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51. HEROES 1

 デュオンは、アメリカ合衆国ニューヨーク州の大病院で血液内科医として勤務していた。

 父親は腕のいい外科医で、息子にも自分と同じ道を歩ませたかったようだが、デュオンは幼い頃に観た映画がきっかけで血液内科医の道を選んだ。

 その映画は、白血病の少女が家族や友人の励まし、そして血液内科医と信頼関係を築く中で成長し、病と戦うストーリーだった。興行収入こそ良くはなかったが、デュオンの心に響く良作だった。

 裕福な家庭で愛情豊かに育てられたデュオンは、優しく品があり、誰からも好かれる爽やかな青年へと成長した。更にはピアノとフェンシングが趣味という、絵に描いた様なお坊ちゃまだ。

 学生時代から声を掛けてくる女性は多かったが、人生において付き合ったのは、研修医時代に知り合った、後に妻となる女医ただ一人である。

 そんな堅物のデュオンには、共に同じ病院で働く血液内科医のオースティンと、臨床検査技師のネイソンいう2人の友がいた。

 ネイソンは黒人で、バイクとプラモデル作りが好きな真面目な男で、妻と一人息子がいる。

 オースティンは金髪碧眼の独身で、「OMG(オー・マイ・ガッ)!」と「Ha-Ha!」が口癖だ。学生時代はアメフト部の主将だったこともあり、筋肉隆々でリーダーシップがある。

 3人は見た目も趣味もバラバラだったが、何故か妙に気が合った。


 ある日、カナダで開催される学会に参加するため、3人はネイソンの運転する車に乗って移動していた。

 しかし、その途中で事故に会い、気が付くと3人揃って見知らぬ土地に転移していた。

 車や荷物はなく、直接身に着けていた物以外は何もない。

 ここが異世界だと気が付いたのは、見たこともない魔物に襲われたからだ。

 現実離れしすぎていて、初め3人は「何かのドッキリだろ? Shit!」と思っていたが、3つの頭を持つ犬にそれぞれ腕や足を噛まれ、「これはマジだぜ、OMG!」とパニックになった。とはいえ、流石はヒーローに憧れて育ったアメリカン青年3人組であり、「こんな時、ヒーローならどうする? そう、諦めずに立ち向かうのみさ、Ha-Ha!」とオースティンがノリノリで丸太を振り回し、ネイソンが石や砂を投げた。その隙にデュオンは木に登り、先をわっかにした(つた)をカウボーイの様に投げて犬の首に引っ掛けると、蔦の反対側を握ったまま、太い木の枝に引っかける様に飛び降りた。すると犬の首が締め上げられ、魔物は宙づりになった。

 そこを「Ha-Ha!」と言いながらオースティンが襲い掛かり、滅多打ちの末、3人は自力で魔物……ケルベロスの幼体を打ち取った。

 固い握手を交わし互いの健闘を祝う3人だったが、目の前に親ケルベロスが出現し、命を諦めた。

 その時だった。

 音もなく現れたバンパイアナイトの一人に救われ、3人は一命を取り留める。

 この辺りでは、魔族から人々を守るために数キロごとに騎士の詰め所があるらしいが、3人を助けたバンパイアナイトは時空の歪みに気付いて100キロほど先の別の国から駆け付けてくれたそうだ。更に、彼は行き場のない3人を近くの貴族の屋敷まで案内してくれた。

 バンパイアナイトの権限は絶大らしく、貴族は渋い顔をしながらも怪しい格好の3人組を屋敷に迎え入れてくれた。


 3人は、ここが異世界であること以上に、医療技術が元の世界よりも格段に遅れていることに愕然とした。

 そこで、3人はこの世界の医療技術を進歩させるため、尽力することを決めた。


 あっという間に5年が経ち、メカニックが好きなネイソンは、顕微鏡や採血道具、手動の遠心機を作り出した。

 オースティンは、病気自体の発生を抑えるため、公衆衛生や栄養面の改善に取り組んだ。その活動は、手洗いの方法から、下水道の整備、石鹸の改良の他、バランスの良い食事や効果的な摂取法などの教育、妊産婦や乳幼児の栄養指導など多岐に渡った。

 一方でデュオンは、この世界特有の「魔法」に興味があり、魔法の解明に力を注いだ。この世界で医学が発達していない理由として、魔法により怪我や病気が治ってしまうからだ、とデュオンは考えた。だが、魔術師の数は少なく、充分な治療が受けられているとは思えない。そこでデュオンは、医学の進歩はネイソンとオースティンに任せ、一般人でも魔法を使える様にならないか、今ある魔法をもっと強力に効率よく使える方法がないかを模索することにしたのだ。

 その研究の過程で、アメリカン3人組にも魔術師としての才能があることが判明した。

 才能があるのと、使いこなせるかどうかは別の話ではあるが、ネイソンは土魔法、オースティンは肉体強化魔法に特性があった。デュオンの特性は長い間はっきりとしなかったが、どうやら重力と関係しているらしいと気付いてからは、空が飛べるようになった。と言っても、初めの内は1センチほど浮かぶだけであったが、研究の末、効率よく魔力を放出するコツを掴むと、一気に数十メートルを飛行できるようになった。初めて空を飛んで見せた時、オースティンが「OMG! スーパーマンはここに居た!」と目を輝かせた。わざと青い衣装に赤いローブを纏って飛んだこともあるのだが。


 3人は転移してから5年の間、この世界の発展に力を注ぐ一方で、常に「どうすれば元の世界に帰られるのか」を考え続けた。

 向こうには、家族がいる。仕事もある。

 3人一緒だったから、何とか精神を病まずにやってこられたが、独りだったらとっくの昔に心が折れていただろう。

 3人は、毎晩のように語り合った。

 その中で、ある疑問が浮かんだ。

 この世界の人々(この地方の医療水準が極端に低いのかも知らないが)は、病気は「魔」に取りつかれることで発症すると考えている。にもかかわらず、何故か「バンプウィルス」という単語を知っていた。

 そう、細菌の存在すら知らないのに、ウィルスを知っているのだ。

 しかし、よくよく聞いてみると、どうやら「バンプウィルス」という名前の魔物だと思っているらしく、デュオン達の考えるウィルスとは概念が異なるようだった。

 恐らく、20世紀以降の時代から、過去のこの世界に転移あるいは転生した者が居り、バンパイアの発生が「感染症みたい」だと気付いて名付けたのだろう、と3人は推測した。


 つまり、自分達以外にも向こうからこちらへ来た人間が居る、あるいは居たということになる。


 3人は、転移者や転生者がいないか探りをいれることにした。


 この地域の挨拶は、女性は膝を曲げるカーテシー、男性は右手を胸に腰を曲げ一礼するのが基本であり、初対面から手を握ることは無い。そこで、3人は初対面の相手には「まず握手を求め」、「アメリカ人だと名乗る」ことにした。が、皆、握手にはポカンとし、アメリカにも反応しなかった。この地域の全ての人間に試したが、無駄足に終わった。


 そんな折、世話になっている貴族の三女カドレアが、コーディネルという隣の貴族の嫡男に輿入れすることが決まった。

 5年の間に、カドレアと密かに愛を育んできたオースティンはショックを受けた。「自分は異世界人だから」と、身を引くオースティンに、「らしくないぜ、ヒーロー!」とネイソンが声を掛け、「魔物が出ると危険だから、護衛しよう?」とデュオンが誘った。友人達の優しさに応えるように、オースティンは「しょうがねえな。せめて相手がどんなやつか、面を見に行こうぜ!」とサムズアップしながら、白い歯を見せて顔を上げた。


 こうして、3人は貴族に頼み込み、カドレアの婚礼の行列に加わった。


 しかし、花嫁の一行は、コーディネルの待つ村へ行く途中の森の中で、一匹のバンパイアに襲われることになる。

 普通、バンパイアは1人、2人、と「人」で数えられるが、理性を無くし、陽に焼ける肌を庇うこともなく人を襲い続けるその姿は、「匹」と数える方が相応しかった。


 逃げ惑う人々の中、小さな子供を抱えながら、ネイソンが死んだ。


ブックマーク、感想、評価、誤字報告等、いつもありがとうございます!


今回は、デュオンと愉快な仲間のお話でしたが、あっという間にネイソン死亡。

転移者だからと言って、チートばかりな訳ではないようです。


次回、ミスター・アメリカンのオースティンはどうなってしまうのでしょうか。

ではでは。グッ、ナイ!

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