、扉の場合は目的の部屋に直接入れるが、穴の場合は廊下に出る可能性があって、どの部屋に入るかは分からない、と?」

「そうそう。シグレ君は理解が早いね! ちなみに、部屋に入らずに廊下で彷徨ってる可能性もあるよ」

 ふむ、とゾルターンが顎に手をやった。

「むしろ廊下に居てくれれば見つけやすいかもしれんが、どの世界に行ったか分からないままでは迎えに行きようがないな……」

「あら? そうでもないわよ? その子、獣人の方とはテイムで繋がってるのでしょう? 穴に入れば、気配が分かるかも知れないわ」

 他人事のように軽く言い放つアルシノエに、今まで黙って控えていたアマネが顔を上げた。大人達はいつも勝手だ。アマネからすれば、サラは聖女である前に年下の女の子だ。自分達が出来ないことをサラに押し付けるな、とイラっとした。

「サラ様に異界に行けと言うのですか?」

「それが一番可能性が高いんだから、当然でしょ? ……というか、それ以外、選択肢無いわよ? お嬢ちゃん」

「まあ、まあ。アルちゃんもアマネちゃんも怖い顔しないで? アルちゃんの言うことは本当だよ。……どうする? サラちゃん。もちろん、僕が全身全霊でサポートするよ」

「私……」

 会議室中の視線が、サラの体に集まっている。正直なところ、怖い。だが、この状況で断れるはずが無かった。第一に、サラも二人を助けたい。

「行きます! こんなところでテイムが役に立つなんて、光栄です!」

「サラ様!」

「大丈夫よ、アマネ。ありがとう」

 うっ、と唸ったアマネの横で、「はい」と手を挙げた者がいた。

「では、もう一人は私が行きます」

「デュオンさん!?」

「私じゃ不安ですか? サラさん」

「いえ、そういう訳じゃなくて……」

 ちら、っとサラはシグレを見た。一緒に来てくれるならシグレがいいな、と思ってしまったのだ。シグレも表情を変えぬまま、しかし目だけは鋭くデュオンを睨んでいる。

「シグレさん。譲ってください。二人が向こうでどういう状況が分からない以上、医者がいる方がいい。それに、聖女の一行だけに重荷を負わせるなど、ハミルトン王国としても体裁が悪いのです」

 たしかに、と呟いたのはゾルターンだ。ゾルターンは立ち上がり、デュオンの前に立った。デュオンは椅子から降り、膝を突いた。

「デュオン。日よけ対策はしっかりしていけ。最悪、エリンとラズヴァンを諦めることになっても、聖女殿だけはお守りしろ。いいな?」

「はっ」

「じゃあ、決まりだね!」

 リーンの明るい声が響いた。アルシノエがもじもじしながら、デュオンに近づいた。

「一人くらいなら、私の魔力で陽の光をシャットアウトできますわ」

「かたじけない……アルシノエ様」

「はうっ!」

 くらり、とよろける娘の横で、リーンが「そうそう!」と人差し指を立てた。

「あ、一つだけ、注意点ね! いくら僕とアルちゃんの魔力が凄いといっても、限界はあるからね? んー。そうだな。2時間! 2時間以内に帰ってきてね」

 リーンの言葉に、サラが目を見開いた。2時間で人探しが可能だろうかと不安になった。

「え!? たったの?」

「無茶言うなよ、小娘! 大魔法ぶっ通しで2時間維持すんのがどれほど……大変なのか、分かっていただきたいですわ」

「は、はい、すみません!」

 言ってしまってから、サラは反省した。そもそもアルシノエは行方不明事件には無関係なのだ。口も悪いし、性格も変わっているが、リーンに似て面倒見がよく優しい人なのだろう。礼を言いこそすれ、非難するなどもっての他だった。

「ありがとうございます! アルシノエさんが協力してくださって、心強いです! アルシノエさん、大好きっ!」

 がばっと、サラはアルシノエに抱き着いた。胸のふかふか具合が、シズを彷彿とさせた。

「……わ、分かればいいのよ」

 怒鳴られるかと思いきや、アルシノエは意外にも、サラの背中を撫でてくれた。仕方ないとはいえ、危険な任務に就かせることに罪悪感があるのかもしれない。

「あはは! アルちゃん、サラちゃんにテイムされないように気を付けてね!」

「されるか!」


 それじゃあ、とリーンはその場でクルッと回った。

「善は急げ、だね。皆、覚悟はいい?」

 その場に居た全員が力強く頷いたのを確認して、リーンは全員を湖へと転移させた。


 救出作戦、決行である。


挿絵(By みてみん)

ブックマーク、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!

励みになります。


今回は、いきなり新キャラ登場でした。

仲良し父娘でしたね。

アルシノエ様は見た目は淑女ですが、中身は惚れっぽいゴリラ……というよりチンピラでぇす。


次回もよろしくお願いします!

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