表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪花  作者: 小波 コノハ
2/4

第1話

バンッ!と力強くドアが蹴りあけられる。


刀璃(とうり)はカンカンに怒っていた。

平素は人前であまり自分の感情を表さない刀璃だが、身内のあまりに冷たい態度に腹が立ったのだ。


増してや自分ではない双子の妹のこと。


刀璃はいてもたってもいられなくなり、ずけずけと部屋に入る。


深夜ということもあり、廊下は凍えるほどの寒さだったが、暖炉のあるこの部屋は逆に暑さを感じるほどに温められている。


寝室か風呂場以外はこの部屋くらいしか、生活で使われるスペースはない。

というか、他の部屋を使う必要がないほど部屋が広ければ、家としての機能もそこに集約されているのだ。


刀璃の向かって正面、ひと際大きい窓の近くに、白髪の生えた老人が、新聞を読みながらゆったりとロッキングチェアに座っている。


吹雪雪永ふぶき ゆきなが


刀璃の実の祖父にして、育ての親だ。


「……なんだ、朝から?」


「うるせぇ、じじい。てめぇ、いい加減にしろ」


「はぁ……そんなこと言われても、何のことかわからんのだが」


「千歳の治療費、払ってねぇだろ」


彼の怒りの内容は、妹の千歳の治療費についてだった。

彼女は侵攻はゆっくりとだが、体が少しずつ弱り、動かなくなる、という難病にかかっている。


今では歩けなくなり、車いすを使って出ないと外へは出れなくなってしまった。


そして、この病気の最大の特徴。それは……


体温がこの町の気温とほとんど同程度、ということだった。


夏の今では0度近く、冬になればもっと低くなる。

かといって本人は寒がる素振りを見せない。この体温が平熱だと言わんばかりなのだ。


外の町へ出ることは、基本的に不可能。


よってここまで医者を呼ぶことになるのだが、そうまでしてくるほどいい医者はおらず、かろうじて呼べた、たいしたことのない医者には、高額な治療費を要求される。


「はぁ、何度も言ってるだろ。治らんもんは治らん。どんな医者に見せようが、原因不明と言われるんだから」


「侵攻を食い止めたり、遅らせたりすることは出来るかもしれないだろ?」


「……そんなものはない。あったとしても、多少延命したところで完治しなければ無駄だ」


「じゃあ、もう諦めたってことかよ?」


「……」


刀璃の問いかけに雪永は少し沈黙した後、か細い声で、そうだなと答えた。


「もうこの運命は代えられない。現にお前の母親だって……」


「っっ!!」


刀璃は母親の話題をひどく嫌う。


小さいころから雪永の男で一つで育てられてきた。


小学生のころまでは、母親がいて当たり前、という周りの環境に憧れていた刀璃だったが、中学に上がり、それは別の感情を生み始めた。


周りの自分を憐れむ目、自分が目の前を通れば、ひそひそ話を始める。

始めは少し気になる程度だったが、それは段々と気になるものへとなっていき、次第に母親への憎悪へと変化していった。


なぜ両親の勝手な失踪のせいで、自分が変な目で見られなければいけなくなったのか、と。


これだけなら、そこまでの大きな憎悪は生まれなかったのだが、彼が千歳の病気と同じ病気に母親が患っていたと聞いたとき、その思いが爆発した。


今までの自分たちの兄妹の不幸は、すべてあの母親のせいだと勝手に思い込み始めたのだ。

だから、刀璃は母親の話を心底嫌う。


さすがに失言だったかと、雪永がため息をついた。


「……ああ、そうかよ」


刀璃は、体をくるりと反転させた。中学に入ってから、何度もこういった喧嘩をしては、いつも刀璃は家を出るようにしている。


暴力で解決しようとしない分、随分と雪永にとっては扱いが楽なのだが、こうして深夜に町に出られるのも、面倒だとは思っていた。


「……どこに行くんだ?」


「別に」


刀璃はカッとなった頭を冷やすため、壊れそうなくらい力を込めてドアを蹴りあけ、家を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ