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雪花  作者: 小波 コノハ
3/4

2話


「さっむ」


刀璃は家を飛び出すと、住宅街へと出ていた。

昼間は人通りが多い場所なのだが、深夜になると人通りはほとんどない。

吐く息は白く、風に乗った寂しげな冷気がジンジンとした痛みを伴い、彼の体の熱を奪って行く。あまりの寒さに、刀璃はポッケの深部まで手を突っ込んだ。

勢いで家を出たはいいものの、大して防寒はしていない。

手袋、マフラーはもちろんのこと、外出時にいつも来ているダウンジャケットすら着ていないのだ。


今すぐ帰って、何食わぬ顔で体を温めるべきだろう。

だが、ただ帰るのも彼にとって癪だった。

意味のない意地を張った結果、躍起になって早歩きで通りを歩く。

不意に、視界が白い何かを捉えた。


「雪か……」


彼の広げた手に、あたっては消える粉雪……いつまでも見ていることが出来そうな儚いそれを刀璃はじっと見つめる。


「……行くか」


何も考えず家を出たのは確かだが、行き先がないわけではない。

町の中心部近くにある公園に向かうのだが、この際、近場でも人はいないだろう、と、町外れのこじんまりとした公園へと向かう。


数分経った後、刀璃は公園に着いたのだが、彼の予想は大いに外れた。


人影があったのだ。


しかも、体型、髪型からして彼と同じくらいの年齢の女の子だと思われる。

こんな時間にどうしたのかと、女の子に近寄り、見つめる。


少女は全く季節感のない、白いワンピースを着ていたのだが、そんなことを刀璃は気にすることすら出来なかった。


雪のような白い肌にくっきりとした目、揃った白銀の髪、どこかのお姫様が舞い降りたかのようなその光景に、刀璃は目を奪われていたのだ。


数秒の後、定位置を取られていることに気づいた刀璃は、心外ながらも隣のベンチに座る。


「……寒く、ないの?」


少女は機械のように首を傾げ、刀璃に問いかける。


「お前に言われたくない」


「怒ってる?」


「別にどうでもいいだろ、そんなこと」


「ふむ……」


刀璃は身内に対して強い感情を抱くが、他人には、あまり関心がある質ではなかった。

あまり馴れ合いを好もうとはしない。


現に学校へも不登校気味、友達も少数しかいない。

人が大勢いるところは嫌いだ。と、公園やら廃ビルなどでひっそりと時間を潰す。

いくら刀璃が彼女に目を奪われたからといっても、赤の他人としての意識は変わらず、それ以上踏み込むということはない。


「……お前、なんでこんなところにいるんだ?家出か?」


ただ、場所が場所だった。


この公園には誰も近づこうとしない。

木々は枯れ、息をしておらず、壊れかけの遊かけの砂山だけが無残に残っている。

唯一使えるのがこの二つのベンチくらいだ。

生気が吸い取られたようなガランとしたここには少し怖さを覚える。


「……ううん。違う」


少女はその冷たい声で刀璃に言った。


「……あなたを、待ってたの」


「はぁ?」


目を奪われる程の美少女だ。どこかで一度会っていれば、流石に気付きそうなものだが、そんな記憶は刀璃に一切ない。


「そういう冷やかしはよしてくれ」


さては変人かと思い、どっしりと座ったベンチから少しだけ腰を浮かしたその瞬間、刀璃は彼女の発した言葉に耳を疑った。


「妹さんの病気のこと」


「……お前、どこでそれを?」


妹の原因不明の病、ごく限られた人にしか教えず、固く口止めをしていた。

不用意に周りに広まってしまえば、良からぬ噂が建てられる可能性があったからだ。

だから、少女の発した言葉に刀璃はまず嫌悪を持った。


「怖い目……そんなこと言われても、知ってるから知ってるだけ」


「おい、答えろ」


「……」


刀璃は焦っていた。

同時に、全く手がかりの掴めない妹の病気について、一刻も早く知りたいという思いがあった。


立ち上がり、彼女の座っているベンチへと向かうと、鋭い眼光で見下ろす。


「むぅ。強引……」


「それで、お前は何か知ってるのか?」



「魔女病」



「……なんだ、それ?」


「魔女の病気……」


「魔女?」


コクリと少女はうなづく。


「雪の魔女の呪いにかけられた人間は、少しずつ生きる力を取られていく」


「なんのために?」


「……さぁ、気まぐれかもね」


「馬鹿らしい、小説の読みすぎだな」


刀璃はこれ以上、あまりに荒唐無稽なその少女の言葉に、耳を傾けるのは辟易とした。


彼の少女への興味はもう既に無いに等しい。


「あなたがそれでいいなら、いいの」


「悪いがそんな空想に付き合ってる暇はないんでな」


「ここで待ってるから、いつかまた来て」


「ふんっ」


刀璃は振り向きもせず、心外ながらも、少女が場所を占領しているのだからしょうがない、と心に言い聞かせ、家へと向かった。


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